『IF・・・』
もしも、ラクウェルが廃棄王女だったら・・・
裏街道から少し外れた林の中に少しだけ拓けた場所がある。
そこに今、野営の準備をしている三人の若者の姿があった。
その三人とは言わずとしれた、シャノン、ラクウェル、パシフィカの三人である。
正確には野営の準備をしているのはシャノン一人だけだったが。
準備が一通り済んだ所で、今まで準備をしていたシャノンにパシフィカが声をかける。
「ねえ、シャノン兄、私ラクウェル姉に護衛がいるのかちょっと疑問なんだけど」
「言うな、パシフィカ。それは俺も充分に感じている」
「酷いわ二人とも。こんなにもか弱い私にその言い草は」
言って、ラクウェルはよよよと泣き真似を始める。
「しかしなぁ」
「しかしねぇ」
シャノンとパシフィカの見つめる先にはラクウェルが泣き崩れている。
ここまでなら問題はないのだが、そのラクウェルの背後には一体の巨人──第一戦術級攻性魔法・トール<武雷神>──が立っており、
周りには体長30cmぐらいの奇怪な生物もどき──スーピィくん武雷神──が複数蠢いている。
これらはラクウェルの魔法によって生み出された半自立型攻性魔法である。
トールはその内部に雷を封じており、その威力は雷数十発分に匹敵する。
一方、スーピィくんたちはラクウェルがトールを元に開発したもので、
威力は複数の上、小型化されている為トールには遠く及ばないがそれでも人を戦闘不能にする事は可能である。
こんな物を相手にしようとするのは、よっぽどの命知らずかただの馬鹿だけとシャノンやパシフィカが思うのも無理はないかもしれない。
まあ実際は、ずっとこれらを起動させておける訳じゃないので護衛がいるのは確かなのだが。
「はぁ〜、とりあえず飯にするか」
「うんにゃ、そうだね」
シャノンたちは未だに泣きまねをしているラクウェルを無視して、夕食の準備を始める。
「あら、料理をするのシャノン?」
「ああ、ってラクウェルおまえはやらなくていいからな」
「あら、大丈夫よシャノン」
「いいから大人しくしてろ」
「シャノン兄ぃ。ちょっと来て」
「どうしたパシフィカ」
「お皿とかってどこに仕舞ったっけ」
「ああ、今行くからちょっと待ってろ。ラクウェル火加減を見ていてくれ。
いいか見ているだけだからな」
シャノンはラクウェルに念押しをしてからパシフィカの元へと行く。
「心配性ねシャノンは。これはスープを作っているのかしら」
ラクウェルは火にかけられている鍋の中身を見て、そう判断する。
「うーん。これだったら一気に加熱したほうがいいわよね。
シャノンは・・・っと、まだ馬車の中みたいね。今のうちに」
ラクウェルは近くにシャノンがいない事を確認すると魔法を起動させるためにスペルを唱えだす。
丁度その時、シャノンとパシフィカが馬車から出てきて、呪文を詠唱中のラクウェルに気付く。
「ば、馬鹿やめろラクウェル」
「にょわーー、ラクウェル姉やめてぇ」
ラクウェルの行動を止めるために言葉を投げる二人。
しかし、ラクウェルはそのまま魔法を発動させる。
ドンッ
大きな爆発音と共に鍋もろとも吹き飛ばされる三人。
普通なら鍋が爆発する程度で済んだかもしれないが、ラクウェルは今現在トールを既に起動していた。
この為、火力を少しだけ上げたつもりがこの惨状である。
「うーん、おかしいわね。今度こそは大丈夫だと思ったんだけど」
「シャ、シャノン兄、生きてる〜?」
「あ、ああ、なんとかな」
「やっぱりラクウェル姉には護衛は必要ないんじゃないかな」
「いや、護衛をつけてあいつに魔法を使わせない方が良いと思う」
「それ、賛成かも・・・。
もしかして、世界を滅ぼすって、こういう事を繰り返していくうちにとんでもない魔法を編み出して制御に失敗するから、とか?」
「パシフィカ、その冗談は笑えないぞ」
お互いに目を合わせ、ラクウェルの方を見る。そこでには何かを考えているラクウェルがいた。
「うーん、あれをああすると・・・だから、こうして・・・」
「「・・・・・」」
その様子を見て、シャノンとパシフィカは自分たちの言った冗談が真実かもしれない等と胸中に思いながら立ち上がる。
そんな二人の思いなど気付きもせず、一人で呟きながら自分の思考にはまっていくラクウェル。
二人は顔を見合わせるとため息をつきながら、後始末に取り掛かっていった。
こうして彼らの旅は明日もまた続いていくのであった・・・。
この後、数日間魔法の使用を禁止されたラクウェルが禁断症状に襲われ、暴走するのだがそれはまた別のお話。