『佐祐理の勘違い』




5月4日



「ふぇ〜、今日は暇ですね〜」

とある屋敷のやたらと広い部屋の中で一人の少女が呟きを洩らす。

「舞も祐一さんも今日は用事があるって仰っていましたし。仕方がありませんね、一人で出かけましょう」

その少女、倉田佐祐理は出かける支度を簡単に済ますと家の外へと出て行く。

「さーて、どこに行きましょうか。とりあえず商店街の方にでも行ってみましょう」

家の門前で少し考えた後、佐祐理は商店街に向かって歩いて行った。
そして商店街に着くと佐祐理は特に何をするでもなく、店先に飾られている商品を見ながら歩く。
そうして何軒目かになる店を覗いた時、人並みの中に見知った顔を見つけ声をかけようとする。

「あ、ゆうい・・・」

しかし、その呼びかけは最後まで発せられる事はなかった。
佐祐理が声をかけようとした少年の横に、こちらもよく知ている人物がいて楽しそうに話していたからである。
その二人──祐一と舞──は何かの商品を前にして楽しそうに笑い合っている。

(えーと、祐一さんも舞も今日は用事があると言ってましたよね。それでお二人がここにいるという事は・・・。
 祐一さんも舞もとても楽しそうにしていますね。ここで佐祐理が声をかけてもご迷惑でしょうし。今日はもう帰りましょう)

佐祐理はまるで二人から逃げるようにその場を離れ、家へと急ぐ。
そして家に着くとそのまま自分の部屋へと戻り、ベッドに横たわり目を閉じる。
そして落ち着くように深呼吸を一度する。しかし佐祐理の脳裏には先程の二人の姿が浮かんで離れない。
実際、ここに帰ってくるまでの間も頭の中はその事ばかりで、どうやって帰ってきたのか判らないぐらいであった。

(つまり、祐一さんと舞は・・・・・・。舞も嬉しそうでした。舞が幸せはなら、佐祐理も嬉しいです。
 なのに、何で胸が苦しいの。佐祐理は・・・佐祐理は・・・)

一体どれぐらいの時間考えていたのか。
一度、夕飯を呼びに来た者に今日はいらない旨を伝え、また同じ思いに捕らわれていく。

(ごめんなさい、祐一さん、舞。今日だけ、今日だけだから。明日からはまたいつもみたいに笑えるから。
 だから今だけは・・・)

そのまま眠りに落ちていく佐祐理の目元には、月明かりを受けて光る一筋の雫があった。





5月5日



「う、うーん」

窓から差し込む光が丁度佐祐理の顔を照らし、それによって目を覚ます。

「もう、朝ですか。今日は祐一さんと舞と約束がありましたね」

表面上はいつもと同じ様子で佐祐理は出かける為の準備をする。
支度を終え、時間を確認すると待ち合わせ場所へと向かう。

待ち合わせ場所にはすでに二人とも着いており、何やら話している。
そんな二人の姿をみて、胸が少し痛んだがそれを顔には出さず二人の元へと歩いて行く。
すると佐祐理が来たことに気付いた二人が佐祐理の元まで来る。

「おはようございます、祐一さん、舞」

一瞬、二人が訝しげな表情をするがすぐに挨拶を返す。

「ああ、おはよう佐祐理さん」

「おはよう」

「ひょっとして遅れちゃいましたか?」

「いいや、待ち合わせ時間より少し早いだけだよ」

「そうですか、それはよかったです。所で今日は、これからどちらに行くんですか?」

「ああ、それなんだけど佐祐理さんはどっか行きたい所とかない?」

「ほえー佐祐理の行きたい所ですか」

「そう、佐祐理さんの行きたい所」

「あははー、すぐには浮かびませんね。それに佐祐理は祐一さんと舞がいればどこでも良いですよ」

「そ、そうですか。じゃあ、今日はどこか適当にぶらつきましょう」

「そうですね、佐祐理はそれでいいですよ」

「舞はどうだ?」

「はちみつくまさん」

「よし、じゃあ行くか」

こうして三人はその場を離れる。
軽く昼食を食べた後、映画館に行き今は公園を歩いている。
時刻はまだ夕方だが見渡す限り、三人以外に人は見られない。
そんな人影のない公園を三人は先程見た映画の話などをしながら歩く。

