『夕日隠れの道に夕日影』

   〜完結編〜






コンサート当日のコンサート会場。
CSSの全生徒は控え室にて時間が来るのを今や遅しと待っている。

「うーん、何度経験してもこの本番前っちゅうんは結構、緊張するな〜」

「へぇ、天下のSEENAともあろう者が震え上がってるの?」

「ちゃうちゃう。これは武者震いや」

「まあ、そういう事にしといてあげるわよ」

「失礼やなアイリーン。ホンマに武者震いやで」

「まあまあ二人とも落ち着いて。って前にもこんな会話したよね」

「はははは、したした。確かこのコンサートの出発地の海鳴でだったかな」

「うちの故郷の一つ海鳴やな」

「ああ、あの時か。そういえば、あの時も恭也が会場に来てたんだよね」

「言われて見ればそうやな。と、いう事は恭也くんがおるとうちは緊張してしまうってことやな。
 うーん、うちも乙女やっちゅうことやね」

「なに言ってるのよ。ゆうひのそれは今に始まった事じゃないでしょ」

「そうそう。それに適度の緊張はいい事だよ」

「まあな。ほないっちょ頑張っていこうか!」

「「おー」」

一方、恭也は会場内を見て周っている。

(昨日の襲撃から考えて、相手は形振りかまわずに襲ってくる可能性もあるな。
 フィアッセたちの控え室は厳重に警備をたてたから、何者も近づけない。だとしたら、襲撃してくるのは……)

幾つかの襲撃ポイントを考えだし、そこを順次見回っていく。
幾つかを周った後、定時連絡の時刻となり、一旦、警備本部へと連絡をいれる。
そして、再び見回りを始める。それから、数分が経った頃、恭也の無線機が鳴る。

「はい、こちら01恭也です」

「こちら00本部。すぐにポイントDに向って!」

「了解」

詳しい事を聞く前に走り出す。走りながらポイントDまでの最短距離を思い描きつつ、詳しい現状を聞きだす。

「ポイントDにいるはずの要員から定時連絡がこないの。無線機が故障してるだけなら良いんだけど……」

そう言うメアリーも、そして、恭也も全ての機器は事前に入念にチェックをしており、それはないと分かっている。
定時に連絡がない以上、連絡ができない状態──交戦中なのか、あるいはすでに……。
そんな考えを追い払うかのように一度頭をふると走る速度を上げる。
今、ポイントDに向っているのは恭也と後、2名。ちょうど、通路の両側から挟み撃ちする形での合流となる。
他の人員はこれが陽動だったときのために控えている者と、今までどおりに巡回を続けている者である。
恭也はポイントDに向いながら、腰に差した小太刀──父、士郎から受け継ぎ、
恭也と共に数々の死闘を潜り抜けてきた自分の相棒、八景に軽く触れる。

(頼むぞ)

そして、ポイントDの手前で止まると無線機に呼びかける。

「こちら01。ポイントDに着きます」

「00了解。07と11も着いたようだ。五秒後に両側から挟み撃ちに」

「了解」

恭也の言葉の後、無線機からカウントダウンが聞こえてくる。静かに目を閉じ、体をカウントに合わせてゆっくりと動かす。

5……4……3……2……1……

恭也はゼロと同時に通路から飛び出す。その通路の向こう側ではやはり07、11と呼ばれた二人も飛び出してきていた。
しかし、その間の通路には誰もいなかった。恭也たちは慎重に歩を進めていく。が、やはり何もなく3人はそのまま合流する。
その事を本部に報告すると、3人はそのまま巡回に戻らずに、周辺を調べ始める。

「これは?」

しばらく経った頃、恭也は床に微かに引き摺った後があるのを見つけ、本部へと連絡をいれる。

「ええ、恐らくは何者かの襲撃を受け倒されたと……。それと、この引き摺った後は08と12を運んだと思われます。
 ただ、血の跡がないのでひょっとしたら無事なのかも」

