『祐一のハーレム伝説(in 水瀬家)』
最終話 相沢祐一、逃げる!
…………………。
あぁ〜、平和っていいな〜。
「秋子さん、冗談だよね」
「あら、皆も賛成したじゃない」
「あう〜。冗談だったのに」
「まあ、私の大人の魅力に敵わないと思うのは仕方がない事ですけどね」
「お母さんと祐一じゃ年が違いすぎるよ。それに、年を取った肌よりも、私の若くてピチピチした肌の方が……」
「名雪……。それじゃ、年寄りの私の肌は乾燥していてカサカサと言うんですか?
自分の魅力のなさを、ただ若いというだけで補おうとは、まだまだ青いですね」
秋子さん……、マジで怖いです。
おーおー、秋子さんの放つオーラーに当てられて、あゆと真琴は既に震え上がっているな。
名雪は怖がりながらも何とか虚勢を張っているって所だな。
「そ、そうだよね。確かに魅力のなさを若さでは補えないかも。
でも、大人の魅力はそのうち身に付くけど、若さだけはどうしようもないもんね」
名雪、さすが秋子さんの娘だと言っておこう。
お前の言葉を聞いて、あゆと真琴は完全に逃げ腰になっている。
秋子さんも笑っているが、頬が少し引き攣っているし。
だが、敢えて言おう。
やはりお前は甘い。甘すぎる。
相手はあの秋子さんだぞ。
このままで済むはずがない。
現に、真琴なんて涙目になりながら震えてるし。動物の勘ってやつだな。
まあ、その横であゆも震えているが。
かく言う俺も、本能がここにいてはまずいと叫ぶ。
そして、その本能の声に逆らう事をせず、立ち上がるとリビングから出て行く事にする。
背後からくる恐ろしい程のプレッシャーを感じながら、俺は皆に背を向けるとこっそりとその場を後にした。
そう、背を向けていた。
この時、ほんの一瞬でも振り返っていれば……。
だが、現実はそうではなかった。
だから、名雪たちの目が怪しく光った事なんて、これっぽっちも気付かなかったんだ。
ふぅ〜。
やっと一息つけた感じがするな。
何か朝からギスギスとした空気だったが。
お陰で、何か妙に疲れたぞ。
こうなったら、昼まで寝るか。
よし!決めた!今決めた。そうしよう。
とりあえず、ベッドに横になる。
横になって目を閉じた途端、眠気が襲ってくる。
よっぽど朝の一件で疲れていたみたいだな……。
俺って意外と繊細だからな〜。
どこからか、名雪が突っ込む声が聞こえてきたような気がするが、きっと気のせいだろう。
ねむい…………。
…………………………
……………………
………………
…………
……
コンコン
…………………………
………………………
……………………
…………………
コンコン
…………………………
……………………
……う、う〜。
微かに聞こえてくるノックの音に、俺の意識が徐々にはっきりとしてくる。
コンコン
また鳴るノックの音に適当に返事をしつつ、頭元にある時計で時間を確認する。
結構な時間、経ったみたいだな。
もうすぐ昼になろうかという時間だった。
「祐一〜、入るよ〜」
そんな事をぼんやりと考えているうちに、部屋のドアが開き、名雪が顔を覗かせる。
「どうしたんだ、名雪?入ってこないのか?」
「う、うん」
俺の問いかけに、名雪は恥ずかしげに俯きながら、おずおずといった感じで入ってくる。
入って来た名雪を見て、一瞬だが思考が消し飛び、頭の中が真っ白になる。
「ゆ、祐一、そんなにじっと見られたら恥ずかしいよ」
照れながらも嬉しそうな声を出す名雪。
見られるのが嫌なら、入ってくるなよ。
そんな軽口さえ出てこず、ただ名雪を見る。
「お、お前……その格好」
どうにか出した俺の声に名雪ははにかみながら、スカートの裾を両手の指で軽く摘み、頭を下げ優雅にお辞儀をする。
まあ、一言で言えば、名雪はメイドの格好をしていた。
おぉ、本当に簡単な説明だな。
………よし、少しメイド服について語るか。
まず、スカートの長さはロング!これは絶対だ。確かにミニが良いという意見もあるだろうが、それは否!
ミニスカートを穿いたメイドはメイドにあらず。
真のメイドなら、ロングだ!
