『祐一のハーレム伝説(in 美坂家)』






 最終話 相沢祐一、決死の逃亡







俺は宛がわれた客室に入るなり、ベッドに突っ伏す。
兎に角、疲れた。ここ数日、正確には夏休みに入ってからだから、この二日で俺は精神的にかなり疲れていた。
って、まだ二日目だよな。
本当なら、まだまだある夏休みを楽しんでいるはずなのに。
こんなにも学校が待ち遠しいなんて…。
俺って意外と真面目な優等生だったんだな。
そんなしょうもない事を考えているうちに、段々と眠くなってくる。
そういえば、殆ど寝てなかったな。少し眠ろう……。
俺は襲い来る睡魔に身を委ねる事にした。







う〜ん、むにゃむにゃ。
何かいい匂いが……。それに温かくて柔らかいな。
半分寝たままで、それを腕の中に抱き寄せる。
抱き枕か?なら、足を…。
俺はソレを腕と足で抱き寄せると、そのまま頬を付ける。
どこに触れても気持ちの良い感触と程よい弾力が返ってくる。

「相沢君…、そんな大胆過ぎるわ。でも…」

何か聞こえたような気がするが、きっと気のせいだろう。
ああ〜、それにしても気持ちいい。
そのうち、掌に少し違う感触を感じる。
体に触れる部分よりも更に柔らかいソレの感触が楽しく、そのまま掌に伝わる感触を楽しむように手を動かす。

「ちょっ!いきなり…。でも、そうしたいのなら…。あっ!お願い、そこは敏感だから、もう少し優しくして…。
 あ、ああぁ。だ、駄目よ、そんなに掴んだら。フッ、アッ、ハァ〜ン。こ、声が出ちゃう」

やけに艶かしい声が聞こえてくるな。
そう思いながらも、動かす手を止めず、その弾力の面白さに更に大きく上下に動かす。
その動きに合わせるように、声も段々と大きく、更に艶かしいものへと変わっていく。
って、まさか!
俺は一つの可能性に思い当たり、いや、それ以外に思いつかず意識を完全に覚醒させる。
そして、目を開けるとそこには、頬を上気させ、やけに潤んだ瞳でこちらを見てくる香里の顔があった。
その唇からは、今も艶かしい声と、吐息が洩れている。
香里はこちらに気付くと、妖艶と言うに相応しい笑みを浮かべる。

「相沢君、もう少し優しく…。でも、それも気持ち良いかも…」

意味の分からない事を言う。
って、俺はまだ手を動かしていたのか。
いや、ここまで来れば何となく想像は付くんだが、念のため俺は視線を自分の手へと向ける。
そして、その目に映ったのは、案の定、香里の胸を揉んでいる俺の手だった。
それを認識しながらも、熱に浮かされたように俺の手だけは別の生き物と言うように、俺の意思を無視して動き続ける。

「えっと、何で香里がここに?」

「あんっ……。んんっ。そ、それは、あ、相沢君が部屋でどうしてるのか様子を見に来たら、あ、ああぁぁ。
 そ、そこは…」

香里の話を聞きながらも、掌に伝わる感触を楽しむ。
うーむ。俺の意思じゃないぞ。俺は止めようと思っているんだ。
ただ、手が勝手に動いているだけで。

「そ、そしたら、相沢君が寝てたから…。ね、寝顔を見ているうちに私も眠たくなってきて…。
 そ、それで、少しだけと思って相沢君の横で寝たら、急に相沢君が抱きついてきて。
 んっ、だ、駄目よ、そこはもっと優しくして」

香里の声に応えるように、俺の手がゆっくりと壊れ物を扱うように動きを変える。
流石は俺の手。俺の意思を離れながらも、この繊細な心配り。
って、そうじゃなくてだな。
こんな所を栞に見られたら…………。
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………………………………………………………………………………………………………………………………死ぬな。
ぬおおおお!
俺は必死の思いで、手に力を込める。
それが通じたのか、自分の意志で動くようになる。って、元々俺の手なんだけどな。
よし、離すぞ。………少し残念に思うのは仕方のない事だよな。当然だよな。
自分に言い聞かせるようにしつつ、その手をどけようとする。
その時、ドアがノックされる。

「祐一さ〜ん。入りますよ〜」

言うと同時に、俺の返事も待たずに部屋の扉が開けられる。る。
ノックや、声を掛けた意味があるのか?
その人物──誰がとは言うまでもなく、栞が部屋へと入ってくる。
そして、栞は見事に固まってくれた。
……俺には、何か悪いモノでも憑いているんだろうか。
そう自問自答した所で、事態が変わる訳もなく、ただ目の前で恐ろしい形相をしている栞へと恐る恐る声絵を掛ける。

