『Present for Miyuki』






11月24日(金)



夕日によって紅く染まった住宅街を一人の青年──高町 恭也が歩いている。
その様子から察するに何やら考え事をしているようである。

(うーん。明日の件はどうすればいいのか、さっぱり判らん。
 大体、母さんたちも言うだけ言ってそれで終わりというのはないだろう。
 まあ今更言っても仕方がないか。)

「はぁ、とりあえず駅の方にでも行ってみるか」

ぼそっと呟きを洩らして駅前へと向かって歩く。
そもそも恭也が悩むことになった原因は、今からほんの数時間前に遡る。







「はい?なに?ごめん恭也、かーさんよく聞こえなかったみたい。もう一度言ってくれる?」

高町家のリビングに桃子の声が響く。
桃子は休憩時間に家に戻って来て何やら作業をしており、一段落した所でお茶を飲みながら恭也たちと話をしていた。
そして、その会話の中で恭也の言った一言に対する桃子の返答が先程の物だった。
ちなみに今ここにいるのは恭也と妹のなのは、そして高町家の食事を担っているレンと晶の4人である。

「だから明日の美由希の誕生日のプレゼントは刀だと言ったんだ」

「師匠、刀ってあの刀ですよね」

「ああ」

「お師匠、さすがにそれはどうかと」

「そうか。美由希はかなり刀が好きだから問題はないと思うが」

「お兄ちゃん、いくらお姉ちゃんが刀好きでも誕生日のプレゼントとしては・・・」

「むっ」

「そうよ恭也。それに私はよく知らないんだけど、刀って結構高い物だったと思うんだけど」

「それは問題ない。井関さんが特別に安くしてくれたから」

「他になんかなかったの」

「これと言って思いつかなかった」

「もう少し女の子向きの物の方が良いと思うんだけど、かーさんとしてはね」

「しかし今からではもう遅いと思うが」

「お師匠、そやったらもう一つ別のもんも用意したらどうです」

「別のものか」

「そうですね。美由希ちゃん読書家ですから本なんてどうですか」

「いや、それだと何を買ったらいいのかがわからない。あいつは結構な数の本を今まで読んでいるからな。
 下手をしたらすでに持っているという事もある」

「そうですね。この間も図書委員の手伝いをして、いらなくった本を何冊か貰ってきてましたし」

「これやからおさるは。大体、おさるが考え付くような事、お師匠はとうに気付いてるに決まってるやろ」

「なんだとー、このミドリガメ。喧嘩売ってんのか」

「なんや、やるっちゅうんか?」

「おもしれー、やってやろうじゃないか」

「はっ、返り討ちや」

「こらー、二人とも喧嘩はだめ」

「「なのちゃん(汗)」」

なのはが今にも掴みかかろうとしていた晶とレンの間に立って睨みつける。
その途端、二人は急に大人しくなる。
その様子を苦笑しながら見ていた桃子が恭也に話し掛ける。

「恭也、とにかく他にも何か買うにしても早く行かないと時間がなくなるわよ」

「そうだな。とりあえず外に出て考えてみる事にする。
 母さん、店の方は大丈夫なのか」

「そうね、明日のケーキの下準備も終わったし、もうそろそろ戻らないといけないわね。
 あと少ししたら店には戻るから心配しなくても大丈夫よ」

「そうか。なら俺は少し出かけてくる。夕飯までには戻るから」

「「「「いってらっしゃい」」」」

「ああ、いってきます」





(ふー、駅前までやってきたのは良いが、どうしたもんかな。
 それに、刀を買ったから金があまり残っていないし)

「あれ、恭也君?」

「え、あ、耕介さん」

「どうしたんだい、こんな所で」

立ち止まり考え込んでいた恭也に声をかけたのは那美の下宿先、さざなみ寮の管理人兼コックの槙原耕介だった。
恭也は美由希と何度もさざなみ寮を訪れており、そこに住んでいる住人たちとは顔なじみだった。

