『とらいあんぐるがみてる』
第34話 「平穏? 激動?」
昼休みに薔薇の館で昼食を取っていた美影と祥子であったが、食べ終えるなり美影は小さく溜め息を零す。
何処か疲れを感じさせるそれに祥子が気遣うように声を掛け、空になっていたカップを手に新しいお茶の準備をする。
「休み時間の度に出歩いて、流石に疲れたのかしら?」
「そうかもしれないわね」
祥子の言葉にそう返しつつ、美影は肩を揉む。
特に凝っているという事はないが、何となく気分的にやってみたという感じである。
美影の仕草に微笑を浮かべつつ、祥子は新しいお茶を手に席に戻る。
「それにしても、昨日シスターが苦手だと言っていたのに、今日になってそのシスターたちと話をするなんてね」
「まあね。祥子に苦手だと知られたからね。やっぱり多少は克服しないと悔しいじゃない。
相手は人なんだから、そのためには少しでも話をして苦手意識を取ろうと思ったのよ。
祥子と同じで、ううん、祥子よりはましだけれど、私もそこそこ負けず嫌いなのよ」
「ちょっと聞き捨てならない台詞があったようだけれど、まあ良いわ。
苦手なものを克服しようとする態度はこのましいしね。とは言え、毎時間付き合わされるとは思わなかったわ」
「それはあれよ。うん、祥子も一緒に克服を……」
「私は元々苦手じゃないわよ。素直に苦手だから付いて来てと言えば良いのに。
本当に負けず嫌いなのね」
祥子の言葉にばつが悪そうな顔を作り、美影は誤魔化すようにカップを手に取る。
そうやって勘違いさせるような言動を取っているのだから、この結果は充分満足のいくものであった。
それよりも分からないのがマリィの事である。
今日、美影は休み時間のたびに様々なシスターの下へと訪れては彼女に関する事をそれとなく聞きだしていたのだ。
その結果分かった事と言えば、昨夜リスティが語ったフランスでの評価とあまり変わらないという事である。
試しに何人かの生徒にも聞いてみたが、中にはマリィの事を知らない生徒までいた。
マリィに関する情報を集める内に、もしかしたら襲撃者ではないのかもという考えさえ浮かんでくる。
趣味が趣味だけに必要以上に目立たないように大人しくしており、
リリアンで美影を見付けた事により、同じ趣味の人間に出会えたと思って自分に対してのみああなのではと。
そう考える事も出来るのだ。
とは言え、警戒するに越した事もなく、美影はマリィの姿が見えたり、向こうが気付いて近づいてこようとすると、
それよりも先に祥子を庇うように早々に立ち去ったりしているのである。
同様に谷川という教師にも同様の事をしているのだが、こちらは元々受け持っているのが一年という事もあり、
また次の授業の準備などもあってか、職員室に殆どいるので今日会ったのは廊下で一度だけだが。
とりあえず、美影は祥子の傍を片時も離れる事無く警戒を続けていた。
髪をやや乱暴に掻き乱しながら考え込んでいた美影であったが、
これ以上考えても今の段階ではどうしようもないととりあえずは考えるのを止める。
そんな美影を見詰めていた祥子は小さく嘆息するとポーチから櫛を取り出し、
「美影、髪が乱れているわよ。ほら、後ろを向いて」
隣に座っていた美影の体だけを九十度回し、自分は椅子ごと美影の方へと向く。
「ほら、じっとしてなさい」
美影がそんな事しなくても良いと言うよりも早く、祥子が美影を制して乱れた髪に櫛を通していく。
優しい手つきで髪を梳きながら、呆れたような口調でぼやく。
「全く、もう少し身嗜みにも気を付けなさい。
そんな事だと、お兄さんにも呆れられるわよ」
「祥子の言いたい事は分かったけれど、どうしてそこで兄が出てくるのかしら?」
「あら、言って欲しいの?」
「はぁぁ、良いわよ」
言わなくても分かっているとばかりに、諦めた口調で返す美影に祥子は小さく笑い声を漏らす。
