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/ 1.名雪の荷物を持って急いで行く。 *
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ああ、もう時間がないから仕方ない。
このまま行くか。
「名雪、荷物貸せ。急ぐぞ」
「ありがとう、祐一」
こうして、俺たちは学校へと急いで向かった。
『なゆちゃん、ふぁいとっ・・・だよっ。』
〜修学旅行編 Part.A〜
ぜーはー、ぜーはー。
「な、なんとか間に合ったな」
「うん」
さすが名雪は陸上部だけあってもう息も整ってきている。
ぜーはーっと。ふう。
やっと一息ついたところで、香里と北川が近づいてくる。
「おはよう、相沢君、名雪」
「おっす、相沢、水瀬さん」
「おはよう、香里、北川君」
「よう」
「しかし、相変わらずギリギリね、二人とも」
「そうだぞ。おかげでかけにもならない」
「かけるな。それに俺じゃなく名雪に言ってくれ。
いつも遅れるのは名雪のせいなんだから」
「う〜。そんなことないもん。
それに今日は私だけのせいじゃないもん。
祐一が朝からあんな、うぐ。もがもが」
とっさに名雪の口をふさぐ。
「ばかなこと言ってないでさっさと集合するぞ」
「あら、集合まではまだ少し時間あるわよ。
その話、ゆっくり聞きたいわね。ねえ、北川君」
「そうだな、ゆっくりと聞かせてもらおうか相沢」
「そんなこと聞く人、嫌いですっ」
「台詞が微妙に違うわよ相沢君。そんなことで誤魔化せるとでも?」
ちっ、鋭い奴め。仕方ない、あの手を使うか。
「仕方がないな。本当の事を教えてやろう。
聞いて驚くなよ。実は・・・」
「「実は?」」
同時に聞き返してくる北川と香里。
「今日の朝、不覚にも秋子さんの前で例のジャムの話を・・・」
「待って、相沢君。もういいわ。
事情はわかったから」
「そうか?」
「ええ」
「なんだ?どういうことだ?相沢、美坂。
俺にもわかるように教えろよ」
「北川、人間知らないほうが良い事があるんだ。
特にこれはな」
「そうよ、北川君。
何も知らないあなたがうらやましいわ」
「???。な、なんか知らんがこれ以上は何も聞かない方がよさそうだな」
「「懸命な判断だ(よ)」」
さすが、秋子さん。恩にきます。これで、魔の手から逃れることが出来ました。
(了承。ただし、後で食べてくださいね。新作もあるんですよ。)
そうです、了承です・・・って、な、なんだ今のは。
気のせい・・・だよな・・・。幻聴、幻聴・・・だといいなぁ。
はぁ〜。
「ところで、相沢。
水瀬さん、なんかぐったりしてるけど、大丈夫か?」
はっ。しまった、忘れてた。
名雪の口と一緒に鼻まで押さえてた。
慌てて、名雪から手を離す。
「ぷはっ。は〜は〜。
く、苦しかったよ〜。祐一、忘れてたでしょう」
少し涙目になって俺に抗議してくる。
「そんなことはないぞ。少し、うっかりしていただけだ」
「うっかりって。私もうすぐで窒息しかけたんだよ〜」
「おお、それは貴重な体験だな。
おめでとう名雪」
「ぜんぜんおめでたくないよ。祐一わざと言ってるでしょ」
「よくわかったな。えらいぞ、名雪」
「う〜」
「ほら、二人ともじゃれあってないで。
そろそろ集合の時間よ」
「じゃれあってなんかないよ、香里。
私、いじめられてたんだよ」
「名雪、人聞きの悪いことを言うなよ。
いじめてたんじゃなく、からかってたんだ」
「同じことだよ」
「違う。それは断じて違うぞ名雪」
「私にとっては同じだよ〜」
「はいはい、どう見てもじゃれあってるふうにしか見えないから。
さっさと行くわよ」
「待ってよ、香里」
「相沢、俺たちも行こう」
「ああ」
こうして、何事もなく無事?に俺たちは出発した。
「やっと着いたな〜」
バスを降りた北川が、開口一番そう口にする。
「ああ。長かった」
本当に長かった。学校からバスに乗り、そこから電車、そしてまた、バス。
ずっと乗り物に乗ってた気分だ。
実際は旅館に着くまでに幾つかの観光地を周って来たんだが、やっぱり長いと感じてしまう。
俺たちはグループごとに分かれ、各々与えられた部屋へと入っていく。
今日は初日という事もあり、夕食、入浴、自由時間、消灯となっている。
夕食後、入浴までの時間を北川たちと適当に過ごしていた。
「しかし、消灯時間が10時半ってのは早いんじゃないか?