「えっと、栞……」

「何ですか、祐一さん」

栞が全く感情の篭らない、尚且つ、棒読みの言葉に俺は言葉を失う。

「ご、誤解だぞ栞」

「何が誤解なんでしょうか」

「こ、これは、だな。えっと、か、香里、説明してくれ」

俺は香里へと助けを求める。
この時、まだ香里に触れていた手につい力が入ってしまう。
そして、香里の口からは…。

「あんっ♪相沢君、優しくって言ったでしょう」

………終った。何もかも終ってしまった。
涙が溢れそうになるのを堪えつつ、やっとの事で手を離す。
そして、栞の方を見ると………。
そこには、一匹の修羅がいた。

「誤解なんですよ、栞さん」

思わず丁寧な口調で言うが、栞には聞こえていないのか香里を睨む。

「不潔です!二人とも一体、何をしてたんですか!」

この栞の言葉に、香里がやっとこっちに戻ってくる。
そして、余裕ある笑みで栞を見ると、

「ふっ。ナニって、ナニに決まってるじゃない。ねえ、相沢君」

香里は鼻で笑うと、俺の背中へとしな垂れかかってくる。
うん、香里グッジョブ!背中に当たる感触が良いぞ!
って、そうじゃなくて!

「ば、何を言ってるんだ香里!栞が誤解するだろうが」

「誤解?そうね、はっきり言わないと、栞が変に誤解するわね」

香里の言葉に俺はうんうんと頷く。
そんな俺の後ろから手を前へと伸ばし、俺の胸の前で香里は腕を組む。
さっきよりも密着して、これはこれで良いんだが、栞の視線が更にきつくなる。
それさえも香里は余裕で受け流し、

「可哀相だけど、はっきり言わないと栞が相沢君に纏わり付くもんね」

ピキ。
その時、俺は確かにそういった空気が割れる音を聞いた。
その音の発生源と思われる栞は、肩を振るわせると、顔を上げる。

「お姉ちゃん!何を訳の分からない事を言ってるんですか!いい加減に祐一さんから離れてください!」

「訳が分からないって、こんなにはっきりと態度で示してあげてるのに。可哀相な子ね」

「な、何ですか!その同情的な目は。しかも、何処を見てるんですか!胸は関係ないでしょう!」

「ふっ。だから、お子様なのよ。さっきの相沢君を見たでしょう。荒々しくも、時折優しく私の胸を…。
 まあ、栞には無理な事よね」

香里は俺から離れると、栞の前に立ち塞がる。
両者共睨み合い、火花を散らす。

「こ、この年中発情泥棒猫!」

「なっ!誰が発情泥棒猫よ、栞!」

「お姉ちゃんに決まってるじゃないですか。私と祐一さんは、純愛と言う絆で結ばれているんです。
 それを横から掻っ攫うなんて、泥棒猫じゃなかったら、何なんですか!
 第一、お姉ちゃんは祐一さんじゃなくても良いんでしょう。
 だったら、北川先輩とでも乳繰り合ってて下さい!」

「何で私が、北川君なんかとそんな事をしないといけないのよ!私は、相沢君だけよ!
 そんなに北川君が良いのなら、栞に上げるから好きにしなさい!」

「嫌です!いりません!」

北川……哀れなり。

「大体、何が祐一さんだけですか!
 そんなに大きな胸をしてるくせに!」

「胸は関係ないでしょうが!」

「いいえ、あります。前に呼んだ本に書いてありました。胸は男の人に揉んでもらうと大きくなるって。
 ですから、お姉ちゃんの胸がそんなに大きいのは、しょっちゅう他の男の人に…。ああ、何て不潔な。
 汚れたお姉ちゃんと違って、私は綺麗ですから」

「栞……。何、ある事ない事言ってるのかしら?第一、自分の胸の無さを棚に上げて何を言うのかしら?
 そんな事だから、成長しないのよ」

「それとこれとは関係ないじゃないですか!」

徐々にエスカレートしていく姉妹喧嘩を見ながら、俺はどうしたもんかと頭を抱える。
ここでちょっとでも口を挟もうもんなら………。
ガクガクガクガク。ブルブルブルブル。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
……はっ!そ、想像しただけでこれだぞ。
実際になんて出来るか!
ここは嵐が収まるまで大人しくしているのが吉だな。
俺は一人頷くと、触らぬ神に祟りなしを決め込む。
しかし、これがいけなかったのだろう。
二人の言い争いは延々と続き……。
……………まだ、続いてるのか。おお、栞が珍しく香里を怯ましたぞ。
…………はぁ〜。おっ!流石は香里だな。今のは栞も堪えたみたいだな。
………ふぁあぁああ〜〜。まだ、やってるのか。よく続くな。
……す〜、す〜。むにゃむにゃ。
…ん。うーーーん。久々に良く寝た。って、まだやってたのか。
ところで今、何時だ?
既に暗くなり始めた外を見て、部屋の時計を探す。
お、あったあった。おおー、もうすぐ午後八時か。やるな二人とも。
まあ、流石に声も枯れて、疲れた顔をしてるが。
そろそろ止めるか。今の二人の状態なら、酷い目には会わないだろうしな。

