『祐一のハーレム伝説(in 倉田家)』
第3話 孤軍奮闘の魔物を狩るもの
夕食後、茶などを啜りつつ、ほっと一息。
はぁ〜、落ち着く。
流石のあいつ等も、ここまでは追って来れまい。
「それで、明日はいつ出掛けるの?」
同じようにお茶を啜りつつ、隣に座っていた舞がそう訊ねてくる。
普段の舞からすれば、何処かワクワクしているような雰囲気を漂わせているのを感じて、ついつい悪戯をしたくなる。
「明日? 舞は明日出掛けるのか?」
そう冗談めかして言った瞬間、舞の顔が一瞬だけ驚いたようになり、悲しそうな顔になる。
普通の奴なら、その少しの変化に気付かないだろうけど、俺はそれに気付き、慌てて明るい声を上げる。
「あははは、何てな。冗談だぞ、冗談」
と言ったのだが、どうやら少し遅かったみたいで…。
スチャ。
俺の喉元に、いつの間にか剣が突きつけられている。
生唾を飲み込みつつ、その剣の持ち主である舞へと視線を向ける。
「あ、あのー、舞さん。これは一体…」
「祐一が嘘を吐いたから」
「う、嘘じゃなくて、冗談だって言っただろう」
「……」
舞は俺の言葉をゆっくりと思い出すように考え込む。
そして、すっと音もなく俺の喉元から剣が離される。
ほっとしながらも、ふと疑問に思ったことを口にする。
「所で、その剣、今どこから出したんだ?」
舞は俺と自分の剣を交互に見比べた後、少し俺から視線を逸らす。
「私は魔物を狩るものだから」
「ああ、なるほど。…って、それとこれは関係ないだろう」
そう言った瞬間、俺は嫌な予感を覚え、咄嗟にしゃがみ込む。
夜中の校舎で散々鍛えられた成果だろう。
そのすぐ後を舞の剣が通過していく。
髪の毛、数本が持っていかれた…。
もし、少しでも遅かったら、俺の首は今頃……。
さ、流石に洒落にならないぞ。
「舞、危ないじゃないか!」
「大丈夫」
立ち上がりつつ上げる俺の抗議の声にも、舞は淡々と答える。
「峰打ちだから」
「おお、そうか。峰打ちだったのか。それだったら大丈夫だよな〜」
「うん、大丈夫」
「……所で舞。お前の持っている剣は両刃だって知ってるよな?」
「……」
舞は今、初めて知ったとばかりに自分の剣を注視する。
そして、拳で掌を叩くようにポンと合わせると、頷き出す。
「…勿論、知っている」
「い、今の間と仕草は何だ! お前、今完全に忘れてただろう」
「そんな事はない」
「嘘を吐くな、嘘を!」
「大丈夫」
「何がだ!」
「祐一ならきっと避けると信じていた」
舞は真顔でそんな事を言うが、俺は舞の頬に一筋だけ流れた汗を見逃さなかった。
「嘘吐けー! お前、それ今、考えただろう」
舞は完全に俺から目を逸らしつつ、そっと呟く。
「そんな訳ない」
「だったら、ちゃんとこっちを見て言ってみろ!」
俺の言葉に舞はこちらを向き、俺と視線を合わせる。
「嘘、ではない……」
「し、信じられるかー!」
「祐一、うるさい」
「誰のせいだ、誰の」
舞は不思議そうに首を傾げる。
本気で分からないらしい。
「お・ま・えのせいだー!」
「本当に!?」
驚いたように目を見張る舞を見て、俺は肩の力が抜けるのを感じる。
だ、駄目だ。幾ら言っても無駄だ…。
「もう良いよ」
こくこく。
俺の言葉に頷く舞。
そのちょっと可愛らしい仕草に、俺も完全にこの事を水に流す。
いや〜、我ながら素晴らしい性格だ。
