『夕日隠れの道に夕日影』

    〜ゆうひ編〜






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『夕日隠れの道に夕日影』
  〜ゆうひ編〜





イギリスでのコンサートが終了した後のクリステラソングスクール。
月明かりの下、恭也とゆうひは二人だけの中庭で向かい合って立つ。
コンサートが終了した後、ゆうひが恭也を誘ったのである。

「あんな、恭也くん。うち、大事な話があんねん」

「はい」

恭也はゆうひに優しく微笑みかけ、続きを促す。その笑顔に励まされるかのように、ゆうひは言葉を紡いでいく。

「うちな、最近気ぃついた事があるんよ」

そう言うと少し微笑み、身体の向きをかえる。丁度、恭也に横をみせる形になると一呼吸置く。

「始めて会うた時は、笑わん子やな〜って思うてん。だからこの子の笑ってる所が見たいって思ったんが最初……。
 それから何度か会って、この前の歓迎会。……ただ、冗談でフィアッセと張り合ってるつもりやってんけどな」

ゆうひが自分の事を言ってると察した恭也はただ黙って頷く。それを横目で見ながら続ける。

「今から考えると、もうあの時から気にはなってたんやな〜て思う」

そう言うと、両手を広げその場で綺麗に回る。
そして、再び恭也と向き合うと両手を後ろで合わせ意を決したように口を開ける。

「恭也くんはその剣でうちらを助けるって言ったやんな」

「ええ。俺の剣は日の当たらない闇を行く剣です。それでも、日の光を浴びて表を歩く人を守る事はできますから」

「そう……。ほな恭也くんは夕日隠れを行くんやね」

「夕日隠れ?」

「そう、夕日のあたらない場所のことや」

「はぁ?」

「せやったら、うちはそこを照らす光、夕日影になりたい」

困惑している恭也に構わず、ゆうひは言葉を続ける。

「うちな……恭也くんの事、好きやー。多分、ずっとずっと前から……。
 いつからかは分からんけど、気付いたんはここ最近かな。
 だからな、あのコンサートの警備をしてる時、恭也くんが撃たれたと思ったら、
 うちな、身体中から力が抜けてしまって何も考えられんかった」

またあの時の感情を思い出したのか、ゆうひは一度、体を振るわせる。

「でも、その時一つだけ分かった事があるんや。それが、うちが恭也くんを好きっていう気持ちやってんけどな……。
 あかんな、何か上手い事、よー言われへんわ。
 ただ、あの後舞台の上で歌った歌は見に来てくれたお客さんやのうて、恭也くんのために歌ったんや。恭也くんの事だけを思うて。
 うちがSEENAとして今までやってきた事や先生に教わった事、それにうちの今の思いを全て込めて」

そう言うとゆうひは恭也の目を正面から真っ直ぐに見詰める。

「椎名さん……。俺もあなたの事が好きですよ」

恭也の言葉にゆうひは驚きの表情を浮かべる。

「俺も多分、ずっと前から好きでした。だから今日、椎名さんと話をしようと思ってました。先に言われてしまいましたけど」

そう言うと、恭也はゆうひに近づき、そっと抱きしめる。ゆうひも恭也の背に腕をまわし、その胸に顔を埋め涙を流す。

「うち、……むっちゃ、うれしいで」

「椎名さん、泣かないで下さい。俺はあなたの笑顔が好きですから、あなたの笑顔を見たいです」

「それはちょっと無理やー。これは悲しくて泣いてるんとちゃうねんから。嬉しくて泣いてんねんから。
 でも、恭也くんの頼みやから。しゃーないな。これでどうや」

そう言うと、ゆうひは顔をあげ笑みを浮かべる。

「恭也くん……」

そう言うとゆうひは恭也の顔をじっと見つめる。恭也はただ黙ってそんなゆうひを見つめ返す。

「……はぁ〜。あかん、ここまでニブチンさんとは。これは今後、教育していかんとあかんな」

「えっと、どういうことですか?」

「あんな恭也くん、こういう時に自分からせえへんねやったら、せめて黙って目を閉じい」

「は、はあ」

恭也は言われた通りに目を閉じる。と、その唇に柔らかいものがあたる。

「!!」

驚いて目を開けた恭也の目の前一杯に頬を朱に染めながらも笑顔のゆうひが広がっていた。

「これでわかった?」

「はい」

「うん、わかればよろしぃー」

そう言うとゆうひは力一杯恭也に抱きつく。

「うちは結構、甘えたがるで〜。それでもええんか?」

「俺は、椎名さんが好きです。好きな人に甘えられるのは嫌ではありませんから」

「ん〜。なあ、恭也くん。うちの事、名前で呼んでや〜」

「分かりました。ゆうひさん」

「OKやっ!でも、丁寧なんはまだなおらんかー」

「すいません。これは癖みたいなものですから」

「別にいいよ。そのうち直してもらうから。時間はまだ一杯あるからな」

「努力します」

「うん、頑張り〜や」

そう言うと、ゆうひは恭也の胸に甘えるかのように頬擦りをする。

「し、ゆうひさん!な、何を」

「ん〜〜。明日からまたツアーで移動やから、今のうちにエネルギーを充填してんねん。
 しばらく恭也くんにも会えんしな。あかん?」

「いえ。どうぞ、たくさん充填してください」

笑みを浮かべながら恭也はゆうひを強く抱きしめる。

「ほな、遠慮なく。ん〜〜」

ゆうひは更に恭也の胸に顔を埋め、甘える。恭也はそんなゆうひの髪を優しく撫でる。
しばらくして、ゆうひが顔をあげる。

「もう、良いんですか?」

「うん!もう元気一杯や。充填完了やで!」

そう言って元気に笑うゆうひを恭也は優しく見詰める。
恭也はゆうひの顎を掴むとそのまま顔を近づけていく。段々と近づいてくる恭也にゆうひはそっと瞳を閉じる。
お互いに軽く触れる程度の口付けを交わす。

「恭也くん。うちは当分、海鳴には戻られへんけど浮気したら嫌やで」

「しませんよ」

「約束や!」

「はい、約束です」

「もし、破ったらうち大声で泣くからな」

「破りませんよ、絶対に……」

「じゃあ、次に会う時まで、しばし、さいならやな」

「ええ、待っていますよ」

そして、三度目の口付けを交わす二人を月明かりが優しく照らしていた。

A promise under moonlight.



to be continued next story 『An unexpected excuse 〜ゆうひ編〜




  〜 後日談 〜




<あとがき>

KOUさんのリクエストゆうひSS。無事に完結です。
美姫 「リクエストから約3週間。やっと完成ね」
うぅ〜。遅くなってしまってすいません〜。
美姫 「もっと謝りなさい。ほらほら」
グリグリ。
うぅぅ〜〜。でも、まあ何とか終われたな〜。しかし、書き始めるとどんどん話が膨らんだな〜。
収拾をつけるのに苦労したよ。
美姫 「そうよね。しかも、後日談まで書いてしまうぐらいだもんね」
まあな。こんな事は一年に一回あるかどうかだけどな。
美姫 「ヘボ作家め」
ん?なんか言ったか?
美姫 「べっつに〜。じゃあ、今回はこのへんで。皆様、ごきげんよう」
また次回!




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