なあ、相沢もそう思うだろ」
「う〜ん、確かに早い気もするが明日は11時が消灯時間なんだな」
「それでも早いと思うぞ、俺は」
「名雪にとっては早くないけどな」
「やっぱり、水瀬さんは早い時間に寝るのか?」
「そうだな、大体は10時までには寝てるな」
「それでまだ学校で寝てるのか。ある意味すごいな。
そんなので明日おきれるのか?」
「香里がいるから大丈夫じゃないのか」
「それもそうだな」
という感じで話しているうちに入浴の順番が回ってきたので、浴場へと向かう。
「混浴かな?相沢」
「そんな訳ないだろ」
「それもそうだな」
など馬鹿な話をしながら浴場に入っていく。
「う〜、いい湯だ。若返るな」
「北川、年よりみたいだぞ」
「ほっとけ」
そう言ったかと思うと今度は何か企んでいる顔になり、小声で話し掛けてくる。
「相沢、俺の仕入れた情報によるとここから少し行った所から女湯が覗けるらしい」
「な、どこからそんな情報を」
「ふっふっふ。それはいくら親友とはいえ、おまえにも言えないな。
とりあえず、行くか」
「馬鹿、やめろって」
「相沢、素直になれ。お前もみたいだろう」
「うっ」
「いいか、これは恒例行事の一つだ。
けして犯罪行為ではない」(※注:犯罪です。)
美坂や水瀬さんがいるんだぞ。行きたくないのか?」
「いや、いまさら名雪の裸を見たところでって、オホンゴホン」
「なるほどなぁ。水瀬さんの裸は見飽きたと。ほう」
ニヤリと笑い北川は続ける。
「その話は寝るときにじっくりと聞くとして、今は行くぞ」
「ばか、やめろ」
北川に名雪の裸を見られるのが嫌なんだが、それを言うとこいつは間違いなくからかってくる。
北川はそれを見透かしたかのように、
「安心しろ、水瀬さんは見ないから」
と笑いながら言ってくる。
「ば、ばかか。何を言ってるんだ。そんな事、関係ないぞ。
それに見ないといっても一緒に入っている以上、目につくだろうし、じゃなくて」
う〜ん、慌てているせいか、さっきから墓穴を掘っている気がする。
現に北川の奴もニヤニヤと笑ってやがるし。
このままやられっぱなしってのは腹が立つな。こうなったら・・・。
「わかったよ、北川。行きたければ行けばいい。
ただし、香里に言いつける」
「ぐ。相沢そんな手にでるか。
仕方ないあきらめるか」
そう言うと北川はがっくりと肩を落とし、湯船にブクブクと沈んでいく。
ふふふ、勝った。俺に勝とうなど100年と飛んで9ヶ月速い。
・・・。
なんかむなしい勝利だ。俺の力じゃなく美坂のおかげで勝った様な気がする。
まあ、いいか。
などと男湯の方で面白くもない勝負が行われていた頃、女湯のほうでは・・・。
「名雪、はやく入りましょう」
脱衣所で服を脱ぎ終わった香里が長い髪をアップにまとめながら名雪に声をかける。
「うん、今から脱ぐからちょっと待ってて」
香里に返事を返しながら、上着のすそに手をかける。
が、その手が途中で止まる。
「?。どうしたの、名雪」
「わ、私、今日ちょっと風邪気味だからお風呂は止めておくよ」
「そう。朝は元気だったと思うけど。
そう言えば顔が少し赤いわね。疲れが出たのかしら?」
「多分、そうだと思うよ。私は部屋にいるから香里はゆっくり入ってきていいよ」
「でも、一人で大丈夫?」
「うん、ごめんね。大丈夫だから心配しないで。
それじゃぁね」
言うや否や、すぐに脱衣所から出て行く。
「ふう、本当に大丈夫かしら。
まあ、本人が大丈夫って言ってるんだし、私はゆっくりさせてもらいましょう。
