『花見』





四月にはいって数日したある日。
俺達は進級祝いと卒業祝いを兼ねた花見に来ていた。

「祐一さん、シートを広げますので手伝って頂けますか?」

「はい、秋子さん。おい、北川。おまえも手伝え」

「よっしゃ、まかせろ。こっちを持てばいいんだな」

「いい天気だね、香里」

「本当、よく晴れてるわ。栞、その荷物こっちに貸しなさい」

「ありがとう、お姉ちゃん」

広げ終えたシートに各自、座っていく。

「私たちまでお招き頂きありがとう御座います」

「気にしないで下さい、倉田さん。大勢のほうが楽しいですから」

「そうですよ、佐祐理さん。それに今日は佐祐理さんと舞の卒業祝いも兼ねてるんですから」

「あははー、ありがとうございますね、祐一さん。
 それと私もお弁当を作ってきましたので、よければ召し上がってください」

「ありがたく頂きますよ。佐祐理さんの弁当は美味いですからね。なあ、舞」

「はちみつくまさん」

「ねえねえ、秋子さん。肉まんはある?」

「ごめんなさいね、真琴。今日は肉まん、用意してないのよ」

「あう〜」

「あのな、真琴。もう春なんだから、肉まんって季節じゃないだろう」

「なによ、祐一。肉まんはいつ食べてもおいしいんだから」

「それは判るけど、おまえ昨日も秋子さんに作ってもらってただろう。今日ぐらいは我慢しろ」

「うぅぅ、わかったわよ。祐一がそこまで言うなら我慢してあげるわ。感謝しなさいよ」

「ほほーう。そんな事を言うのはこの口か」

俺は真琴の口を左右へと引っ張る。おおー、思ったよりも伸びるな。

「いひゃい、いひゃい」

「ほーれ、ほーれ」

そうやって真琴で遊んでいると、横から俺の服の裾を引っ張る奴がいた。
まあ、真琴で遊ぶのはこれぐらいにしとくか。

「〜〜〜// 祐一、覚えてなさいよ。ぜーたい、ぜっっったいに復讐してやるんだから」

真琴はそう言い残すと天野の横へと行く。

「はぁー、あいつは懲りるという事を知らないのか。・・・で、何の用だ。俺の服を伸ばしたいのか」

「もう、そんなんじゃないよ。ただ聞きたいことがあっただけだよ」

「何だ、聞きたいことって」

「たい焼きはないのかなーって聞こうと思ったんだけど・・・・・・、あ、あれ祐一君。
 何で両手を開いたり、閉じたりしながら近づいてくるの?」

「知りたいか、あゆあゆ」

「べ、別に知りたくないよ。それと僕はあゆあゆじゃないから」

「遠慮は要らないぞ。今からたっぷりと教えてやるから。後、あゆあゆはあゆあゆだろ」

「ちょ、ちょっと待っ・・・・・・いひゃいよ、ふぅいひふん」

「ほーれほーれ。おお、真琴よりもよく伸びるな」

「ひゃなひへ、ひゃなひへふぅいひふん」

もう充分堪能したので、あゆの口を放してやる。
それを横で見ていた名雪が呆れながら、口を出してくる。

「もう、祐一、あゆちゃんをいじめたら駄目だよ」

「そうだよ、駄目だよ祐一君」

「あゆ、口は災いの元って言葉知ってるか」

「うぐぅ」

あゆは両手で口を押さえ、俺から少し後ずさる。一応、知ってはいるみたいだな。

「もう、祐一ったら」

「さて、準備も終った事ですし始めましょうか」

「そうですね、秋子さん」

「じゃあ皆、飲み物は持ったか。では、不肖この俺、北川が乾杯の前に少し挨拶を」

そう言って北川はコップ片手に立ち上がる。

「えー、本日は様々な方にお集まりいただき、ありがとうございます。
 そもそも、この様な方々と知り合えたのは、親友である相沢の・・・っと、そうそう相沢と俺の出会いから話さないといけないな。
 俺と相沢が出会ったのは・・・・・・・・・」

