『なゆちゃん、ふぁいとっ・・・だよっ。』

  第二話 「ライバル宣言 香里 Side」





気象庁による梅雨入り宣言から、数日が経ち、やっと梅雨らしく雨が降り出した日の放課後。

家に帰ろうと、鞄を持って席を立つ。

ふと、教室の窓際の席を見ると、相沢君と名雪が話し込んでいた。

「・・・・・、祐一が放課後になっても教室に残っているからどうしたのかなぁって」

「ああ、それはな。外を見ろ」

「外?」

名雪は、相沢君に言われたとおりに外を見て、その後、不思議そうな顔をして振りかえる。

「別に何もないよ」

「あのな、雨が振っているだろう」

「うん。確かお昼頃から降り出したんだよね。でも、かなりきつくなってるね」

「そういうことだ」

「どういうこと?」

本当に判っていない様子の名雪に苦笑しながら、私は答えを教えてあげる。

「つまり相沢君は傘を持ってきていないから、雨が止むまで帰れないってことよ名雪」

「香里の言うとおりだ」

相沢君と名雪はまた、会話を始める。私はその会話に加わりながらも、別の事を心の中で考える。

家まで来るなら、傘に入れてあげるわよ。そう言おう。

「ったく、これはすぐには止みそうもないな」

「じゃあ、私は先に帰るわ」

違う、こんな事が言いたいんじゃないの。

「止むまで一緒に待っててくれるとか」

「嫌よ。今日一日は止まないもの」

”だから、一緒に帰りましょう。”この一言を・・・。

よし、言うわよ。

「祐一、私、傘持ってるよ」

私が口を開く前に、名雪がそんな事を言い出す。

その後は、いつも通り、相沢君が名雪をからかうという展開。

相沢君は、名雪をからかいながらも、その目は、とても優しさに満ちている。

名雪も、それが判っているのか、怒ったふりをしながらも、その表情はとても嬉しそうにしている。

そんな二人を見ていると、なぜかズキリと胸が痛む。これ以上、この二人のやり取りを見ていたくない。

そう思った途端、私の口は勝手に動いていた。

「二人とも私がいる事、忘れてない?」

二人の返答からすると、本当に忘れていたみたいね。まったく、あきれるわ。

「ふーん。まあいいわ。それじゃ、帰るわよ」

私はそう言い放つと、先に教室から出る。


 ◇◇◇◇◇


相沢君と名雪は同じ傘に入り、学校から出る。

「名雪、もっとこっちに寄らないと濡れるぞ」

「う、うん」

「遠慮なんかするな。お前の傘なんだから」

そう言って、相沢君は名雪の肩を抱き寄せる。

二人はまた、私の存在を忘れて、二人だけの世界へ旅立ってしまったようね。

なぜか、そんな二人を見ていたくなくて、すぐに、ここから走り去りたい、という衝動に駆られる。

でも、それをすると、なんか負けた気がする。だから、私は意地でもここにいよう。

そんな事を考えていると、今度は名雪が、相沢君に抱きつく。

!!!!!

