『Moon Heart』








 20/再会





恭也と約束を交わした翌日の10時より少し前頃。
店の前で秋葉と恭也は出会う。

「あら、恭也さん」

「秋葉さんも今、来たのか」

「ええ」

「じゃあ、早速だが行こうか。で、とりあえずは何処に」

「はい、とりあえずは、事件の起きた現場をもう一度見ようかと」

秋葉の言葉に恭也は頷くと、秋葉が先導するように歩き始める。

「猟奇事件は確か、5件起こっていたよな」

「ええ。ただし、それは表にでた分だけですけどね。
 実際には何件、いえ、何人の方が犠牲になったのかは判りませんけど。
 遺体が見つかっていないという可能性も充分に考えられますから」

秋葉は少し顔を歪めながら、そう告げる。
そんな秋葉を見ながら、話を変えるように恭也は切り出す。

「それで、その現場に行けば何か掴めると?」

「いえ、それは分かりません。現場には一度行ったんですが、その時は特に何も手掛かりらしきものは。
 ですから、その後は街をあてもなく歩いていたんですけど、もう一度見てみようかと思いまして」

秋葉の言葉に頷きながら、二人は事件の現場を見て周る。
最後の現場に来る頃には、既に昼を周っていた。
ここでも他の場所と同じ様に、秋葉は辺りをゆっくりと見渡す。
それこそ、前に見た時と少しでも違う個所はないかという位の細かさで。
その間、恭也も同じ様に見渡すが、警察が検証を行った後の為か、辺りは綺麗にされており、
ここで殺戮があった形跡すら窺わせなかった。
秋葉もそれを感じ取ったのか、ため息を吐くと恭也へと振り返る。

「やっぱり、手掛かりらしきものはありませんね。
 普通の人間には分からないような痕跡が何かないかと思ったんですが」

「そうだな。とりあえず、昼にでもするか」

恭也の言葉に頷くと、秋葉はその場から去る。

「さて、何を食べる?」

「えっと…。実は私、あまり外食ってした事がなくて…、その…あまりよく分からないんです。
 ですから、恭也さんにお任せします」

秋葉の言葉に恭也は納得する。

(確かに見るからにお嬢さまだしな)

そんな事を考えながら、恭也は適当な店がないか辺りを見渡す。

「言っても、俺も殆ど外食はしないから、あまり詳しくはないんだが」

「そうなんですか」

「ええ。と、じゃああそこで良いか」

恭也は目に付いたレストランを指差す。
秋葉が頷いたのを見て、恭也はその店に入る。
昼を過ぎていた事もあり、待つこともなく席へと案内される。
そこでそれぞれに注文を済ませると、秋葉は口を開く。

「今までに事件の起こった五つの場所には、何の繋がりもありませんでした。
 如いてあげるなら、何処も人気のいない場所と言う事でしょうね」

「そうだな。何処も人目の付きにくい場所だ」

「ええ。最初はこの5箇所を結んだ中心にいるかと思ったんですが、そこには何もありませんでした」

どうやら色々と考えたらしい秋葉に恭也はただ頷く。

「あまりのんびり構えてられないが、焦りは禁物だから」

「そうですわね。心を落ち着かせていないと、分かるものまで分からなくなってしまうわ」

久し振りに秋葉の笑顔を見て、恭也は何故かほっと胸を撫で下ろす。
そんな細かい仕草に気付いたのか、可愛らしく少し首を傾げる秋葉に何でもないと言い、恭也は運ばれてきた料理を口に運ぶ。
それに倣うように秋葉も料理を食べ始め、二人は暫し食べる事に集中するのだった。
食事を終えた二人は店を出ると、目的地も決めずに歩き始める。

「とりあえずは、長期に渡って人が隠れられるような場所を虱潰しに探していくしかないかな」

恭也の言葉に、秋葉は頷く。

「ええ、そうですね。
 本当なら、夜中に人目の少ない所を回りたい所なんですけど、それだと逆に私が警察に捕まるかもしれませんし。
 最も、絶対に現われると分かれば、そんな事は気にしませんけど」

秋葉の言葉に苦笑しつつ、恭也は釘を差しておく。

「意気込みは分かるけど、決して一人で先走らない事。何か分かれば、お互いに連絡を」

恭也の言葉に秋葉は頷くものの、不思議そうな顔で恭也を見る。

「恭也さんは、言わば無関係じゃないですか。それなのに、何故そこまでしてくださるんですか?」

「別に無関係と言う訳ではない。この街で起こっていることだし、何より秋葉さんと知り合ったからな。
 秋葉さんには迷惑かもしれないけど、俺にとって秋葉さんはもう無関係じゃないから。
 だから、何か困っていて、俺で力になれるんなら力を貸すし、危険な目にあっているんなら助ける。
 秋葉さんは大事な人ですから」