「ええ、実は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・という訳でして」

「なるほどね。俺も皆の意見には賛成かな。
 まあ、美由希ちゃんは恭也君からのプレゼントだったら何を貰っても喜ぶとは思うけど、それでもなぁー」

「はぁ。じゃあ、耕介さんならどうしますか?」

「俺かい。うーん、どうだろ。・・・・・・・・・・・・ははは、ごめん。俺もよく判らないな」

「そうですか」

「そうだ、アクセサリーとかはどうだい?」

「アクセサリーですか」

「ああ、ネックレスとかイヤリングとか」

「しかし、そういう店はどうも入りづらいです。それに金銭的にも・・・」

「ははは確かに。でも、あっちの方に行けば、そういう露店が結構出てるから行ってみれば?」

「そうですか。ありがとうございます」

「どういたしまして。それじゃ俺は夕飯の支度があるから、これで」

「はい。それでは」

恭也は耕介と別れて教えられた所へと向かう。
そしてついた先には何軒かの露店が並んでいた。
恭也はそれらの露店の商品を眺めながら歩く。

(うーん、こういうのはよく判らんな。どうしたものか。
 確か耕介さんはネックレスとかイヤリングと言ってたし。どちらかにするか。)

何軒目かの露店で恭也は一つのアクセサリに目がいく。

(シンプルだが、これならいいか。)

「すいません。これをお願いします」

「はい、こちらですね。ちょっとお待ちください。
 では、渡される方のお名前をお願いします」

「美由希ですが」

「では、あなたの名前は?」

「恭也です」

「では、しばらくお待ちください」

しばらく待って、包装された品物を受けとり代金を払うと恭也は足早に立ち去る。
そんな恭也の背中に露店のお姉さんが声をかける。

「どうもありがとうございましたー」

そんな声を背中に受けながらも恭也は、少しでも早くここから離れようとひたすら家路を急ぐのであった。





11月25日(土)



今日この日翠屋は午後から閉店となっていた。
その理由は・・・・・・

パァーンッ!!
店内にクラッカーの鳴る音が響き、その後に店内にいる人たちからお祝いの言葉が投げられる。

『美由希(ちゃん)(さん)(様)(お姉ちゃん)誕生日おめでとう』

・・・ここ翠屋の店長、高町桃子の娘、美由希の誕生日パーティーの為である。

「さぁー今日は飲むわよ。恭也、付き合いなさないよ」

「・・・はぁー母さん、俺が飲めないのは知っているだろ。それに未成年にお酒をすすめるのもどうかと思うが」

「何よ少しぐらい良いじゃない。フィアッセがツアーでいなくて一緒に飲めないんだから」

「断る」

「うぅぅぅ、恭也がいじめるぅぅぅ。桃子さん悲しい。よよよよ」

言って桃子は泣き崩れるが当然、恭也にはそれが嘘だと判りきっているのでそのまま無視を決め込む。

「うん、この料理は上手いな。これはレンか?」

「あ、そうです。うちが作ったやつです」

「師匠、こっちの俺が作ったやつも食べてみてください」

「これか。・・・・・・・・・うん、これも上手いな。二人ともまた腕を上げたな」

「おーきにです」

「いえーい」

恭也の感想に素直に喜ぶ二人。
そんな三人を恨めしげな目をして桃子が眺める。
そんな桃子にレンと晶の二人が気付き、恭也に訊ねる。

「師匠、桃子さんほっといても良いんですか」

「構わんだろ」

「がーん。桃子さんもう立ち直れないかも。うぅぅぅぅぅぅ」

「わっわ、桃子ちゃん落ち着いて。お師匠も悪気があって言ってる訳じゃないですし」

「ありがとうレンちゃん。でも、いいのよ無理に慰めてくれなくても。
 どうせ、桃子さんなんか恭也にとったら、うぅぅぅ」

「師匠〜」

「お師匠〜」

二人が恭也に何とかしてくれと目で訴えかける。

「・・・・・・・・・・・・はぁ〜、仕方がないな」

根負けした恭也は今までのやり取りを面白そうに眺めていた忍と赤星に声をかける。

「少しだけだからな」

「うん大丈夫、判ってるわよ」

「あははは、桃子さん私がフィアッセさんの代わりに最後まで付き合いますよ」

「ありがとう忍ちゃん。さあ、飲むわよ」

こうして序盤にトラブル(?)らしきものがあったものの、そのまま誕生会の名を借りた宴会もどきが進んでいく。
そして数時間後・・・ほとんどの料理が食べ尽くされた頃、桃子が立ち上がり話し出す。

