『込められし思い 第2話』






まだ、恭也に抱きついている冬桜。それを見て、突然の事に大声を上げるしかなかった者たちが我に返る。

「ちょ、ちょっと恭ちゃん!いつまで抱き合ってるのよ」

「そ、そうです、お師匠。はよー、離れてください」

「師匠、なんで抱きしめてるんですか」

「ちょっと恭也!誰よ、その子」

「きょ、恭也さん、そ、その人は・・・」

「お姉ちゃんたち、怖い・・・」

「ああ、士郎さん。やっと恭也にもいい人が・・・」

「桃子、何を言ってるの!」

六人からの殺気混じりの視線を浴びて、恭也は居心地が悪そうにしている。

(お、俺が何かしたのか?何故、こんなに殺気混じりの視線を受けないといけないんだ)

「す、すいませんがそろそろ離れて頂けませんか?」

「あ、すいません。私ったら、はしたない真似をしてしまって・・・」

「いえ、別に構いませんよ。所で、水翠さん」

「冬桜で構いません」

「で、では冬桜さん」

そう恭也が呼んだ時、背後からの視線が更に強くなる。

「呼び捨てで構いませんので」

「い、いや、しかしですね・・・・・・」

「お願いします」

お互いにしばらくの間、無言で見詰め合うっていたが、両手を胸の前で組み、上目遣いで見てくる冬桜にとうとう、恭也は折れる。

「わかりました、冬桜」

「はい」

花が綻んだかのような笑みを満面に浮かべ、嬉しそうに返事を返す。
恭也の態度とその冬桜の態度に、背後からのプレッシャーは益々増していく。
それらの様子を少し離れた所で伺っていた二人の母娘は、

