『とらいあんぐるがみてる』



第1話 「転入生は美少女?!」






「はじめまして、高町 美影です」

そう言って一礼をするのは艶やかな黒髪を腰の辺りまで伸ばしたとても綺麗な少女だった。
その少女の容姿や凛とした立ち振る舞いに教室のあちこちから溜め息まじりの感嘆が漏れる。

「えーと、高町さんの席はあそこの小笠原さんの横になります。分からない事があったら彼女に聞くといいでしょう。
 小笠原さんもお願いしますね」

「はい、分かりました」

それだけ告げると教師は教室を後にする。
美影は指定された席へと着くと祥子に挨拶をする。

「よろしく、祥子さん」

「ええ、こちらこそ。美影さん何か分からない事があれば何でも聞いてくださいね」

そう言うと祥子はこの場に祐巳がいれば「お姉さま〜♪」となりそうなぐらい優しい笑みを浮かべる。
そんな事を話している間に美影の周りに生徒たちが集まり出す。

「美影さんはどちらから来られたんですか?」

「何か部活はおやりに?」

「趣味はなんですの?」

美影を囲んだ生徒が矢継ぎ早に質問をしていく。
美影もそれに一つ一つ答えていくが、答えるたびに次の質問が来るのできりがない。
それを見かねたのか、祥子が声をかける。

「みなさん、転入生に質問をなさるのもいいですけど、もうすぐ一限目が始まりますわよ」

その声に全員が自分の席へと戻り、授業の準備を始める。
それを見ながら美影はこっそりと安堵の息を吐く。

「ふふふ、人気者ね美影さん」

「勘弁してください」

「でも、休み時間の度に同じ様な目に会うと思うわよ」

祥子は楽しそうに笑うと自分も次の授業の準備を始める。
それを横目で見ながら美影は再び溜め息を吐く。

(こ、今回の護衛はかなり疲れるな。はぁー、何でこんな事に……。リスティさん恨みますからね)

美影は昨日のリスティとのやり取りを思い返す。







海鳴駅で合流した恭也とリスティは早速、電車に乗り込み目的地へと向う。
幾度かの乗り換えの後、後は東京まで一直線という頃になって初めて恭也は今回の仕事場所を知ることになった。

「今回の仕事は東京だったんですね」

「yes、そうだね、そろそろ話しをしておこうか」

リスティは少しだけ恭也に近寄ると小声で話し始める。

「まず、今回の護衛対象となるのは小笠原グループの会長の孫娘で名前を祥子と言う。これが写真だ。中々、綺麗なお嬢さんだろ」

そう言ってリスティは何枚かの写真を懐から取り出して恭也に渡す。
恭也は受け取った写真をよく見て祥子の顔を覚えると写真をリスティに返す。

「で、見た所まだ学生のようですが登下校の時に護衛をすればいいんですか?」

「いや、二十四時間体勢で護衛についてもらう」

「二十四時間ですか?」

「そうさ。恭也はこれからこのお嬢さんの家に居候する事になっているから。
 会長からそういう話が向こうさんにはいってるはずだよ。
 ただし、護衛のためだと知っているのは会長だけだから、ばれないように頼むよ。
 後、学校の方には転入手続きをしているから。さらに会長に手を回してもらってお嬢様と同じクラスになっているから。
 何か質問はある?」

「いえ、わかりました」

「OK。じゃあ、しっかり頼むよ」

「はい。……あ、一ついいですか?」

リスティは無言で恭也に続きを促す。

「リスティさんはどうされるんですか?」

「ああ、僕は向こうの警察や僕と同じ様な立場の人たちと協力して黒幕を見つけ出す」

「こっちから連絡を取るにはどうすれば」

「うーん。携帯にかけてくれて構わないよ。後は向こうで僕が寝泊りする事になるホテルの場所と電話番号は…………これだ。
 で、捜査本部というか、そういったようなもんの場所と番号がこれ。そうだな、後は定時連絡の時間は決めておこう」

リスティからそれぞれの連絡先が書かれたメモを受け取り、簡単な打ち合わせをする。
それを終える頃、あと5分ほどで駅に着くというアナウンスが流れる。
恭也は軽く肩を回し、少し硬くなっていた身体をほぐす。と、ある事に気付きリスティに質問をする。

「あ、そうだ。リスティさん、最後にもう一つ。俺が転入する学校はどこなんですか?」

恭也の心配事とはあまりにレベルが高い学校だと授業についていけないという物だった。
それを聞いたリスティは何故か笑いを堪えようとするが、肩が震えることだけは押さえきれず、
また口からは押し殺したような笑い声が微かにもれ聞こえてくる。
それに少し憮然としながらも恭也は言葉を続ける。

