『祐一のハーレム伝説(in 天野家)』
第1話 落ち着いた物腰のあの子は妄想症候群?!
夜明けのまだ薄暗い中、俺は必死に足を動かす。
少しでも遠くへ。
ただ一心にそれだけを思って。
どれぐらい走ったのだろうか。
身体中、汗でだくだくの上、息も上がりとても苦しい。
それでも足は動く。もっとも、それは走っているというよりも、歩いているといったレベルだが。
「はぁー、はぁー」
大分、呼吸も落ち着いてきたな。
さて、所でここはどこだ?
ゆっくりと歩きながら、周りを見渡す。
そんな事をしていると、突然背後から声を掛けられ、俺は飛び上がって驚く。
「相沢さん?」
声をかけた人物は、俺の突然の行動に驚いたような、不審そうな顔をして、もう一度こちらを見る。
「は、はははは。何だ、天野じゃないか。どうしたんだ、こんな所で?」
「それはこっちの台詞だと思うんですけど、まあ良いです。私は、散歩です」
「そうか、散歩か。相変わらず、天野はおばさ……。何でもない」
言いかけた言葉を、天野の一睨みで飲み込む。
天野は俺の方を見て、一度溜め息を吐くと、何気に失礼な奴だな。
とりあえず、溜め息を吐くと、
「それで、相沢さんこそ、こんなに朝早く何を?」
と聞いてくる。
「うむ、俺も散歩だ」
「こんな所までですか?」
「ここはどの辺なんだ?」
「散歩してたなのに、知らないんですか?
呆れたように言う天野に、俺は爽やかな笑みを浮かべてみせる。
「ははははは。そんなに褒めるなよ」
「褒めてませんよ。はぁ〜。まあ、大方、何かやらかして逃げてきたって所ですか」
中々鋭いじゃないか、天野。
しかし、あえて言おう!俺は何もやらかしてないぞ!そう、俺は!
まあ、大概の場合は俺が何かやる事は、この際認めよう!
しかし、しかしだ。今回は、俺は何も悪くない…はず!
………断定できない所が、俺らしくて良いな。うん。
とりあえず、天野の誤解を解くことにするか。
「イエ、ナニモシテマセヨ」
「何故、わざとらしく片言で言うんですか」
「いや、その方が面白いかなって思って」
「はいはい、面白かったですよ。それで、本当の所はどうしたんですか」
流石、天野。
あっさりと流してくれたよ。
俺は一抹の悲しさを胸の奥に押し隠し、天野へと説明する。
「まあ、詳しくは分からないんだが、名雪たちが揃って喧嘩を始めてな。
少し居辛くなったんで出てきたんだ。その後、香里の所にも行ったんだが、ここでも姉妹喧嘩が始まってな」
「それで、この時間にこんな所にいたんですね」
「まあ、そういう事だ」
えっへんと胸を張って威張る俺を、天野は冷たい眼差しで見詰めてくれる。
その時、俺の腹の虫が盛大な音を立ててくれる。
む〜、早く起きた上に、走った所為か、腹もいつもより早く活発に動いているようだな。
そんな俺を呆れたように見ると、
「相沢さん。私はこれから帰って朝食にするんですけど、良かったらどうですか?」
「良いのか!」
「ええ、別に構いません。それに、そんな状態の相沢さんを放って置くというのも寝覚めが悪いですから」
そう言うと天野は歩き出す。
その横に並んで歩きながら、俺は天野に話し掛ける。
「迷惑じゃないか?」
「今、家には誰もいませんから。両親とも、昨日から旅行で留守ですから、安心してください」
「ぐふふふふふ。そうか、今、家には誰もいないのか。それは楽しみだな」
俺の言葉に、天野は俺との距離を取る。
そして、じっと俺を見てくる。
「あ、あははははは。冗談だ、冗談」
笑って言うが、天野は何処とも知れない虚空を見詰め、ブツブツと何やら呟き始める。
「冗談なんて言っておきながら、その実誰もいない事をいい事に、相沢さんは嫌がる私を押し倒すんですね。
そして、そのまま私の衣服に手を掛けて、一気に脱がして行くんです。
勿論、私も抵抗はしますよ。当たり前じゃないですか。
それでも、か弱い私の力では、相沢さんに抵抗らしい抵抗もする事ができず、そのまま相沢さんの成すがままに。
か、考えただけでも恐ろしい。あ、でも、別にそれが嫌って訳じゃないんですよ。って、何を言わせるんですか。
わ、私は、その、無理矢理とかじゃなくて、ちゃんとしてくれたらって、何を言ってるんでしょう。
だ、だから、止めてください相沢さん。え、私が本当に嫌なら、これ以上はしないって。
え、え?私が好きだから、嫌がることはしないって?
そ、そんな言い方ずるいですよ。わ、私だって本当に嫌って訳じゃなくて、ただ女の子がそんな簡単にそ、その許すというのも。
ちょ、相沢さん、何処を触ってるんですか。え、私が嫌じゃないって分かったから?