美影としてはもう何度も否定しているので、いい加減に分かって欲しい所なのだが、
祥子にしてみれば今の所、美影をやり込めれる手の一つだと認識しているらしく、事ある毎に言ってくるのである。
「それにしても、美影の髪は綺麗ね」
「そうなの? よく分からないわ。
それに綺麗だと言うのなら、私は祥子の髪の方が綺麗で好きよ」
「っ、あ、ありがとう」
素直な美影の賛辞の言葉に祥子は思わず言葉に詰まるも、どうにかお礼を口にする。
若干頬が赤くなっているかもしれないと自覚しつつ、美影が前を向いている事に感謝する。
だがそれなりに、それも殆ど一緒にいるのだ。
美影は見なくても祥子が照れているのだろうと簡単に想像できた。
そこでそれを思うだけに済ませておけば良かったのだが、先程からかわれた事もあり、
「もしかして照れてる?」
「そ、そんな事ある訳ないでしょう。
いいからじっとしてなさい」
「うーん、それにしては声が上擦ってない?」
言いながら後ろを振り返り、意地の悪そうな笑みを見せる。
「美影! もう本当に大人しくしてないと、変な髪形にしちゃうわよ」
「はいはい、じっとしてますよ」
やり返せた事に満足し、美影は再び前を向き、祥子はまた美影の髪を梳き始める。
そこに言葉はなく静かな時間が流れるも、そこに気まずい空気はなく、
互いにこの空間を居心地良く感じている事が分かる。
「ずっとこんな時間を過ごせたら良いわね」
「そうね」
故に思わず出てしまった美影の言葉であったが、祥子もごく自然にそう返していた。
美影の髪に櫛を通し終え、櫛を一旦置くと今度はゴムを取り出す。
「もうちょっと動かないでね」
美影に何か言う暇も与えず、手早く櫛と手で髪を一つに纏めるとゴムで括っていく。
「後はリボンを付けましょう」
何処か楽しそうな声でポーチから黒色のリボンを取り出す。
縁が白く小さなレースの入った、けれども華美ではないリボンを美影へと素早く付ける。
どう考えても美影用に用意していたとしか思えないのだが、美影が文句を言う間もなくその眼前に鏡が差し出される。
鏡の中に映る美影は、髪が後ろに降ろされているのではなく上の方で一つに括られていた。
「ポニーテールよ。他にもみつあみとか色々してみたいのだけれど、とりあえず今はこれでね」
「はぁ、こんなに手早く出来るものなのね」
感心するような呟きに祥子は訝しげそうに見遣る。
「何を言っているのよ。今まで髪型ぐらい弄ったことあるでしょう」
「ないわね。そもそも櫛すらまともに使った記憶もないわ」
流石に少し呆れたような顔を見せるも、すぐに笑みを見せると、
「何となく美影らしいと言えばらしいわね」
「そう? って、それって褒めてないわよね」
「どうかしらね?」
「もう。まあ、良いわ。祥子、櫛を貸して。
今度は私がやってあげるから」
「やった事ないんじゃないの?」
「妹のはしていたのよ」
言ってやや強引に祥子から櫛を奪い取ると、今度は祥子と場所を交代する。
「そうね、折角だから誰もした事のないような芸術性の高い髪形にしようかしら」
「……お願いだから普通にして」
「え〜」
不満そうな声を上げつつも、仕方ないなと笑うと祥子の髪に櫛を通し始める。
先程と同じよな静かで穏やかな空気が流れる中、美影の耳は近づいてくる足音をしっかりと捉えていた。
程なくして扉が開けられる。
「ごきげん……よう。えっと、お邪魔だったかな?」
挨拶しながら入ってくるも二人を見て尻窄みになり、とうとう扉から顔を半分だけだして窺うように聞いてくる。
そんな態度に呆れたように溜め息を吐きつつ、
「馬鹿な事をしていないで、入ってらっしゃいな令」
祥子の言葉に気を取り直して令がやって来る。
「お邪魔じゃないにしても、何をしてるの二人して」
「まあ色々ありまして、髪型を変えている所です。令さんはどう思います?