その後、二人は聞いているこっちが、恥ずかしくなるような事を言ってるみたいだが、

先程の光景で、ショックを受けている私には、全然、聞こえてこない。

ショック?私は、名雪が相沢君に抱きつく事にショックを受けている。

なんとなく、自分の気持ちには薄々、気付いていた。

でも、それは多分、もしかしたら、といった物で、今まで確証できなかった。

いいえ、認めたくなかったのかも。でも、いまので、気付いてしまった。

そして、気付いてしまったからには、誤魔化せないわ。

そんな、私に相沢君は話し掛けてくる。

「香里、何か怒ってないか」

「・・・っべ、別に怒ってなんかないわよ」

そう、これは怒っているんじゃないの。ただ、この気持ちをどうしたらいいのかが判らないだけ。

素直になるのが苦手だから。相沢君には、もう名雪がいるという事を、知っているから。

そんな私を、名雪が気遣ってくれる。

普段は、ぼけっとしているのに、こう云うときは妙に鋭いのよね。

そうね、名雪の言うとおり、何があっても、名雪と私は親友だと思うから。

だから、この気持ちを相沢君に言おう。



「・・・わ、私ね・・・」

私はそこまで言うと、恥ずかしくなって、傘に隠れる。これで、相沢君に顔を見られずにすむわ。

今、私の顔はものすごく赤くなっているだろう。こんな顔を相沢君には見せたくない。

本当はもう少し雰囲気のいい所で言いたかったんだけど、今という絶好のチャンスを逃したら次はいつになるのか判らない。

私は思い切って相沢君の顔を見る。

相沢君はいつもと同じ少し悪戯っぽい笑みを浮かべながら、しかし表情は真剣で私の事を見ている。

心臓がこれでもかという位、跳ね上がる。長距離走を全力で走った時よりも、動悸が激しくなっているのがわかる。

正直、自分がこんなにも緊張するなんて思わなかった。

いつもみたいに、クールな振りをして軽くできると思っていた。

でも実際は、そんなに簡単なものじゃない。栞の言うとおり、ドキドキして自分が自分でない感じになってる。

知らなかった。美坂香里の中に、こんな私がいたなんて。

でも、悪い感じはしないわね。多分、私がこんな風になるのは相沢君の前でだけみたいだし。

そうやって、色々と考えていると、さっきまでの緊張が少しましになってきた。

よし、はっきりと今の自分の気持ちを伝えよう。全てはそれから考えましょう。時間はたくさんあるんだから。

名雪、ごめんね。この気持ちだけは誤魔化せないの。

心の中で名雪に謝ってから、私は再び、相沢君に話し出す。

「あのね、相沢君。私、あなたの事が好き」

「・・・・・な、え、えええええええっ!!!!!」

「か、香里。何、言ってるの。大丈夫?しっかりして。気をしっかり持って」

そう告げた時の二人の顔ったら、面白いわ。これが、鳩に豆鉄砲くらった様な顔っていうのかしら。

特に名雪の慌てぶりは、横で見ていても面白いわね。

まあ、このままじゃ話が進まないので、とりあえず名雪を落ち着け、宣戦布告をする。

「でも、俺が香里の事を好きになるかは判らないぞ」

「別にその時は、その時よ。それに今の言い方だと、少なくともまだ脈はありそうだしね」

そう、まだ勝負は始まったばかりよ。名雪に負けないようにしないとね。

さて、今日の所はここらへんでいいかな?ここから、私の帰宅する道は名雪たちと分かれることになるしね。

でも、別れる前に名雪に教えといてあげないとね。

「あ、そうそう、名雪。これは忠告というか、警告というか。

 とにかく注意しなさい、私だけじゃないと思うわよ、相沢君に好意を寄せてるのって」

「えーーー。他に誰がいるの」

少なくとも、後、五人はいるわね。

「さあ、そこまでは言えないわ。彼女たちがどう行動するのか、今のところは判らないんですもの。

 とにかく、気をつけなさい。じゃあ、私はこっちだから先に帰るわ。さようなら、相沢君」

「ああ、さよなら、香里」

この後、きっと一悶着あると思うけど、これは私のささやかな意地悪ってことで、勘弁してね、相沢君。

確かに、誰にでも優しいって事は、良い事だとは思うわ。

でもね、それを勘違いしてしまう女の子っていうのは、結構たくさんいるのよ。

何も知らないっていうのは、結構、それだけで罪かもね。まあ、いいわ。

そういうところも含めて、好きになってしまったんだもんね。

傘をたたく雨音を一人聞きながら、心の中で誓う。

    相沢君、名雪。明日から、容赦しないからね。   



<Fin>




<あとがき>

やっと完成しました、なゆふぁい第二話 香里視点。

ニ話からできる限り、間が空かない様に頑張りましたが。

前回の物と比べて読んでみるのも面白いかも。保証はしませんけど。(笑)

では、また。




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