「相沢君、面倒くさいからあなたが乾杯の音頭を取って」

「え、俺がか?」

北川を覗く全員が頷く。
はぁー、仕方ないか。

「じゃあ、舞と佐祐理さんの卒業と俺、名雪、香里ついでに北川の無事進級を祝って、乾杯!」

「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」

「そこで俺は・・・・・・って、あれ」

一人、乾杯をやりそこねた北川はこの際、放っておき目の前の重箱からおかずを取り、口へいれる。

「さすがですね、秋子さん。これ、とても美味いですよ」

「あら祐一さん、ありがとうございます。でも、それは私じゃなくて名雪が作った物ですよ」

「え、そうなのか名雪」

「うん、そうだよ。それ作ったの、私だよ。本当に美味しかった?」

「ああ、本当に美味かったよ。また腕を上げたな、名雪」

「えへへ、頑張ったんだよ」

名雪は照れくさそう俯きがちに言う。
その仕種がちょっと可愛くて思わず、見惚れてしまう。
うん、何か周りから視線を感じるような気が・・・。
視線を目の前に戻すと、そこには重箱を持ったまま、いつもの笑顔を浮かべている佐祐理さんがいた。

「祐一さん、佐祐理のも食べてくださいね」

「ええ、それじゃいただきます」

佐祐理さんが差し出した重箱から一つ摘んで食べる。

「美味しいですよ、佐祐理さん」

「あははー、ありがとうございます」

「佐祐理さんも腕を上げましたね」

「ええ、頑張りましたから。ほら、前に祐一さんが言ってたじゃないですか。料理が上手だと祐一さんのお嫁さん合格なんですよね。
 これで、いつでも祐一さんの所にお嫁さんにいけますね」

「えーと」

な、なんか周りからの視線が鋭くなったような気が・・・(汗)

「やっぱりだめですよね。佐祐理みたいな女の子じゃ」

「そ、そんな事ないですよ。佐祐理さんみたいな素敵な人なら」

「そんな素敵だなんて、照れますよ。じゃあ、いいんですね」

「い、いや。ほら、まだそういう事は早いですから。今後の進展と言うか、何と言うか」

「あははー、そうですよね。これから、ゆっくりと進んでいけばいいですよね。
 判りました、祐一さん。これからも佐祐理は頑張って精進します」

「は、はい、頑張ってください・・・」

俺は何故か疲れを感じながら、佐祐理さんに返答する。
そこへ
『くいくい』
と横から袖を引かれる。

「うん、なんだ?」

「祐一・・・私も作った。・・・食べて」

「ま、舞も作ったのか?」

「はちみつくまさん」

「祐一、真琴も作ってあげたんだから、食べなさいよ」

「おまえ、なんで命令形なんだよ。それにちゃんと食べれるんだろうな」

「失礼ね、食べれるに決まってるでしょ」

「本当かー。怪しいもんだな」

「相沢さん、大丈夫です。私も一緒に作って味見しましたから」

「天野が一緒に作ったんだったら大丈夫だな」

「はい、大丈夫です。こっちにあるのが真琴が作った物で、こちらの煮物などが私の作った物です。
 相沢さん、どうぞ」

「祐一さん、私もお姉ちゃんと一緒に作ってきました。食べてください」

「相沢君、そっちからこっちが私が作った物よ。栞のはその反対側ね」

「ああ、判った」

「祐一君、僕も作ってきたんだよ」

「いらん」

「うぐぅ、なんで〜」

「自分の胸に手を当てて考えてみろ」

「???」

「この前の碁石クッキーみたいな物はいらん」

「大丈夫だよ。今回はクッキーじゃないから」

「そういう問題じゃなくて」

「大丈夫だよ。今回は秋子さんに教えてもらったとおりに作ったんだから」

「ほーう、やけに自身満々だな。一体、何を作ったんだ?」

「おにぎりだよ、ほら」

そう言ってあゆは、おにぎりの入った弁当箱を差し出す。
かなり歪な形をしているが・・・。

「ご飯は誰が炊いたんだ?」

「あ、それは秋子さんに炊いてもらったの」

「そうか。じゃあ、安心だな」

「うぐぅー、どうゆう意味だよ」

「そのまんまだよ」

そう言って一つ弁当箱から取り、おにぎりを頬張る。
・・・・・
・・・
・・・あ・・・甘い?