「そう。でも、08と12を探している暇はないわ。それよりも警備の方を強化しないと。
 仕方がないわ、そこはもういいから巡回に戻って」

どこか辛そうにそう告げるメアリーに三人は了解の返事を返す。
そして、無線を切ろうとした所で、

「待って!06と10から連絡が……。三人ともすぐにポイントFに行って」

メアリーのその言葉に、再び駆け出す三人。
そして、ついた先では06と10が倒れていた。駆けより二人の様子を見てみる07。
どうやら血を流しておらずただ気絶しているだけのようであった。

(何故だ?何故、気絶させるだけなんだ。それとも、この期に及んでまだ警告をしているつもりなのか)

その時、少し離れた通路の角から恭也に向けて殺気が放たれる。
それを感じ取り、そちらを見ると人影らしきものが隠れるように動く。

(誘っているのか?どちらにしても放ってはおけないな)

「本部、こちら01。今、怪しい人影を見つけました」

その声に一緒にいた二人が恭也の見ていた方を向くが、そこには既に人影所か何もなかった。

「どうやら向こうは俺を誘っているみたいです。今から追いますから、後の警備をお願いします」

「待って!それは罠かもしれないわ」

「ええ、多分そうだと思います。でも、このままだと警備にあたる人員をあいつに減らされていきます。
 だったら、こっちから行く方がまだましです」

「でも……」

「後はお願いします」

恭也はメアリーとの会話を打ち切ると、その人影を追って通路を駆け出す。
そして、角を曲がると、その人物はその先にある次の角で同じ様に恭也が来るのを待っていた。
恭也が来た事を確認するとまた、角に消える。そんな事を繰り返すうちにその人物は一つの部屋へと入る。
恭也も後を追い、慎重に部屋の中へと足を踏み入れる。
そこは少し広いホールのような造りになっており、何もない部屋だった。

「よくここまで来てくれたね。君が昨日、うちの馬鹿どもを撃退した剣士くんだね」

「そうだが、何が目的だ」

「目的……?それは君と闘う事だよ。それと、君の足止め」

男の言葉に疑問の表情を浮かべる恭也。

「足止めだと?」

「そうだ。警備を担当している者の中で君が最も手強い。君さえ足止めできれば、あとに残った者など他の連中でも充分だ」

「他の連中?」

「そうさ。俺を含め10名がこの会場内にいるはずだ」

「何故、コンサートを中止にしたいんだ」

「さあね。それは僕の依頼主に聞いてくれ。お偉いさんの考える事なんか僕には分からないからね」

「じゃあ、質問を変えよう。依頼主は誰だ?」

「言うと思うかい?」

「思わないな」

「だろ。これでも一応、プロなんでね。さて、会話はここぐらいにして、君も剣士なら言葉じゃなくてこれで語ろうじゃないか」

そう言って男は一振りの剣を鞘から抜き構える。

「珍しいな。今時剣を使っているなんて」

「別にそうでもないさ。この世界では結構いる。俺はこれで人を斬る感触が好きでな。銃は駄目だ。感触もなにもない。
 撃ったらそれでお終いだ。だから、剣を使うのさ。それに、君も同じく剣を使う者だろ」

それに恭也は答えず、ただ腰を少し落とし、右手に小太刀を持つ。左手はいつでも、もう一刀を抜けるようにする。
それを面白そうに眺めた後、男はさらに口を開く。

「一度、日本の侍とやってみたかったんだ。楽しませてくれよ」

男は言い終えると同時に恭也に向っていき、大上段から下へと斬り降ろす。
男の持つ剣はかなり大きい方で、斬るというよりは叩き潰すといった方が良いかもしれない。
恭也は打ち下ろされてきた大剣を横へと躱し、そのまま男の懐へと潜り込んでいく。
そして、その勢いのまま右の小太刀を横薙ぎに振るう。
これを男は自らの大剣を手元に引き寄せ弾くと、今度は下方から振り上げる。
恭也はこれを後ろに下がってよけながら、牽制のために飛針を3本投げる。
飛んできた飛針を大剣の一振りで全て弾き飛ばすと、男と恭也は再び対峙する。

(思ったよりも速い剣筋だが、美沙斗さんや美由希よりも遅いな。だが、あの力はちょっと厄介だな……)