「おかーさん、わたしちょっと怖いかも・・・」

「は、はははは・・・母さんもちょっと怖いわ」

手を繋ぎ、ソファーの隅の方に移動していたりする。

「とりあえず、座りましょう。話はそれからという事で」

「あ、はい。ありがとうございます」

冬桜はなのはの横に腰掛け、その対面に恭也が座る。その恭也を囲むように美由希たちが座る。

「じゃあ、早速だけど聞かせてもらおうかな?」

「・・・何で、おまえ達もここにいるんだ?」

「恭也、そんな事は気にしない♪気にしない♪」

「・・・・・・」

恭也は無言で美由希に殺気を込めた視線を送る。

「う・・・・・・う〜、べ、別にいたって良いでしょ」

「お師匠ー、うちらがいたら何かまずい事でもあるんですか?」

「はぁー、冬桜は構わないですか?」

「はい、私の方は別に問題はありませんが」

「そうですか。ありがとうございます。で、冬桜の話を先に聞く前に一つだけ聞きたい事があるんですが、いいですか?」

「はい、構いませんが」

「俺を訪ねて来たらしいですが、ここの住所はどうやって知ったんですか?」

「えっ、恭也が教えたんじゃないの?」

「フィアッセ、俺と彼女は初対面だぞ。それは無い」

「えぇぇー、し、知り合いじゃないんですか?」

「違います」

「じゃ、じゃあ、なんで、どうやってここに?」

「・・・・・・はぁー。うちの妹は人の話を聞くという事を知らんらしいな。その質問はたった今、俺がした」

「うっ、それはそうだけど・・・。何か私だけ皆と対応が違う気がする・・・・・・」

少しだけ、いじけて見せる美由希を全く無視して、恭也は冬桜に改めて、その質問をする。

「それはですね、私の母が知っていたんです」

「冬桜のお母さんがですか?失礼ですが、冬桜のお母さんはここの事を?」

「それは、私の父が母に教えたからだそうです」

どこかずれたような回答をする冬桜に全員が呆気に取られる。恭也は気を取り戻して、再度、聞く

「・・・・・・えーっと・・・・・・そ、そのお父さんは何故、ここを?」

「あ、それはですね、ここに住んでいたからです」

『へっ』

全員が再び、呆気に取られる中、冬桜だけがマイペースに話を進めていく。

「で、私がここに来たのは母の遺言で、困った事があったらここにいる兄様を訪ねるようにと言われたからですの」

『えっ』

冬桜の発したある単語に反応し、皆が驚きの声を上げるが冬桜はそれを別の意味に取ったらしく、少し慌てて言葉を紡ぐ。

「いえ、別に困った事が起きた訳ではありませんので心配はいりません。ただ、一度でいいから兄様にお会いしたかっただけなんです。
 こうして、お会いする事ができて、それだけでとても嬉しい限りです」