一応、後で相沢君に伝えておいた方がいいわね」
そう呟きながら浴場へと向かう。
丁度この頃、祐一と北川の勝負が始まるところだったが、その事は当然、香里も名雪も知らない。
・・・・・
・・・
・
しかしいい湯だった。横で北川が恨めしい目で睨んでいる気がするが、まあ気のせいだろう。
あれ?あそこにいるのは。
「よう、香里」
「あら、相沢君。丁度よかったわ。
ちょっと名雪の事で話があるのよ」
「どうした?何かあったのか?」
「どうも名雪、風邪気味みたいなの」
「本当か?」
「ええ、一応念の為にお風呂はやめたから。
相沢君の方でも名雪の事、気をつけていて欲しいのよ」
「ああ、わかった。名雪は今部屋か?」
「たぶんね。今から来る?」
「そうだな、一応、様子を見ておくか。
北川、先に部屋に戻っていてくれ」
「おいおい、俺も行くに決まってるだろう。
うちの学校は消灯から起床の時間以外なら行き来自由になってるとはいえ、
実際に行く奴はそういないんだから。
こんないい口実を見逃すわけないだろう」
「「北川(君)、おまえ(あなた)来なくていいぞ(わ)」」
「おいおい、相沢、美坂、冗談に決まってるだろ。俺だって水瀬さんの心配をしてるって」
「さっきの風呂の件もあるし、あやしいな」
「お、おい。相沢」
「お風呂の件?いいわ、北川君も来なさい」
「本当か!」
「ええ、その代わりお風呂の件とやらを聞かせてもらうわよ」
「あ!俺、用事を思い出したから。じゃあ、また今度ということで」
逃げ出そうとした北川の腕を香里がすばやく掴んみ、笑顔を向ける。
香里、目が笑っていないだけにその笑顔は怖いぞ。
北川も蛇に睨まれた蛙のように固まってしまっている。
「相沢君、何か言った?」
「いいえ、何も言ってません」
「そう。さて、北川君。行きましょうか?」
「ううぅぅ。遠慮します」
「そう。残念ね。
でも、よく考えたら、ここででも話は聞けるのよね。
じっくりと聞かせてもらいましょうか?」
北川が俺の方へすがるような目で見てくるが俺はそれを見ない振りをする。
ゆるせ、北川。俺だって命は欲しい。
お前の事は1時間ぐらいは覚えておいてやるから、おとなしく成仏してくれ。
ってこんなことしてる場合じゃない。
「香里、先に部屋に行ってるぞ」
「あら、そう。部屋はわかるわよね」
「ああ。じゃあな、北川」
「相沢、俺を見捨てていくのか〜」
後ろで北川が何か叫んでいた気がするが気のせいだろう。
とりあえず、名雪の様子をみるのが先だ。
コンコン
一応、他の女子がいたら困るからノックをする。
しばらくして、ドアが開けられる。
「あれ、祐一?どうしたの」
「ああ、香里におまえが風邪みたいだって聞いてな。
一応、様子を見に来たんだが大丈夫なのか?」
「え、だ、大丈夫だよ。今は私しかいないからとりあえず中にはいっておいでよ。
ところで、香里は?」
「香里は今取り込み中だ。
それより何か誤魔化そうとしていないか?」
「そ、そんなことないよ」
嘘の下手な奴だな。そんな様子じゃばればれだって。
「いいから、寝てろ。熱は?」
「ないよ。というか風邪なんか引いてないもん」
「本当か?」
「本当だよ」
う〜ん。どうやら本当に風邪ではないらしいな。
「じゃあ、何故風邪なんて言ったんだ」
「そうしないと、服を脱がないといけなかったから」
はぁ? はっきり言って名雪の言いたいことがわからない。
風呂に入るのに服を脱ぐのはあたりまえの事だろうし。
体型を他の女子と比較されるのが嫌だったのか?
