『祐一のハーレム伝説(in 倉田家)』






 第2話 夕食前の一勝負







何回か来た事があるけれど、やっぱり、何度見ても凄いな。
暫し呆気に取られている俺の腕が両方から引っ張られる。

「どうかしたんですか、祐一さん」

急に立ち止まった俺を不思議に思ったのか、佐祐理さんが下から覗き込むようにして尋ねてくる。
佐祐理さんのように、尋ねてくる訳ではないが、舞もどうかしたのかとこちらを伺っている。
そんな二人に、小さく首を振りつつ、

「いや、何でもないよ。ただ、相変わらず大きいな、って思っただけだから」

まあ、家がいきなり小さくなっているなんて事があるはずもないんだが。
俺の言葉に納得したのか、二人は何も言わずに家の中へと向う。
今度は俺も一緒に足を踏み出し、すんなりと家の中へと入った。
中へと入るなり、佐祐理は祐一の腕を離し、

「それじゃあ、佐祐理はすぐに夕食の用意をしますから、祐一さんと舞は少し待っていてくださいね」

手伝おうかと一応聞いてみたが、返ってきた答えは、予想通りだった。
仕方なく、俺は舞に案内され、佐祐理さんの部屋へと向う。
そして、夕飯が出来上がるまでの時間、舞と時間を潰す事にするのだった。



「…………こっちだ!」

「外れ」

「ぬぐわぁ! またババを引いてしまった!」

叫びつつ、俺はトランプを後ろでに隠し、二枚のカードをよく混ぜる。
これで、どっちがジョーカーなのか、俺にも分からなくなった。
それを伏せたまま、すっと前へと差し出す。
舞はじっと裏を向いた二枚のカードを見ていたが、やがて一枚を選ぶと、それを手にする。
どっちだ、どっちだ。
俺がじっと見詰める中、舞は俺から取ったカードを自分の手札へと並べる。
よし! ジョーカーを引いたな!
心の中でガッツポーズをする俺だったが、そんな俺を嘲笑うかのように、舞が持った二枚のカードが中央へと放り投げられる。
表向きになったカードは、どちらも数字の6が書かれていた。

「はぁ〜、また俺の負けかよ」

「これで、祐一の十二連敗」

「くそっ」

悪態を付きつつ、もう一度トランプをシャッフルし始める。
シャッフルしながら、舞へと声を掛ける。

「なあ、二人でババ抜きって、最後の一枚になるまで意味無いよな」

「はちみつくまさん」

散々やってから、出た答えがこれだった。
いや、ババ抜きをする前は、神経衰弱をしたんだが、これが見事なぐらい相手にならなかった。
勿論、俺が舞にだ。悔しいが、記憶力では舞の方に分があったという事だろう。
そこで、運が多分にものを言うババ抜きになったんだが、二人では駆け引きも何もあったもんじゃないな。

「よし! 舞、ポーカーは知っているか」

頷く舞に、カードを配る。

「じゃあ、それで勝負だ」

ふっふっふ。これなら、今度こそ。
俺は自分の手札を見る。
9のワンペアが出来ているな。
なら……。

「三枚チェンジだ」

そう言って、三枚捨てて三枚引く。
さて、舞はどんな手だ。
舞の手の内を探ろうと、その顔色を伺ってみる。
……全く変化なし。完璧なポーカーフェイスだった。
ゲームの選択を誤ったかも……。
い、いやいや、まだだ。
俺の運が舞よりも高ければ。
祈りを込めて、手元の札を覗き込む。
…………うわぁ〜、見事にバラバラ。
結局、9のワンペア……。
ま、まだだ。舞がブタ、もしくは、8以下のワンペアなら俺の勝ちだ。

「よし、勝負だ」

俺の言葉を合図に、同時に手札をオープンする。
結果は、俺が9のワンペアで、舞がKのワンペアだった。
お、俺の負け……。

「も、もう一度だ!」

そう言うと、トランプを再びシャッフルして、俺と舞に交互に配る。
さて、仕切りなおしといこうか。
…………な、何故だ。
何故、一度も勝てないんだ。
結果は五連敗。
ば、馬鹿な。そ、そうか、何も賭けてないからだ!
そうに違いない。

「舞、次は何かを賭けてやるぞ」

「祐一、賭け事は駄目」

「大丈夫だ。別にお金を賭ける訳じゃない。
 そうだな、負けたほうは罰として、勝ったやつの言う事を何でも一つだけ聞くってはどうだ?」

俺の言葉に少しだけ考えてから、頷く舞。

「ふっふっふ。その自信、後で後悔する事にならなければ良いがな。
 俺が勝ったら、あんな事やこんな事を言うかもしれないぞ〜」

舞にプレッシャーを与えるつもりで、声に出してみるが、舞は平然としたまま告げる。

「勝てたら。それに、私が勝ったら……」

「…………。ふ、…ふっふっふ。必ず、俺が勝つに決まっている!」

逆にプレッシャーを与えられてどうするんだよ、俺!
ええい、負けるな俺。
自分自身と叱咤して、手札を見遣る。
よし! 幸先が良いぞ。
顔に出そうになるのを堪えつつ、俺はカードを交換する。
頼むぞ〜、こいこいこい。
必死の祈りが通じたのか、望んだカードが来た!
勝つ。これで、絶対に勝つ!