などと一人頷いていると、向かい側のソファーから泣きそうな声が聞こえてくる。
「ふぇ〜」
「さ、佐祐理さん、どうしたんですか?」
「佐祐理、どうかした?」
慌てて俺と舞が佐祐理さんへと声を掛ける。
すると、佐祐理さんは少し悲しそうな笑みを浮かべる。
「別に大した事じゃないんですけど…。ただ、お二人は仲が良いな〜って。
佐祐理は二人の間に入れないんですね」
「祐一、佐祐理を泣かせるな」
舞はそう言って、今度はチョップを俺の頭に落とす。
「いってー。俺のせいかよ!」
俺の反論に舞は迷わず頷く。
うわー、決定ですか。これっぽちの余地もなく。
舞に何か言おうと口を開いたのだが、それよりも先に佐祐理さんが声を出す。
「やっぱり、お二人は仲が良いです〜。佐祐理は入れません…」
「そ、そんな事はないですよ。佐祐理さんなら、いつでもOKですよ」
「祐一の言う通り。佐祐理も大事」
「ふぇ〜、ありがとうございます〜」
俺達の言葉が本当に嬉しかったのか、佐祐理さんは両手を合わせて満面の笑みを浮かべる。
はぁー、やっぱり佐祐理さんは綺麗だな。
そんな感じで見惚れていると、横から突き刺さるような視線を感じる。
「何だよ、舞」
「祐一、佐祐理ばっかり見てる」
「何だ、舞も見て欲しいのか? どれ、見てやろう」
俺が舞の顔をじっと見詰めると、舞は照れたように少し俯く。
「別にそういう訳ではない」
「遠慮するな」
「してない」
「あははは〜。大丈夫だよ、舞。祐一さんはちゃんと舞の事も見てるよ〜」
「ああ、そうだぞ。現に、今もほれこうして」
じー、と舞を見詰めていると、その顔がどんどん赤くなっていく。
「あははは〜。舞ったら照れてる」
「照れてない」
舞は佐祐理の頭にチョップを入れる。
次いで、俺の頭にもチョップを落とす。
「祐一もいい加減にやめる」
「何だよ、舞が見てくれって言ったんじゃないか」
「そんな事は言ってない」
「あはは〜。舞ったら、照れなくても良いのに」
「だから、違う」
舞は忙しそうに俺と佐祐理さんに交互に突っ込みのチョップを入れていく。
そんな舞がおかしくて、俺と佐祐理さんはこの後も暫らくは舞をからかうのだった。
本当に、久し振りにこんなにゆっくりとした時間を過ごせる事を感謝しつつ。
つづく〜
<あとがき>
倉田家編第三弾。
美姫 「今回は、まだ遊びに出掛けないのね」
ああ。その前日といった所だな。
さて、残す所も後僅か。
美姫 「ラストスパートよ!」
……おう?
美姫 「どうして、そこで疑問形になるのよ」
あ、あははは〜、冗談だ、冗談…………、多分。
美姫 「最後の言葉が気になるけど、まあ、良いわ」
ほっ。
美姫 「とりあえず、さっさと次に取り掛かってもらうわよ」
ふっ、新たな戦場が俺を呼んでいる。
戦士に休む暇はないって事か…。
美姫 「はいはい、馬鹿な事は言ってないで、さっさと書きましょうね」
……シクシク。せめて、突っ込んでくれよ〜。
美姫 「はいはい。誰が戦士よ、誰が。アンタなんか、最初のレベル上げの為だけに倒される雑魚で充分よ。
戦士じゃなくて、戦死よ」
中々、寒いぞ、美姫。
美姫 「アンタが、言えって言ったんでしょうが!」
がばっ! ぐげっ!
お、俺は、突っ込めと言っただけで、そんな事を言えなんて、ひ、一言も……。
美姫 「この馬鹿ー!」
ぐげろっぴょぉ〜!!
美姫 「はぁ〜、はぁ〜。と、とりあえず、今回はこの辺で。また次回でね」