『A night comes to twin sword dancer 第2話』
海鳴大学構内、そこを一人の男が歩いている。
その男に向って後ろから声がかけられる。
「おーい、高町」
呼ばれた男、恭也は後ろを振り返り今しがた自分を呼んだ男性、赤星が来るのを待つ。
「赤星か。お前もこれから講義か」
「ああ、お前と同じやつだよ」
「そうか。なら、一緒に行くか」
「ああ」
他愛のない話をしながら歩く二人に一人の女性が近づき、両腕をそれぞれの肩へとまわし二人の間へと入り込む。
「やっほー、高町くんに赤星くん」
「月村か」
「何よ、私だったら悪いの」
「そんな事は言ってないだろうが」
「あぁ〜、深く傷ついたこの心は翠屋のシュークリームじゃないと癒せないわ」
「勝手に言ってろ」
忍を無視して歩き始める恭也に苦笑しながらも赤星も続く。
忍は少し慌てて二人に追いつくと恭也に話し掛ける。
「いやーん、待って、待って。冗談だってば。いやだなー、もう」
恭也は半眼で忍を見ながら、
「嘘言え。あのままだったら本当に奢らすつもりだっただろう」
「はははは。だって、美味しいんだもん」
前科のある忍は笑って誤魔化す。
そこへ赤星がフォローのつもりか話題を変える。
「そういえば、月村もこの講義だったよな」
「そうよ。もっとも私は誰かさんと違って真面目に毎回出てるけどね」
「寝ていれば一緒だと思うがな」
「聞こえなーい」
「本当に聞こえていないのか」
「なーんにも聞こえないもん」
両手を耳に当て、そう言い張る忍に恭也はポツリと言葉を放つ。
「そう言えば今日、かーさんが新作のメニューを作るから試食してくれと言っていたな。
赤星も来るか?」
「悪い!今日はちょっと無理だ。サークルの方で用事があるからな」
そう言って竹刀の入った袋を軽く掲げて見せる。
「そうか、それは残念だな」
「はいはいはーい。私、今日は暇だから。私が行くよ」
「・・・・・・聞こえないんじゃなかったのか?」
「それはそれ、これはこれよ」
「なにがだ」
「ほら、よく言うじゃない。甘い物は別って」
「意味が違うし、間違っている」
「まあまあ、細かい事は置いといて、私は行くからね」
「分かった、分かった」
そんなやり取りをしながら歩いて行く途中、恭也は何かに気付いたのか前方へと視線を移す。
それにつられて赤星や忍も前方を見る。
そこには、向こうからこちらへと歩いてくる女性がいた。
「なになに。高町くんってば、あーゆうのが好みなの?」
冗談っぽく言いながらも、その目はかなり真剣で忍は恭也に訊ねる。
それに気付かず恭也はため息を吐くと、忍に告げる。
「何、馬鹿なことを言ってる。ちょっとした知り合いだ」
向こうもこちらに気付いたのか、恭也に近づいてくると笑顔で挨拶をしてくる。
「こんにちわ、恭也くん」
「こんにちわ、いずみさん」
「あ、恭也くんもこの講義なんだ」
「いずみさんもですか」
「うん、そうだよ」
「じゃあ、一緒に行きましょう」
「え、でも・・・」
いずみは後ろにいる赤星と忍を見る。
その視線の意味に気付いた恭也は軽く笑うと、二人を紹介する。
「ああ、こいつらは高校の時からの知り合いですよ。こっちが赤星で、そっちが月村です」
「どうも、赤星です」
「・・・月村です」
「あ、初めまして。私は火倉いずみと言います」
「あのー、高町くんとはどこで知り合ったんですか?」
忍は何気ない風を装い、そんな事を聞く。
この質問に恭也といずみは顔を合わせると、どちらともなく困ったような顔をする。
二人が知り合ったのは人知を超えたような状況であり、
あまり無関係の人を巻き込みたくないと考える二人にとって本当の事を言う訳にはいかない。