「二人ともその辺にしておけって。それよりも、俺、腹減ったんだけど」

肩で息をしながら、二人は時計を見る。

「し、栞。とりあえずは休戦よ」

「わ、分かりました。とりあえず、晩御飯にしましょう」

二人はフラフラになりながらも、夕飯の支度をはじめる為に台所へと向う。
それから暫らくして、俺は二人の手料理をたらふく食べる。
最も、その頃には多少元気を取り戻した二人によって、食べさせられたりしたのだが。
その後、風呂に入り、再びベッドに横になる。
昼間に寝た所為か、全然眠くならない。
ぼんやりと天井を見上げながら、今日一日を振り返る。
まあ、ずっと寝てたからな。もっとも、朝食の後のアレは中々良かったが。
俺は掌にまだ残っているような感触に頬を緩めながら、夕食後の事を思い出す。
あの後、元気を取り戻した二人は、どっちが俺をモノにするのか、全く本人の意思を無視した勝負を始めた。
しかも、その勝負内容が俺に対して奉仕するという、とんでもないものだった。
そのお陰で、飯の後だというのに、二人からはデザートを無理やり食べさせられるわ、
背中を流すとか言って、風呂に乱入した挙句、俺の背中を取り合って綺麗な傷を作ってくれるわ。
挙句、どっちが添い寝をするかで人の腕を掴んで引っ張り合うし。
水瀬家にいた時と同じ様な事が起こっているのだが、こっちの方は精神的だけでなく、肉体的にも傷付いていく。
このままじゃ身が持たない。
仕方がない。ここも抜け出すしかないか。
俺は決意をすると荷物をまとめあげる。
そして、日の出と共に、美坂家を後にするのだった。
東から登り始めた朝日を見ながら、俺は必死になって願う。



ああ〜〜!神様が本当にいるのなら、俺の願いを聞いてください!
何も特別な事なんて頼んでないんです。
ただ、ただ、平穏に暮らしたいだけなんです。お願いします!
平穏な日々を、プリ〜〜〜〜〜ズ!!!!!





美坂家編 おわり〜

○○編へとつづく〜




<あとがき>

美坂家編も終了〜〜。
シオン「遅いわよ!この馬鹿!」
ウゲウゴガガガッ。
い、いきなりかよ。
ゆうひ「えい♪」
ガッ!
ピクピク……。
シオン「やっと美坂編も終ったわね」
ゆうひ「そやな。次は○○編やな。こっちも速く書かさないと」
シオン「それは美姫ちゃんに頼みましょう」
ゆうひ「うんうん。美姫ちゃん、頑張ってね」
がばっ!
お前ら、痛いわ!
不意を付かれたら、予想以上のダメージを喰らって、回復に時間が掛かるじゃないか!
シオン「……あ、相変わらず回復の早い」
ゆうひ「最早、人として認めたくないわね」
えーい。久々に怒ったぞ。
喰らえ!我、天地万物のマナに願いいる。
光よ、悪しき者を切り裂け!クロスリッパー!
シオン「しまった!久々だったので油断した」
ゆうひ「一体、何が…」
シオン&ゆうひ「……………あれ?何とも無い?」
シオン「死ねー!」
ゆうひ「このアホ!」
ふっ、甘いな。確かに、これは人畜無害な技だが、しかし繊維を分解する。
シオン&ゆうひ「はい?」
つまり、繊維で出来ている服にはダメージ♪
シオン「え、あ、きゃあ!」
ゆうひ「な、なんちゅう技を。この助平!」
何とでも言え!ふふふ、その下着姿では、俺に攻撃できまい。では、今のうちにさらば!
シオン「甘いわ。死になさい!」
ごがぁっ。と、飛び道具とは卑怯なり…。
ゆうひ「どっちがや!」
シオン「乙女の柔肌を見た罪は重いわよ」
ゆうひ「当分、復活できんようにしたる」
ま、待てくれ話せば分かる。多分……。
シオン&ゆうひ「うるさい!死ね!」
シオン「分子レベルまで崩壊しろ!殲滅級連鎖崩壊弾」
ゆうひ「対消滅時空歪曲覇!!」
いやーー。か、体が手の先から段々崩れてく〜〜。
って、こっちは消えてく〜。しかも、あの頭上のブラックホールは何、何?
た、助け……。
シオン「ふー。久々の大技で疲れたわ」
ゆうひ「本当に。でも、これぐらい当然や!」
シオン&ゆうひ「そんな訳でまたね」





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