「・・・っと、そろそろいい時間かな?」

「ほぇ〜、何がですか祐一さん」

「え、いやなんでもないですよ」

ポカ

「痛っ!舞、何をする」

「今のは祐一が悪い。もうすぐで佐祐理にばれる所だった」

「舞、何がばれるの?」

「・・・・・・」

「ま〜い〜。誰が悪いって?」

「・・・問題ない」

「何処がっ!お前の方が悪いわ」

祐一が舞の頭にチョップを振り下ろすが舞はこれを一歩下がってかわし、逆に祐一の頭にチョップを叩き込む。

「いてっ!・・・何で俺が叩かれるんだ?」

「・・・・・・条件反射」

「そんな条件反射はいらん。このままでは俺だけが叩かれ損じゃないか」

「祐一、うるさい」

「誰のせいだ!誰の」

「・・・・・・・・・祐一」

「だぁー!お前だろうが、お前」

「・・・・・・半分はそうかも」

「全部だろ全部!」

「・・・・・・」

「あの〜。祐一さん?舞?二人してどうしたんですか?」

「いや、別に何でもないですよ佐祐理さん。なあ、舞」

「そう、なんでもない」

「そう・・・ですか」

佐祐理の表情が少し曇る。それに気付いた祐一が声をかけようとした時、祐一の携帯の音が鳴る。

「あ、ちょっとすいません」

祐一は少し離れて電話を取る。

「ああ、名雪か。え、ああ・・・判った。それは任せろ。で、そっちは?・・・ああ、・・・OKだ」

電話を終えた祐一が戻ってくる。

「舞、少しいいか?」

「何?祐一」

「ちょっと、こっち」

祐一と舞は佐祐理から離れた所で話しをする。
それを見ていた佐祐理の胸がまた痛み俯く。

「佐祐理さんお待たせ。実は舞の奴・・・ってどうしたの佐祐理さん」

話し掛ける祐一だが佐祐理が俯いたままなのに気付いて心配する。

「な、何でもないです。さ、佐祐理ちょっと用事を思い出しましたから、今日はここで」

佐祐理は言って走り出す。

「な、ちょっと佐祐理さん」

「祐一、速く追って」

「舞?」

「多分、祐一じゃないと駄目。こっちはちゃんとしておくから」

「判った。そっちは頼んだぞ、舞」

「大丈夫」

舞の返事を聞く前に祐一は佐祐理を追って駆け出す。

「はぁ、はぁ」

(確かこっちの方に走って行ったと思うんだが・・・いた!)

祐一の数メートル先に佐祐理の姿が見える。
祐一は更に速度を上げ、佐祐理に追いつくとその腕を掴む。

「ちょ、佐祐理さん。どうしたんですか急に・・・あっ」

振り返った佐祐理の頬は涙によって濡れていた。

「祐一さん?」

一瞬、呆けた表情をしていた佐祐理だったが、すぐに涙を拭うといつもの笑顔を向ける。

「あははー、なんでもないですよ。ただ、目にホコリが入ってしまって」

「それは嘘でしょ、佐祐理さん。本当は何があったんですか?」

「本当に何でもありませんよ」

「佐祐理さんっ!何でもない事ないでしょ」

ビクッ

祐一の突然の大声に佐祐理の体が震える。

「祐一さん、少し痛いです。放してくれませんか」

「佐祐理さんが本当の事を話てくれたら放しますよ」

祐一の真剣な表情を目の当たりにして、佐祐理は誤魔化せないとあきらめたのか話し出す。

「実は、昨日見たんです」

「見た?何をですか?」

「祐一さんと舞をです」

(げっ、見られてたのか)

「それで、二人とも昨日は用事があるって言ってたので二人の用事ってそういうことなんだなぁーって。
 舞が幸せならそれで良いって思いました。でも、それを何か隠そうとしてたり、
 仲良く話をしている二人を見てるとなんだか心の中がぐちゃぐちゃになって何も考えられなくなって。
 気がついたら走っていたんです。ごめんなさい祐一さん」