「笑わないで下さいよ。確かに大学生ですが、高校の時から勉強は全然してなかったし、もうほとんど覚えていないんですから。
 もし成績が悪くて補習なんて事になったら護衛が出来なくなるんですから」

「っくっくくく。あ、あはははははは〜〜、も、もう駄目っ。はははははは〜」

恭也の言葉が終わるや否や大声で笑い出すリスティをジト目で睨む。
それに気付いたリスティは、笑いすぎて目の端にたまった涙を拭いながら弁解するように語りだす。

「わ、悪い悪い。別に恭也の成績を笑ったんじゃないんだよ。くっくっくくく」

「は、はぁー。じゃあ、何が可笑しいんですか?」

恭也は首を傾げながら今の会話に可笑しな部分があったの思い返すが、特に気になる場所が見当たらずリスティの方をみる。

「恭也が通う事になるのはカトリック系の学校でちょっと変わった制度がある他は極普通の学校と変わらないよ。
 まあ、生徒の殆どがお嬢様って事を除けばだけどね」

「はあ。それでどこなんですか?」

「ああ、恭也が転入する学校はね、リリアン女学園さ」

「へぇー、リリアン女学園っていうんですか。……………………ん、女学園?
 あのー、リスティさん女学園ってことは、もしかして…………」

「そうだよ、女子高。良かったね恭也。男で女子高に通えるなんて一生に一度あるかないかだよ」

「な、どうやって転入するんですか」

「だから大丈夫だって。その為に、唯子たちに借りた色々な物を持って来たんだから」

「鷹城先生、ですか?」

「そう。昔ね、真一郎が何度か同じ目にあってるんだ。その得意の道具をちょっとね」

「真一郎さんも護衛をした事が?」

「ああ、違う違う。そういうことじゃない。まあ、早い話が…………」

リスティはそこで言葉を切ると真剣な表情で恭也を見る。
恭也の顔もそれにつられて、自然と真剣味を帯びる。
だが、次にリスティの口から発せられた言葉は、

「高町恭子ちゃんになってもらう」

「…………はい?」

あまりの事に自分の聞き間違いかと思い聞き返す恭也にリスティはなおも続ける。

「仕方がないだろ。教師として潜り込ませる事も考えたけど、恭也が教えられる事といったら剣術ぐらいだろうし。
 それに教師として入ってしまうと四六時中張り付いている訳にもいかなくなるだろ」

そう言って悪戯が成功した子供の様な笑みを浮かべる。これを見て恭也は確信した。

(わざとだ。今になるまで言わなかったのは絶対にわざとだ)

それと同時にさっきまで笑っていた意味を理解して、溜め息をこぼす。

「まさか、ここまで来て断るなんて言わないよね」

「…………他に方法は無かったんですか」

「ない!」

最後の無駄なあがきで抵抗するが、これをリスティは一刀両断で切り捨てる。

「それとも、力が無くて困っているお嬢さんを見捨てるかい?自分がやりたくないっていう理由で」

恭也が実際に嫌がっているのは女装することなのだが、リスティは微妙に言い方を変える。

「なっ!護衛そのものを嫌とは言ってないじゃないですか」

「でも、今回の依頼はこれも含めてなんだよ。だったら、同じじゃないかい?」

「ぐっ。…………わ、分かりました。やりますよ。ただ、恭子という名前だけはやめて下さい」

「OK。名前は別に何でも良いさ。じゃあ、さっそくメイクしようか」

「こ、ここでするんですか」

「yes。ほら、早くしよう。折角、色々とやり方を聞いてきたんだから」

そう言うとリスティは鞄から色々な道具を楽しそうに取り出していく」
それを見ながら恭也はウンザリとした顔になる。それに気付いたリスティが、

「まさか、やっぱり嫌とか言うんじゃないだろうね」

「……言いませよ。現状はどうあれ、俺はやるべき事をやるだけです。俺の剣はそのためのものですから」

「それでこそ恭也だよ。まあ、難しい事は考えないで護衛に専念してくれたら良いよ。
 その間にこっちで黒幕を突き止めておくからさ。っと、リップを塗るから口を閉じて……。
 後、着替えはそっちのバックの中だからね」

「…………」







電車が駅に着いた事を告げるアナウンスの後に扉が開く。
そして、電車から二人の女性が降りてくる。その二人がホームに出て来た途端、近くにいた男性の視線が全て二人に向く。

