『恭也と美由希の秘密』






「はぁー」

夕食前の一時。いつもの様に恭也が縁側で寛いでいると、同じ様に寛いでいた美由希がため息を吐く。
それを丁度、通りかかった桃子が聞き、美由希に訊ねる。

「どうしたのよ美由希。ため息なんか吐いて」

「え、あ、かーさん。別に大した事ないよ。ただ、ちょっと体がだるいだけ」

美由希のその答えに、今度は恭也が反応する。

「だったら、明日の朝、病院に行け」

「大丈夫だよ。大した事ないし」

「駄目だ。お前はすぐに無理をするからな。一度ちゃんと診てもらえ。後、今日の鍛練は止めておけ」

「うぅぅ、判った」

「あらー、恭也ってばいつになく優しいじゃない。どうしたのよ?」

「別に特に理由などない。ただ、大分、剣の腕が上がってきているからな。今、ここで故障なんて事になったら元も子もない」

「ふーん。まあ、いいわ。それよりも、夕飯できたみたいだから行くわよ」

「ああ、判った」

「うん、今行くよ」

言って立ち上がると桃子の後に続いていく。その途中で恭也は立ち止まると、

「美由希・・・」

誰もいない事を確認して、恭也は美由希を抱き寄せる。

「恭ちゃん」

そして、触れるだけの軽いキスをする。

「本当に無理はするなよ」

「うん、大丈夫だよ。早く治さないとね。鍛練は一日休んだら、取り戻すのに三日はかかるからね」

「それもあるが、・・・その美由希は俺にとって、・・・・・・大事な人だからな

「えっ!恭ちゃん、今、何て言ったの、もう一回言って」

「そんな恥ずかしい事、言えるか」

恭也は照れてそっぽを向くが、美由希はその先に回り込んで恭也の目を真っ直ぐに見詰めと、潤んだ瞳をしてお願いをする。

「お願い。もう一度だけ。今度は、はっきりと聞こえるように言って」

「うっ・・・・・・だ、だから、その・・・・・・美由希は俺にとって、一番大切な女性だから無理をして、体を壊すような事はするな」

「うん、判ってるよ。でも、私にとっても恭ちゃんは大事な人なんだからね。だから、恭ちゃんも無理したら駄目だよ」

「判っている」

そして、見詰め合うと、再びキスを交わす。

「そろそろ行くか。あまり遅いと変に思うだろうからな」

「そうだね」

恭也と美由希は普段通りを装ってリビングへと向う。
二人としては、付き合っているのを家族たちに秘密にしているつもりなのだが、実際は・・・・・・

先程、美由希たちが会話を交わしていたところから、少し離れた廊下の角では・・・・・・、
ちゃっかり今までのやり取りを全て見ていた4つの影──桃子、なのは、晶、レン──があったりする。

「うーん、あの恭也があんな事を言うなんてね〜。変われば変わるわね〜」

「師匠からキスをするなんて・・・」

「お師匠ーが、あないな事を・・・・・・」

「お姉ちゃんも嬉しそうだったね」

「本当、このままだと恭也や美由希よりも、なのはの方が先になるんじゃないかと心配してたけど、二人同時だもんね〜
 桃子さん、感激!」

「でも、師匠たちはその事を隠してるつもりみたいですけど」

「傍から見てたら、バレバレやけどな」

「うん。お兄ちゃん、お姉ちゃんを見る時、物凄く優しい目をしてるもん」

「まあ、恭也も美由希もそういう事に関しては小学生並みだからねー。当分の間は気付かない振りをしといてあげましょう」

「「「はーい」」」

「じゃあ、私達もご飯に行きましょう。私たちがいないと不信に思うでしょうから」

桃子の言葉に従い、リビングへと向う。こうして高町家の夜は表面上は普段通りに更けていった。





翌日、昼過ぎ

秋休みのため、暇を持て余し部屋で美由希の訓練メニューを考えていた恭也の所へ、美由希が嬉しそうな顔をして入っていく。

「どうしたんだ、美由希。何か良い事でもあったのか?」

「その通りだよ。喜んでよ、恭ちゃん」

「喜べと言われても、何を喜ぶんだ。それよりも、病院の方はどうだったんだ」

「あ、身体はなんともなかったよ。フィリス先生も健康だって」

「そうか。で、何があったんだ」

「そうだよ!あのね、恭ちゃん。出来たよ!出来たんだよ」

この時、部屋の中での会話を偶然にも聞いてしまった人物がいた。
それは・・・遅い昼食を取るために家に帰ってきた桃子である。
桃子は二人に気付かれないように、そっと部屋の外から中の会話に聞き耳を立てる。
普段の恭也なら気付いたかもしれないが、今は美由希の話の方に意識が集中しており、全く気付いていなかった。