祥子の髪型なんですけれど、祐巳ちゃんみたいにツインテールにしようかなと思うんですけれど」
「ちょっと美影、流石にそれは。あれは祐巳がするから可愛いのであって……」
令が答えるよりも先に祥子の方が慌てた様子で止めに入る。
「そんな事ないわよ。祥子だって充分に可愛いじゃない。見てみたいわ」
「やるのなら、せめて一つに纏めて。もしくはみつあみとか」
「みつあみは手が掛かるもの。それじゃあ、サイドテールにしましょうか。
もしくは私とお揃いにする?」
「あ、それは良いかもね。二人揃って同じポニーテルにするっていうの」
注文を窺う美影の言葉に本人ではなく令が反応を示し、それに美影も答える。
「令さんの反応も良いみたいだし、私と一緒で良いわね」
「芸術的なものやツインテールじゃないのなら、もうそれで良いわ」
投げやりのような言い方をしつつも、少し嬉しそうな表情でそう言うと祥子は美影に任せる。
「とは言え、これは慣れてないのよね。
令さん、ちょっと横で見てて、可笑しなところがあったら教えてくれる?
変になると、後で祥子に苛められるから」
「オッケー。祥子は怒ると怖いからね」
「二人して私を怒らせようとしてない? そんなにご希望なら、怒ってさしあげましょうか?」
「「おお、怖い怖い」」
祥子の言葉に揃って大げさに身を震わせながらも、祥子も含めて笑顔を見せている。
そんなこんなもありながら、どうにか無事に祥子の髪型をポニーテールにすると白地に縁が黒のレースのリボン、
美影と色が逆なだけでデザインなどは同じリボンで括る。
「はい、お仕舞いと」
言って祥子の前に手鏡を差し出し、確認する祥子の後ろから自分の顔も映るように顔を突き出す。
両手を祥子の肩に軽く置き、顔を横に並べると、
「ほら、お揃いね。しかし、リボンまでお揃いになるなんてね。
まあ、どちらも祥子のだから、当然なのかもしれないけれどね」
言って微笑を浮かべる鏡の中の美影へと祥子も微笑み返す。
その様子を見ていた令が、ようやくここに来た用事を思い出す。
「ごめん、美影さん。用件を忘れていたわ」
「ああ、そう言えば何か用があって来られたんですよね」
「そうなのよ。実はシスター・マリィが美影さんを探していたのよ。
それでここに居るんじゃないかと思って」
マリィの名前が出て所で僅かにだが美影の眼差しが鋭くなるも、それには気付かないまま令は続ける。
「もし見かけたら、講堂に居るから来て欲しいって伝えてくれるように頼まれたのよ」
「そう、ありがとうございます。祥子……」
「丁度良いじゃない。少しは克服できるかもしれないわよ。
私はここで待っているから、行って来なさい」
祥子の言葉に少し躊躇いを見せる。出来れば祥子にも来て欲しいと思っていたのだが。
それが分かったのか祥子は苦笑を見せる。
「もう昼休みも終わるのだから、さっさと行った方が良いんじゃない。
ちょっと会うだけなんだから大丈夫よ。少しは一人で試してみなさい。
まあ、それでどうしても駄目だったら、次からはちゃんと付き添ってあげるから」
事情を知らない令が不思議そうな顔をする中、美影はすぐに判断を下す。
「分かったわ。でも、近くまでは一緒に」
「はぁ、仕方ないわね。それじゃあ講堂の近くまでは行ってあげるわ」
「出来れば、講堂の裏にある桜の木の所で待っていてくれないかしら」
そこならば何かあってもすぐに駆けつけられる上に、講堂や木々が邪魔をして周囲に狙撃出来る場所もない。
故にそう提案したのだが、祥子は少しだけ嫌そうな顔をする。
「ああ、銀杏が苦手だったものね。でも、今の時期なら問題ないでしょう」
「はぁ、分かったわよ。美影に偉そうに克服しろと言った以上、断れないわね」
肩を竦める祥子に美影は大げさなと苦笑するも、すぐにやり返される。
シスターが苦手で先に祥子に付き添ってもらっている事になっているだけに、美影はそれ以上は何も言えないのだった。