「あ、あゆ。これ、どうやって作った」

「え、普通に手で握ったよ」

「そうじゃなくて。なんでこんなに甘いんだ」

「え、嘘?!」

「塩と砂糖を間違えたな」

「うぐぅー」

「あゆちゃん、次回がんばればいいのよ。それより祐一さんもどうですか?」

そう言って秋子さんが俺に見せたのは一升瓶に入ったお酒だった。

「秋子さん、未成年にお酒を勧めるのはどうかと思いますが」

「あら、祐一さんは甘いものが苦手と言われてらしたから、お酒ならと思ったんですけど」

「いや、しかしですね」

「そうですか、残念ですけど仕方ありませんね。あ、そうだ。
 祐一さん、こんな事もあろうかと甘くないジャムを持って・・・」

「秋子さん!お酒頂きます」

秋子さんが最後まで言い切る前にコップを差し出す。

「あら、そうですか。じゃあ、注ぎますね」

「ありがとうございます。じゃあ、秋子さんにも」

秋子さんのコップに酒を注ぐ。

「ありがとうございます、祐一さん。じゃあ、乾杯」

「乾杯」

秋子さんと乾杯をして、コップの中身に少しだけ口をつけ、じっくりと味わいながら飲む。

「ぷっはあー。これ、すごく美味い酒ですね」

『ゴクゴク』

・・・・・・
・・・
横を見ると秋子さんがコップに入っていた酒を一気に飲み干していた。

「あら、どうしました?祐一さん」

「いえ、別に何でもないです」

「そうですか?しかし、祐一さん本当に美味しそうに飲まれますね」

「はぁ、そうですか?自分ではよく判りませんけど」

「ええ、かなり飲みなれていますね」

「ははは。まあ、ちょっと」

言葉を濁して追求を逃れようとするが、秋子さんはお見通しと言わんばかりに笑みを浮かべながら、さらに言葉を紡ぐ。

「ふふふ。原因は姉さんですね。姉さん、かなりお酒好きですもんね」

「ははははは。正解です」

「やっぱり、そうでしたか。姉さんに付き合って飲んでたんなら、かなり強いはずですよね。
 じゃあ、どんどんいきましょう。一杯持って来てますんで」

そう言って秋子さんは何処からともなく酒瓶を出し始める。
一体、今まで何処にあったんだ。

「祐一、それ何?真琴にも頂戴」

「駄目だ。これは酒だぞ」

「いいじゃない。祐一のケチ」

「あのな、ケチとかそういう問題じゃない」

「ケチケチケチケチ。祐一のケチケチケチケチ」

「・・・(怒)えーい、やかましい」

「まあまあ、祐一さん。真琴、こっちにいらっしゃい。真琴の分もちゃんとあるから」

「はーい、秋子さん」

「な、ちょっと秋子さん。真琴はまだ未成年ですよ」

「今日ぐらいはいいじゃありませんか。それに祐一さんも未成年でしょ。はい、真琴」

「ありがとう」

秋子さんは言いながら真琴に酒の入ったコップを渡す。

「俺が飲んでいるのは秋子さんが・・・」

秋子さんの後ろにオレンジ色の瓶詰めされた物体が一瞬だけ見え、俺はその続きを飲み込む。

「何かいいましたか?」

片手を頬に当てながら首を少し傾け微笑む秋子さん。
後ろに謎の物体がなければ、まさに天使の微笑みと言ってもいいだろう。
しかし、今の俺にとってそれは悪魔の笑みにしか見えない。(泣)

「いえ、何も言ってないです」

誰だって命は大切だもんな。俺の返答は決して違っていない。
秋子さんはこの後、全員に酒を飲ましていった。







で、当然というかなんというか。
あれからしばらく時間が経ってみれば、ものの見事に一部を除き酔っていたりする。

「うおおおーーー」

北川は向こうの方で一人叫んでいるし、香里は桜の木に向かって説教をしているし。

「だいたい、あなたはねぇ・・・・・・ってちょっと聞いてるの」

香里、木に向かってそれは無理な注文だぞ。

「けろぴーはけろぴーで、イチゴジャムはおいしんだよ」

名雪は夢と現実の狭間を行き来しているし、

「あうー、なによー。一体なんなのよー」

「うぐぅー。どうせ僕なんて僕なんて」

「あーもう。うじうじしないでよね」

「うぐぅ。あゆあゆじゃないもん」

会話になっていないなあの二人。
真琴はあゆに向かって何か怒鳴り散らしていて、あゆは何か落ち込んでいるな。
どうやら真琴は怒り上戸のようだな。あゆのは・・・なんだ?ただ酔ってへこんでいるだけか?
二人から少し離れた所で栞は何もない所を見つめて、一人で話している。