今度は恭也から男へと向かっていく。男は大剣を上段に振りかぶり恭也が来るのを待ち構える。
そこへ恭也が飛針を放つ。その飛針を振りかぶった大剣で打ち落とすが、その隙に恭也が距離を詰めていた。
恭也はそこから斬撃を繰り出し、男がそれを大剣で受け止める。
互いの小太刀と大剣のぶつかり合う鈍い音が辺りに響く。しばらく互角に打ち合っていたが、徐々に男の方が押され始める。
これは恭也の二刀による手数の多さに対応が出来なくなってきたからである。
恭也は速さによる手数で男を翻弄していく。これに男は少しずつだが後ずさり始める。
幾度かのぶついかり合いの後、男が大振りで大剣をおろしてくる。
その斬撃を受け流し、次の一撃で決めようとする恭也だったが、その斬撃の力を全て受け流せずに体勢が崩れる。
そこへ男の大剣が再度向ってくる。この斬撃を小太刀を二刀重ねて両手で受け止めようとするが、弾かれる。

(さっきの斬撃よりもさらに重い!)

続いてくる斬撃を両手の小太刀で受け流し、間合いを詰めて行く。

(とりあえず、こっちの間合いで闘えば……)

恭也は必要以上に間合いを広げないように、時には飛針や小刀を投げて牽制しながら斬撃を繰り出していく。
一方、男の方は恭也が自分の間合いよりも内側に常にいるために、何とか間を取ろうと力任せに大剣を振るう。
が、そのことごとくを受け流され、躱される。徐々に男の顔に焦りが見え始める。
それを感じて恭也はさらに斬撃を増やしていく。

──小太刀二刀御神流 虎乱

「ぐぬぅぅっ」

更に速くなり増えていく斬撃に男は呻き声を洩らし、一気に後ろへと飛ぶ。
その瞬間を逃さず、恭也も男を追いながら小太刀を鞘に納める。
それを見た男が大剣を振りかぶり恭也の頭へと振り下ろす。
恭也はその斬撃を紙一重で躱しながら、裂帛の気合と共にすれ違いざまに小太刀を振り抜く。

──小太刀二刀御神流 奥義之六、薙旋!!

男の体に四条の太刀筋全てがきまり、男が倒れる。

「ふぅ〜」

ほっと一息吐くと小太刀を納め、何かあればすぐに飛び退けるように男の傍へと慎重に寄って行く。
完全に男が気絶している事を確認すると持っていた捕縛用の鋼糸で男を縛り、大剣を手の届かない所に置く。
峰打ちだったとはいえ、奥義をまともに受けた以上しばらくは目を覚まさないだろう。
恭也はそう判断し、本部に連絡をいれる。

「こちら01」

「恭也君!無事だったのね」

「はい。とりあえず、今ここに襲撃してきた男が倒れているので処理の方をお願いします。
 後、フィアッセたちは無事ですか?」

恭也は男が自分を足止めするために襲撃してきた事と、まだ数人の襲撃者がいることを伝える。
メアリーからは2人の襲撃者を捕らえたことを聞く。

「了解。そっちにはすぐに04と05を向わせる。後、数人をこれから控え室へと通じる通路に集合させるから、すぐに合流して」

「了解」

通信を終えると恭也はすぐに合流地点へと向う。
恭也が控え室へと続く通路まで来た時、既に数人が警備として周りを警戒していた。
軽く頷づき合い挨拶を交わす。控え室へと続く道はここしかなく、控え室に向かうにはここを通らなければならない。
恭也たちは丁度、T路地の交差する場所で警備にあたる。ここなら、どちらから襲撃してきてもすぐに分かる。

(俺を足止めしようとした者を含め、捕まえたのは3人。残りは……7人)

辺りを警戒していた恭也の耳にドアを開く音がする。そちらを見ると控え室から数人の生徒が出てくる所だった。
向こうも恭也に気づき、近づいてくる。

「恭也くんやないか。そんな所で何をしてるんや」

「!椎名さん、早く部屋に戻ってください」

「恭也、どうしたの?」

「フィアッセもアイリーンさんたちも早く戻って」

不思議そうに聞いてくるフィアッセたちにも部屋に戻るように促す。
それでもこちらに近づこうとしているフィアッセたちを止めようと口を開きかけた時、恭也の感覚に何かが引っ掛かる。

