『込められし思い 第3話』






それは風芽丘学園3年G組、朝のHRでの事。
いつもなら簡単な連絡事項を告げ、職員室へと戻っていく担任が今日に限ってまだ、教壇にて話を続ける。

「えー、今日は新しい転校生を紹介する」

担任のこの一言でクラス中がざわめき出す。そんなざわめきの中、担任は話を続ける。

「じゃあ、入ってきて」

担任の声と共に教室のドアが開いて一人の少女が入ってくる。それと同時に教室にいる生徒から感嘆の声があがる。

「おはようございます。私は水翠 冬桜と申します。皆様、宜しくお願いいたします」

そう言うと、優雅な仕草で一礼をする冬桜を見て、更に男子生徒たちはヒートアップする。
女子生徒たちも、そのあまりにも洗練された仕草に見惚れる者が多数いた。
そんな生徒たちが沸き立つ中、後ろの席に座る二人だけが落ち着きながら会話を交わしている。

「ねえ、恭也。幾らなんでも冬桜さんの転校、早すぎない。それにもうすぐ夏休みなんだから、2学期からでも良かったんじゃ」

「ああ。2学期からじゃないのは冬桜の希望だ。それと、転校が早いのにはちょっと訳があってな」

顔に疑問を浮かべながら、恭也に続きを促す。

「どうも、夏織さんがすでに色々とやっていたらしい」

「どういう事?」

「自分がもう永くない事を知っていて、その後、冬桜がどう行動を起こしても良いように手配してたみたいだ」

「へぇー、結構用意周到な人ね」

「こういうのも用意周到と言うのならばな」

恭也は少し呆れ顔で呟く。忍はそんな恭也を見ながら軽く笑みを浮かべ、

「まあまあ。そのおかげで、冬桜さんもこうしてすぐに学校に来れるんだからいいじゃない」

「それもそうだな」

二人がそんな会話をしている間にも、生徒から冬桜への質問が飛び交っていた。

「水翠さんはどのへんに住んでいるんですか?」

一人の男子生徒が冬桜に聞く。その目的はあきらかで、もし方向が同じならば途中まででも一緒に下校をしようという魂胆である。
その質問に冬桜は深く考えずに応える。

「つい最近、こちらに引っ越してきまして、今は高町家でお世話になっております」

『おおぉぉー』

その冬桜の言葉にクラス中からどよめきがあがる。

「な、なんで高町の家なんだ」

「くそー、なんであいつばっかり」

「そんなー、高町君と一緒の家だなんて羨ましいー」

など、本人達をよそに勝手なことを言い始める。そんな状態を収拾しようと担任が口を挟む。

「ほら、質問はまた別の時間にして。とりあえず、HRはこれで終わりだ。あと、水翠さんの席は高町の隣だから」

それだけを言うと、担任は教室から出て行く。
収拾をつけるために口を挟んだのではなく、この事態から逃れるために口を挟んだようである。
すでに教室から出て行った担任には目もくれず、教室中からいろんな質問や憶測が飛び交う。
そんな中、赤星が恭也に近づき、皆を代表する形で質問をする。

「あー、高町。一応、どういうことか説明してもらえるか。俺は別に構わないんだが、流石にこのままだとな」

「説明も何もないと思うんだが・・・。そもそも何を説明するんだ?」

苦笑しながら言ってくる赤星に真顔で聞き返す恭也。何故、教室が騒がしくなっているのか本当に分からない様である。

「だから、水翠さんが高町の家に居候している理由とかだよ」

「ああ、そういうことか。簡単な事だ。冬桜が俺の妹だからだ」

「ああ、なるほど。そういう事か」

「ああ、そういう事だ。あ、冬桜、こいつは赤星と言って、まあ、俺の友達だ」

「はい。赤星様ですね。宜しくお願いいたします」

「あ、こちらこそ。そうか、高町の妹だったのか。・・・・・・って、え、えぇぇぇーー。
 お、お前、妹がいたのか?いや、美由希ちゃんやなのはちゃんは知ってるけど。そ、それに水翠さんって、苗字が違うし」

「落ち着け、赤星。俺もつい最近まで知らなかったんだ。色々あって別々に育ったんでな」

「あ、ああ、そうか。そういう事か」

それだけで納得する赤星。
これはもし、自分が聞いてもいい事で必要があるなら、恭也からそのうち話してくると分かっているからこそである。
その事をわかっている恭也も深い事情まで聞いてこない親友に感謝しながら、再度、冬桜を紹介する。

「という訳で、これからよろしく頼む」

「ああ。じゃあ、水翠さんよろしく」

「はい、こちらこそ兄様共々、宜しくお願いいたします」

冬桜は深々と頭を下げる。そして、今までそのやり取りを聞いていた男子生徒たちが一斉に恭也に向って話し掛ける。

『お義兄さん!水翠さんの事は任せてください』

「なあ、忍、赤星。こいつらは何を言ってるんだ?」

そんな恭也に苦笑して返す二人だった。
余談だがこの後、噂になった美人転校生を一目見ようと、あらゆる学年の男子生徒が押しかけ、
その度に恭也はそれらの生徒に話し掛けられていた。これは、冬桜の外見があまりにもお嬢様みたなせいでもあった。
そのため、男子生徒はなかなか冬桜に話し掛けられず、おのずと兄である恭也を通して紹介してもらおうとしたからである。
これにより恭也は今日一日でかなり疲れたようではあったが。



つづく



<あとがき>

うーん、過去の回想編ではなく学校編になってしまったか。
美姫 「どういうことかな〜♪」
いや、そんなに嬉しそうに聞かれても。ほら、言ってたじゃないかこうなるかもって・・・。
美姫 「他にいう事は♪」
だ、だから何でそんなに嬉しそうなんだー!
美姫 「分からない?」
いや、分かるから嫌なんだけど。
美姫 「じゃあ、いってみよー。離空紅流 雷紅閃(らいこうせん)!」
や、やっぱり〜〜ぐぎゃっぁぁ!!!!
美姫 「ふぅー、浩への制裁は済んだし・・・。じゃあ、また次回でね♪」



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