恭也の言葉に友人という意味以上の深い意味はないとは分かっていても、秋葉は顔が赤くなるのを止められなかった。
そんな秋葉に気づく事もなく、恭也はそう言って笑う。
それを見ながら、秋葉小さく礼を言う。
その後も、何箇所か周ったが成果は上がらず、夕刻を向える。

「今日はこの辺にしておきましょう」

「そうだな。じゃあ、駅までで良いんだったよな」

「え、あ、はい」

恭也の言葉に、秋葉は思わず嬉しそうに返事をし、少しはしたなかったかしらと恭也の顔を窺う。
しかし、恭也は特に何とも思っていないらしく、逆に目が合うと不思議そうな顔をする。

「どうかしたのか?」

「え、あ、いえ。えっと…」

恭也に尋ねられ、思わず秋葉はどもってしまう。
何と言うか悩んだ秋葉は、丁度いい機会だと思ったのか、さっきから気になっていることを口にする。

「恭也さんは何故、未だに私の事をさん付けで呼ばれるんですか?」

「そう言われても、特に理由は」

「だったら、そのまま呼んで頂けませんか」

秋葉は思い切ってそう告げる。それを受け、恭也は暫し考え込むが、頷く。

「分かった。秋葉で良いんだな」

「はい」

「じゃあ、行こうか」

恭也の言葉に従い、秋葉は駅へと歩き始めるのだった。




  ◆◇ ◆◇ ◆◇



駅前にて、何やら大量の荷物を持った二つの影があった。

「うーん、ちょっと買い過ぎちゃいましたかね

「姉さん、明らかに買い過ぎかと」

妹翡翠の言葉に、琥珀は笑って誤魔化す。

「あはははは〜。ついつい安かったものですから」

二人は暫らく歩いた後、他の人の迷惑にならないように隅の方へと荷物を降ろす。

「ふー。後はノエルさんが来て下さるのを待ちましょう」

「はい」

琥珀の言葉に翡翠は頷くと、その場でノエルが来るのを待つ事にする。

「翡翠ちゃん、立ったままだと疲れるでしょう。座ったらどう?」

「いえ、私はこのままで」

「うーん、翡翠ちゃんがそう言うんだったら良いけど…」

そんな風に話をしていると、翡翠が何かに気付いたのかある方向を指差す。

「姉さん、あそこにいるのは秋葉様じゃ」

「え、どこどこ。あ、本当だ。って、横にいるのは男性のようですね。
 ははー、あの方が昨日秋葉様が仰っていた方ですかね。秋葉様も隅に置けませんね〜」

楽しそうに言う琥珀に、翡翠が告げる。

「姉さん、あの方…」

「ん、どうしたの?ひょっとして翡翠ちゃんの好みとか?」

「いえ、そうではなくて。いえ、違わなくもないんですが、じゃなくて」

慌てる翡翠を堪能した後、琥珀は相手の男性を良く見ようと目を凝らす。

「あれ?何処かで見たことがあるような……って、恭也さんじゃないですか。
 何で秋葉様と一緒に?え?え?」

「ね、姉さん、落ち着いて」

「そ、そうですね」

慌てる琥珀という珍しいものを二日連続で目にした翡翠は、とりあえず姉を落ち着かせる。
そのうち、秋葉もこちらに気づいたのか、しまったというような表情を一瞬だけ覗かせる。
そうこうしている内に、恭也も琥珀たちに気付き、軽く会釈する。
それに翡翠も会釈して返し、琥珀は手を振る。
それを見て、秋葉が驚いたような顔を見せる。