しかし、名雪の体は他の人と比較しても全然見劣りしないどころかむしろ・・・って、
それは今はいい。そこ、なんで知ってるかなんてツッコミはするなよ。
「なあ、名雪。いまいち、よくわからないんだが」
「う〜。だから、祐一のせいでもあるんだよ」
「俺の?」
言われても全然思い当たる節がない。
俺が不思議そうにしているのがわかったんだろう、名雪は顔を赤くして俯きながら続ける。
「だから、祐一がそのわたしとするときに・・・つよくかむから・・・その痕が残ってるんだよ。
だから、服を脱げなかったの」
な、なるほどな。俺のせいでもあるな。たしかに・・・。
しかし、今度からは気をつけないといけないな。
「ねえ、祐一」
「ん、なんだ?」
「祐一の顔も赤いけど、熱でもあるの?」
「そんな訳ないだろう。おまえわかってて言ってるだろう」
「そうじゃなくて、もう祐一わかってないなぁ」
名雪は仕方がないって顔をして続ける。
「熱、計ってあげるよ」
そう言って、顔を近づけてくる。
「そうだな、お願いするか」
俺は名雪の身長にあわせてるように身を屈める。
ゆっくりと名雪の顔が近づいていき、額同士が触れそうになった時、
ガチャッ
「名雪、身体だいじょうぶ?」
突然のことに俺と名雪の動きが止まる。
どうやら、香里が制裁を終えて部屋に戻ってきたらしい。
しかも、同室の女子、数人と一緒に。
しばらくの間、お互いが金縛りにかかったように固まっていたが、
香里が真っ先に正気に戻ったらしく、
「ご、ごめんね、二人とも。
しばらく時間つぶしてから戻るわ。じゃあ、ごゆっくり」
と言い放ち、部屋のドアを閉めた。
しかし、そんなに厚くはないドアだ。
廊下で騒ぐ女子の声がいやでも聞こえてくる。
「え〜、相沢君と水瀬さんってそういう関係なの?」とか、
「そうなんじゃないの。だって、部屋で二人っきりであんな所見せられたらねぇ」とか。
そうじゃなくて、はやく誤解を解かないと。
別に名雪との関係は誤解ではないんだが、
今しようとしてたことの誤解は解いておかないと後々困ったことになりかねない。
「ちょっと待て。香里」
「ちょっと待ってよ。香里」
どうやら名雪も俺と同じ考えらしく慌てて廊下へと出る。
「なに、相沢君に名雪。
安心して、私たちは何も見てないから。ねえ」
香里が後ろの女子たちに尋ねる。
「そうそう」
「うんうん」
「私たち何も見てないよ」
なら、なぜ皆の顔が赤いんだ。
ってそんなことはこの際いいとして早く誤解って事を伝えなければ。
「香里、おまえ絶対に勘違いしてると思うぞ」
「そうだよ、香里。誤解だよ」
「あのな俺は名雪に熱がないかを計ろうとしただけだぞ」
できる限り平静を装って話す。
「よく思い出せ。額と額をくっつけていただろう」
「うーん。そう言われればそんな気がするわね」
「そんな気じゃなくて、実際そうなんだよ」
「フフフ。それもそうね。いくらあなたたちが間抜けでもこんな所であんなことはしないわね」
「まあな」
実際はあのまま香里が来なければキスぐらいはしていただろうが当然、そんな事は言わない。
かわりに、
「名雪はともかく。俺は間抜けではないぞ」
「それもそうね」
「そうだよ。私はともかく祐一はって二人とも、結構酷いこと言ってない?」
「気のせいだ」
「気のせいよ」
「う〜」
ふぅ、どうやら誤解は解けたようだな。よかった、よかった。
と思って油断したのが間違いだった。
「でもね、二人とも。普通あんな風に熱は計らないと思うわよ」
「ぐ」
「だ、だって、ほら祐一は従兄妹だし。
それに小さいときもこうやって計っていたから。ねえ」
「お、おう。その通りだぞ」
「ふーん。まあ、別にいいけどね。
つまり、栞にもまだチャンスはあるってことね」
「へっ」
「どういう事?香里」
「なんでもないわ」
なんかこのままだとやばい気がする。話を変えなくては。
「そうだ、香里。北川はどうした?」
「北川君?ふふ、別に死んではいないわよ。
ただ、廊下でねてるわ。よっぽど疲れてたのね。
起しても起きないんですもの」