「さあて、そろそろプレゼントを渡さないとね。はい、美由希」

言って美由希に綺麗にラッピングされた大きめの箱を渡す。
それに続くように皆が美由希にプレゼントを渡していく。

「あ、ありがとう。開けても良いかな?」

全員が頷いたのを確認すると順にプレゼントを開けていく。
服、靴、時計など様々なプレゼントが梱包を解かれ、目の前に置かれていく。
そして最後に恭也のプレゼントを受け取り、梱包を解く。

「わぁ、すごい。恭ちゃん、ありがとう」

言いながら、恭也から受け取った刀を鞘から抜く。

「うわー、すごく綺麗」

「恭也、結局プレゼントは刀のままなのね」

「まあまあ桃子さん。高町らしい選択じゃないですか」

「そ、そうですよ。それに美由希さんもあんなに喜んでいますし」

少し呆れ顔の桃子に赤星と那美がすかさずフォローを入れる。

「そうなんだけどね。なんと言うか鈍感、朴念仁、無表情などなどに加えてまた新たな要素が加わったというか・・・」

「むっ。高町母、何気に失礼な。ちゃんともう一つ用意した」

「えっ、本当に」

「嘘など言わん。美由希、これもやる」

言って小さな包みを美由希に渡す。

「え、いいの?でも、2つも悪いよ」

「構わん。お前に買った物だ。遠慮される方が困る」

「そ、それじゃ貰うね。開けてもいい?」

「ああ」

恭也の許可を得て美由希が包みをといていく。
他の者たちも何がでてくるのか興味津々で美由希をとり囲む。
そして、中から出てきた物は・・・・・・

「え、これって指輪?」

「しかも師匠と美由希ちゃんの名前が彫ってある」

「あ、ほんまやー」

「あれ?これって、もしかして」

「どうかしたんですか忍さん」

「うん、これって確かフォーチュンリングだわ。やるわね高町君も」

「あ、本当ですね」

「本当だな。やるな高町」

恭也は一人、話についていけていない様子で首をかしげている。
いや、あと二人(正確には一人と一匹)話についていけていない者がいた。なのはと久遠である。
そんな三人を余所に他の者たちはやたらと盛り上がっている。

「恭ちゃん、本当にもらってもいいのかな?」

「?ああ。お前の為に買ってきたんだからな」

「うん。嬉しいよ。ねえ、恭ちゃんがはめて」

「な、俺がはめるのか!」

「お願い」

少し涙ぐみながらも恥ずかしそうに美由希が恭也に頼む。
そんな恭也に桃子が話す。

「恭也、ちゃんとしてあげなさいよ」

「いや、しかし」

「お師匠ー」

「師匠」

他の連中も口々に恭也の名を呼ぶ。
やがて観念した恭也は指輪を持つと美由希の右手を取り、はめようとする。
が、そこにまたも桃子が口をはさむ。

「ちょっと恭也。左手にはめるでしょ普通は」

「まあまあ、桃子さん。それはまた別の物ってことじゃないですか」

「そうですね。恭也さんもとりあえずは右手の薬指って事なんじゃ」

「あ、そうか。よかったわね美由希」

「///(テレ)」

「?よ、よく判らんがこのままはめても良いんだな」

美由希に聞く恭也。
美由希が頷いたのを確認するとそのまま右手の薬指に指輪をはめる。
その瞬間、本日2度目のクラッカーの音が店内に響く。
全員がパーティの最初に使った余りを何時の間にか手に持っていて恭也と美由希を囲んでいたのであった。

『おめでとう』

全員から再びお祝いの言葉を言われ、更に照れる美由希と何が起こっているのか事態を把握できていない恭也。
それらの出来事を見ていたなのはが、久遠を抱き上げ問いかける。


「えーと、どういうことかな?くーちゃん」

「くぅん」

なのはは久遠に訊ねるが久遠も訳が判らずに首をかしげる。
そんななのはに忍が教えてあげる。

「なのはちゃん、高町君が美由希ちゃんに送った指輪はフォーチュンリングって言ってね、好きな人に告白するときの指輪なのよ。
 フォーチュンリングを使った告白には決め事があって、男の子が女の子に告白するときは、互いのネーム入りリングをあげるの。
 で、OKならそのままもらい、NGなら突っ返す。
 逆に女の子が男の子に告白するときは、空白のリングを渡して、OKなら名前を入れて返し、NGならそのまま返すの。
 わかった?」