「恭也さん、あの二人と知り合いなんですか」

「ええ、少し。って、秋葉も知り合いなのか?」

「え、ええ。とりあえず、あの二人の元へ行きましょうか」

驚く恭也を尻目に秋葉は琥珀たちの元へと向う。
琥珀たちの元へと着くと、秋葉は恭也を見る。

「ご存知のようですが、改めてご紹介しますね。うちの使用人の琥珀と翡翠です」

「どうも、その節はお世話になりました」

「恭也さん、久し振りですね。また、会えました」

「翡翠さん、そんな大したことをした訳じゃないですから。琥珀さん、お久し振りです。また会えましたね」

「で、二人ともどうして恭也さんと知り合いなのか、教えてくれるかしら?」

秋葉の言葉に、琥珀が説明をする。
それを聞き、秋葉は改めて恭也の方を見ると、

「恭也さん、うちの琥珀たちがお世話になったみたいで、ありがとうございます」

「いや、本当に大した事は…」

そう言う恭也の言葉を遮るように、琥珀はポンと手を叩く。

「そうです、秋葉様。お礼代わりに夕食にご招待をしたら」

「それはいい考えね」

「いえ、そこまでして頂かなくても」

「いいえ、このまま何もしないままと言う訳にも行きません。是非、是非」

琥珀の言葉に秋葉も頷くが、ただ一人翡翠だけが困ったような顔を見せる。

「姉さん、恭也さんを招待するのは吝かではありませんが、今の我々は言わば居候の身」

「大丈夫よ、翡翠ちゃん。だって、昨日仰っていたじゃないですか。
 今度あったら、是非連れてきてって」

琥珀の言葉に躊躇する翡翠だったが、秋葉までが賛成している以上、翡翠もそれ以上反対する事は出来なかった。
もっと言えば、翡翠もどこかで望んでいたのであるが。
一方の恭也は、口を出す間も無く既に決定してしまったような雰囲気に、大人しくするしかなかった。
そうこうしている間に迎えの車が現われ、中から一人の女性が現われる。
その女性の下へ琥珀は赴き、何やら話すと、秋葉の元へ戻って来て嬉しそうに報告する。

「秋葉様、OKだそうです」

「そう。では、恭也さん参りましょうか」

「はあ」

気のない返事を聞き、翡翠が恭也に尋ねる。

「恭也さん、ひょっとして迷惑でしたか?」

「い、いえ、そんな事はありませんから」

翡翠にそう答え、恭也は招待を受けることにする。
話が纏まった頃、運転手がこちらへ近づいて来る。
恭也はその運転手を見て、運転手もまた、恭也をみて驚いた顔を見せる。

「ノエル」

「恭也様」

「あれ?ノエルさんと恭也さんはお知り合いだったんですか?」

「え、ええ」

「はい。忍お嬢様のクラスメイトです」

ノエルの言葉に納得すると、琥珀は荷物を車へと運び始める。
それを見て、恭也とノエルも手伝う。
こうして、ノエルは恭也を乗せ、一路月村邸へと車を走らせるのだった。




  ◆◇ ◆◇ ◆◇



「で?」

月村邸に着き、中で忍と会って最初の言葉がコレだった。
恭也が何も言わずにいると、忍は続ける。

「で、コレはどういう事かな?
 美由希ちゃんから聞いて、学校に来ないから心配してたのに、恭也ってば秋葉とデートしてたんだ。
 恭也の用事ってコレだったんだ〜」

笑顔で告げる忍に、恭也はそら寒いものを感じつつ、何故忍の機嫌が悪いのか考える。
結局、答えは出なかったが。
そんな恭也を見かねたのか、秋葉が口を挟む。

「忍、別に私たちはその、デートをしてた訳ではなくて」

「分かってるわよ。秋葉の事情は知ってるもの。大方、その手伝いでもしてるんでしょう」

「ええ、その通りよ」

忍の言葉に秋葉は頷く。


「しかし、昨日言ってた人物が三人とも同じ人だったとは
 しかも、それが恭也だなんてね。全く世の中は狭いわ。その上、当の本人は……。
 全く、どうしてこう無自覚に……」

最後の方は呟くように囁いたため、恭也には聞こえなかった。

「まあ、良いわ。それよりも恭也。明日からうち休校だって」

「そうなのか」

「うん。最近、色んな事件が起こってるでしょう。その所為で暫らくは休校だって」

「そうか。だったら、時間は出来た訳か」

恭也の言葉に忍は頷く。

「でも、あんまり無茶したら駄目だからね。幾ら恭也が強いって言っても、人間である事には違わないんだから」

「分かっている。そう心配するな」

忍は恭也の言葉を額面通り受け止めはしなかったが、何を言っても無駄だと分かっているので、何も言わずにおく。
そして、話題を変えるように秋葉に尋ねる。

「そう言えば、恭也と秋葉たちが出会ったのっていつなの?」

興味津々と言った感じで秋葉に尋ねる忍。
そんな忍に押されるように秋葉はその時の事を話し出す。
その後も、色々な話をして過ごすうちに夕食の時間となる。
いつもよりも機嫌の良い忍たちに囲まれ、恭也は席へと着く。
その日の夕食はいつにもなく、賑やかだった。





<to be continued.>




<あとがき>

とりあえず、忍とご対面〜。
そして、次回やっと事態が動き出す……………かも。
美姫 「所で、この間も恭也は夜はアルクェイドのお手伝いなのよね」
そうだよ。昼から夕方は秋葉。そして夜はアルクェイドのお手伝い。
美姫 「そう言えば、シエルは?」
恭也が学校に行ってないのに、同級生の彼女が出てくると?
美姫 「はははは、そうよね。……あれ?でも、今回の話で学校って休校になったんじゃ」
なったねー。
美姫 「益々出番なし?」
……………どうかな?
と、とりあえず、また次回!
美姫 「逃げたわね」








ご意見、ご感想は掲示板こちらまでお願いします。



二次創作の部屋へ戻る

SSのトップへ