互いにこれ以上は不毛と悟り、同時に未だによく分かっていない令を見て小さく頷き合う。
本当にこういう時は意志の疎通が非常に早くなったものだと思いつつ、美影は利用する事になる令に心の中で謝罪する。
「それじゃあ、暇を持て余している令にも付き合ってもらいましょう」
「さあ、令さん行きましょう」
こうしてよく分からないまま、令は祥子と美影によって攫われるかの如く引き摺られていくのだった。
講堂へと踏み込むと、一番前の席にこちらに背を向ける形で座っているマリィの姿があった。
一応の警戒をしつつ、ゆっくりと近づいていくとマリィもこちらへと振り返る。
「よく来てくれましたね」
「ええ。それでどういったご用なんでしょうか」
やや硬い口調で問い掛ける美影に構わず、マリィは歩を進め笑みを見せる。
「その前に、髪型を変えたのかしら? ふふふ、その髪型もとっても似合っているわよ。
時折見える白いうなじが本当に綺麗ね」
言って目を細めるも、すぐに柔和な笑みを浮かべて用件を口にする。
「あなたが私の事をあちこちで聞いて周っていると耳に挟んだものですから」
マリィの言葉に美影は少し急いで動きすぎたかと内心で臍を噛みつつ、顔には出さないまま見詰め返す。
こうなったら、相手の出方を待とうと少し身構える。
「そんなに私の事を知りたいのなら、直接聞きに来てくれれば良いのに。
本当に照れ屋さんね。まあ、そこもまた可愛いのだけれど。うふふふふ」
妖艶な笑みを貼り付け、マリィは美影へと近づいてくる。
それに合わせて同じように後ろに下がりながら、美影はやはり敵ではないのかと考える。
「どうして逃げようとするの? 今日はずっとそうね。折角見付けても、すぐに去って行ってしまうなんて。
別に私の事を聞いて周ったからといって怒ったりしないわよ。
つまり、あなたも私の事が気になっているという事なんでしょう。だったら、逃げないでこっちにいらっしゃい」
唇を舐め、美影へと迫るもその距離は縮まらない。
その事にマリィの瞳が悲しみを見せる。
僅かに胸が痛むも、やはり警戒をしない訳にもいかず、ついついつれない態度を取ってしまう。
それを見てマリィは何故と本気で悲しそうな表情を見せる。
「ほら、早くこっちにいらっしゃい」
それでも近づかない美影に徐々にマリィの声に苛立ちが見え始め、
「あまり言う事を聞かないと、優しくしてあげれないかもしれないわよ。
それともそちらの方が好みなのかしら? 美影、さあ来なさい」
なおも近づいてくるマリィに対し、美影はゆっくりと距離を開けていく。
だが、その背中が講堂の扉にぶつかって止まる。
今までのやり取りの間もずっとマリィを観察していた美影であったが、果たして敵なのかどうかの判断はまだ分からない。
そもそもこれが罠で美影を祥子から引き離すためのものだとしたら、祥子を襲う者が居るはずなのだ。
だが、それらしく気配は全くしない上に、それは美影が護衛の者だとばれているという事を意味し、
だとすれば襲い掛かってきても可笑しくない状況なのだ。
けれどもマリィはただ妖艶な笑みを貼り付けて迫ってくるだけ。
無関係な人物なのだとしたら、下手に攻撃も出来ずに結局は状況を見守るしかできないのである。
どうやって事態を切り崩すか算段している内に、時間切れとなってしまう。
昼休みの終わりを告げるチャイム、その予鈴がなったのだ。
「えっと、よ、予鈴が鳴ったのでこれで失礼しますね」
「待って! もしかして、近づきたくないと思われるぐらい、そこまで嫌われてしまったの?」
そのまま振り切るつもりだったが、余りにも切羽詰まった声に思わず足を止めてしまう。
マリィの言葉に困ったような表情を見せつつも、自分でも甘いと思いつつついつい優しい言葉を投げてしまう。
「別に嫌っている訳じゃないですよ。でも、予鈴が鳴りましたし……」
「そう、それなら良いわ。午前中の行動も照れていたのか、怒られると思ったからなのね」
いつの間にかすぐ傍にまで近づいており、気付けば手を握られていた。