香里〜。だからその笑顔は怖いって。
「ああ、そうそう、相沢君」
「な、何でしょうか?」
「なに変な言葉使ってんのよ。
自分の部屋に戻るなら北川君を連れて行ってね。
まだ廊下で倒れてじゃないわ、寝てると思うから。お願いね」
「わかりました。寝てる北川を部屋まで運んでおきます。
じゃあな、名雪」
「うん、バイバイ祐一」
「お休み、相沢君」
ふう、なんとかなったのかな?まあ、いいか。細かいことは。
とりあえず北川を回収して部屋に戻るとするか。
こうして、初日の夜はボロボロになっている北川を祐一が部屋まで連れて帰り、
何事もなく過ぎていったのであった。
「うぅぅぅ。俺は何事もなくではないぞ」(By 北川)
ばたっ
「北川それを自業自得って言うんだ」
・・・・・
・・・
・
翌日の朝の事、何故か女子数人の俺を見る目がおかしい。
具体的にどうおかしいってのかはわからないんだが。
俺とめが合うと顔を赤くして露骨に顔を背けるし。
俺、何かしたか?名雪以外の女子に恨まれるようなことした覚えはないんだが。
そんな様子に北川も気付いたらしく、俺に話し掛けてくる。
「おい、相沢。お前、何かしたのか?」
「いや、身に覚えが全くない」
「本当か。結構、お前のこと見てこそこそ話しているぞ。
今ならまだ間に合う。よく思い出してみろ」
「そんな事言われてもな」
「まさか、おまえあの後、女風呂を覗きに行って見つかったとか」
「んな事するか。お前じゃあるまいし。
それにそんな事ばっかり言ってるとまた、美坂に言いつけるぞ」
「・・・・・・」
ん?やけに静かになったな。
「どうした、北川。って、おい」
なぜか北川の目が虚ろになって虚空を見つめている。
おまけになにやら呟いているし。
「ブツブツ。・・・ごめんなさい。・・・ブツブツ
もう、しません・・・私が悪かったです・・・ブツブツ
許してください・・・ブツブツ・・・生まれて来てすいません・・・ブツブツ・・・」
昨日、一体何があったんだ。聞きたいような聞きたくないような。
それに今は北川に構っている場合じゃないしな。
「一体、なんだってんだ?」
「案外、お前のことが好きとかじゃないのか?」
「おう、斉藤か。
それは無いと思うぞ」
「そうか?でも今の反応はそれっぽいけどな」
「ないない」
「うーん。相沢、お前結構、人気があるの知らないのか?」
「へっ。そうなのか。それは初耳だな」
「そうか知らなかったというより、気付いてなかったのか。
まあ、水瀬さんがいるから他の女子を気にしていなかったってことか」
「な、なにを言ってるんだ、斉藤。
そんな訳ないだろう。なんで、名雪がここで出てくる」
「そんなに慌てて否定しても説得力がないぞ。
なあ、北川?」
「ブツブツ・・・もう、許してください。・・・
それだけは、それだけは許してください・・・ぶつぶつ・・・」
まだ、あっちの世界に行ってたのか北川。
「北川?北川!
相沢、北川はどうしたんだ?
昨日からあんな感じだったが」
「ふっ。人間知らないほうが良い事がたくさんあるんだよ。
そっとしておいてやってくれ。そのうち、戻ってくる」
「そうか」
しかし、なんなんだ。
女子のあの反応は。
「教えてあげましょうか?相沢君」
「うわっ。か、香里か。それと名雪。
いつの間に俺の後ろに」
「祐一、朝はおはようだよ」
「ああ、おはよう」
「なに馬鹿なことやってるの。
それより知りたいんでしょ。この原因を」
「香里は知ってるのか?」
「ええ」
「私も知りたいな〜」
「なんだ、名雪は知らないのか?」
「うん」
「はぁ〜。半分は名雪のせいだと思うけど」
「そうなのか?名雪」
「だから、私も知らないって」
「そうだったな。すまない、香里続けてくれ」
「そうね、その前に相沢君。
今、私たちを見て不思議だと思うことない。当然、女子たちの反応を別にしてよ」
「不思議なこと?」
口に出して呟いてみるが思い当たらない。
普通に香里と名雪が俺の目の前に立っている。
別に名雪の髪型をいつもと同じだ。
う〜ん。
名雪が朝からイチゴジャムとわめいていない事か?