「いえ、そういう事ではなくて・・・。冬桜、ちょっといいですか」

「はい?」

恭也は冬桜の言葉の区切りをみて、口をはさむ。

「えーと、冬桜が言った、ここに住んでた父親の名前はわかりますか?」

「はいっ!士郎です。高町士郎、旧姓、不破士郎ですわ」

『えぇぇぇぇぇ〜〜〜』

本日、最大音量の声が驚きと共に高町家から飛び出す。

「ちょ、ちょっと恭ちゃん、ど、どういうこと?」

「落ち着け、美由希。俺に聞いても判る訳が無いだろう」

「な、ななな・・・・・・し、士郎さんが私以外の人との間に子供を・・・・・・。そ、そんな浮気してたなんて・・・」

「落ち着け、母さん。冬桜の年齢から考えて、母さんと結婚する前の話だろ」

「そ、そう言われれば・・・・・・そうよね。あー、びっくりした」

「そうだよ、桃子。桃子にべったりだった士郎が浮気なんてする訳ないよ」

「そうよね〜♪ありがとう、フィアッセ。ごめんね、あなた。少しでも疑った私を許して」

「はぁー。そろそろ話を戻したいんだが、いいか?」

「はぁーい」

「で、でも、この冬桜さんが恭也さんのお父さんの子供って事は、恭也さんとは異母兄妹ってことですか?」

「そう言われれば、那美さんの言うとおりですね。でも、それだと師匠となのちゃんもそうですから、別段驚く事ではないかも」

「ねえ、恭也のお父さんって昔、全国を歩き回ってたんでしょ?
 じゃあさ、今に女の子が12人くらい現れて、『お兄ちゃん!』って言ってくるかもね。あははは〜」

「・・・忍、意味が判らん事を言うな」

「ほらほら、皆もういいでしょ」

ずれてきた話を戻す為に桃子が口を挟む。そして、冬桜に向き直ると、

「それよりも、冬桜さんこれからどうするの?」

「そうですね、お会いしたかった兄様にもこうして会うことが出来ましたので、私はもう帰ります」

「え、でも、あなたのお母さんは・・・。誰か他に親戚の方でもいるの」

「いいえ、母の他には身内はおりません」

「・・・・・・だったら、ここで暮らしたら良いのよ」

「いえ、それだと皆さんにご迷惑が掛かりますから」

「迷惑なんかじゃないわ。それに、士郎さんの娘なら、私の娘も同然よ。だから、遠慮はいらないわ」

「で、でも・・・」

言って、恭也の方を伺う。それに気付いた桃子は、恭也の脇腹を肘で突付き言葉を促す。

「母さんもこう言ってる事だし、そうすると良い。皆も良いか」

「もちろんだよ。恭ちゃんの妹なら私の妹でもあるし」

「うん、わたしもそれがいいと思う」

次々と賛成の意を示す皆に冬桜は少し涙を浮かべながら頭を下げる。

「どうもありがとうございます」

「所で、美由希。多分、冬桜はお前よりも歳が上だと思うぞ。だから、妹ではなく姉になるんではないか?」

「えーと、冬桜さんは今、何歳ですか?」

「私ですか?私は19ですが」

「じゃあ、恭也と同じ年ね」

「ちょっと待って下さいフィアッセさん。恭也さんと同じ年と言う事は、その、恭也さんのお父さんは同じ頃に・・・・・・」

何か口篭もる那美の言いたい事に気付いた忍が後を続けてるように言う。

「ああ、成る程ね。恭也のお父さんは同じ頃、二人の女性と付き合ってたって事か」

「・・・いや、それはないだろう。確かに無茶苦茶な性格をしていたが、そういう事だけはしない・・・・・・と思う」

「私も恭也の意見に賛成よ。士郎さんはそんないい加減な人じゃなかったわよ」

「・・・・・・いや、どちらかと言えばいい加減な人だったが・・・・・・・・・。それよりも、冬桜。一つ、聞きたいんだが・・・・・・」

「何でしょうか?」

先程よりも真剣な顔をして、冬桜に何かを訪ねようとする恭也に周りもふざけるのをやめ、二人の会話を聞く態勢をとる。

「ひょっとして、母親の名前は・・・・・・夏織か?」

「はい、そうです!」

「そうか」

それっきり押し黙る恭也に桃子以外が訝しげな表情をする。そして、桃子が何かを言おうと口を開ける前に、忍が疑問を投げる。

「ねえ、恭也どうしたの?」

「別に何でもない」

「恭ちゃん、どうして冬桜さんのお母さんの名前を知ってるの?昔、会った事があるの?」

「いや、俺は一度も会ったことが無いな」

「じゃあ、何で知ってるんですか?」

「・・・・・・俺を生んだ母親の名前も夏織と言ったらしい」

「えっえ、って事は恭ちゃんと冬桜さんは実の兄妹って事?」

「って言うより、お二人の年齢を考えたら双子っていう事ですか?」

「そうなります。兄様はこの事を知らなかったんですか?」

「ああ、全く知らなかったな。どうやら、父さんは知っていたみたいだな」

「ええ、何度か会いに来てくれてましたから」

「そうか」

「まあまあ、そんな事はどうでもいいじゃない。それよりも、今は冬桜ちゃんの部屋をどこにするかよ」

桃子が明るい声で二人の会話に割り込む。

「とりあえず、それに関しては、空いてる部屋を使ってもらうという事で良いと思うんだけど。
 冬桜ちゃん、あなた学校は?恭也と同じ年って事は大学に行ってるの?」

「いえ。ちょっと事情がありまして、一年程遅れて進学しているんで、今は高校の3年生です」

