『とらいあんぐるがみてる』



第4話 「美影、三薔薇さまと出会う」






祥子は開けた扉の中へと入って行く。
その後に続くように令、美影と入って行く。

「あ、お姉さま。今、お茶を入れますね」

祥子が席に着くなり、祐巳は席を立つ。

「ええ、三人分お願いね」

「あ、はい」

「で、祥子。そちらの方は?」

「祐巳が戻ってからご紹介しますわ、お姉さま」

祥子の隣に腰を下ろした美影を見ながら、全員が祐巳が戻って来るのを待つ。
そして、祐巳が席に着いたのを見て、祥子は美影を紹介する。

「こちらは、本日転入してこられた高町美影さんです」

祥子の紹介で、美影は頭を下げる。

「高町美影です」

その後、既に紹介が終わっている令を除いたメンバーが紹介をする。

「で、その美影さんが何故ここに?」

蓉子の問い掛けに祥子が答える。

「美影さんのお父さまと、私の祖父が古い知り合いでして。
 その関係で、今美影さんはうちにいるんです。
 ですから、お姉さま方にもご紹介をしておこうと思いまして」

そう言いながら祥子は包みを開け、弁当を出す。
その言葉を聞きながら、祐巳は少し羨ましそうな目で美影を見る。

(良いなー。お姉さまと同じ家で暮らせるなんて。うぅ〜羨ましい。
 で、でも、そうなる常にお姉さまが傍にいる訳で、何か失敗したら、それを見られる事になるのよね。
 でも、お姉さまが常にいて…)

堂々巡りになりそうな思考を、聖の笑い声が止める。

「ははははは。いやー、やっぱり祐巳ちゃんは最高ね」

その言葉に、祐巳はまた百面相をしていたのかと、顔を赤くして俯く。
そんな祐巳や聖を余所に、江利子は楽しそうな笑みを浮かべ、美影を見る。

「ふーん。彼女が噂の転校生なのね」

「確かに、生徒たちが騒ぐのも無理はないわね」

江利子の言葉に、蓉子が返事をする。

「紅薔薇さまの言う通り、これは騒ぐはずだわ」

「結構、噂っていうのはいい加減なはずなんですけどね」

由乃や志摩子も半ば感心したような声を上げ、それに聖とのやり取りを終えた祐巳も、頷きながら答える。

「本当ですね。蔦子さんも一度見てみたいとは言ってたけど…」

祐巳の言葉に由乃が驚きの声を上げる。

「ま、まさか祐巳さんが祥子さまに関する事以外の噂を知っているなんて!」

「あ、あのねー、由乃さん。私だって噂を聞くことぐらいあります。そりゃ、滅多に聞かないけど」

「あははは。冗談だって。そんなに拗ねないでよ」

「べ、別に拗ねてなんか……ぎゃぁ!」

「う〜ん、拗ねてる祐巳ちゃんも可愛い」

「白薔薇さま、は、離して下さい」

「もう少しだけ〜」

「白薔薇さま!祐巳を離してくださりませんか」

「おお、怖い。蓉子〜、怖いお姉さんが虐めるの〜」

「馬鹿な事やってないで、席に座りなさい。祥子も落ち着いて」

ふざける聖を軽く窘め、蓉子はマイペースで弁当に箸を付ける。
美影はそんな様子をやや茫然と眺めていた。
それに気付いた令が声を掛ける。

「驚いた?」

「いえ、そんな事は」

「ははは。そう?まあ、大体いつもこんな感じなんだけどね。だから、そんなに畏まらずに、もっと楽にして」

「はあ。しかし、噂ってどんな噂なんですか?」

「知らないんですか?」

祐巳の言葉に由乃が口を挟む。

「祐巳さん。普通、噂っていうのは本人の耳には聞こえてこないもんよ」

「あ、そうか」

「いえ。一つは聞いたのですが……。
 どうも色々と間違った噂が立っているようなので、どうなっているのかと」

「えーと……。蓉子、どう思う?」

「間違いなく本気で言ってるわよ。ねえ、江利子?」

「ええ」

蓉子たちの言葉に、美影は一人首を傾げてる。

(私は何か変な事でも言ったのかしら?)

一人考え込む美影に、祥子が笑いを堪えた様子で声を掛ける。

「それよりも、早くお昼にしましょう。このままだと時間がなくなるわ」

その言葉に全員が中断していた昼食を開始する。
美影も我に返ると弁当を取り出す。
その弁当箱を見て、聖が驚いた顔をする。

「美影さんて、結構食べるのね」

「そうですか?まあ、体が無駄に大きいですから、その分食べないと。
 やっぱり、おかしいでしょうか?その、女の子がこんなに食べるのは」

美影は、少し恥らうようにしながら尋ねる。
因みに、この仕草は周りにいる女性たちの姿を思い出しながらの再現だったりする。

(やっぱり、食事の量は少なくしないといけないのかしら。
 でも、それだといざと言う時に力が出なくなるし…。
 あのお二人は、私以上に食べられるから、これぐらいなら大丈夫かと思ったんだけど…)

すっかり心まで女性になりきった恭也、もとい美影はそんな事を考えながら、二人の女性を思い浮かべる。
その様子を勘違いしたのか、聖たちが慌てて言葉を紡ぐ。

「そ、そんな事はないわよ」

「そうよ、聖の言う通りよ美影さん。食べる量なんて、人それぞれなんだから」

「そうですよ。それに、背が高くて羨ましいです」

祐巳が羨ましそうに美影を見る。
それを受け、美影は考え事を止め笑みを浮かべる。

「ありがとうございます」

「ふえ〜」

「はぁ〜」

その笑みを見て、全員が美影に見惚れたように息を吐き出す。
最も、一人だけ何処か抜けたような声をあげたのだったが。
その後は特に何事もなく昼食を終え、他愛もない話に花を咲かせていた。
と、話の切れ目で蓉子が話し掛ける。

「じゃあ、今日の放課後は特に予定もないことだし、皆で美影さんに学校案内でもしてあげましょうか」

「そうね、それは良い考えだわ」

「そうですね。今日転入されてきたばかりなら、よく知らないでしょうし」

蓉子の言葉に、聖、志摩子が賛成をする。
それに対し、誰も反対など言わず、それを確認すると、蓉子は全員を見渡して、

「じゃあ、特に反対もないみたいだし、放課後ここに集合で良い?」

と、告げる。
それに対し、全員が頷く。

「どうもありがとうございます」

そんな祥子たちに礼を言った所で、予鈴が鳴り響く。

「さてと、じゃあ授業に行きましょうか」

聖の言葉を皮切りに、全員が席を立ち薔薇の館を後にするのだった。





つづく




<あとがき>

久し振りの美影バージョン。
でも、まだ『とらみて』は、『マリとら』とほぼ同じ進み方ですけどね。
美姫 「こっちはペースが遅いのよね」
まあね。
美姫 「まあ、こっちはのんびり行きましょうか」
おっ、美姫にしては珍しい意見だな。
美姫 「私だって、たまにはの〜んびりしたいわよ」
うんうん、良い事だ。
美姫 「と、言う訳で、また次回♪」






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