「そうなんですよ。おかしいですよね」

いや、栞おかしいのおまえの方だ。一体誰と話しているんだ。
舞と佐祐理さんは二人で飲んでいる。
以外だったのは、

「ぐしゅ、ぐしゅっ。えっええぇぇ」

「あははー、舞泣かない泣かない。いい子、いい子。あははー」

舞が泣き上戸で佐祐理さんが酒に強かったって事か。
しかし、舞の奴泣きながらでも飲みつづけているのは流石だな。

「あはははー、あはははー」

佐祐理さんは何が可笑しいのか、さっきからずっと笑っている。
もしかして、酔ってるのか。いや、間違いなく酔っているみたいだな。
なるほど、佐祐理さんは笑い上戸か。いつもとあまり変わらないんで気付かなかっただけか。
ということは俺と秋子さん、それに天野だけが酔っていないのか。
天野の方を見ると、一人黙々と飲みつづけている。つ、強いなあいつ。
俺は天野の横へと座ると話し掛ける。

「天野、おまえ酒強かったんだな」

「別に強くはありませんよ」

「いや十分強いだろ。それとも、さっきから飲んでたのは酒じゃないのか」

「ちゃんと飲んでいますよ。なのにそんな酷な事を言うなんて」

「いや、別にそんなに酷な事を言ったつもりはないんだが」

「相沢さん、そんな酷な事はないでしょう。大体、相沢さんは存在そのものが酷です」

「いや、もはや意味が判らないんだが」

「何故ですか。ちゃんと私の話を聞いていましたか」

「・・・・・・天野。ひょっとして酔ってるのか」

「当たり前じゃないですか。お酒を飲んだんですから」

・・・・・・どうやら素面なのは、俺と秋子さんだけみたいだな。

「わ、判りにくい酔い方だな。全く気付かなかったぞ」

「また、そんな酷な事を言うんですか。あの時だって嫌がる私に無理矢理・・・」

「「「「「「「祐一(さん)どういう事(ですか)!」」」」」」」

「ま、待て。何の話だ、何の。身に覚えがないぞ」

今まで酔って好き勝手な事をしていた連中が一斉に俺を睨んでくる。
しかも酔っているせいか、全員目が据わっている。もの凄く命の危機を感じるのは気のせいではないだろう。

「あ、天野。一体、何の話をしているんだ」

全員の視線が今度は天野に向かう。
天野は全員の視線を浴びても怯む事もなく、─というより、酔っているため判らないだけか?─話し出す。

「だから、真琴の友達になってくれって言った時の話ですよ」

「あ、ああ。あの時の話か」

その答えを聞いた全員が安堵のため息を吐く。

「相沢さん、何か勘違いでもされていたんですか?」

「い、いや別にそんな事はないぞ。うん、ないない」

「別に、相沢さんが望むなら私は構いませんよ」

・・・・・
天野のその言葉に一瞬その場が固まる。
そして、突如殺気めいた物が溢れ出す。うわー、なんか殺伐とした雰囲気が満ちてきてるなー(泣)
俺の周りに張り詰めた空間が出来上がる。
お父さん、お母さん、先立つ不幸をお許しください。って現実逃避している場合じゃないな。
何とかしないと。俺は慌てて周りを見渡す。
あった!一縷の希望が。

「秋子さん。何とかしてください」

「祐一さん、頑張って下さいね」

「ああ、そんな〜。って手に何を持っているんですか」

「あら、これですか?これはビデオカメラですよ。今日の花見を撮影しとこうと思いまして」

言って秋子さんはカメラをこちらへと向ける。

「さあ、祐一さんは誰を選ぶんですか?」

「ううーーー、秋子さん〜」

あの目は絶対に楽しんでる。さすがこういう所は、うちの母親と姉妹だと思わせるな。

「って、そうじゃなくて、秋子さん」

「え、私ですか?そんな私を選ぶなんて祐一さんったら。恥ずかしいですわ」

言って秋子さんは頬を染める。その途端、周りの気温が更に下がった様な気がして、鳥肌が立つ。
態とだ。絶対に今のは態とだ。その証拠に秋子さんは面白そうに撮影を続けている。
しばらくそんな状態が続いたが、このままでは埒があかないと思ったのか一人が動き出した。