そして、次にエプロンだが、当然色は白に限る。
最近は黒なんてものもあるが、やはりここは白だろう。
そして、形だが……って、そんな事はどうでも良いか。
兎に角、メイドの格好をした名雪が目の前にいた。
と、その前に、これだけは聞いておかないとな。
「名雪、お前そんなのどこから…」
「は、ははは。前にお母さんの部屋でたまたま見つけたの」
……秋子さん。俺は今日ほどあなたの事を不思議に思ったことはありません。
そんな俺の胸中の呟きを余所に、名雪はベッドの傍まで来ると、跪くと両手を握り、
「おはようございますご主人様」
「ちょ、ちょっと待て名雪!」
「どうしたの?」
名雪は心底不思議そうな顔をして聞いてくる。
と言うか、そこは普段通りなんだな。
って、そうじゃなくって!
「一体、何のつもりだ!」
「今日一日、私は祐一のメイドさんなんだよ。だから、祐一はご主人様なの」
「そうじゃなくて。何でメイドなんだ?」
「だって、祐一好きでしょ」
はい、好きです!って、っそうじゃなくて!
「た、確かに嫌いじゃないが、どういうつもりだ?」
「別に。ただ、ご主人様に喜んで欲しくって……。それとも迷惑?」
ぐはっ!
うぅぅぅ、こ、これはかなりのダメージだ。
「私はご主人様のメイドだから、何を命令しても良いんだよ」
そう言うと名雪はベッドに片足を上げ、上目遣いで俺を見る。
プッツン。
その時、俺の中で何かが切れた……と思う。
俺は名雪の肩を掴むと、そのままベッドに名雪を押し倒す。
「きゃ〜、ご主人様。そ、それだけは……」
何て言いながら、その顔は凄く嬉しそうだったりする。
まあ、そんな事はこの際、どうでも良いが。
では、頂きます。
名雪に飛び掛る寸前、その行動はノックの音で止まる。
続いて開いたドアからあゆが入ってくる。
「祐一くん、いる。………って、な、な、何してるんだよ!」
「あゆちゃん、いい所で……」
名雪の呟きを聞いたあゆが、俺を押しのけ名雪へと掴みかからんばかりの勢いで迫る。
「名雪さん、抜け駆けする気だったんだね」
「な、何の事かな?」
「そんなに露骨に目を逸らして、怪しすぎると。名雪さん、ずるいよ。卑怯だよ。
まさか、名雪さんがそんな事するなんて……。しかも、そんな格好までして。
恥ずかしくないの!」
一気に捲くし立てるあゆ。
あゆの言葉が切れた所を見計らい、名雪は逆にあゆに問いただす。
「じゃあ、あゆちゃんはどうして祐一の部屋に来たの?」
「う、うぐぅ。そ、それは……。も、もうすぐお昼ご飯の時間だから、呼びに来たんだよ」
そう言えば、そんな時間だったな。
だけど、名雪はその答えを聞いた途端、笑みを浮かべる。
まあ、何を言うかは大体、予想がつくが。
そして、名雪はその口を開け、俺の考えていた事と同じ事を言うのだった。
「だったら、その格好は何?」
「うぐぅ」
名雪の言葉に困ったような顔をし、視線をあちこちに向けるあゆ。
ま、当然の疑問だな。
幾ら、今が夏とは言え、な。
それはないだろ、あゆ。
「あゆちゃん。確かに今は夏だけど、家の中だよ」
「うぅぅ」
あゆは困り果てて俺の方を見るが、俺も名雪と同意見の為、頷く。
それを見て、あゆはへたり込むが、仕方ないだろ。
だって、あゆの格好は………スク水なんだから。
しかも、ご丁寧に胸の所にはゼッケンが貼られていて、4年2組水瀬秋子という字が見える。
………………。
これで、あゆがアレをどこから見つけてきたのかが分かったな。
同時に俺のあの人に対する謎が深まったのは言うまでもないだろう。
しかし……。
俺はへこんでいるあゆの肩にそっと手を置く。
あゆは慰めてもらえるとでも思ったのか、嬉しそうな顔で勢いよく顔を上げる。
そこへ、俺は、
「さすがあゆあゆだな。秋子さんの小学生時代のものがぴったり合うなんて」
「祐一くん、それ誉めてないでしょ」
「分かるか」
「う、うぐぅ」
「しかし、何でまたそんな格好を…」
「だって、祐一くん好きなんでしょ」
「いや、まあ嫌いじゃないが……」
白だったら、なお良しとは流石にやめておくか。
しかし、これもこれで……。
正直、名雪がいなかったら、どうなっていた事か。
そのまま………。いかん、いかん。
そんな事を考えていた俺を無視し、名雪とあゆが睨み合う。
まずいな。このままだと、朝の二の舞だ。
仕方がない、止めに入るか。
コンコン
三度鳴ったノックの音に、俺は溜め息を吐く。
……まあ、得てしてこんなもんだろう。
大体の予想はしていたさ。
「真琴か?」
「えっ!よく分かったわね」
そう言ってドアを開けて入って来たのは、非袴に白装束、俗に言う巫女装束だな。
それを着た真琴だった。
真琴は入ってくるなり、中にいたあゆと名雪を見て、
「二人とも何て格好してるのよ!」
それはお前も同じだろうが。
そう言いたいのを何とか堪える。
そう、それ以上に一つ確認しなければいけない事があるからだ。
「真琴、一つ聞いても良いか?」
「なになに?」
「その服は秋子さんの部屋にあった……とか?」
「そうよ。ピロが秋子さんの部屋で見つけてきたの。祐一、この格好好きなんでしょ」
本日3度目になるこの質問。
で、俺の答えはまたしても、
「嫌いではない」
こんな事ばっかり言ってると、牛丼好きの年上の女性を思い出すな。
まあ、それは置いておくとして。
「確かに嫌いではないが、何故そんな格好を」
「そ、それは別に良いでしょ。ゆ、祐一のためなんかじゃないんだからね!
