『なゆちゃん、ふぁいとっ・・・だよっ。』

  第六話 「夏祭り」





 〜 祐一's view 〜



8月の中旬、近くの神社で祭りがあるという事で俺たちは夕方頃から行く事にした。

「おーい、名雪まだか?」

「後、ちょっと」

俺は玄関で名雪が来るのを待つ。
先程から同じ様なやり取りを繰り返している。

「祐一、祐一。どうよ」

リビングから駆け寄って来た真琴が俺の前で立ち止まり、自慢気に自分の浴衣姿を見せびらかす。
その後ろからあゆもやって来て真琴の横に並ぶ。

「どう、祐一君?」

俺は二人をじっくりと見てから、まず最初に真琴に声をかける。

「馬子にも衣装」

「むっきー、なんですって〜」

「ぼ、僕は」

「うーん。あゆ……」

「な、何」

「胸がなくて良かったな。よく似合っているぞ」

「うぐぅ〜、それセクハラだよ〜」

「はいはい。背中と胸の区別がつくようになってから言え」

「うぐぅ〜、祐一くん酷いよ」

「それよりも名雪はまだか?」

「名雪だったら、もうすぐ来るわよ」

真琴の言葉を肯定するかのように名雪が現われる。
で、俺はそのまま名雪から目を離せずに凝視してしまう。
その視線に気付いたのか、名雪は頬を朱に染めると上目でこちらを見てくる。

「へ、変じゃないかな」

「あ、ああ。その、何だ。よく似合ってるよ」

照れくさくなり、頬をぽりぽりと掻きながら明後日の方を見る。

「あ、ありがとう」

名雪も恥ずかしいのか俯き、もじもじとしている。
そんな俺達をあゆと真琴が睨んでいるような気もするが、些細な事だ。

「些細じゃないわよ!真琴たちの時と全然反応が違うじゃない!」

「真琴の言う通りだよ」

それは仕方がないだろ。
俺にとって名雪は特別なんだから。
普段と違う格好をしているだけでなく、それが凶悪までに似合っていて可愛いんだぞ!
特に今の恥らう表情なんて、最高だ!比べる事すら馬鹿げている。
改めて、名雪の可愛らしさを認識させられたな。
まあ、二人は引き立て役といった所だな。

「うぐぅ〜、そこまで言う」

「祐一の馬鹿!人でなし!」

ったく五月蝿い奴らだ。ん、何で会話が成り立っているんだ?

「………って、ひょっとして口に出していたのか?」

「「うん」」

同時に頷く二人。うーん、声に出ていたか。反省反省。

「反省するのはそこだけなの?」

「そうよ、真琴たちに対して謝りなさいよ」

「なんでだ?俺は本当の事しか言ってないだろうが」

「うぐぅ〜」

「あう〜」

二人は反論出来ずに唸り声(?)をあげる。
って、ここは動物園か、それも珍獣の。
そんな二人を放っておいて名雪を見ると、何故かさっきよりも真っ赤になって俯いている。