「祐一さんは佐祐理がもらいます」

「な、何を言ってるんですか佐祐理さん」

この一言をきっかけにして、全員が動き始めた。

「いくら佐祐理でもそれだけはだめ。祐一は私の」

「ちょっと、待ってください先輩方。相沢君はどちらのものでもないです。私がもらうんですから」

「ちょっと、香里駄目だよ。祐一は私が」

「お姉ちゃんといえども、こればかりは譲れません」

「あうー。祐一は真琴のもんよ」

「真琴、大人しくしていて下さい。相沢さんは渡しません」

「ぼ、僕も。祐一くんは誰にも渡せないよ」

「あははー、そんなの知りません。こうなったら早い者勝ちです。えい」

そう言いながら佐祐理さんが俺の首筋に後ろから抱きついてくる。

「むっ。だめ」

舞が佐祐理さんとは逆の方向から首筋に抱きついてくる。

「く、苦しいって、二人とも」

二人を引き剥がそうとして上げた両腕それぞれを香里と名雪が取り抱きつく。

「お、おまえら、何をする」

「相沢君は少し黙ってて」

「そうだよ、祐一。実力行使なら負けないよ」

いや、俺自身の事なのに何で黙ってないといけないんだ?

「皆さん祐一さんから離れてください」

「そうよ、離れなさいよー」

言いながら二人とも俺の懐へと飛び込んでくる。
おまえら、言ってることとやってる事がかみ合っていないぞ。

「うぐぅー。もう場所がないよ」

あってたまるか。

「あゆさん、大丈夫です。まだ足があります」

「な、ちょっと待て天野」

「待ちません」

「ぼ、僕も」

「わ、ば、ばかやめろって、うわぁー」

両足をあゆと天野に引っ張られて、俺はそのまま全員を引き摺って後ろへと倒れる。

「まあ、祐一さんったらモテモテですね」

ビデオカメラに今までのやり取りを全て撮影しながら秋子さんが言う。
はぁー。なんか疲れた。
最早、逆らう気も起こらずされるがままになる。
その時、俺の横に北川が来た。そういえばいたんだっけ。すっかり忘れていた。
北川は俺を見下ろした後、両肩を震わし、

「相沢のバカヤロー」

叫びながら、そのまま走り去っていく。
最早、力なく笑う事ぐらいしか俺には残されていなかった・・・・・・







しばらくそのままボーっとしていた俺は、

「あら、皆眠ってしまわれましたね」

と言う秋子さんの声で、俺にくっついている女の子たちを見る。
確かに全員寝てしまったようだな。

「ふふふ」

「どうしたんですか?秋子さん」

「いえ、祐一さんのこの子達を見る目がとても優しい物だったんで、つい」

「そうですか?そんな事はないと思いますけど」

「いいえ、充分優しい目でしたよ。なんとなく、この子達が祐一さんのことを好きな理由がわかったような気がします」

「あ、秋子さん」

「まあ、いいじゃありませんか。今日ぐらいは。ね」

まあ、確かに。幸せそうな顔をして寝ている姿を見ていたら、いいかなと思うな。

「焦らずにゆっくりと考えて自分の中にある答えを見つけたらいいと思いますよ。
 そうすれば、どんな結果だったとしても、どんなに時間が掛かったとしても、この子達も皆納得すると思いますよ」

「はぁー、秋子さんには敵いませんね」

「それはそうですよ。これでも母親ですから」

そう言って秋子さんは微笑みながら、桜の木を見上げる。
俺もそれにならうかの様に桜を見上げる。
風に吹かれて数枚の花びらが空を舞っていく。
その姿を見ていると、少し眠くなってきた。

「まあ、言われたとおり、ゆっくりと見つけてみますよ」

「ええ、頑張ってください」

その言葉を聞きながら、ゆっくりと瞼を閉じていく。
春の穏やかな陽射しと複数の温もりを身体に感じながら、ゆっくりと眠りの世界に身を委ねていった。




<あとがき>

浩「どうも、氷瀬 浩です。
  式のリクエスト花見SSがやっと完成したよ。ああ、長かった」

祐一「本当に長かったな。もう、桜なんて散った後じゃないのか」

浩「・・・・・」

祐「おい、何か言えよ」

浩「仕方がなかったんだよ。色々あったんだ。色々と。
  大体、式のリクエスト自体4月の第二週に入ってからという遅さ」

祐「それはまあ、確かにそうだが。その間に他のSSを1本仕上げているのは?」

浩「ははははは(汗)」

祐「笑って誤魔化すなよな。まあ、四月中にできただけでも良しとするか」

浩「その通り」

祐「いばるな。まあ、今回はこのへんにしといてやるか」

浩「ではでは、また次回作までごきげんよう」




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