「こっちに来るな!」

恭也は怒鳴ると身を翻す。

「気をつけろ!襲撃だ!」

周りにいる警備の者たちにそう知らせると同時に銃声が通路に響く。
全員が咄嗟に控え室に通じる通路に飛び込み、銃弾から身を守る。しかし、何人かは腕や足に被弾したらしく血を流していた。
襲撃は右側の通路からだけのようで、左側からは一切銃弾はこない。それでも、用心をしながら壁から少し顔をのぞかせ様子を見る。
途端に飛んでくる銃弾にすぐに顔をもどす恭也。

(ちらっと見えた限りでは4人。後の3人は左側か、それともその後ろにいるのか)

「恭也……」

考え込んでいる恭也の耳にフィアッセの不安そうな声が聞こえてくる。
そちらを振り向くとフィアッセたちが大まかな事情を察したのか不安そうな顔をしている。

「まさか、恭也がイギリスに来たのって……」

「……ああ。万が一のためだ」

「!なんで、こんな危険な事を引き受けたの!」

「落ち着いて、フィアッセ。確かに危険かもしれないけど、誰かがやらないといけないんだ。だから、俺は自分でやる。
 幸い、俺にはそのための力があるから。……父さんから受け継いだこの力は、そのためのものだから」

その恭也の言葉に、長い付き合いで恭也の言わんとする事が分かるフィアッセは黙り込む。
しかし、ゆうひはまだ食い下がる。

「でも、うちらなんかのために恭也くんが傷つくんは……」

「椎名さん、自分のことをなんかなんて言ったら駄目ですよ。
 俺とは違って、椎名さんたちは多くの人たちを歌で幸せにできるんですから。
 そして、そういう人たちの道を潰そうとする奴らを斬り捨てるために俺の刀は存在するんですから。
 決して人に誇れるようなものではありません。でも、これで大切な人たちを守れるなら、それで充分です。
 だから、早く部屋に戻ってください」

