『とらいあんぐるがみてる』



第8話 「準備完了」






翌日の放課後、昨日に引き続き、数人の写真部が蔦子を中心にして薔薇の館の一階で作業をしていた。
今日は展示用にパネルに入れた写真を壁へと飾って行く。
そして、最も目立つ所に大きく引き伸ばされた例の写真が飾られる。
引き伸ばされたそれを見て、美影たちはそれぞれに反応を見せる。
祐巳は頬を緩ませ、祥子は少し頬を染め、美影は何とも言えない表情をしていた。
その写真以外にも、山百合会の面々の写真が飾られていく。
その中でも、祥子と美影のツーショット写真がその多くを占めていた。
その写真を見て、祥子は改めて自分が美影の前ではよく微笑んでいるということを知る。
それに気付き、何故か心が温かくなる自分を不思議に思いつつ、祥子は軽く部屋を見渡す。
全部の作業が済んだようで、他の者たちもそれぞれに休んでいた。
その中で、蔦子は一人最初から順に写真を眺め、この配置でいいのか再度念入りにチェックをする。
それを眺めつつ、祥子は美影へと近づく。

「お疲れ様、美影」

「ええ、祥子もお疲れ」

「本当に疲れたわ」

そう言って微笑む祥子に、美影も微笑みを返す。

「しかし、本当に良かったの?写真の展示なんてして。
 美影は目立つあまり好きじゃないでしょう?」

「ええ。でも、写真を展示するだけだし、そんなに問題はないと思うわよ。
 それに、わざわざ私の写真を見に来る物好きなんていないわよ。
 ここに来るのは、祥子の写真目当ての人ばかりよ」

「そんな事はないわよ。私の写真こそ、見に来るような人なんていないわよ」

そう言う祥子に、美影は首を横に振る。

「それこそありえないわよ。私だったら、祥子の写真を見に来るもの」

美影の言葉に祥子は頬を紅く染める。
そんな祥子たち二人を、他の面々が遠巻きに眺めていた。

「わ〜、蓉子ほら、祥子が照れてるわよ」

「本当ね。結構、貴重なものを見れたわ」

「私としては、もう一押し何か欲しい所ね」

「江利子の場合、何かの前に面白いが付くんじゃないの?」

聖の言葉に、江利子は唇の端を持ち上げる。

「当たり前でしょ。そう言う聖も、何か期待してるんじゃないの?」

「さあね」

江利子の切替しに聖は肩を竦めて見せる。
そんな薔薇さまたちのやり取りを見ながら、祐巳たちも珍しい場面を見ていた。

「でも、照れるお姉さまも……」

「はぁー。祐巳さんは幸せよね〜」

「まあまあ由乃さん。この方が祐巳さんらしいじゃないですか」

由乃の呆れ混じりの言葉に、志摩子はいつもの笑みを湛えつつに言う。
そんな二人の言葉に、祐巳は複雑な表情をしてみせる。
そんな周りのやり取りに気付かず、祥子は美影の肩に付いているものに目を止める。

「美影、ちょっと動かないでね」

祥子はそう言うと、美影の肩へと手を伸ばす。
その手が肩に触れ、離れた時にはその指に小さな糸くずが摘まれていた。
それを近くのゴミ箱に捨て、祥子は美影に話し掛ける。

「糸くずが付いていたわよ」

「ありがとう」

「いいえ、どういたしまして。美影は元が良いんだから、ちゃんと身だしなみには気をつけなさい」

そう言って、作業の所為で少し曲がったタイに手を伸ばす。

「ほら、タイが曲がっていてよ」

祥子の顔を間近に見つつ、美影は笑みを浮かべる。
それを不審に思ったのか、祥子はタイを直しつつ首を傾げる。
そんな祥子に答えるように、美影も祥子のタイへと手を差し出す。

「そう言う祥子のタイも曲がっているわよ」

「あ、ありがとう」

「いいえ」

お互いに至近距離で笑みを浮かべつつ、相手のタイを直す。
そんなおいしい場面をこの場にいるあの人が逃すはずもなく、何度もシャッターを切っていた。
そんな蔦子を眺めつつ、薔薇のお三方は楽しそうに祥子たちを見る。

「あら、黄薔薇さまの願った通り、中々面白いことになったんじゃない」

「本当ね。おー、おー、眼鏡ちゃんがはりきってるわね」

「本当に面白いわね、あの二人」

蓉子たちが話している横で、祐巳はその光景を物凄く羨ましそうに見ていた。

(私もお姉さまのタイを直してあげたい……)

そんな思いが顔に出ている祐巳を、由乃たちは笑いながら見ていた。
当然、この写真も展示されることとなり、例の写真の横に、これまた大伸ばしして飾られた。
こんな感じで、写真部の企画は順調に進んで行くのだった。





つづく




<あとがき>

はいはいはいはいはい〜。
久し振りのとらみて〜!
美姫 「本当に久し振りよね」
ははははは。
兎も角、祥子さまと美影さまが怪しい雰囲気になりつつも、まだほのぼの〜と進むとらみて。
美姫 「このままギャグ路線を突っ走るのか、それとも、ちゃんとシリアスに戻るのか」
それは紙のみぞ知る。
美姫 「紙なの?」
そう紙。紙面。
美姫 「でも、この場合は画面て言うんじゃ」
あっ!は、ははは。神のみぞ知る!
美姫 「はいはい。アンタの馬鹿さ加減も分かったことだし、このぐらいにしときましょうか」
おう!では、また次回!
美姫 「ばいばい〜」






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