『祐一のハーレム伝説(in 倉田家)』






 第1話 更なる出会い







夏ということもあり、まだ日が出ている街中を駅へと向って歩く。
はっはっは。
日が出ているといっても、流石に6時を過ぎると太陽も傾き始めており、微かに紅く色付き始めた風景の中を歩く。
はっはっは。……いや、走る。
まるで何かに追われるように。……いや、実際に終われているようなものなのだが。
兎も角、街から出なければ。
半年以上前に、嫌々とはいえ戻ってきたこの街。
最初は何となく嫌だったが、それでも知り合いが増え、ここでの生活にもすっかり慣れ、
七年前の出来事を思い出した今、この街は俺にとって離れがたい場所となっていた。
それを、まさかこんな形で逃げるように出て行くことになるとは。
…まあ、実際に逃げているんだが。
まあ、夏休みが終るまでだ。さて、一体何処へ逃げるか。
とりあえず、電車に乗って行ける所まで行くか。
手持ちは……。
そんな事を考えながら走っていた所為か、曲がり角で人とぶつかってしまう。
俺は何とか踏み止まり、倒れる事を免れたが、相手はそうもいかなかったらしく地面へと倒れる。
その時、小さな悲鳴が上がる。声からして女性のようだったが、それを確認するよりも早く、倒れた人物に手を差し出す。

「大丈夫ですか。すいません、考え事をしていたもので…」

「あ、はい。親切にありがとうございます。こちらこそ…って、祐一さん!?」

「おう、祐一さんだぞー。って、佐祐理さん。ぶつかったのは佐祐理さんだったのか」

俺の手を取った佐祐理さんを引っ張って立たせながら言う。

「あはは〜。そうみたいですね」

「本当にごめん、佐祐理さん」

「いいえ。気にしないで下さい。佐祐理も余所見をしていたんですから。
 これでおあいこです」

何があいこなのかは分からないが、とりあえず頷く。
と、俺の頭に軽い衝撃が走る。

「てっ!一体、何だ!?まさか、透明人間が俺を妬んで…」

ポカポカ。
今度は二発連続で叩かれる。

「…痛いじゃないか、舞」

「祐一が悪い」

「俺か!俺が悪いのか!」

俺の言葉に舞は頷き、

「私もいるのに私だけ無視」

「そんな事はないぞ。ちゃんと気付いてたぞ。今から挨拶しようとしてたんだ」

「そうだったの。ごめん」

「あははは。気にするな。それじゃあ、改めて。
 よう、舞」

「よう、祐一」

二人して手を上げて挨拶する。
そんな俺たちを佐祐理さんが楽しそうに見ていた。

「えっと、佐祐理さんと舞は何をしてたんだ」

「…買い物」

舞はこれが証拠と言わんばかりに、手にした買い物袋を見せる。

「あははは〜。実は、今日はこれから佐祐理のお家にお泊りするんです。
 それで、夕飯を佐祐理が作ろうと思いまして」

成る程。
一人納得していると、佐祐理さんが俺に尋ねてくる。

「祐一さんは何をしているんですか?」

「俺か?俺はこうして日々パトロールをして、街の平和を脅かす怪人と戦っているんだ」

「はえ〜。それは大変ですね〜」

「ああ、大変だ。何せ、あいつらと来たら、手加減はしない上に大勢で攻めてくるからな。
 流石の俺も危機に陥る事が何度も」

「ふぇ〜。じゃあ、祐一さんのお陰で佐祐理たちは平和に暮らせているんですね」

「あっはっはっは。そういう事になるかな」

「それじゃあ、何かお礼をしないといけませんね〜」

「別に礼などいらないが、どうしてもというのなら受け取ろう」

「はい。じゃあ、受け取ってください。えーと、何が良いでしょうか」

「そうだな。……それじゃあ、佐祐理さんを貰おうか〜!」

「佐祐理をですか?」

「そうだぞ〜」

そう言って俺は両手を広げて佐祐理さんへと飛び掛ろうとする。
佐祐理さんも「きゃ〜♪」と言いつつ、楽しそうに笑う。
……………………。
………………。
…………。
……そのままの態勢でずっと動きを止めている俺と佐祐理さん。
しかし、肝心の突っ込みがいつまで経っても来ない。

「……。あー、舞」

仕方がないので襲う構えを解き、舞へと話し掛ける。
呼びかけられた舞は、不思議そうに首を傾げてこちらを見返してくる。
うむ、中々可愛い仕草だ。しかし、今はそれよりも大事な事があるので、そっちを優先させる。

「いい加減に突っ込んでくれないと辛いんだが」

「はちみつくまさん」

俺の言葉に頷きつつ、舞が返事をする。
それを受け、俺は咳払いを一つすると、再び佐祐理さんへと向き直る。

「さて、それじゃあ改めて…。痛っ!」

俺が両手を上げるよりも早く、舞のチョップが頭に当たる。

「早すぎるだろう!」

「……」

舞は不思議そうな顔をする。
そんな俺たちを見て、佐祐理さんが笑う。

「お二人とも楽しそうですね。所で、祐一さんは本当にどうしたんですか?」

「あ、ああ。実は、まあ色々とあって家に戻れないというか、嫌な予感がするというか」

俺の言葉に舞と佐祐理さんは首を傾げる。
まあ、それはそうだろう。
この説明で全てを理解しろという方が無理な注文だ。

「あはは〜。分かりました〜」

ほら、佐祐理さんも分かったって。
えっ!分かったのか!