「でも……」

まだ戸惑うアイリーンたちにフィアッセが明るい声で言う。

「皆、早く戻らないと。もうすぐ本番が始まるんだからね」

「フィアッセ?」

「ほら、私たちはこの後のステージで歌う事だけを考えないと。
 折角、恭也が日本から聞きに来てくれたのに変なの聞かせられないでしょ」

「そうやな!恭也くんが聞いてくれんねんから、今までの中でも最高の歌を聞かせなあかんな」

「そうね。フィーやゆうひには負けないからね」

「「それは私(うち)の台詞だよ(や)」」

「私だってクリステラの称号にかけても負けないから」

「「私だって負けないからね」」

全員が同じ様な事を言い始め、最後に全員が恭也の方を見る。

『ちゃんと聞いていてね恭也(くん/さん)』

「ああ」

そんな彼女たちに優しく微笑みを返すと、すぐに表情を引き締まらせ未だ銃弾が飛んでくる右側の通路へと視線を向ける。

「合図したら飛び出しますんで、援護してください」

この恭也の言葉に警備員たちは驚きの表情を浮かべるが、その真剣な眼を見て全員が頷く。

「では、……3、2、1、0」

言い終えると同時に飛び出す恭也と、援護のために銃を撃つ警備員たち。しかし、当然のように恭也に銃弾が集中する。
そんな中、恭也はジグザグに走りながら焦点を合わせにくくしつつ、襲撃者に向かっていく。
後、少しという所で、4人全員が通路の奥に身を隠す。それを恭也はそのまま追いかけ、角を曲がる。
その先には4人が銃を構えて恭也を待っており、恭也が出てきた瞬間に引き金を引く。
しかし、恭也はこれを予測しており、角を曲がると同時に神速を発動させる。
モノクロになる世界の中で、恭也は弾丸を避け、小刀を向って一番右側の男とその横にいる男に投げる。
そのまま左側にいる二人の男に向って距離を詰めて行き、一番左にいる男の腕の剣をそのまま切断する。
そこで神速の領域から抜け出る。男たちは自分達に何が起こったのかを理解できず、左の男は腕に力が入らずに銃を落とす。
右にいた二人の男は小刀が腕と肩に刺さっており、腕を刺された男は銃を取り落としていた。
唯一、無傷だった男は自分のすぐ傍に恭也がいることに驚きながらも銃口を恭也に向ける。
が、引き金を引くよりも早く恭也の斬撃が走り、その場に昏倒する。
それに目もくれずに残る二人にも小太刀を振るい意識を刈り取る。
一人残された男はもう一方の動く腕で銃を拾い発砲しようとするが、その手に飛針が突き刺さり再び銃を落とす。
半ば恐慌状態に陥った男は這って逃げようとするが、恭也はその男の首筋に手刀を当て気絶させる。
全員が戦闘不能になった事を確認すると後始末を頼むためにもと来た通路へと出る。
一方、その場に残って恭也の消えた通路の先を見ていた警備員たちは、恭也が無事に現れたことに安堵の息を洩らす。
そして、恭也がこちらに来るのを待ち、合流しようとした所で、反対側の通路かわ発砲される。
警備員たちは咄嗟に通路の奥に戻り、隠れる事ができたが、
恭也はまだ通路の途中だったため、隠れる場所がなくその身を銃口の前に晒すことになった。
それを見た襲撃者3人が一斉に引き金を引き、恭也を狙う。
恭也はそれを確認すると同時に神速の領域へと再び入り、銃弾を掻い潜って襲撃者へと接近していく。

(襲撃者は3人。あれで全部だな)

神速で残る襲撃者に近づいていく恭也だったが、その距離が遠すぎたため途中で神速の領域から抜けてしまう。
しかし、恭也は神速の領域からでる瞬間に床を力一杯蹴り、壁へと向って跳ぶ。
そして足が壁に触れた瞬間に壁を蹴り天井へと跳ぶ。そこから先程とは逆側の壁へと跳び、最後に床へと戻ってくる。
このアクロバット的な動きに襲撃者側はついていけず、銃弾だけが誰もいない通路へと飛んでいく。
未だに茫然としている襲撃者の元に辿り着くと恭也は小太刀を振る。
一人を倒した所で、残る二人は我に返り銃を構えるが、その時には恭也はもう一人の懐深くまで接近しており、
小太刀の柄で鳩尾を叩きつける。この一撃には徹が込められており、男は血を吐きながらその場に倒れる。
それを見た最後の一人が味方に当たる事も気にせずに発砲するが、
恭也は顔を軽く傾けて銃弾を躱し、男の銃弾は恭也の頬を掠めただけだった。
恭也は男との距離を一瞬で詰めると、小太刀を振るう。

──小太刀二刀御神流 奥義之壱 虎切

一応、峰打ちで動けないようにするだけにする。
全てを終え、恭也は本部へと連絡を入れる。
その後しばらくして本部からの増援とその場にいた警備員たちによって後始末が行われていく。
それをぼんやりと見ていた恭也は背後からの気配に気づき振り向く。
そこにはCSSの生徒たち数人がいた。その中からフィアッセが恭也に近づく。

「恭也、大丈夫?どこも怪我はしてない」

「ああ、大丈夫だ」

「でも、ここ」

そう言って恭也の右頬に触れる。そこには薄っすらとだが一筋に傷がついていた。

「これぐらいなら問題はない。それよりも、もうすぐ本番だろ。はやく舞台袖に行かないと」

「……うん!そうだね、分かったよ。じゃあ行ってくるから恭也もすぐに来てよ」

「ああ」

フィアッセの言葉に全員が頷き、ステージへと歩いて行く。
それを見送った後、メアリーたちの処理を手伝う。
それらの処理が素早く終え、舞台裏へと行こうとした時、ティオレが目の前に現われた。