「リスティさん。やっぱりどこか可笑しいんじゃないんですか?皆がこっちを見てますけど」

「大丈夫だって、恭也……じゃなかった美影」

「そうですか?」

まだ不安そうにしている恭也、もとい美影にリスティは一枚の紙を差し出す。

「何ですか?これは」

「ああ、唯子の所に道具とかを借りに行った時、真一郎もいてな。事情を説明したら、お前に渡してくれって」

「はぁ」

美影はその二つに折られた紙を受け取り、開く。
紙の中央にたった一行だけ、

『気をしっかり持って、身も心もなりきれば大丈夫』

とだけ書かれていた。

(……真一郎さん、あなたはすごい人です)

どこか遠くを見る目で空の彼方を見る美影。
そこには、他の誰にも見えずとも、美影の目だけにははっきりと真一郎の悟りきった笑顔が見えた…………気がした。
また、そんな行動を一部始終見ていた男共はその憂鬱そうに空を見上げ、儚げな表情を浮かべる美影に完全に見惚れていた。
リスティはその横で苦笑を浮かべながらも、やはりかなり楽しんでいた。
それから、二人並んで駅の出口へと向って歩き出す。
駅を出た所で一人の男性がリスティに気付き声をかけてくる。

「リスティさん、こっちです」

「Hi、久しぶりだね。元気だったかい」

「ええ、私は元気でしたよ。リスティさんの方も変わらないみたいでなによりです。
 と、所で、この美しい方は」

「ああ、今回護衛の任につく、高町美影さ。何度か話した事があるあの高町恭也の妹だ」

「高町美影です。よろしく」

リスティに紹介されて軽く頭を下げて挨拶をする。

「こ、こちらこそ宜しくお願いします。わ、私は南川 裕行(みなみかわ ひろゆき)といいます。
 今回、リスティさんと共に行動する事になる者の一人です」

リスティに対するよりも馬鹿に丁寧な挨拶をする南川をリスティは一瞥して、

「さて、自己紹介はここまでにして美影を小笠原のお屋敷まで連れて行くか」

「そ、そうですね。では、車を回してくるんで少し待っていてください」

そう言うと南川はその場を離れていく。

「美影、くれぐれも護衛されているなんて気付かれんじゃないよ」

「分かっています」

「まあ、別にばれても構わないんだけどね。できれば、自分が狙われているなんて事は知らない方が良いだろうしね」

「そうですね」

リスティはそれだけ言うと懐から煙草を取り出し火を点けると、ゆっくりと吸い込み紫煙を吐き出す。
天に向ってゆっくりと上昇していく紫煙を見ながら、ゆっくりと口を開く。

「何も起こらないうちに解決できれば一番良いんだけどね」

静かに呟いたその言葉に恭也はただ黙って頷き同意を示す。

「あ、後、言葉使いには気をつけて。いいかい、君は今、女性なんだという事を忘れないこと。
 プロなんだから引き受けた以上、ちゃんとしなよ」

「分かっています。でも、おれ……私は別に女装のプロという訳では……」

「ほら、つべこべ言わない!もっとちゃんと心がけて話す!」

「分かりました。これで良い?」

「うーん、まあまあだな。まあ、後は慣れだな。頑張ってくれよ、み・か・げ・ちゃん」

「……努力はするわ」

肩を落としながら美影は答える。そんな姿さえ周りの男の視線を集めていたのだが。
それからしばらくしてやって来た南川の車に乗り、小笠原邸へと向った。





つづく




<あとがき>

とらみて第1話!
美姫 「マリとらの別バージョンってやつよね」
その通り!冒頭の美少女は実は恭也でした〜!パフパフ、ドドドン!
美姫 「いや、分かってたし」
な、なに〜。じ、じゃあ、美影って誰やねんとかいうのは?
美姫 「ないない」
ガーン
美姫 「本気で分からないと思ってたの?」
いや、ひょっとしたらって事もあるかな〜と。
美姫 「そんな訳ないじゃない。分からないのは浩ぐらいよ」
失敬な!俺は分かっていたぞ。そう、どれくらい分かっていたかというと……完成する前から!
美姫 「いや、そんなに威張って言われても……。当たり前じゃない」
美姫ちゃん、ひどい……。
美姫 「えーい!気持ち悪いわ。両手を胸の前に合わせて体を揺するな!」
っち!
美姫 「何か言った?」
い、いいえ何も。
美姫 「そう、なら良いんだけどね。ただ、聞き間違いじゃなかったら…………」
ゴク。は、はははははは。そ、そそそそそれじゃあ、また次回。
美姫 「皆さま、ごきげんよう。(ペコリ)……………………離空紅流、鳳焔舞(ほうえんぶ)!」
みぎゃ#*%¥ぐげげげげ〜〜。




ご意見、ご感想は掲示板こちらまでお願いします。



二次創作の部屋へ戻る

SSのトップへ