かといって、下手な事を言うとあらかじめ打ち合わせをしていた訳でもないのでお互いの話に食い違いが出てくる可能性もある。
どうしようかと悩んでいると、赤星が助け舟を出す。
「月村、その話は後にしよう。早く行かないと講義が始まる」
そう言って、時計を見せる。
それを見た忍も声をあげ、早足で歩き出す。
「ほら、高町くんも火倉さんも急ぎましょう」
その言葉に頷き、二人は忍の後を追いながら、小声で話す。
「どうします?講義の後に同じ事を聞かれると思いますけど」
「そうですね。講義の間に簡単な打ち合わせをしておいた方がよさそうですね」
「そうしましょう」
それなりに人で席が埋まっている中、恭也といずみは赤星と忍の後ろへと座る。
そして、その講義の間に簡単に打ち合わせをする。
そんな事をしている間に講義が終わり、忍が背伸びをして後ろを振り向く。
「おはよう、高町くん」
そんな忍に恭也は苦笑しながら声をかける。
「ああ、おはよう。とりあえず、ここから出よう」
それ以上忍が何かを言う前に先手を打つ。
4人はそのまま外へと出る。出ながら、恭也と忍は赤星に同時に同じ事を言う。
「「赤星(くん)、今の講義のノート貸してくれ(頂戴)」」
「・・・・・・はぁー。たった今まで一緒に講義を受けていた奴の言う台詞じゃないな」
「「気にするな(しないで)」」
またも声が重なる恭也と忍に苦笑しながらも赤星は了承すると先程とったノートを恭也に渡す。
「今から翠屋に行くんだろ。だったら、そこで写せるだろ」
「ああ、すまないな。丁度、いずみさんも取ってなかったから助かる」
「そうか。なら、次の講義までに返してくれればいいさ」
「ああ、分かった」
「ありがとう、赤星くん」
「私までごめんね、赤星くん」
「いいですよ、気にしないで下さい。じゃあ、俺はこっちだから」
途中で赤星と別れ恭也たち三人は翠屋へと向う。
その道中、忍が先程の質問をしてくる。先程とは違い答えを用意しておいたいずみは澱みなく答える。
そうこうしているうちに翠屋へと着き、中へと入っていく。
「あ、いらっしゃーい・・・って、恭也か」
「新メニューの試食を頼んどいて、随分な言い方だな」
「あははは。ごめんごめん。忍ちゃんもいらっしゃい」
「はい、お邪魔します」
「で、そちらは初めまして、よね?」
「あ、はい、初めまして。私、火倉いずみと言います」
「そう、いずみちゃんね。じゃあ、新メニューの試食、いずみちゃんにもお願いしても良いかな?」
「あ、はい」
「じゃあ、奥の席空けてるから、そこでお願いね。恭也、案内頼むわ」
「ああ、分かった」
そう言うと恭也は奥の空いている席へと向う。いずみと忍はその後に続く。
それを見た桃子が恭也の背中に声をかける。
「いいわね、恭也。両手に花じゃない」
恭也は聞こえないふりをして奥の席へと着くが、その顔は少し赤くなっていた。
◇ ◇ ◇
その日の夜、高町家での夕食時。
ふと思い出したかのように桃子が言った、
「恭也、あのいずみちゃんって子可愛かったわね。いつの間に知り合ったのよ。
ああ〜、士郎さん。やっと恭也にも・・・・・・」
「ち、違う───」
その言葉に反応した桃子、なのは以外の女性陣が恭也に詰め寄り、恭也の言葉は途中でかき消される。
そして、それから一騒動起こった事はここで言うまでもないだろう。
<to be continued.>
<あとがき>
久々にクロス作品に戻ってきましたよ。
美姫 「本当に久々よね。次はいつになるのやら」
それを言わないでくれよ。ああ〜、もっと早く書けるようになりたい・・・。
美姫 「それは浩の努力しだいなんじゃない?」
そうなんだが。まあ、次はできる限り早く出来るように頑張ろう。
美姫 「じゃあ、また次回♪」