「それは本当なのか?」

「うん、本当だよ。私も最初は信じられなかったんだけど。嘘だと思うなら、フィリス先生にも聞いてみてよ。
 ちゃんと証言してくれるから」

「別に疑ってはいないさ。第一、そんな嘘を言う必要もないしな。それに思い当たる節はある。
 時期的にみて、そろそろその兆候があってもおかしくはないと思っていたしな」

「へへへ〜。なんか嬉しいな。母さんも喜んでくれるかな?」

「そうだな。きっと喜んでくれるだろう。とりあえず、父さんと美沙斗さんに報告をしておくか」

「そうだね」

「美由希・・・・・・よくやったな」

「あっ、うん」

そう言うと、二人は立ち上がる。その気配を察した桃子は慌ててその場から離れ、玄関へと向った。
そんな桃子に気付かずに二人はリビングへと向う。多分、美沙斗に電話でもするのだろう。
一方、玄関へと向った桃子はそのまま外に飛び出すと、翠屋へと向いながら恭也と美由希の知り合いに連絡をする。
内容はすごく簡単な物で翠屋に着く前に全員に連絡を終える事が出来た。
その内容とはただ一言、『至急、翠屋に集合』という物であった。





約一時間後・・・・・・
翠屋の奥に位置するテーブルに今、数人の女性が桃子を中心にして座っている。
全員が揃った事を確認すると桃子は口を開く。

「さて、皆に集まってもらったのは他でもない恭也と美由希の事なんだけど・・・・・・。
 忍ちゃんや那美ちゃんはあの二人の事、気付いてる?」

「もちろんよ」

「ええ、気付いてますけど、それが何か?」

「って事は、全員知ってるって事ね」

「ああ、やっぱり桃子さんも気付いてたんですね」

「当然よ〜。でも、これで気付かれてないと思ってるのは本人たちだけね」

「でも、それがどうかしたんですか?」

「そうそう。それなんだけど、実はさっき・・・・・・・・・・・・」

桃子は先程、自分が恭也の部屋の前で聞いた話を全員に話す。

『えぇ〜〜〜〜〜』

店内に大声が響き、何事かと客達が桃子たちの方を見る。幸いな事に昼時を過ぎた事もあり、店内の客の数は数える程しかいなかった。
しかし、桃子たちはそんな事を気にする事もなく話を続ける。

「それで、うちらを集めて桃子ちゃんはどうするつもりなんですか」

「あ、それはね今日、パーティーをしようと思って」

「ああ、なるほど。じゃあ料理の方は俺とこいつに任せてください」

「誰がコイツや!と言いたい所やが、お師匠のためや、今日は勘弁しといたろ」

「へん。それはこっちの台詞だぜ」

「なんやと!」

「ああ〜はいはい。二人ともそこまで。で、桃子さん私たちは何をすれば?」

「忍ちゃんと那美ちゃんには飾りつけとかその他の雑用をお願いね。後、ノエルさんは晶やレンちゃんたちの手伝いを頼めますか?」

「「「わかりました」」」

「でも、高町先輩たちが途中で帰ってきたらどうするんですか?」

「それは大丈夫よ。恭也たちにはこっちのヘルプとして来てもらうから」

「つまり桃子さんが足止めをするんですね」

「そういう事。じゃあ、早速始めましょう!」

『おーーー』

桃子の掛け声に応え、それぞれ準備をする為に高町家へと向う。
そんな皆の後ろ姿を見送った後、上機嫌で鼻歌を歌いながら厨房へと戻っていった。





高町家への帰路に着く恭也、美由希、桃子。

「母さん、店の方はいいのか?」

「大丈夫よ。松っちゃんがいるし」

「でも、どうしたの?こんなに早くあがるなんて」

「ふふふふ。それはね〜。後のお楽しみよ」

一人で浮かれている桃子に怪訝な表情をして顔を見合わせる二人。そんなこんなをしているうちに家に着く。
そして、そのまま三人はリビングへと向う。そこには綺麗に飾り付けをされた部屋と豪華な料理が陳列していた。