ち、違います。さ、さっきのはそういう意味じゃなくてですね。ああ〜、そんなに悲しそうな目をしないで下さいよ。
だからって、嫌って事でもなくて…。って、だから何処を触ってるんですか。
え、照れてる天野も可愛いですって。な、ななななな何を言ってるんですか。
そ、そんな真剣な顔で見詰めないで下さいよ。う、私だって女の子なんですから、その恥ずかしいですよ。
え、そんな事は知っている?でも照れて困った顔が可愛いって。
よくそんな恥ずかしい台詞が言えますね。ええ、私が言わせてる。だから、私の口を塞ぐ?
な、何を言ってるんですか。そ、それにそんなに顔を近づけて。あっ………。
はぁー、はぁー。い、息が出来なくて苦しかったです。
って、何を笑ってるんですか。え、息を止めていたのかですって。そ、それはそうですよ。
だって、始めてでああ言うとき、どうやって呼吸すれば良いのか分からなったんですから。
って、笑わないで下さいよ。相沢さんと違って、私は初めてだったんですから。
え、俺も初めて?嘘です。それにしては、やけに慣れてましたよ。本当ですって。
そんなの信じられません。え、信じないのなら、もっと凄い事をするですって?
ちょっ、や、止めてください。し、信じます、信じますから。
えっ?もう遅い。こんな可愛い天野を見せられたら、止まらないって。
い、いや、こ、こんな所じゃ…。え、だったら、何処だったら良いって?
そ、それは、せめて布団の中とか。って、何で抱きかかえるんですか!
私の部屋ですか?私の部屋は二階を上がった所すぐですけど。
ああ、分かったって。何処に連れて行く気ですか!えっ、続きのできる所って、ま、まさか。
や、やっぱり私の部屋ですか。い、いえ、嫌ではないんですけど。あ、そんな事を言ってるうちに着いちゃいましたね。
って、何勝手に入って行くんですか。いえ、それよりも、いい加減に離して下さい!
そ、そうですゆっくり降ろして…。って、何でベッドの上に降ろすんですか!
って、何で覆い被さって。これで、続きが出来る?な、ななな何を、んっ、んん……。
いきなり何をするんですか。せ、せめて心の準備とか、そういったものを。
そんな我慢できないなんて。本当に嫌かなんて聞かないで下さい。
何ですか、その全てを見通したような笑みは。やっぱり、嫌です。
って、いつの間に脱がしたんですか!え、私が話している間?本当に答えなくても良いですから、止めてください。
肌が綺麗。あ、ありがとうございます。って、そうじゃなくてですね。
あ、相沢さん…、え、祐一?そ、そうじゃなくてですね、ど、何処を触って」
未だにブツブツと呟いている天野。
声が小さくて何を言っているのかは聞こえないが、それにしても上手に歩くな。
あ、前方に電柱が。きっと華麗に躱してくれるんだろうな。
後、三歩、二歩、一歩。
お、おおおぉぉぉ!
見事な頭突きだな。凄くいい音がしたぞ。
あ、天野がデコを押さえてる。まあ、アレだけの勢いでぶつかればな。
「な、なななな何が」
天野は何が起こったのか分かっていないのか、きょろきょろと周りを見る。
そして、俺と目が合うと説明してくださいと言わんばかりで見てくる。
仕方がない、説明してやるか。
「あー、つまり、考え事をしていた天野は電柱に気付かず、そのままぶつかった訳だ」
「分かってたんなら、教えて下さい」
「いや、てっきり避けるもんだとばかり思ってたから」
うー、とか唸りながら、天野は両手で額を押さえる。
流石に強く打ち過ぎたか。
俺は天野の手を除けると、ぶつけたと思われる額を見る。
うむ、少し赤くなっているが、たんこぶとかは出来ていないみたいだな。
これなら、大丈夫だろう。俺はそう判断すると、天野から離れる。
と、見ると、天野は真っ赤になっている。
「どうかしたか、天野?」
「べ、別に何でもありません。そ、それよりも、早く行きましょう」
「あ、ああ」
突然捲くし立てるように言うと、天野はずんずんと歩いて行く。
その後を、俺は慌てて追って行くのだった。
つづく〜
<あとがき>
第三弾は天野家編でした〜。
美姫 「でも、天野家編なら美汐一人だけよね」
はははっはははは。すぐに終るな。
美姫 「威張るな!」
イテッ!
仕方ないじゃないか。真琴は第一弾で出しちゃったんだから。
因みに、次で最終話だったり……。
美姫 「この馬鹿、馬鹿、馬鹿!」
痛い、痛い、痛い。
美姫 「……でも、仕方ないかもね」
……俺って、殴られ損?
美姫 「それは大丈夫よ。だって、理由があってもなくても殴られるんだから」
それもそうだな。ははははは。……………って、オイ!
美姫 「それじゃあ、また次回でね♪」