「今の説明で分かったんですか」

「はい。詳しい事は分かりませんけど、祐一さんは家に戻られないんですよね」

「ええ、まあ」

「ひょっとして何処かに行かれるつもりだったんですか」

「ええ。夏休みが終るまでこの街を出ようかと」

俺がそう言った途端、舞が俺の服の裾を掴む。

「どうしたんだ、舞」

「祐一、何処に行くの」

「いや、そこまでは考えていないんだが。って、そんな悲しそうな顔をするな。
 ちゃんと休みが終る頃には戻ってくるから」

しかし舞は首を横にフルフルと振って嫌々とする。
えーと。出来れば、早く行きたいんだが。
助けを求めるように佐祐理さんの方を見ると、その顔に満面の笑みを浮かべ、いや、まあ佐祐理さんはいつも笑顔なんだが…。
何と言うか、いつもと少し違うような感じの笑み、そう、まるで悪戯を思いついたかのような笑みを浮かべる。

「でしたら、祐一さんも一緒に佐祐理の家に行きましょう」

佐祐理さんの言葉に舞は一もなく頷く。
いや、勝手に決められても…。
そんな俺の考えが伝わったのか、佐祐理さんは顔を悲しげに歪める。

「ふぇ〜、お嫌ですか」

「い、いや、嫌じゃないです。た、ただ、いきなりお邪魔するのは迷惑だし…」

「それなら大丈夫ですよ。両親は仕事でいませんから」

「ああ、そうか。なら、別に問題ないか」

……って、大有りですって!
つまり、広い屋敷に俺と舞と佐祐理さんだけって事でしょう。
それはさすがに俺の理性がというか、何と言うか。

「あはは〜。大丈夫ですよ。佐祐理は祐一さんを信じてますから」

「いっ!も、もしかして、口に出てました?」

「はい〜。それで、どうします」

うーん。街を出て行くんなら、少しでも早い方が良い。
しかし、未だにしっかりと舞に握られた服が…。

「……お邪魔します」

結局、俺は佐祐理さんの提案を受け入れる事にしたのだった。

「はい。じゃあ、行きましょうか」

「はちみつくまさん」

「…舞、とりあえず離してくれると嬉しいんだが」

未だに裾を掴んだままの舞に言うが、舞は首を横に振って否定する。
何故?とりあえずは、出て行かないと決めたのに。

「あははは〜。舞、そんな所を握るより、こっちの方が良いですよ」

そう言って佐祐理さんは俺の手を取って握ってくる。

「さ、佐祐理さん、何を!」

「駄目……ですか」

ぐわぁ。佐祐理さんのような美人にそんな上目遣いで尋ねられて、断われる奴がいる訳ないじゃないですか。

「別に構いません!」

「ありがとうございます〜。ほら、舞も」

佐祐理さんの言葉に恥ずかしそうに頷くと、舞は空いていた俺の手を握る。
…うーん、これが世間一般でいう所の両手に花ですか?
一人至福の時を感じていると、佐祐理さんが声を掛けてくる。

「それじゃあ、行きましょうか」

「そうですね」

「はちみつくまさん」

それにそれぞれ返答して、俺たちは夕暮れの街を歩き出すのだった。
その途中、佐祐理さんがボソリと呟いた言葉が、佐祐理さんの家に着くまでの間、ずっと耳から離れなかった。

「さっきの問題あると仰っていた件、佐祐理は祐一さんだったら、別に構いませんけどね」





つづく〜




<あとがき>

という事で、倉田家編です。
美姫 「遂に登場ね」
おう!やっと登場のお二人。
さて、祐一はどんな生活を過ごすのか。
美姫 「次回、最終話…」
待て待て待て!
嘘を言うな、嘘を。
美姫 「あれ?違ったの」
違うわ!全く、とんでもない事を。
美姫 「酷いわ。ちょっとした冗談だったのに…」
嘘吐け。目がマジだったぞ。
美姫 「口は災いの元って知ってる」
……今現在、身をもって。
美姫 「紅蓮腕射!!」
ぬぐろぉぉぉぉぉぉぷろぉわぁふぉぉぉ!
美姫 「……ふぅ〜。それじゃあ、またね〜♪」





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