「どうしたんだ名雪?」

「べ、別に何でもないよ」

「なら、良いが」

首を傾げながらもとりあえずは納得しておく。
と、名雪の後ろから笑顔で秋子さんが現われる。

「二人とも相変わらず仲が良いわね」

「そ、そんな事は……ありますけど」

「ゆ、祐一!」

「何を今更。それとも俺と名雪の仲は良くないのか?」

「そんな事ないよ!」

「だったらいいだろ」

「う、うん」

そっと名雪の髪を撫でる。名雪は嬉しそうに笑い、目を細める。
俺もそんな名雪を見て、そっと笑みを浮かべる。

「真琴、ひょっとして僕たち忘れられてる?」

「何かそうみたい。むかつくわね」

「それよりも待ち合わせの時間は良いんですか?」

『あっ』

秋子さんの一言で全員が大声をあげる。

「急ぐぞ」

「わっわわ、これじゃ走れないよ」

「良いから急ぐぞ!」

俺は名雪の手を取り走り出す。

「祐一くん、待ってよ〜」

「祐一ー!待ちなさいよー!」

後ろからあゆと真琴の声がしたが無視する事に決め、待ち合わせ場所の神社へと向った。





 〜 another's view 〜





神社の前に立つ二人の美女。
そこを通り過ぎて行く者皆が皆二人を見ていく。
その美女の所へと数人が近づいていく。

「あ、祐一さん」

「おう、祐一さんだぞ」

「あははは〜。時間丁度ですね」

「何とか間に合いましたか」

「祐一さん、佐祐理の浴衣姿はどうですか?」

祐一は佐祐理をじっくりと眺めると親指を立てて笑みを浮かべる。

「もう最高ですよ佐祐理さん!これなら問題ありません」

「ふぇ〜、何がですか?」

「俺の嫁にですよ」

「あははは〜、ありがとうございます」

「祐一!何を言ってるの!」

「い、イタタタ。じょ、冗談だから耳を引っ張るな〜」

「むー、どうだか」

名雪は膨れながらも祐一の耳を離す。

「冗談に決まってますよねえ、佐祐理さん」

「別に佐祐理は本気でも構いませんよ」

そう言って恥ずかしそうに頬を染め、両手で押さえる。
その反応を見た名雪の視線が更に冷たくなり祐一に突き刺さる。

「佐祐理さ〜ん」

「あははは〜」

「あゆも真琴も何とか言ってくれよ〜」

「そんなの知らないわよ!自分で何とかすれば」

「ごめん祐一くん。僕には無理だよ」

「……いや、頼んだ俺の方が悪かった」

「どういう意味よ」

「別に」

「むっきー!」

「はいはい、どうどう」

「真琴は馬じゃないわよ」

「確かにな。その下に鹿がつくんだろ」

「鹿……?なんで鹿なのよ」

「真琴、真琴。その前に馬がつくんだよ」

「ウマシカ?……って、祐一ィー!」

殴りかかってくる真琴の頭を片手一本で押さえ、軽くいなしながら祐一は名雪に話し掛ける。

「で、いい加減機嫌を直せよ名雪」

「はぁ〜別にもう怒ってないよ」

「そうか、そりゃ良かった」

「ただ、後で何か一つ言う事を聞いてもらうからね」

「………分かった」

諦めたように頷くと改めて周りを見て、

「これで大体は揃ったな。後は香里に栞、美汐に舞だけか」

そう言った祐一の頭にチョップが落ちる。

「……私もいる」

「一体いつの間に!」

「始めからいた」

「そうだな、何か食べてて喋れそうもなかったみたいだったな」

「たこ焼きは熱いうちに食べる方が美味しい」

「そりゃ、まあな」

「…………」

「どうしたんだ、舞?」

「私には挨拶しないの?」

「………そうだったな。よう、舞」

「よう、祐一」

そんなやり取りをしていると、一人の女性が祐一たちに近づいてくる。

「皆さん、お待たせしました」

「美汐〜♪」

「こんばんわ真琴」

そう言って微笑みながら真琴の頭を撫でる。
真琴も嬉しそうに大人しくしている。

「よう、美汐」

「祐一さんもこんばんわ」

やって来た美汐と挨拶を交わしてる間に、向こうから人影が近づいてくるのを見つける。

「お、香里たちも来たみたいだな」

「本当だ。香里〜」

香里に向って手を振り大声で名前を呼ぶ名雪。
それに対し遠目でも分かるくらいに頭を抱える香里。
