『込められし思い 第4話』






──風芽丘学園3年G組
全ての授業が終わった放課後の教室で机に突っ伏している恭也。
今日一日、休み時間の度に来る男子生徒からの質問攻めによってかなり疲れているようである。
そんな恭也の元へ冬桜が近づき声をかける。

「兄様、いかがされましたか?」

「ん。なんでもない」

「そうですか。それならば、宜しいのですが。所で、兄様この後のご予定は」

「ん?特にないし、このまま帰るつもりだが」

「そうですか。では、私もご一緒してもよろしいですか?」

「ああ、別に構わない。じゃあ、帰るか」

「はい」

そう言って微笑む冬桜を見て、あちこちの席から感嘆の声が上がる。
それらを気にせず、恭也は鞄を手に持ち、席を立つ。その後を追うように忍も立ち上げる。

「ちょっと待って、恭也。私も帰るから」

そう言うと忍は恭也を挟んで冬桜の反対側に並ぶ。

「高町、両手に花状態だな」

「赤星、何を言って・・・」

「えへへ。ほんと、そうだよね〜。こんな美人なお姉さんを二人も侍らせて、恭也ってば良い身分よね〜」

そう言いながら忍は恭也の腕を取ると自分の腕と絡める。
忍の言葉に教室にいる男子生徒が何度も頷いているのが恭視界の片隅に入るが、恭也はそれらを無視すると忍の腕を解く。

「また、お前はすぐにそう言う冗談を言う」

「えぇーー、忍ちゃんショック〜〜。じゃあ、私は美人さんじゃないの〜。シクシク」

この忍の泣き真似が冗談だとは分かっているのだが、恭也は対応に困る。

「誰もそんな事は言っていないだろ」

「じゃあ、私、綺麗?」

「・・・・・・。赤星はこれから部活か?」

「わっ、そんな露骨に話を逸らす?普通」

そんな二人のやり取りを見ていた赤星は苦笑しながらも恭也に答える。

「ああ、そうだ」

そんな事を話しながら教室から出て行こうと恭也がドアに手を伸ばした時、丁度外側からドアが開けられる。

「わ、わっわわわ」

ポフ
外側から急に入ってきた女生徒は入り口で躓くとそのままこけそうになるが、
目の前に恭也がいて、その女生徒の両肩を押さえ受け止めたため、地面に顔面から激突という事態を免れる。

