『Moon Heart』








  18/猟奇事件





翠屋に入り、案内された席に座る。
そこで、奥から出てきた桃子と目が合う。
桃子は笑顔を浮かべると、恭也を手招きする。
恭也は秋葉に一言断わってから席を立つ。
恭也が傍に着くなり、桃子はいきなり口を開く。

「で、昨日連絡がなかった事と、あちらの女性は関係があるのかな?
 当分戻って来れない事情とやらは、どうなったの?」

「一気に聞かれても。まず、昨日連絡しなかったのは悪かった。
 だが、今後も連絡できないかもしれないから、それは多めに見てくれ。
 それと秋葉さんは関係ない。事情の方はあまり詳しくは言えないが、家には戻れそうではある。
 ただ、場合によっては全く戻らないという可能性もある」

「そう。じゃあ、最後に一つ。
 無理をしないでとか、怪我をしないでっていうのは無理だろうけど、出来る限り努力する事」

「分かった」

「じゃあ、もう良いわ。ほら、女の子をあまり待たせるものじゃないわよ。
 それにしても、恭也もやるわね。この間の金髪の女性といい、今日の女性といい。
 恭也、二人の女性に手を出すんなら、ばれないようにね」

「かーさん、人聞きの悪い事を言わないでくれ。それよりも、さっさと仕事に戻る」

「はいはい」

桃子は肩を竦めると、奥へと戻っていった。
それを確認すると、恭也は秋葉の待つ席へと戻る。

「お待たせ」

「いえ、お気になさらずに」

二人はそれぞれ注文をし、その品が来るまで他愛のない話を続ける。
注文した品を食べ終え、それぞれに飲み物を片手に寛ぎ始め、会話の途切れた頃を見計らい、秋葉が話し出す。

「では、今、この街で起こっている猟奇連続殺人事件についてですが。
 まず、恭也さんはどの程度ご存知ですか?」

「ニュースや新聞で見た程度ですが…」

恭也は前置きを入れてから、再度語り出す。

「初めは通り魔殺人事件、別名、吸血鬼事件と同一犯だと思われていたんですよね。
 でも、吸血鬼事件のように首筋に二つの傷跡があったり、体中の血液が抜き取られたりはしていなかった事と、
 ほぼ同時時刻に離れた場所で起こった事が切っ掛けとなり、それぞれが別の事件だと判断された。
 で、猟奇事件の方は、体をバラバラに刻まれていたり、原型を留めない程にぐちゃぐちゃにされている。
 こんな所ですかね」

「そうね。その通りだわ。
 だから、吸血鬼事件とこの猟奇事件は別と考えても良いわ。
 そして、私が追っている人物こそが、その猟奇事件の犯人なんです」

「追っている?先程、犯人を捕まえると言ってたけど、追っているとは?」

恭也の指摘に秋葉は一つ頷くと、紅茶を一口含み、唇を湿らす。

「その者は、うちの一族の者なんです。
 我が一族は少々特殊な家系でして。その血故か、一族にはたまにそういった者が出るんです。
 そして、そういった者を捕まえ始末するのが、宗主である私の役目なんです。
 本来なら、余所の土地に逃がしたりはしないのだけれど、今回はたまたま逃してしまったんです」

秋葉の言葉に頷いてから、恭也は口を開く。

「質問をしても?」

「どうぞ」

秋葉の許可を貰い、恭也は質問をする。

「特殊な家系というのは?それに、御神の名を知っていた事も関係があるんですか?」

「そうですね…。御神の名を知っていたのはたまたまです。
 生前、父が色々と調べている時に、その名があっただけで。
 父はその時、何かを恐れていたみたいで、自分を守る者が欲しかったんでしょう。
 ですが、その時には御神はもう…」

秋葉はそこから先の言葉を止める。
それを察して、恭也は話を変える。

「えっと、それで特殊な家系というのは?」

「それは…」

言い淀む秋葉を見て、恭也は再び話題を変えようとするが、何も浮ばず素直に謝る。

「すいません。話し難ければ良いですよ」

この恭也の態度に慌てたのは秋葉で、

「そ、そんな謝らないで下さい」

そう言い、少し考える。

「そうですね。少しだけですがお話し致します。
 わが遠野には、人とは違う血が少し入っているんです。言わば、人との混血って所ですね。
 ですから、私もその犯人も、若干人とは違う能力を持っていると思ってください」

「そうですか、分かりました」

思い切ったように言った秋葉に対し、恭也はあっさりと納得すると頷く。
それを見て、秋葉は拍子抜けしたように尋ね返す。

「えっと、それだけですか?」

「それだけとは?」

「いえ、人とは違うと聞いても何もないんですか?怖いと思ったりとか…」

最後の方は消えるような小声で告げる。
それさえも、しっかりと聞いていた恭也は、

「別に何とも思いませんよ。秋葉さんは秋葉さんですし、それにどんな力を持ていても使い方しだいですよ。
 例えば、包丁だって使う人によってその利用は様々ですから。
 かーさんが使えば、料理の道具になりますが、俺みたいなのが使えば、立派な凶器に変わりますから」