その手を振り解こうとするも、思ったよりも強い力で引かれて前のめりになる。
気付いた時にはマリィの腕が首に回され、右手は胸に置かれていた。
「うふふ、つ〜かまえた〜。とは言え、流石に授業に遅れる訳にもいかないものね。
今はこれで我慢してあげる」
言って美影の首筋を舐めながら人差し指を美影の口に入れる。
驚く美影に構わず、そのまま耳たぶを優しく甘噛みをして指を引き抜くと、今度は唇を奪うように顔を近づけてくる。
咄嗟にそれを避けるべく首を横に倒すと、丁度マリィの首筋に歯を立てるような形となる。
「あんっ。ふふふ、我慢できなくなったのかしら。
美影がその気なら、このまま……」
艶を帯び始めた声を頭上に聞きながら、美影は急いで顔を上げてマリィから離れる。
真っ赤になった顔を隠すように頬を押さえる。
「じゅ、授業がありますから」
「ふふふ、そう残念だわ。でも、確かにさぼって教師に目を付けられても困るものね。
私も我慢する事にするわ」
美影の仕草に顔を綻ばせ、頬を上気させながらゆっくりと人差し指に舌を這わす。
その仕草に更に顔を熱くさせ、美影は急いで講堂を出るのだった。
敵かどうかは不明のままであったが、間違いなくマリィは現時点で美影の中では危険人物と認定されたのだった。
◇ ◇ ◇
ステンドグラスから零れ落ちる月光の下で、マリィは電話を手に話をしている。
「ええ、問題ないわ。期限に関しても理解しているわよ。
来週中には終えるから心配しないで。ふふふ、ええ、ご機嫌よ」
それは昼間や美影の前で見せるのとは違う雰囲気で、知らず恐怖を抱かせるような目をしていた。
その目が一瞬だが怪しげに煌き、唇を闇の中でも赤く映える舌で舐め上げる。
「だって兎を狩りに来て、とっても可愛い子猫を見付けたんだもの」
その笑みだけを見れば、美影の前で時折見せるものと非常に酷似している。
「人の趣味に文句は付けないでくれるかしら? それに今度のは甚振るためだけのお人形とは違うのよ。
ようやく出会えた理想通りの、いいえ、それ以上の可愛い子なのよ。
仕事はちゃんとするわ。だから、後のフォローはお願いね。勿論、その子の事に決まっているでしょう。
連れて帰るに決まっているじゃない。
本当ならいつものように兎ちゃんを捕まえて、たっぷりと嬲って甚振るつもりだったけれど……」
残酷な光を瞳に宿すも、すぐにそれは霧散して熱の篭った視線を祭壇の頭上を飾るステンドグラスへと写す。
しかし、決してそこにあるものを見ているのではなく、ここではない何処かを見ているようである。
「子猫ちゃんを可愛がってあげる為にも、今回はさっさと仕事を終わらせてあげるわよ。
それじゃあ、もう切るわよ」
言うなり相手の言葉も聞かずに電話を切ると、マリィは再び唇を舐め上げると愛しそうに自らの人差し指にキスをする。
「くすくす。小笠原さん、あなたは運が良いわ。
美影と出会わせてくれたお礼に、今までの者たちとは違って楽に殺してあげる。
ああ、でも美影と二人で嬲るのも楽しいかもしれないわね。
……でも、やっぱり駄目だわ。美影は私だけのものだもの。くすくす、本当に楽しみだわ、美影。
早く仕事を終わらせるから、それまでもう少し我慢して待っててね」
熱に浮かされたように呟くと、マリィは静かにその姿を闇と同化させる。
物音一つ立てる事なく、その姿は講堂から消え失せていた。
つづく
<あとがき>
いよいよ敵さんの正体が!
美姫 「やっぱりマリィが」
まあ、お約束というか何と言うか。
当初からの予定だったんだよな。シスターとして忍び込んでいるって。
美姫 「ようやく姿を見せれたって所ね」
まあな。いよいよ敵の攻撃が始まる?
美姫 「何故、そこで疑問なのかしら」
いやいや、冗談だって。
それじゃあ、次回をお待ちください!
美姫 「まったね〜」
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