『Moon Heart』
21/探索
午前10時。恭也と秋葉は合流すると、昨日と同じように街中を歩き周る。
人気の少ない路地裏を中心に、既に廃墟と化した建物などを見て周る。
間に昼を挟み、再び街を周る。
「隠れるのに適した所は幾つかあったんだがな」
「ええ。でも、そこにはいませんでしたし」
「この街を出たという事はないのか?」
「それは、多分」
秋葉の返答を聞き、恭也は他に隠れられそうな場所を探す。
「人気のない所ではなく、誰かの家に隠れているということは」
「ないとは言い切れません。その場合、その家の人は気の毒ですが…」
「そうか」
「ええ。ですから、周辺の人に最近見かけなくなった人がいるか確認をすれば、その場合は判断できるとは思いますが」
そんな話をしながら歩いていると、前方に見覚えのある人影を見つける。
向こうもこちらに気付いたらしく、軽く手を振ると近づいて来る。
「高町くん、こんにちは」
「こんにちは、シエルさん」
挨拶をすると、シエルはじっと恭也を見詰める。
そんなシエルの視線に、恭也は少し身を引きながら尋ねる。
「な、何か」
「いえいえ、何でもないですよ。すいませんね、デートの途中を邪魔したみたいで」
「なっ!ち、違…」
「じゃあ、私はもう行きますので、ごっゆくり〜。
あ、そうそう。高町くん、幾ら休校になったからって、夜中に出歩くのは駄目ですからね」
シエルはそれだけを言うと、恭也に弁解する暇も与えずにその場を去って行く。
それを半ば茫然と見やった後、恭也は秋葉に謝る。
「すまない。何か誤解させてしまったようで。今度あったら、ちゃんと説明をしておくから」
恭也の言葉に秋葉は少し不機嫌そうに答える。
「別に構いませんよ」
「し、しかし…」
「それに、どういって説明する気なんですか。
まさか正直に殺人鬼を探していますとでも、仰るつもりですか?」
「………それはそうなんだが」
何故か不機嫌になった秋葉に困惑しつつ、恭也は言う。
そんな恭也を一瞥すると、秋葉は答える。
「恭也さんは、そんなに嫌なんですか?その、わ、私と」
「いや、そういう訳では。ただ、このままだと秋葉が困るだろうから…」
恭也の言葉に、秋葉は少し笑みを浮かべるとちょっと俯きながら言う。
「べ、別に私は困りませんけど…。それよりも、さっきの人……」
照れながら告げた後、それが嘘のように鋭い眼差しで呟く。
恭也からは、秋葉の髪で隠れた表情は窺い知れないが、その呟きは耳に届いた。
「ああ、さっきの人は同じ学校に通っているシエルさんだが、それがどうかしたのか」
「…いいえ、別に何でもないです。きっと私の勘違いでしょうから」
秋葉の言葉に頷き、恭也は歩き続ける。
「秋葉、後周っていないのはどれも市街の外ればかりだな」
「ええ、そうなりますね。では、そちらに行ってみましょうか」
秋葉の言葉に頷き、二人は市街の外れへと足を向けるのだった。
結構歩き、市街の外れを周る。
それでも、それらしき人物を見つける事ができなかった。
日も暮れ始めた頃、恭也は秋葉へと声を掛ける。
「そろそろ戻るか」
「…ええ、これ以上は無駄でしょうし」
恭也の言葉に秋葉は頷くと、踵を返して歩き出す。
その横に並びながら、恭也も歩く。
横に並ぶ恭也へと視線を向けながら、秋葉は楽しそうに話をする。
その様子は年相応の少女のもので、滅多に他人には見せない素顔でもあった。
尤も、恭也はこの顔の秋葉しか知らないのだが。
恭也と秋葉が駅前まで来ると、ノエルが迎えに来ていた。
「お疲れ様です。恭也さま、秋葉さま」
「ああ、ありがとうノエル」
「ありがとう。ノエル」
それぞれの礼を受けると、ノエルは車のドアを開ける。
「恭也さま、今夜も夕食を是非との事です」
「しかし…」
「家の方にはもう連絡をしていますので」
ノエルの言葉に、恭也は苦笑しつつ車に乗る。
「ノエル、夕食の後、悪いんだがまた送ってもらえるか」
「畏まりました」
恭也の言葉にノエルは頷く。
それを見ながら恭也は、最近鍛練をしていないにも関わらず、かなり忙しい日々を送っているなと自嘲気味に思うのだった。
恭也と秋葉が去って暫らくした後。
市街地の外れにある建設途中で放棄されたまま、人が寄り付かなくなった廃ビル。
そこの4階の隅、昼間でも日が差し込まない暗闇にソイツはいた。
荒い呼吸を繰り返し、胸を押さえるその姿はどこか病んでいるようで、それでいて目だけは異様に鋭く辺りを睨みつける。
荒い呼吸の合間に、何かを呟きつつ、ソイツはゆっくりと立ち上がる。
「秋葉……、秋葉……。俺の秋葉………」
何度も何度も秋葉の名前を呟いては、秋葉たちの去った方向へと目を向ける。
「あいつは誰だ……。………は、ははははは。あっははははは。
だ、誰であろうと関係ないか。秋葉に近づく者は…………皆、殺すまでだ」
ソイツは淡々と呟くと、その身を階下へと続く階段へと向けた。
誰もいなくなったフロアを静寂が支配し、差し込む日の光を押し返すように闇がその存在を大きく主張していた。
<to be continued.>
<あとがき>
いよいよアイツが動き出す。
その時、恭也は!そして、秋葉の運命は如何に!
美姫 「やっと事態が動き出すのね」
まあな。
美姫 「でも、シエル先輩の出番が相変わらず少ないわね」
何を言うかな。アルクェイドなんか、全然出てきてないんだぞ。
それに比べたら…。
美姫 「やれやれ。まあ、それはそうとして、早く続き〜」
はいはい。落ち着けって。じゃあ、とりあえずはここまでで。
美姫 「また次回ね。バイバイ」