「一体、何があったんだ?月村や神咲さんまで」

「何かのお祝いかな?」

「はいはい。恭也と美由希が主役なんだから、こっちよ」

桃子が二人を中央へと引っ張る。

「俺達が主役というのはどういうことだ?」

「ほらほら恭也に美由希。二人とも私たちにいう事ない?」

「「えっ」」

その場にいる者全員が、驚きの声をあげる二人をじっと見詰める。

「あー、なんだ。皆、俺たちの事気付いてたのか?」

『とーぜん』

「えー、い、いつから」

『最初から』

「「・・・・・・」」

口を揃えて言う桃子たちに、隠していたつもりの二人は茫然となる。そこへ、桃子たちが追い討ちをかけるかの様に話し出す。

「大体ね、普段無愛想なあんたが最近、笑顔が多くなったでしょ。特に美由希の前だとね」

「そうそう。学校でも前以上に高町君が美由希ちゃんと一緒にいるの見かけるし」

「美由希さんも何だか毎日楽しそうですし」

「お二方の雰囲気も他の方々を接する時と少し違います」

「逆に俺らから言わしてもらったら、二人ともあれで隠してるつもりだったのかなー、とか思ったり・・・」

「ほんま、気付いてない振りすんのは結構、大変でした」

恭也は一縷の望みをかけてなのはを見る。そんな恭也に無邪気な笑みを浮かべ、なのはも言う。

「なのはも気付いてましたー」

(なのはにまで気付かれていたいたとは・・・・・・)

