『なゆちゃん、ふぁいとっ・・・だよっ。』
第四話 「夏、到来!」
〜 祐一's view 〜
セミがやかましく鳴く7月。せっかく夏休みに入ったというのに朝早くからこの蝉の声で起こされてしまう。
全く、こんな時は名雪が羨ましいぞ。あいつは五月蝿かろうが、暑かろうが関係なく寝れるからな。
ベッドの上で寝返りを打つが一度目が覚めてしまった以上、もう寝ることはできない。蝉の声が五月蝿いってのもあるんだが。
一旦、ベッドから起きだして伸びをする。
うーん。いつまでも寝ていても仕方がないからな。起きるか。
そして、着替えると下へと下りて行く。
「うにゅ〜だーおー」
下に下りるとリビングから可笑しな呻き声が聞こえてきた。一体、なんなんだ?
疑問を感じながらもリビングへと入っていく。
そこにいたのは、テーブルの上で潰れている謎の物体Xだった。
「私は謎の物体じゃないよ〜」
「うお、謎の物体が喋った!」
「だから、違うって言ってるのに〜」
「ああ、冗談だ。おはよう名雪。ってなんでお前が起きているんだ」
「むっ、失礼だよ、祐一。私だって早く起きる事もあるよ」
「すまん、すまん。で、何をやってるんだ?」
「何もしてないよ〜。ただ、暑くって」
「確かにかなり暑いな」
ふと、温度計を見てみると・・・はぁ!何だこの温度は。暑いはずだ、って。
「名雪、何でクーラーを入れないんだ?」
「故障中ー」
「何!修理は」
「お母さんが頼んでたけど、2、3日後になるって」
「ははは、死ぬ〜」
俺も名雪の横に座ると机に突っ伏す。本当にあぢぃ〜。
「って、秋子さんは?後ついでにあゆと真琴」
「お母さんは仕事だってー。あゆちゃんと真琴は美汐ちゃんの所ー」
「そうか。秋子さんもこの暑いのに大変だな」
・・・あゆと真琴は美汐の所に逃げたな。
「そうだね〜」
って、完全にだれているな。
こんな感じでしばらく過ごし、昼になったので名雪の作った昼食を食べ、リビングのソファーに座る。
しかし、昼になって益々暑くなってくるな。冬はあんなに寒いのに夏は夏でこんなに暑くなるなんて詐欺だぞ。
横に座っている名雪は団扇で扇いでいる。
「名雪、俺も扇いでくれー」
「いやだよ。私だって暑いんだから。自分で扇げばいいじゃない」
「お前の持っているやつ以外で、どこに団扇があるんだよ」
「ないの?」
「あったら聞かないだろ」
「多分、どこかにあるから探してみたら?」
「暑いから嫌だ。えーい、お前のをよこせ〜」
「わ、わわわ。祐一、酷いよ。これは今、私が使ってるのに〜」
「取ったもん勝ちだ」
「だったら、私がもう取ってるじゃない」
「知らん!」
「わわわ」
そのまま名雪の持っていた団扇を奪い、扇ぐ。はぁ〜、少しはましだな。
「う〜〜」
名雪がこっちを睨んでくる。・・・・・・・・・・・・。
「祐一は悪人だよ。ううん、極悪人」
・・・・・・無視、無視。
「う〜〜。祐一は私の事、愛してないんだ〜。だから、そんな酷いことが平気で出来るんだよ。
祐一は私の身体が目的だったんだ・・・。で、飽きたらポイッなんだ。酷いよ〜」
「だぁぁーーー。なんで、たかが団扇一つでそうなる。大体、そんな言葉どこで覚えた!」
「たかがって言うんなら返してよ団扇。それと、言葉は栞ちゃんに借りた本に載ってたの」
栞、何て本を貸すんだ。今度、会ったらよく注意しておこう。
「団扇、返してよ〜」
えーい、しつこい。
「酷いな〜名雪は。俺のことを愛していないんだなー。だから、そんな事が平気で言えるんだ。
どうせ、名雪の目的は俺の身体だったんだ・・・。で、飽きたからポイッなんだ。酷いな〜」
「わ、わわわ。な、何言ってるのー」
名雪が慌てて何かを言おうとする。うーん、面白い奴だ。でも、あまりからかうのも可哀相だしな。このへんで勘弁してやるか。
「冗だ・・・・・・」