「す、すいません」

「いえ、大丈夫ですか・・・って、那美さん!?」

「え、あ、恭也さん! どうも、こんにちわ」

「あ、はい。こんにちわ。所でどうしたんですか?こんな所まで来られて」

「あ、そうでした。実は・・・」

そこまで那美が口にした所で恭也は自分の背後と那美の背後から強烈な視線を感じ、それぞれを一瞥してから口を開く。

「どうかしたのか?忍に美由希」

「べっつに〜。ただ二人とも仲がよろしい事でうらやましいぐらいだわ」

「ほんと、ほんと。恭ちゃんも那美さんもいつまでも抱き合ってて仲が良いね〜」

美由希の言葉に恭也と那美は慌てて離れる。

「で、美由希までどうしたんだ?」

「え、あ、うん。ちょっと冬桜さんの様子を見に。私のクラスでも結構、噂になっていたから」

「噂?」

「うん」

「とりあえず、家に帰りながら聞く事にするか。ここは出入り口で邪魔になるからな」

恭也の言葉に全員が頷き、廊下出て下駄箱へと向う。途中、部活に行く赤星と別れ、5人は校門から外へと出る。

「で、噂というのは?」

「うん。そんな大した事じゃないんだけどね。
 ただ、恭ちゃんのクラスにすっごい綺麗な転校生が来たっていう話だったから、冬桜さんの事だろうなーって思って」

「そうなんです。私のクラスでも噂になっていたので美由希さんと様子を見に行こうって事になって」

「そうですか。まあ、正直少し疲れたけどな」

恭也の言葉の意味が分からず首を傾げる美由希と那美に忍が休み時間の事を話して聞かせると、二人は納得したよに頷く。

「確かにそれは大変でしたね」

「うんうん。特に恭ちゃんは普段からあまり喋らないもんね」

「そうでしたか。私の所為で兄様にそんなご苦労をかけてしまい、申し訳ございませんでした」

「そんなに気にする事はないぞ冬桜。それに、これはお前の所為ではないからな」

「そうそう。それに恭也は妹には甘いもんね。これぐらい平気よ平気」

「そうですね」

忍と那美は顔を見合わせてくすくすと笑う。

「・・・・・・」

恭也はどこか憮然としながらも反論をしない。そんな恭也を恨めしそうな眼で見ながら美由希がぼやく。

「私だって妹なのに・・・。恭ちゃん、私には全然、優しくない。せめてなのはの半分ぐらいは優しくして欲しいよ」

「・・・・・・。美由希は妹という気がしないからな」

恭也のこの発言に美由希、忍、那美が色めき立つ。

「えっ、ええ、恭ちゃん・・・それって」

「ち、ちょっと恭也。それはどういう意味よ」

「そうです。ちゃんと説明してください」

「説明も何も言葉通りの意味なんだが・・・。美由希は妹というよりも弟子だったからな」

「な、なるほど。そういう意味だったのね」

「ビックリしました」

「うぅぅ〜〜。恭ちゃん紛らわし過ぎるよ」

「さっきから何を言っているんだ?」

そんなやり取りを見ていた冬桜から笑い声があがる。

「くすくす。兄様はかなりおもてになるようですね」

「???冬桜、何を言ってるんだ。そんな事があるはずないだろ」

「くすくす。さあ、それはどうでしょうか。どうやら兄様はかなり鈍感な方みたいですね。
 それでは周りの女の子たちも苦労しているでしょうね」

「そうなんですよ。恭ちゃんときたら、鈍い上に朴念仁でおまけに無表情」

「そうそう。更に自分の事に無自覚で。全く本人が意識しないうちに何人の女の子が犠牲になったことか」

「あははははは」

冬桜の言葉に水を得た魚のように語りだす美由希と忍。
那美は口にこそ出さないが、その表情から二人の意見に同意している事が窺える。
いつの間にか冬桜たちは意気投合して、今までの恭也の行動やその事に関するそれぞれの意見などで盛り上がる。

「あー、四人ともどこに行くつもりだ」

「「「「翠屋」」」」

息を合わせたかのように同時に言う四人に溜め息を吐きながらも反対する理由もなく、そのまま翠屋へと向う。

「いらっしゃい、って恭也たちじゃない」

「こんにちわフィアッセさん」

「「こんにちわ」」

忍に続いて那美と冬桜が挨拶をする。

「奥の席が空いてるからそこで良い?」

「あ、はい構いません」

「じゃあ、俺は少し手伝おう」

「そう?別に大丈夫だけど・・・。まあ、いいわ。じゃあフロアをお願いね」

「ああ、分かった。という訳で美由希たちは奥の席でゆっくりしてくれ」

「はーい」

「じゃあ、また後で注文取りに来てね、恭也」

「では、失礼します」

それぞれ恭也に返事を返すと奥の席へと行く。そんな中、冬桜一人だけがその場に残る。

「兄様。私も何かお手伝いさせて下さい」

「いや、別に大丈夫だから」

「お願いします」

そう言って頭を下げる冬桜。
恭也としてはここに来るまで話していたような事をまた、目の前で話されるのが辛かったから手伝いを買って出たのであって、
冬桜にまでそんな事をさせるかどうかを悩んでいた。
と、そこへ奥からフィアッセに恭也が来ている事を聞いた桃子が出てくる。
恭也は桃子に助けてくれるように目で頼むが、桃子の答えは違っていた。

「じゃあ、冬桜ちゃんは恭也と一緒にフロアをお願いね。エプロンは奥にあるから、そこで貰ってきて」

「はい、分かりました」

「かーさん」

「まあ、いいじゃない。やりたいって言ってるんだからやらしてあげれば」

「・・・・・・分かった」

この後、翠屋のフロアに美青年と美少女がいて、
接客をしているという噂が商店街中に広まり、この日、過去の一日の売上記録を塗り替えたとか、
あまりの忙しさに美由希、忍、那美まで借り出されたりとかしたらしい。



つづく




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