でも、今日の朝食は和食のはずだからそんな事は言わないだろう。
苺には確かに目が無い奴だが、無い時にまで文句は言わないし。
それに、いつもは半分以上寝ぼけている状態だしな。
って、あれ?
待てよ。今はまだ6時前だな。
「なあ、名雪。お前、起きてるよな?」
「祐一、なに言ってるの。あたりまだよ」
「だよなぁ」
そう言ってまた俺は黙り込む。
おかしい。今、何か引っかかった気がする。
名雪がちゃんと起きていて、って起きてる。
今、6時前だぞ。なんで起きてるんだ。
「名雪!お前なんで起きてるんだ?」
「祐一、ひどいよ。6時半から朝食だから起きてるんだよ」
「いや、そうじゃなくて。よく起きれたな。
香里が起したのか?」
「残念ながら、私に起せるわけが無いでしょう。
名雪を起すことができるのは秋子さんか相沢君だけよ」
そうだよな。こいつがそう簡単に起きたら俺や秋子さんがあそこまで苦労はしないよな。
じゃあ、なぜ名雪は起きてるんだ?
「ひょっとして、祐一酷い事考えてない」
「そんな事無いぞ。なぜ、名雪が起きてるのか考えてただけだ」
「それじゃ、まるで私が起きれないみたいじゃない」
「いや、実際起きないだろ。
わかった。夢だなこれは。なるほど、早く起きないとな」
「祐一、極悪人だよ。夢じゃないよ。
起きないと皆に迷惑かけることになるから、
がんばって起きたんだよ」
「それはつまり、俺には迷惑をかけてもいいって事か?」
「そういうわけじゃないけど・・・」
「冗談だ。この件に関しては半分あきらめてるからな」
「うん、ごめんね祐一」
「気にするな」
「はいはい、朝から仲がいいわね。
私たちのことを忘れないで欲しいんですけど。
それに、相沢君かんじんな事がまだわかってないんじゃないかしら?」
確かに、香里の言うとおりなんだが。
女子の反応と不思議に思うことの関係なぁ。
とりあえず、不思議に思う事は名雪が起きてることであってるみたいだな。
あれ?ちょっと待てよ。
香里は名雪を起していないんだよな。
じゃあ、名雪はどうやって起きたんだ。
普段の名雪は目覚ましでも起きないんだぞ。
いや、例外があったな。
あの目覚ましを使えば起きれたはずだ。しかし、まさかな。
「おい、名雪。
今日、起きたのって目覚ましのおかげか?」
「わっ、びっくり。よくわかったね、祐一。
そうだよ、あの目覚ましのおかげだよ」
「あれを使ったのか!あれは使うなって言っただろう」
「でも、あれじゃないと起きれないし。
祐一に起してもらう訳にもいかないし。
仕方なかったんだよ〜」
「な・ゆ・き〜
おまえ、何考えてるんだ」
「多分、何も考えていないと思うわ。
まあ、相沢君には同情するけどね」
「香里、ひどいよ〜」
はぁ、そういう事か。
それで名雪と同室の女子があんな反応をするのか。ってことは。
「香里、おまえも聞いたのか?」
「ええ、当然よ。それと一つ忠告しておいてあげるわ。
間違いなく広まるわよこの話」
がぁーん・・・・
「はっはっは・・・」
「わぁ、祐一が壊れた」
ダメだ。もう、笑うしかない。
当分、立ち直れないかもしれない。
とりあえずは、
「名雪、覚悟はいいか?」
「え、えっと〜。ごめんね、祐一」
「待て。逃げるな、名雪!」
俺と名雪の追いかけっこは、皆が朝食を食べ終わるまで続いた・・・。
こうして2日目はいきなり波乱万丈で始まったのである。
「お腹すいたよ〜」
「うるさい。自業自得だ」
<Fin.>
<あとがき>
こんにちわ、氷瀬 浩です。
こっちは選択肢1のパターンですね。
いやーしかし、名雪の目覚まし時計の件はわざとやってたりして・・・。
(他の女子への牽制みたいな感じで)
でも、天然のような気もするし。
実際はどっちなんでしょうか?
それは今後の展開次第ですね。
というわけで、次回は選択肢2のパターンを書かないといけないな。
こちらも大体の構想は出来上がっているので、なるべく早くにできると思います。
では、次回。