「えーと・・・・・・・・・あ、はいわかりました。
 今、お兄ちゃんはお姉ちゃんに名前の入ったのを渡したんですよね。
 だからそれってつまり、お兄ちゃんがお姉ちゃんに告白したって事ですね」

「そうそう」

「それで、お姉ちゃんもそのまま指につけたって事はOKってことですね」

「その通りよ」

「えーと。そうするとお兄ちゃんとお姉ちゃんが恋人になったって事ですか?」

「正解」

そう言って、忍はなのはの頭を撫でる。
そして、その説明を聞いていた恭也はと言うと、

「・・・・・・・・・・・・」

完全に思考が止まっていたりする。
なんとか立ち直り、美由希に話しをする。

「あー、その美由希」

「なに?恭ちゃん」

「その指輪の事なんだが・・・・・・その、なんだ。
 実はそういう物だとは知らなかったんだ」

「へ」

美由希だけでなく周りにいた皆も恭也の台詞に言葉を無くし呆然とし、しばらくの間、辺りを沈黙が包み込む。
しかし、その沈黙を破り桃子が恭也に訊ねる。

「あんた本当に知らなかったの」

「ああ。大体、俺がそんな物に詳しいと思うのか」

「言われてみれば、それもそうよね」

「た、確かに。こういう事に詳しい師匠っていうのも変ですよね」

「そーやな。お師匠がこーゆーのに詳しい訳ないな」

「ははは、私も変だとは思ったのよ。高町君にしては珍しいなって」

「そうですね。それによく考えてみたら、恭也さんが私たちのいる前であんな事する訳ありませんし」

『・・・・・・・・・・・・・・・』

皆、なんとかこの場をフォローしようとするが、結局これ以上の会話はなく再び、この場を沈黙が支配する。
しかも、今度は何とも気まずい空気が流れるというおまけ付きで。

グスグス、グスンッ

静まり返った店内にそんな物音が大きく響く。
そして、その物音の音源と思われる方に全員の目が向けられる。
そこには必死で涙を堪え、声を堪えている美由希がいた。

「う・・・ぐ・・・・・・」

そんな美由希の様子に誰も声を掛けることが阻まれ、ただ黙って見つめる事しかできなかった。
美由希は皆の様子に気付くと、誰から見ても無理のある笑顔を浮かべる。

「だ、大丈夫だよ皆。きょ、恭ちゃんがそんな事、知ってる・・・う・・・訳がない・・・もんね・・・うぅぅ・・・・・・
 大体、恭ちゃん・・・・・・が、わ、私の事なんて・・・・・・・・・う・・・っく・・・え・・・・・・うぅぅぅぅ」

堪えきれずに美由希の頬を涙が伝う。
誰もが何も出来ずにただ、その場に立ち尽くす事しかできないでいた。
そんな中、恭也一人だけが美由希の傍へと歩み寄り、手を伸ばすと美由希の眼鏡をはずす。
そして、目から零れ落ちる涙を拭い、真っ直ぐに美由希の目を見る。

「美由希、泣くな」

「う・・・わ、わかってる。だ、大丈夫だよ、大丈夫だから・・・・・・っく。
 し、心配しなくてもいいよ。馬鹿だね、私。恭ちゃんが私のことなんて相手にするわけないのにね。
 一人で勝手に勘違いして、勝手に舞い上がって。ごめんね、恭ちゃん」