香里は合流するなり、名雪に向って、

「名雪、アンタね〜」

「わっわ、どうしたの香里」

詰め寄る香里に本当に訳が分からないといいった様子で名雪は尋ねる。
それに文句を言う気力もなくなったのか、香里は溜め息を吐くと肩を竦めて見せる。

「はぁ〜、もういいわ」

「祐一、香里どうしたんだろうね」

「………香里、諦めろ。コイツはこういう奴だ」

「分かってるわ」

「二人ともひょっとして、ひど………」

「「気のせいだ」」

「そ、そう……」

名雪の台詞を遮るように言う二人に名雪は驚きつつも何故か納得する。

「祐一も大変ね〜」

「まあな。でも、結構なれたけどな」

「ふふふ」

香里は怪しく笑うと祐一の腕をそっと取り自分の腕に絡める。

「お、おい」

「名雪が嫌になったらいつでも言ってよね」

「か、香里。そんなに引っ付くなよ」

「あら、どうして」

そう言うと香里は更に祐一の腕を抱く力を込める。

「お前分かっててやってるだろ」

「さあ、何のことかしら?それよりも気持ちよくない?」

「いや、確かに気持ち良い事は良いんだが……」

「だったら、いいじゃない♪」

香里は祐一の耳元に唇を近づけ、その耳に息を吹きかけながら甘い声で囁く。
その行為に祐一の頬が緩む。それを見た他の女性達から剣呑なオーラが立ち上る。
そして、一際大きなそのオーラの持ち主が祐一の肩を掴み、香里から引き離す。

「ゆ・う・い・ち〜、何をしているのかな〜」

「ま、待て、俺は別に何もしてないぞ。あれは香里の方から」

「あら、別に腕を組むぐらい良いじゃない」

「駄目だよ!」

「名雪、独占欲が過ぎると嫌われるわよ?」

「うっ……で、でもこれはちょっと違うと思う」

「そうですお姉ちゃん。何てことをするんですか」

「悔しかったら栞もしたら良いじゃない。まあ、最もその体じゃね」

そう言って笑い飛ばす香里に栞は顔を赤くして捲くし立てる。

「な、なななな。何を言ってるんですか私はまだ成長期なんです。まだまだこれから大きくなります。
 もう成長の止まったお姉ちゃんなんかすぐに追い抜きます!」

「私を追い抜くって何年後の話よ。私が栞と同じ頃はもっとあったわよ」

「な、そんなのずるいです」

「何がずるいのよ」

「だ、だって同じ姉妹なのに」

「そんなの知らないわ。兎に角、私に追いつくのはまだまだ先ね」

「うぅ〜。で、でも後は垂れるだけの人には負けません」

「誰がよ、誰が!私はそこまで歳を取ってないわよ。それに、私はまだ成長止まってないわよ」

「なっ、卑怯です」

「卑怯って……」

「そんな人嫌いです」

「そんな事言われても、成長する人はまだするし」

「なるほどな。それで名雪の奴も最近……」

「わっわっわ祐一、何言ってるの」

先程まで怒っていた事も忘れ、慌てて祐一の口を塞ぐが既に遅く香里がじと目で二人、特に祐一を見る。

「祐一、どうして名雪が成長してるって知ってるのかしら」

「私も聞きたいです」

栞の言葉に今まで事態を傍観していたあゆたちも一斉に頷く。

「そんな事はどうだっていいじゃないか」

「うんうん。祐一の言う通りだよ」

「い〜え、詳しく聞きたいわね」

「そ、それよりも全員揃った事だし、そろそろ行こうか」

「そ、そうだね」

皆に背を向けて歩き出す祐一と名雪。
そんな二人を見ながら溜め息を一つ吐くと香里はその後を追う。

「まあ、今日は許してあげるけど、今度じっくり聞かせてもらうわ」

「……勘弁してくれ」





 〜 祐一's view 〜





夜店を色々と周り、そろそろ花火の始まる時間となった。
で、舞が花火がよく見える場所があると言うので全員でそこに向う事になったんだが………。
なんで、こんな所を歩いてるんだ?
俺達が今いる場所は周りに明かりもなく、足元は膝までに届こうかというほどに伸びたなんかの草が生い茂っている。
行く手には若々しい葉をつけた木々。そして……何よりこの斜面。
そんなに急勾配ではなく、ちょっとした坂程度なのだが、いかせん暗くよく見えない。
下手をしたら転ぶな。