たまたま、祐一の本にこの格好をした女の子が一杯いて、真琴もこの格好をしたくなっただけよ!」
そうか、そうか。たまたまか。
たまたま、俺の持っていた本を見て………………、って、な、なにぃぃぃぃぃ。
「ま、真琴、その本ってどこにあった奴だ!」
「えっ、え、え?ベッドの下だけど」
「おい、名雪、あゆ。まさかとは思うが、お前ら……」
「し、知らないよ。祐一のベッドの下に隠してあった『メイド100選』なんて本」
「ぼ、僕も『スク水マガジン』なんて知らないよ」
…………………。
ち、違うんだ、誤解なんだ。
あ、アレは北川の奴が無理矢理……。
っくっそー、北川め、新学期が始まったら覚えてろ。
とりあえず、言い様のない怒りをここにいない悪友へとぶつける。
名雪たちは俺の方へと来ると、
「ねえねえ、私が一番だよね」
「寝言は寝てから言いなさいよね」
「僕が一番だよね」
俺の耳元で喧嘩をし始める。
いい加減にしてくれ……。
目の前で、未だ『ぎゃーぎゃー』と騒ぎ立てる名雪たち。
…………………
……………
………
だぁー!五月蝿い!
「えーい、少しは静かにしろ!名雪!」
俺に名前を呼ばれた名雪は嬉しそうに俺を見る。
「なになに。やっぱり私が一番?」
「メイドなら、少しは大人しくしろ!」
「うっ」
「あゆ!」
「な、なに」
俺の剣幕に少し怯えるあゆ。
「水着で俺を喜ばしたいなら、もっと胸を大きくしろ」
「う、うぐぅ。放っておいてよ!」
「真琴!」
「な、なによ」
「巫女なら、もっとおしとやかにしろ」
「な、なんですってー!」
「以上!俺は昼飯にする」
俺は言うだけ言うと、部屋を出て一階へと向う。
その後ろで、
「うぅぅ。あゆちゃんや真琴が来なかったら上手くいってたのに」
「胸の事は言わなくたって……」
「あゆと名雪の所為よ!」
「な、何でよ」
「そうだよ、真琴ちゃん横暴だよ」
「う、五月蝿いわね」
はぁ〜。懲りるという事を知らんのかあいつらは。
俺は肩を落とし、足取りも重くキッチンへと入って行った。
「秋子さん、お昼まだですか?」
「あ、祐一さん、もう少し待ってて下さいね」
キッチンに入るといい匂いが俺の鼻をつく。
あいつらの相手をして、減った腹が音を立てる。
「くすくす。すぐに用意しますからね」
「あ、はい。すいませ………。あ、あのー秋子さん」
俺の呼びかけに、秋子さんは嬉しそうな顔をして振り向く。
「何ですか。まだ、もう少し時間が掛かりますよ」
「イ、イエ、ソウデハナクテデスネ」
何故か片言になる俺。
「って、なんちゅう格好をしてるんですか!」
「え?何ってエプロンですが」
そう。秋子さんの言う通り、その格好はエプロンです。
でも、でもですね。俺が言いたいのは、何でエプロンだけなのかって事なんだけど……。
そう、エプロンの下には何も着けてない。
秋子さんは俺の方を見ると、妖艶に微笑み、
「あ、すぐにでも食べれる物がありますけど、祐一さん、召し上がりますか?」
秋子さんは極普通の会話をしてくる。
俺は何とも言えず、目のやり場に困り、視線を逸らす。
すると、マジかに吐息を感じる。
いつの間にか近寄ってきた秋子さんが、俺の腕にしな垂れかかりながら、間近に顔を寄せ囁く。
「私を食べますか(ハート)」
あ、いかん、理性が………。
「頂き……」
『あ〜!』
俺が最後まで言い切る前に、名雪たちがキッチンへと入ってくる。
「お、お、お、お母さん!」
「「秋子さん!」」
「「「何やってるの!!!」」」
「あらあら、残念ですね」
秋子さんが俺にだけ聞こえるように、そっと呟く。
そして、その後にぼそりと続いた言葉に俺は寒気を覚えた。
おそらく、聞こえていないと思っているんだろう、その言葉を…。
「折角、既成事実を作るチャンスだったのに」
とか、何とか。
………ひょっとして俺って嵌められる所だった?