「あー、ごめん佐祐理さん」

「ふぇ?どうしたんですか祐一さん」

「いや、その・・・。ええい、もういいや。実は今、佐祐理さんが言った昨日や今日の件は佐祐理さんの誕生日会の準備だったんですよ」

「えっ!佐祐理の誕生日ですか?」

「ええ、そうです。だから昨日見たって言うのはプレゼントを選んでいた所で、
 さっきのは名雪から電話で準備がもう少しかかりそうだから佐祐理さんの足止めと準備の手伝いに一人欲しいってことで」

「あはははー。そうだったんですね。それを佐祐理ったら勘違いして。恥ずかしいです。祐一さんにもご迷惑をかけてしまって」

「気にしないで下さい。それに少し嬉しかったですよ」

「嬉しかった・・・ですか?」

「はい。つまり佐祐理さんはやきもちを焼いてくれたんですよね」

「えええ!そ、そんな事は、いや、でも」

(こんなに慌てる佐祐理さんは初めてだな)

「佐祐理さん落ち着いて下さい」

「あははー、すいません祐一さん。所でそろそろ腕を放して頂けませんか?」

「それは駄目ですよ佐祐理さん。本当の事を言うまで放さないって言ったでしょ」

「ふぇー。だったら佐祐理はこのまま何も言いません。そうすればずっと腕を掴んだままですよね、祐一さん」

「えっ!いや、それは」

佐祐理の反撃に今度は祐一が言葉に詰まる。
そんな祐一の反応が面白かったのか佐祐理はなおも言い募る。

「佐祐理は祐一さんとずっと一緒でも構いませんから」

「ぐっ。・・・降参です、佐祐理さん」

顔を赤くしながら両手を上げる祐一。

「そうですか?それは残念ですね」

「ええ。腕を掴んでいるよりもこっち方が良いですから」

「えっ」

言って佐祐理の体を抱きしめる。
一瞬、体を強張らせるがすぐに祐一に身を委ねる。

「佐祐理さんこれでも言いませんか?」

「はい、言えないですね。でも違う事なら言えますよ」

「違う事・・・ですか?」

「はい。佐祐理は祐一さんの事が好きです」

「俺も・・・ですよ」

「なんですか?ちゃんと言ってください」

「・・・俺も佐祐理さんの事が好きです」

「はい、嬉しいです、祐一さん。もう一回言って欲しいです」

「それはちょっと」

「えーお願いします」

「・・・・・・」

「祐一さん」

(ぐ、この状態でその上目はやめてください佐祐理さん)

「あまりしつこいとその口を塞ぎますよ」

「どうやってですか?」

言いながら佐祐理は目を閉じる。
祐一はそれを見て苦笑をしながら顔を近づけていく。
夕暮れが世界を赤く照らす中、二人の影が一つに重なる。



「そろそろ、行きましょうか佐祐理さん。皆待ってると思いますから」

「そうですね」

祐一の腕を取り、自分のそれと絡める。

「このままでも良いですか?」

「ええ、どうぞ。今夜は佐祐理姫の思うとおりにして下さい」

「ふぇー。佐祐理がお姫様ですか」

「ええ、そうですよ。では行きましょうか?」

「はい、祐一さん。ずっと放さないで下さいね」







<Fin>





<あとがき>

  終わった。佐祐理さんの誕生日SSがやっと終わった。

紅「ぎりぎりね」

  いいんだ。5月5日に完成したんだから

紅「浩、重要な事を忘れているわ」

  何?

紅「現時点で完成させても、HPにアップされるのは明日になるわよ」

  ガーン!なぜ?

紅「いや、だって5月5日って後、数分だし」

  ぐぐぐ、すいません、すいません。
  書くのが遅かったばかりに。一日遅れにぃ(泣

紅「と♪り♪あ♪え♪ず♪お仕置きね」

  なんで、そんなに嬉しそうなんだよ。

紅「だって、原作の方だと全然、技だせないし」

  だから、その前にまだお前登場してないって。

紅「それも含めてね(ハート)」

  いや、そんな語尾にハートつけても(汗

紅「いっくわよー。離空紅流、煉獄天衝!」

  みぎょぎゃがーーーーー

紅「はぁー、すっきりした。ではでは皆さん、また次回お会いしましょう」


ご意見、ご感想は掲示板こちらまでお願いします。



二次創作の部屋へ戻る

SSのトップへ