「おい、舞。本当にこっちでいいのか」

「こっち」

「祐一〜、足元がよく見えないよ〜」

「大丈夫か名雪。ほら掴まれ」

「ありがと」

名雪に手を貸し、一緒に歩く。
俺達の後に続くあゆたちも悪戦苦闘しているみたいだな。
そんな俺達に構わずに舞は佐祐理さんの手を引き、どんどん奥の方へと歩いて行く。
あいつ、この暗がりで見えてるのか。いや、見えてるんだろうな。

「おい、舞。もう少しゆっくり歩け。俺はともかく、あゆたちはついて来るので精一杯だ」

「……はちみつくまさん」

とりあえず一旦立ち止まり、あゆたちが来るのを待つ。

「大丈夫か?」

「うぐぅ〜、暗いし疲れたよ」

「はぁー、栞、大丈夫?」

「はぁ、はぁ。……だ、大丈夫です」

「美汐、大丈夫?」

「………え、ええ。ありがとう真琴」

栞は香里に、美汐は真琴にとそれぞれ手を引っ張ってもらっているが、何とか全員無事のようだな。
って、たかが花火見物で無事も何もないんだがな。

「で、舞。後どれぐらいだ?」

「あと少し。そこを抜けたらすぐ」

「そうか。じゃあ、後一踏ん張りだな。と、いう訳で行くぞ」

少しだけ休憩を取ると舞を先頭にもう一度歩き始める。
そして、舞の言った場所を抜け、そこにあった柵を乗り越えるとちょっとした広場みたいなものが広がっていた。
周りには何も建物はなく、人もいない。
確かに穴場だな。
俺たちの後から着いたあゆたちからも安堵と感嘆の混じりあった吐息が出る。

「結構、いい場所だな」

「うん」

「あ、そろそろ始まる時間ですよ〜」

佐祐理さんの言葉を合図としたかのように、どーんという音と共に夜空に色とりどりの花が開いていく。
俺たちは言葉をなくし、ただ目の前の光景に見入る。
と、俺の腕を名雪が取る。

「綺麗だね」

「ああ……」

名雪も綺麗だ、という台詞を飲み込む。
ふと視線を感じて名雪の方を見る。
他の連中に聞こえないように小声で話し掛ける。

「どうした?」

「ううん、何でもない」

「何だそれは。良いから素直に言え」

「言わない」

「言え」

「嫌」

「言わないと当分の間、起こした方を昔に戻すからな」

「うぅ〜、それはずるいよ」

「ずるくない。嫌だったら言う」

「うぅぅぅ。笑わない」

「………ああ」

「今の間は何?」

「気にするな」

「ただ、来年も祐一と一緒に見れたら良いな、って思っただけ」

そう言うと名雪は恥ずかしそうに俯く。
そんな名雪に俺は腕を解くと、その手で頭をそっと撫で耳元に囁く。

「見れるさ。来年も再来年もこれからずっとな……」

「祐一……」

「名雪……」

皆が花火に夢中になっているその後ろで、俺と名雪はそっと唇を合わせる。
唇が触れ合った瞬間、一際大きな花火が夜空に上がり、暗闇にいる俺達を彩った。





<Fin>




<あとがき>

なゆふぁい第6話は夏祭りの話だよ。
美姫 「浩………。今は11月。しかも下旬」
いや〜、この季節のずれが長編ならではですな〜。
美姫 「浩が書くの遅いだけなんじゃ」
そんな身も蓋もない事を……。
美姫 「でも事実♪」
そうなんだけどね。
美姫 「じゃあ、次回予告!次々と起こる不可思議な事件!」
起こらん、起こらん。
美姫 「天才美少女名探偵、美姫の名推理が冴える」
冴えない、冴えない。
美姫 「次回、美少女剣士 美姫、第7話【美姫ちゃん頑張る!】」
って、作品が変わってるだろうが!
美姫 「乞うご期待!」




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