「よし! いくぞ舞、勝負!」

どうだ、ハートのフラッシュ!
ふっふっふ。勝った。今度こそ、勝った!
喜びに緩む頬を押さえながら、舞のカードを見る。
…………あれ? 目が疲れてきたのか?
一度、手で目を擦り、改めて舞のカードを……。
えーっと。
考えるのを停止したかのように、動かなくなった脳で必死に考える。
やがて、俺の頭が一つの決断を出す、その前に、そのカードの持ち主から目の前の事実を告げられる。

「Aのフォーカード」

な、何ですとぉぉぉぉ!
フォ、フォーカード?
あ、ありえない。お、俺が負けるなんて。
打ちのめされた俺に対し、舞が更にとどめをくれる。

「私の勝ち。祐一、何でもいう事を聞く」

何処か勝ち誇った様子で告げる舞に、俺は頷くのだった。
丁度そこへ、佐祐理さんが夕飯が出来たと知らせに来たので、俺と舞はトランプを片付ける。
廊下の方にまで良い匂いが漂ってきており、俺の腹が勝手に鳴る。
多少恥ずかしかったので、照れ隠しに笑い声を上げる俺に、佐祐理さんがこちらはいつもと同じ笑顔で言う。

「たくさん作りましたから、いっぱい食べてくださいね」

「勿論です!」

「はちみつくまさん」

でっかいテーブルを予想していた俺だったが、そこにあったのは水瀬家にもある極普通のテーブルだった。
それを佐祐理さんに聞いてみたところ、俺と舞の三人で食べるのだから、離れて座るよりもこっちの方が良いからという事らしい。
まあ、確かに、大きなテーブルで離れて食べるよりも、こっちの方が断然良いに決まっている。
舞同じらしく、特に何も言わずにすぐに自分の席に座る。
それを見習うように、俺も空いている席へと座り、食事が始まる。

「どうですか、祐一さん、舞」

「もう最高ですよ、佐祐理さん」

「んぐんぐ」

舞は返事の変わりに、次々とおかずを箸で摘む。
語るまでも無く、この様子が全てを物語っていた。
そんな俺たちを見て、佐祐理さんは心底、ほっとしたように肩の力を抜く。

「そうですか、良かったです」

そう言って、自分もやっと箸を取る。
その間も、俺と舞は次から次へと箸を伸ばし、口の中へと入れていく。

「あっ! 舞、同じのばっかり食うなよ。俺だって、それを食べたいのに」

いつの間にか残り少なくなっていたおかずへと、俺も箸を伸ばす。

「駄目。これは私の」

「そんな事を言うか。だったら、こっちのおかずは俺のだ」

そう宣言した俺に、舞は一言、

「祐一、罰ゲーム」

ぬぐぉぉぉ。そ、それをここで使うのか!
ひ、卑怯だぞ、舞!

声に出す代わりに、血の涙を流すほどに目に力を込めて舞を見るが、肝心の舞は黙々と箸を進める。
うぅぅ、ぐすん。
仕方が無く、そのおかずを諦めて他のものに箸を付ける俺に、佐祐理さんが不思議そうに尋ねてくる。

「舞、罰ゲームって、何?」

「祐一とトランプして、祐一が負けた」

省略する舞に、俺が事情を説明する。

「そういう事だったんですか。でも、舞。
 食事は皆で取った方が美味しいよ。だから、それは祐一さんにも分けてあげよう、ね」

佐祐理の言葉に頷くと、舞は俺のほうに皿を持ってくる。
俺は礼を言って、それに箸を付ける。
う〜ん、美味い。
ありがとう、佐祐理さん。
佐祐理さんの方を見ると、佐祐理さんもちらりとだけ俺の方を見て笑う。
つくづく、いい人だな〜、と感心する俺の前で、佐祐理さんはまだ舞と話をしている。

「それに、折角、何でも聞いてくれるんだから、こんな事に使ったりしたら、勿体無いでしょう」

佐祐理さんの言葉に、こくこくと頷く舞。
……前言撤回した方が良いかな、俺。
そんな事を考えているうちにも、佐祐理さんはどんどん話を進めて行く。

「例えば、明日、何処かに連れて行ってもらうとか」

「……動物園」

「そうか。舞は動物園に行きたいんだね」

「はちみつくまさん」

「祐一さん、そういう事ですので、明日は舞を動物園に連れて行って上げてください」

「まあ、それぐらいなら別に良いですよ」

もっと無理難題が来るかと思っていたが、これぐらいなら可愛いもんだ。

「舞、それじゃあ、明日は二人で動物園に行こうな」

「ぽんぽこたぬきさん」

「はっ? どうしたんだ。明日は都合が悪いのか」

「違う。佐祐理も一緒」

「あ、ああ、そうだったな。俺と舞と佐祐理さん。
 三人で動物園だな」

「はちみつくまさん」

「はえ〜。佐祐理もご一緒しても良いんですか」

少しだけ驚いたように聞いてくる佐祐理さんに、俺と舞は顔を見合わせると、もう一度、佐祐理さんへと顔を向けて力強く頷く。

「「勿論!」」

それに対する佐祐理さんの答えは、極上の笑みと、

「ありがとうございます。じゃあ、お弁当は佐祐理が用意しますね」

とても嬉しい言葉だった。





つづく〜




<あとがき>

倉田家編第二弾。
美姫 「…………」
えっと、美姫〜。
美姫 「……」
美姫ちゃ〜ん。
美姫 「遅い」
はい?
美姫 「遅いって言ったのよ! この馬鹿ぁ!」
ぐっ! 問答無用ですな。
美姫 「当たり前よ、この馬鹿、馬鹿」
ゆ、許して……。
美姫 「アンタみたいな馬鹿は、どっかに飛んでけ〜」
にゅぎゅりょっぴょ〜〜〜ん!!
美姫 「まったく。という訳で、倉田家第二話をお届けしま〜す。それじゃあ、また」





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