「双子って離れていても繋がってるってよく言われるけど・・・・・・」

「一年遅れなんて、恭ちゃんと同じですね」

「兄様もそうなんですか?」

「ええ。俺もそうです」

「じゃあ、編入手続きをしないといけないわね。うーん、そこらへんの手続きは全部、私がやっておくわ」

「お手数をお掛けして申し訳ございません」

「気にしなくても良いわよ。私が勝手にやるんだから」

「母さんの言うとおりです。そんなに気にする事はないですよ」

「ありがとうございます。・・・・・・あ、あのー、兄様・・・」

何かを言いたそうに恭也を見る冬桜。それに気付いた恭也が言葉を促す。

「何故、私にそんな丁寧にお話をされるのですか?」

「いや、これは・・・・・・な、何となくです」

「では、普通にお話をして頂けますか。兄様からその様に話されては、戸惑ってしまいます」

「わかりまし・・・わかった。なら、冬桜も普通に話したらどうだ。兄といっても双子なら関係ないだろう」

「私はこれが普段から話している言葉なんですが、どこかおかしいでしょうか?」

「・・・いや、別におかしくは無いが。それが普通なら、それでいい」

「はい。ありがとうございます、兄様」

「別に礼を言われることを言った覚えはないがな。所で、その兄様というのだけは何とかならないのか?」

「でも、兄様は兄様ですし」

「いや、それはそうなんだが。そう呼ばれるのは、どうも落ち着かなくてな。俺の方が兄とは限らないんだから、名前でいい」

「で、でも・・・・・・」

恭也が再度、名前で呼ぶことを促すと冬桜は涙を浮かべ、

「どうしても、駄目ですか・・・・・・」

これを見ていたなのはが冬桜の味方をしだす。

「お兄ちゃん!女の子を泣かせたら駄目でしょ!」

「いや、しかしこれは・・・」

「言い訳はいいです。冬桜お姉ちゃんはお兄ちゃんの妹なんだから、お兄ちゃんって言っても良いんです」

「いや、だから、俺と冬桜は双子な訳で・・・。その場合、どっちが上かなんてわからないだろ」

「じゃあ、お兄ちゃんがお兄ちゃんで良いじゃないですか」

「だから、呼び方が問題であって・・・・・・」

「お兄ちゃん!」

更に、恭也に詰め寄るなのはを周りは笑みを浮かべて見ている。
その笑みは、なのはが冬桜の味方をする以上、恭也が間違いなく折れるという事を冬桜を除く、ここにいる全員がわかっているからである。
そして、実際に恭也が折れる形で決着が着く。

「はぁー、好きに呼んでくれ・・・」

「はい!ありがとうございます、兄様」

その後、全員で夕食を食べ、忍と那美が帰宅した後、各自就寝のために部屋に戻っていった。
そして、恭也もまた自室へと戻り、就寝の準備をする。部屋の中央に布団を二組敷き、その上に冬桜と向き合う形で座る。
冬桜が恭也の部屋にいるのは、とりあえず、空き部屋を掃除するまでの間は恭也の部屋を使う事になったためである。

「で、話というのは?」

冬桜が話があるという事で、今日の鍛練を中止にした恭也はその内容を聞き出す。

「ええ、母から兄様に会ったら伝えるようにと言われた事があるんです」

恭也は無言で続きを促す。それを察した冬桜は、そのまま言葉を続ける。

「それは、・・・・・・・・・・・・」

結構、遅くまで再会した兄妹の会話は続いた・・・・・・。



 (つづく)




<あとがき>

次回予告!
美姫「いきなりかい!」
ドカッ
い、痛っ。冗談じゃないか!冗談!
美姫「いや、浩の場合、冗談かどうかとっても怪しいから」
だからって、いきなり殴るのか!
美姫「だって、疑わしき浩は殴れって、偉い人も言ってたし」
誰が言ったんだ。誰が。
美姫「私(えっへん)」
いや、そんなに威張られても・・・。
美姫「(無視)しかし、冬桜が恭也の双子の妹という設定・・・、いいの?こんな事して」
ははははは。
美姫「笑って誤魔化すなっ」
まあまあ。と、とりあえず次回は、
美姫「って次回、もう考えてたの!」
おいっ!どういう意味だ!
美姫「ははははは」
お前も笑って誤魔化してるぞ!
美姫「そ、それより次回は?」
うん、士郎と夏織の回想をしようかと思ってる。
美姫「へぇ〜。過去編って事?」
そんな大層なもんじゃないが、そんなとこ。でも、あくまで予定!
美姫「またなの!また、それなの」
と、いうか過去編なくても話が進みそうだし。それよりも、もう少し後の方で過去編をやろうかなとか思うし・・・。
美姫「だったら、何故、次回予告として言うの!」
な、なんとなく・・・・・・(い、言えん、ただ単純におちょくっただけだなんて)
美姫「おちょくったわね・・・」
ブンブンブン。滅相もない!誤解だ!
美姫「浩、うるさいよ。(にっこり)」
う、うわわわわっ。(逃げっ)
美姫「逃がさないわよ!細切れになれ!離空紅流 紅皇朱」
みぎゃ、うぎょ、ぐぎょーーーー※%#/※#・・・・・・・・・・・・
美姫「やり過ぎたかも(汗)ま、まあ、とりあえずまた、次回で」



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