再び込み上がってくる涙を必死に押さえながら、恭也と向き合う。
そんな美由希を恭也は胸に抱き寄せる。

「泣くな美由希。お前に泣かれると困る」

「ごめ・・・ごめん恭ちゃん。私、また迷惑掛け・・・」

「違う!そういう事じゃない」

強い口調で美由希の言葉を途中で遮る。

「すまない。でも、お前に迷惑を掛けられたなんて思っていない。
 ただ、俺がお前の泣き顔を見たくないだけだ。お前には笑っていて欲しいだけなんだ」

「恭ちゃん?」

「今日の指輪の件はすまなかった。あんな意味があるとは知らなかったんだ」

「うん、判ってるよ。私の方こそごめんね。指輪、無理矢理嵌めさせて。これ返すね」

「返さなくていい」

「えっ」

「返さなくてもいい。それはお前にプレゼントした物だ」

「でも、これはさっき忍さんが説明したけど」

「だから、その意味を知った上で言っている」

「え、え。どういうこと」

「だから、その指輪にあんな意味があるとは知らなかったというだけだで、美由希の事が嫌いな訳じゃない」

「それって妹としてって事でしょ」

「そうじゃない。美由希の事を一人の女性としてだ。俺は今まで逃げていたんだ。
 美由希との今の関係が心地良かったから。それが壊れてしまうのが怖かったから。
 でも、いつまでも逃げてる訳にはいかないからな。
 美由希、改めてその指輪を貰ってくれるか?」

「ほ、本当に?」

「ああ」

「・・・うん、喜んで貰うよ。返せと言っても、もう返さないよ」

「そんな事は言わない」

恭也は美由希の背に、美由希は恭也の背に手を回し抱き合う。
そしてお互い見つめあい、徐々にその距離を縮めていく。
そして、・・・・・・軽く触れる程度のキスをする。

グスッ

「だから、泣くなと言ってるだろう」

「違うよ。これは先までの涙とは違うの。嬉しくて泣いてるんだよ。
 ・・・嬉しいから、本当に嬉しいから」

「そうか」

そう言って恭也は美由希を抱く腕の力を少しだけ強める。
美由希はそんな恭也の行動に、少し照れながらも嬉しそうな顔をして恭也の顔を見つめる。

「恭ちゃん、本当に私でいいの」

「ああ。お前がいい。お前じゃないと駄目だ」

「うん。私も恭ちゃんじゃないと・・・・・・。
 恭ちゃんの事、好きだよ」

「ああ、俺も・・・・・・」

「なに?ちゃんと言って」

「う、その、俺も美由希の事が・・・・・・」

顔を赤くして口篭もる恭也を、美由希は楽しそうに下から見上げる。

「うん、私を?なに?」

「・・・・・・・・・こういう事だ」

恭也はそう言うなり再び、美由希の唇を自分の唇で塞ぐ。

「ん、んん・・・・・・・・・」

先程よりも長く深いキスを交わす二人。

「んん・・・・・・んっ・・・っはぁ」

名残惜しそうにどちらともなく唇を放す。

「わかったか」

「突然だったから、よくわからなかった」

美由希は少し悪戯っぽい目をして恭也を見上げる。
そんな美由希を見て、少しだけ笑みを浮かべながら美由希の顔を少し持ち上げ、瞳を見つめる。

「美由希、・・・愛してる」

「私も・・・」

そして、三度口付けを交わそうとした所でわざとらしい咳き込みが聞こえて来る。

「ごほん、ごほげほ。あー、ごめんね恭也、美由希。でも二人とも私たちがいる事忘れてない?
 いや、私はいいんだけど。一応、小さな子もいることだしね」

「「あっ」」

桃子に言われて二人は自分たちが何処で何をしていたのかを思い出し、顔を真っ赤にする。
そして周りを見ると、両手を両目に当てながらも指の隙間から興味津々で見ている那美。
顔を赤くしながらあさっての方を見ながら時折、こちらをチラチラと見ている晶とレン。
口元に笑みを浮かべながら堂々と見ているのは忍。赤星はそんな皆に対し、苦笑しながらも恭也たちの方を見ている。
そして、なのはの手にはデジタルカメラが握られていて、今までの出来事をしっかりと録画していたりする。