「恭也、ありがとうね」

「いえ。それよりも舞台のほうは良いんですか?もうすぐ開演の時間ですよ」

「ええ、ぎりぎりだけど大丈夫よ。本番の前にお礼を言いたかったの。また恭也に助けられたわね」

「気にしないで下さい。それに、ティオレさんたちに助けが必要というのなら、俺はいつでも何度だって助けますよ」

「……ありがとう。じゃあ、そろそろ時間だし行くわ。恭也も一緒に行きましょう」

「はい」

ティオレと並んでステージのある方へと向って歩く。

「ねえ、恭也……。いつでも助けてくれるのよね」

そう言うティオレさんの顔を見たとき、先程の銃撃戦ですら感じなかった悪寒が恭也の背筋に走る。

(この顔はどこかで見たことがあるような……)

そう考えながらもとりあえず頷く。

「じゃあ、うちの生徒で気に入った子はいた?」

「なっ!そ、それとこれと何の関係があるんですか!」

「そんなに慌てるって事は思い当たる事があるのね」

そう言って笑うティオレさんを見たとき、さっきまで考えていた事の答えが見つかる。

(そうか、このティオレさんの顔。これは、かーさんが悪戯を思いついた時や真雪さんが面白い事を見つけた時に見せる顔だ)

今、ティオレと恭也は同じ場所に向って歩いている。今更、気付いたからといって逃げる事はできない。

「まあ、大体の予想はついているんだけどね。いるんでしょ?」

「は、はぁ」

どっちつかずの返事をする恭也。しかし、ティオレにそう言われた時、一人の女性の顔が浮かんだのは事実であった。

「で、助けてというのは?」

「簡単な事よ。うちの生徒たちは皆美人ぞろいなのに、誰一人として浮ついた話の一つもなくて困っているのよ。
 だから助けて欲しいのよ」

「自分からスキャンダルを作ってどうするんですか」

「だって退屈なんですもの」

「どっちにしろ、そういうことならお断りします。そういう事では力になれませんから」

「残念。でも、まあこれは冗談として……」

そう言って、話を変えようとするティオレ。

(本当に冗談だったのか?)

そう思ったが口には出さないでおいた。これは日頃から桃子や真雪にからかわれてきた事で得た知識である。
それだけではなく、ティオレが真剣な表情をしたからでもあるのだが。

「今日、コンサートが終わって恭也が日本に帰る前に一度、その子と会って話をしてあげて」

「???」

「深い意味はないわよ。本当にただ、その子と会って話をするだけ、それだけよ。
 それに恭也も日本に帰る前に一度、ちゃんと話をしたいでしょ」

「……分かりました。それに、ティオレさんに言われなくてもそうするつもりでしたから」

「あらあら、流石に士郎の息子ね。じゃあ、これは余計なお世話だったわね」

「いえ。そんな事はありませんよ。正直、少し怖気づいていましたから、背中を押してもらった気分です」

「そう。なら良かったわ。じゃあ、頑張ってね恭也」

「はい」

そう言うとティオレは生徒たちの待つ舞台へと向っていき、恭也はそのまま舞台裏へと行く。
そこでゆっくりとこれから始まるステージを待つ。
一人の女性の笑顔を思い浮かべながら……。





 つづく




<あとがき>
間が少し空いたけど、ここに完結です!
美姫 「ちょっと待て!結局、最後は誰を選んだのよ。って言うか、これってゆうひのリクエストSS!」
落ち着けー!少し間が空いたのには訳がある。この後、ゆうひ編へと続くのだ。だから、2本上がるまでアップしなかったのだ。
美姫 「なるほど〜。間が空いたのは浩がサボっていた訳じゃないのね」
……その通りです。
美姫 「何!今の間は」
き、気のせいだ。そ、それよりも。
美姫 「話を逸らす気?」
ち、違う。前編で言ってた短編にしなかった理由だよ。
美姫 「……ああ、そういえば、そんなのもあったわね。で、その理由は?」
マルチエンディング。
美姫 「はい?」
いや、基本的にはゆうひ編だけど、それ以外にもフィアッセ編とかアイリーン編にも出来るかな〜って。
美姫 「その前に書けるの?」
わかんない……。ははは。ま、まあ、例によって時間が出来ればという事で。
美姫 「はぁー。このヘボ作者め」
ぐっ。そ、それよりも早く、ゆうひ編に行かなくては。ではでは。
美姫 「あ、待ちなさい!私も行くわよー」




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