とりあえず、名雪たちの登場に少し胸を撫で下ろすが、その後俺の目の前で再び争い合う女性陣。
かくして、第3ラウンドが幕を開けたのであった。
その後も、夕食時に誰が俺に食べさせるかで喧嘩したり(当然、自分で食べた)、
風呂に一緒に入ろうとしたり。
さらには、寝るときはベッドに潜り込んで来ようとしたり。
流石の俺もヘトヘトに疲れた。
夏休み初日でこれだと、明日から夏休みの間、身体がもたない。
そこで、俺はある決心をし、それを実行する為、眠らずにベッドに横になっていた。
そして、時刻は早朝。
まだ日が昇る少し前の事。
俺は昨晩のうちにまとめた荷物を持ち、物音を立てないように注意しながら、こっそりと家を出るのだった。
う〜ん、何かやっと落ち着けたな。
朝早いため、まだ人のいない道を歩きながら、そんな事を思う。
さて、これからどうしたもんか。
ビジネスホテルに泊まるにしても夏休み中ずっとという訳にはいかないし。
そもそも、先立つものがない。
こうなれば、友人の家にでも泊めてもらうか。
真っ先に浮かんだのは、北川だった。
……………却下だな。
あいつなら、理由を言った途端、面白がって連絡しかねない。
それに、休み中ずっとバイトするから、家にはいないとも言ってたしな。
と、なると………、思いつかない。
と、とりあえず、公園にでも行ってから考えるか。
俺は今後の事を考えながら、公園へと向って歩いて行った。
水瀬家編 おわり〜
○○編へとつづく〜
<あとがき>
ふぅ〜、これで水瀬家編は完だな。
次は……。
シオン「書き終わるのを待ってたわよ」
ゆうひ「ホンマや。遅すぎるで浩!」
うわっ!お、お前ら何処から入り込んだ。
シオン「失礼な言い方ね。まるで私たちが害虫みたいじゃない」
いや、どちらかと言うと、猛獣……げはっ!
ゆうひ「嫌やわ。何か言うた?」
い、いえ、女神のようですと……。
シオン「そんなあたりまえの事♪」
あ、あのー。所で質問させて頂いても……。
ゆうひ「ああ、ええよ」
お二人が持っているその大きな金槌は?
後、窓から見える風景がやけに鮮明なんですけど……。
それに、窓の周辺の床が、何故か光を反射してるんですが………。
シオン「何だそんな事?」
ゆうひ「質問言うから、もっと難しいかと思ったわ」
で、答えは……。
シオン「うん?出入り口を作ったの」
ゆうひ「そうそう。だってな、ドアに鍵掛けてて、入られへんねんで」
シオン「だったら、新しく入り口を作ればいいって事になって」
ゆうひ「で、この出入り口製造機で、作ったの♪」
いや、単に力任せに窓を破壊しただけ……。
い、いや〜、素晴らしい機械です。はい。
だから、その金槌を降ろしてください。お願いします。
シオン「じゃあ、これは貰って行くからね」
はい、そりゃ、もう。
ゆうひ「じゃあ、時間もないし、さっさと行こうか」
シオン「そうね」
ホッ。(今日は何もされなかった)
そうですね、時間がないなら、早く行った方が良いですよ。
ゆうひ「じゃあ、そうするわ」
シオン「バイバイ♪」
シオン&ゆうひ「浩も時間がないから、さっさと行った方が良いわよ。じゃあね♪」
はい?俺も時間がない?ホワ〜イ?何故?
ミシミシミシ
???。
何だ?何の音だ?
ああ、壁や柱にヒビが入って軋む音か。はははっは。
時間がないって、まさか……。
バキバキバキ。
ノォォォォーーーーー!て、天井がぁぁぁぁぁーーーーーーー!
ズドンッ!
──少し離れた場所では、
シオン「あ〜あ、やっぱり間に合わなかったか」
ゆうひ「まさか、窓を壊すだけのつもりだったのに、家全体にダメージがいくとは思わんかったな」
シオン「そうね。まあ、浩だからアレぐらいじゃ死なないでしょ」
ゆうひ「そやな。まあ、当分は生き埋め状態やけどな」
シオン「まあ、手に入れる物は手に入れたし、」
ゆうひ「帰ろうか♪」