「ありがとうございます。でも、そんな事はないと思いますよ。
 恭也さんが使っても、やっぱり包丁は包丁のままですよ」

赤くなって言う秋葉の言葉に、恭也は笑顔で礼を言う。

「ありがとうございます」

「いえ」

恭也の笑顔に照れながら、秋葉は咳払いをすると、

「それにしても、あまりにも驚かれないのは少し悔しいですね」

「そんなものですか?」

「ええ。だって、これでも結構、覚悟して告げたつもりなんですよ」

「……まあ、そういった知り合いが多いもんで。ちょっと免疫があるんですよ」

恭也の頭の中を、羽を生やした幼馴染や自分と同じくらいの力を持つ妹、
月一のペースで恭也の血を飲むクラスメイトや徐霊業をやっている後輩などが浮ぶ。
その中でも、特に変わっている者として、最近知り合った金髪の白い姫が浮んだりして、首を振る。
そんな恭也を見ながら、秋葉はごく普通に尋ね返す。

「そうなんですか」

「ええ」

それに頷いて答える恭也に対し、秋葉は他に質問があるか尋ねる。

「そうですね。後、その犯人探しですが、いつ行うんですか?」

「朝から夕方までですね。勿論、恭也さんは毎日じゃなくても構いませんので。
 連絡や待ち合わせはどうしましょうか?」

「そうですね…。朝の10時にここで、というのは。もし、俺の都合が悪ければ、うちの母に伝言を頼んでおくので」

「そうですね。それで良いですよ。でも、頼んでおいて何ですが、学校の方は大丈夫なんですか?」

「大丈夫だ。それよりも、こっちの方が大事だしな」

「分かりました。では、明日から早速お願いしますね」

「了解した。と、途中まで送ろう」

恭也の申し出を受ける事にし、秋葉は席を立つ。
そんな二人を目敏く見つけ、にやにやと笑いながら桃子がレジに立つ。

「はい、ありがとうございました。今日はサービスだから」

「そんな、悪いですから」

「良いの、良いの。どうせ、この子のバイト代から削るんだから」

「バイト代なんか貰ってないと思うんだが?」

「アンタが受け取らないからでしょう。まあ、そういう訳だから良いわよ」

桃子の台詞に秋葉は困って恭也を見る。
それを受けた恭也は、

「まあ、かーさんもこう言ってる事だし、良いんじゃないか」

「分かりました」

恭也の言葉に、秋葉も頷く。
そして二人して店を出ると、駅へと向う。
話をしながら歩いていると、あっという間に駅へと着く。
そこで迎えが来るという秋葉と分かれようとして、恭也は一つ思い出す。

「すまない。最後に一つだけ質問だ」

恭也の言葉に頷き、先を促がす。

「その犯人の名前は?」

恭也の質問を受け、秋葉はゆっくりと息を吐き出し、そして口を開く。

「四季。遠野四季よ。私の兄だった男よ」

「なっ!秋葉さんは兄を殺すつもりなのか」

「恭也さん、だったと言ったでしょう。今はただの衝動に負け、反転した化け物よ。
 私がやらないと、もっと被害が増えるだけなの」

そう言って、真っ直ぐに恭也の目を見る。
恭也もその視線を逸らす事無く受け止める。
やがて、恭也は息を吐き出すと、

「分かった。犯人は四季で良いんだな」

その短い問い掛けに、秋葉は力強く頷く。

「ええ、そうよ。実の兄を手にかけるような女の手伝いは、したくなくなった?」

少し自嘲気味に笑う秋葉に、恭也は首を横に振る。

「そんな事はない。詳しい事情は知らないが、猟奇事件の犯人は放っておけないしな」

恭也の言葉に秋葉は少し微笑むと、恭也を見詰める。

「改めてお願いするわ。協力して」

「ああ、分かった」

秋葉の言葉に、今度は恭也が力強く頷くのだった。





<to be continued.>




<あとがき>

久し振りのMoonHeartだよ〜。
美姫 「本当に久し振りよね」
ははは。久し振りすぎて、どこまで進めていたのか、ちょっと忘れてたり。
美姫 「単に浩がお馬鹿なだけでは?」
ははははははは。
今回、フィンさんより44万Hitのリクをして頂いて久々に書きました。
美姫 「これもちょくちょくアップしていかないとね」
だね。
さて、今回はこの辺で。
美姫 「次回から、秋葉編が動き出す予定?」
多分ね。
美姫 「じゃあね」








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