「皆、見ていたのか」

「ああ、悪いな高町。それはもうばっちり、最初から最後までな」

「見ていたというよりも、恭也さんと美由希さんが私たちの存在を忘れていたのではないでしょうか」

「師匠があんな事を言うなんて・・・」

「うー、お師匠もやりますな」

「本当に恭也もやるわね。まさか言葉の代わりにキスをするなんて。やっぱり士郎さんの息子ね」

「でも、桃子さん。その後にちゃんと言葉でも言ってましたよ高町君」

好き勝手な事を言いながら盛り上がる他の面々を見ながら、更に赤くなる二人。
そんな二人に桃子が声を掛ける。

「兎に角、二人ともおめでとう」

『おめでとう』

「ああ」

「ありがとう皆」

「まあ、結果オーライってとこかな?」

「そうですね。忍さんの言うとおりですね」

「とりあえず、片付けはこっちでやっておくから、二人は先に帰っていいわよ」

「え、でも」

「いいから、いいから。ほら、恭也も美由希を連れてさっさと行きなさい」

「ああ、わかった。美由希、行くぞ」

「あ、うん。かーさん、ありがとう」

皆に見送られて、すでに日が落ちて暗くなっていた店の外へと出る二人。
美由希は自分の腕を恭也の腕に絡めて歩き出す。
しばらくお互いに無言で歩いていたが、人気の無い路上に差し掛かると美由希が恭也に話し掛けた。

「ねえ、恭ちゃん」

「なんだ」

「うん。・・・私、本当に嬉しかったよ。少しだけこうなる事を夢見てたから。本当に夢みたい。
 ・・・・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・本当は全部夢で、目が覚めたらいつも通りの現実が待っているんじゃないかって思ってしまうの」

「美由希・・・・・・」

「あはは、私何言ってるんだろうね。そんな事あるはずないのに。
 でも、幸せな反面、不安も感じてるの。この幸せな瞬間が今にも壊れそうな不安・・・」

「美由希、これは夢なんかじゃなく現実だ。それにお前が不安に思うなら、その不安がなくなるまで傍にいてやる、だから」

恭也は美由希の腕を解き、正面から向き合うとそのまま少し強く抱きしめる。

「うん、ありがとう。もう、大丈夫だよ。
 恭ちゃんがずっと傍にいてくれるなら、私はどこまでも強くなれるから」

「ああ、ずっと美由希の傍にいる。俺も美由希がいれば強くなれるからな」

抱き合ったままお互いに見詰め合う。
月明かりに照らされた二人の影が重なり、今日三度目になるキスを交わす。
やがて重なっていた影が少しだけ離れる。

「「御神の剣は、大切なものを守る時に一番強くなるから」」

二人は微笑むと再び寄り添いながら歩き出す。
そんな二人の背中を月の光が優しく照らしていた。





<Fin.>





<あとがき>

ごきげんよう、氷瀬 浩です。

紅 美姫「とらハの短編って久々じゃない?」

うーん。その通りかも。
何故かとらハは連載物が多いな。なんでだろう?

美姫「いや、私に聞かれても。兎に角、今回のネタなんだけど・・・」

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

美姫「いや、急に謝られても」

ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。

美姫「うるさい。(ゲシッ)」

ぐぅ、何をする。

美姫「何をするじゃない。ったく、いきなり謝りだすし」

いや、今回は突っ込まれる前に謝っとこうかなと。

美姫「自覚はあったんだ」

まあ、一応。

美姫「なのにやったの」

ぐっ。だ、だって急にネタがポーンを浮かんだんだもん。

美姫「で、季節無視」

っぐ。SSだし。好きなものを書くのが一番かと・・・。

美姫「とりあえず言っておくわ。
   なんで時期が美由希の誕生日なの。後、いくら恭也でも刀はないでしょ」

最初の理由はさっき言ったので、後者の理由だが、これはとりあえず誕生日に相応しくないもので考えたら・・・。

美姫「刀になったと」

そう。

美姫「まあ、いいわ。所でこれって逆バージョンもあるんでしょ」

よく知ってるな。美由希と恭也の立場を逆にしたやつというのもある。
恭也の誕生日に美由希がフォーチュンリングをあげるんだが、恭也は当然その意味を知らない。
それで一悶着が起きる・・・という感じかな。

美姫「そっちのバージョンは書くの?」

どうだろ。多分、書かないと思う。最後の方はあまり変わらないから。

美姫「ふーん、そうなんだ」

応。まあ、リクエストがあったら書くかも、ぐらいで。

美姫「多分、来ないわ」

ははは、俺もそう思う。
兎に角、今回のあとがきはここいらで。
ではでは。

美姫「そうね。では、ごきげんよう」





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