胸中でそんな事を呟く恭也に桃子が訪ねる。

「でも、なんで隠してたの?せめて桃子さんには言って欲しかったわ〜」

「いや、別に隠そうと思っていたわけではないのだが。ちょっとタイミングというか」

「そ、そう恭ちゃんの言うとおりなんだけど。一度、言いそびれると何か言いにくくなっちゃって。ごめんね」

「別に責めてる訳じゃないのよ。それより、ほら皆飲み物を持って。乾杯よ、乾杯!」

『はーい』

全員がグラスを持ったのを確認すると桃子が話し出す。

「さて、乾杯の前に恭也、美由希、もう一ついう事があるでしょ?」

少し悪戯っぽい目をしながら二人に問い掛ける。

「もう一つ?」

「そうよ。このパーティーはそのためでもあるのよ。美由希、おめでとう。出来たんでしょ?」

「ええっ、何で知ってるの?」

「ふふふ、桃子さんに知らない事はないのよ」

「・・・・・・昼間の会話を聞いていたな」

「ははは・・・ばれた?」

「はぁー、今回は別に聞かれても困るような話ではないからいいが。今度からはしないように」

「はーい。ほら、それより乾杯するわよ」

桃子は音頭を取りながらグラスを持ち上げる。

「では、恭也と美由希の子供が出来たことに乾杯!」

『かんぱーい』

「「ぶっ・・・な、な・・・・・・」」

桃子の後に恭也、美由希以外が続く。一方、恭也と美由希は激しく動揺する。

「い、一体、何の話をしてるんだ!」

「そ、そうだよ。私と恭ちゃんの子供って何!」

「へっ。だって、美由希妊娠したんでしょ?」

「はい?私が?」

桃子は美由希の問いに首を縦に動かす。

「えぇぇぇー、な、なんでそんな話になってるの!」

「えっ、ひょっとして違うの」

混乱する二人に恭也が声をかける。

「二人ともとりあえず落ち着け。で、母さん、何でそう思ったんだ?」

「だって、昼間の会話で出来たって・・・・・・」

話しているうちに自信がなくなってきたのか少し声のトーンが下がる。

「はぁー、全部を聞いたわけではないのか」

「じゃあ何が出来たって言ってたの?」

「それは、やっと神速が出来たんだよ。今日、病院に行ったら子供が木から落ちてきて、それを助けようとした時に」

「はい!?じゃ、じゃあフィリス先生が証言してくれるっていうのは?」

「神速を使った時にフィリス先生が傍にいたから」

「恭也が思い当たる節があるって言ってたのは?」

「ああ、貫が自分の意志で出せるようになってから、しばらくしてそれらしい動きがあったからな」

「じゃ、じゃあ士郎さんや美沙斗さんに報告って・・・・・・」

「ああ、当然だろ。やっと美由希が神速の領域に来たんだからな」

「まだまだだよ。今回はたまたま出来たけど、次も出来るかどうか分からないよ」

「大丈夫だ。偶然でもできたんだ。間違いなくできるようになるさ。焦る必要はない」

「はい」

静かに微笑み合う二人の横で桃子が疲れたように座り込む。

「ははは・・・・・・、桃子さんの勘違いだったのね・・・・・・・・・」

「わ、わわ桃子ちゃんしっかり!」

「そ、そうですよ。勘違いだったけど高町君と美由希ちゃんの恋人宣言おめでとうパーティーにはなるんですから」

「それもそうよね。考えたら、孫はまたいつかって事で。今はとりあえずパァーと騒ぎましょう」

「立ち直るのが早すぎるぞ、高町母」

「いいじゃない。気にしない。気にしない。本当に孫を抱ける日を首を長くして待ってるからね。出来る限り早くお願いね」

「ちょ、かーさん!な、何を言ってるの」

「照れない照れない。それよりも今日は騒ぐわよー」

『オー』

桃子の宣言に応える皆を見ながら、恭也と美由希はそっと寄り添う。

「しかし、母さんの祭り好きにも困ったもんだな」

「そうだね。特に今回の勘違いにはびっくりしたね」

「まったくだな」

「でも・・・・・・恭ちゃんとの子供なら、いつかきっと・・・・・・

「ん?何か言ったか?」

「ううん。何も言ってないよ」

「そうか」

そっと静かに微笑み合う二人。そんな二人に周りから野次が飛ぶ。

「まーったく、見せ付けてくれるわね。一人身には辛いわ。ねぇー、那美」

「本当ですね。美由希さんとても幸せそう」

「お師匠、うちらがいること、忘れてませんか?」

「本当、もう秋だというのに熱いですね師匠」

「ほら、さっさとこっちに来て飲みなさいよ恭也」

「いや、俺は下戸だから」

「何、言ってんのよ。そんなの関係ないない」

「じゃあ、美由希ちゃんにはこっちで高町君との事を色々と話してもらおうかな」

「ははは、遠慮しときます」

「だーめ。ほら、こっちに来た来た」

恭也は桃子に引っ張られていき、美由希は忍に掴まる。
こうして、夜中近くまでこの騒ぎは続いた・・・・・・。





 〜 おわり 〜




<あとがき>

という訳で、第一回SSリクエストの一位となった恭也と美由希のお話でした。いかがでしたか?
美姫 「おおー、浩にしては早く書きあがったな」
ほっといて下さい。まあ、本当はもっと甘い話にしたかったんだが。
美姫 「例えば?」
うーんと、べたべたに甘えてくる美由希とか。後は、周りにレンたちがいるのにべたべたしてて、ばれていないと思っているとか。
美姫 「じゃあ、そうすれば良かったんじゃ?」
それもそうなんだが。これを書き終わりそうな所で思いついてしまったからな。
まあ、こっちは何かの機会があれば書くかもぐらいで。
美姫 「まあ、後SSリクエストが3本あるしね。先にそっちをしないとね」
確かに。じゃあ、次の作品に早速取り掛かるか。
美姫 「おお、珍しい事もあるもんだ」
五月蝿いよ。だって、出来るうちにしとかないと、なんかヤバイし。
美姫 「やばいって?」
いや、身体の調子がちょっと・・・。これを書いてる後半あたりから頭痛がしてきて。今現在も、頭痛が酷くなってきてる。
なんか寒気までしてきたかも・・・・・・。だから、倒れる前に書ける所まで。
美姫 「いや、それは休んだ方がいいと思うけど・・・」
うわー。ついに幻聴まで聞こえてきた。あ、あの美姫が優しい言葉を〜。ありえない。まず、ありえない。ひょっとして、重症か〜〜。
美姫 「寝てろ!」
ガツドコバキ
きゅうぅぅ〜〜〜〜〜。
美姫 「じゃあ、皆さんまた。バイバーイ」



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