「わ、私、祐一の事愛してるよ!・・・・・・あっ」
名雪は自分の発言に気付き、顔を赤くして俯く。俺も顔を赤くしてどうしたらいいのか迷う。
・・・・・・。妙な沈黙がリビングにおりる。
「あ、暑いな」
「そ、そうだね。クーラーが故障してるからね」
・・・き、気まずいな。
「ほ、ほら団扇」
「えっ?」
「暑いんだろ?だったら使えよ」
「で、でも」
「いいから、ほら」
「・・・ううん。やっぱり、いいよ。祐一が使って」
「え、いいのか?」
「うん」
「そ、そうか。じゃあ、遠慮なく」
俺が団扇で扇ぎだすと、名雪が反対の腕にしがみついてくる。
「へへへへ。これなら私も風に当たることができるし」
「成る程な。なかなか考えたな」
「まあね。ほら、祐一もっと力を入れて扇いでよ」
「おう、まかせろ」
俺は名雪にも当たるように少しだけ位置をずらして、再び扇ぐ。
で、5分も経たないうちに・・・・・・
「あ、暑い・・・」
「うん。ちょっと暑いね」
「よく考えなくても、こんなにくっついてたら暑いに決まってる」
「ははは、忘れてたよ」
やっぱり名雪は名雪だ。どこかぬけてる。
「・・・で、いつまでくっついている気だ?」
「もう少しだけ」
「えーい、暑い」
ただでさえクーラーが故障していて、暑いのに。更に、べたべたとくっつかれたら尚、暑い。
という訳で名雪を引き離そうとする。すると、名雪は泣きそうな顔をして、
「私とこうしているのは嫌?」
ぐぅぅ。こ、この攻撃はずるいぞ。しかし、このままだと暑いし。うぅぅぅ、だぁぁぁぁ。
「好きにしろ!」
「うん」
はぁー、俺もつくづく名雪に甘いよな〜。まあ、仕方がないか。
そんな調子で午後のお日様が最も頑張っている時間、俺と名雪はずっとくっついていた。まあ、たまにはこんな日があっても良いか。
そのうち、海へ行こうという話になり、二人だけで出かける予定を入れる。
まあ、北川や香里たちを誘うってのも考えたんだが、それは後日にして、まずは二人だけでという事になった。
うーん、名雪と二人で海か。すごく楽しみだな〜。
〜 another's view 〜
リビングに面する廊下。そこに三つの人影があった。あゆ、真琴、美汐の三人である。
三人は先程、帰ってきたのだが、祐一たちの話を聞き、その場でそのまま盗み聞いていた。
「うぐぅー。僕も海に行きたいよ〜」
「あう〜。真琴だって行きたいわよ!私を置いて行こうだなんて許さないんだから」
「二人だけでなんて、そんな酷なことはないでしょ」
一方、庭にも二つばかり人影があったりする。香里と栞である。
二人はたまたま遊びに来た時に、リビングで抱き合っている(二人にはそう見えたらしい)祐一と名雪を見て、
そのまま庭へと回ってきたのだ。そこで、先程の会話を聞いてしまった。
二人は無言で庭から出ると、お互いに顔を見合わせて無言の笑みのまま家に帰っていった。
水瀬家から場所を離れたここ倉田家。その屋敷の一室に二人の女性の姿があった。
佐祐理は今までつけていたイヤホンを外すと、舞に向って笑顔を浮かべて話し掛ける。
「あはははー。舞、今の聞きましたねー」
「はちみつくまさん」
「こんな事もあろうかと用心していて正解でしたね。まさに備えあれば憂いなしですね」
佐祐理の恐ろしい台詞に舞は無言で頷く。
「じゃあ、私たちも準備をしましょう」
「はちみつくまさん」
こんな事になっているとは、祐一も名雪も当然ながら知らず、ただ海に行くことを楽しみにしていた。
さてさて、どうなる事やら。
<Fin>
<あとがき>
なゆふぁい第四話、やっと完成だね。
美姫 「この展開からすると次回は海水浴ね」
そうだよ〜。できればこの夏中に書きたいものだ。
美姫 「いや、浩次第でしょ。それは」
そうなんだけどね。ははは。
美姫 「まあ、今回は短いけど、ここらへんで」
じゃあ、また次回!