『お昼寝なのは』






とある秋の午後。
気温も大分涼しくなり心地良い風の吹く午後の高町家縁側。
そこに一人の少女が横たわり寝息をたてていた。
それはこの家の末妹、なのはであった。

「すやすや。んにゃ〜、すーすー」

その幸せそうに眠る顔が少しずつ強張っていく。
それに伴い、先程までは安らかだった寝息が徐々に息苦しいそうになってくる。

「ん・・・ん。あ・・・ああ」

恐らく悪い夢でも見ているのだろう。
その額に冷や汗をかきながらも目覚める気配はない。
と、その時、悪夢にうなされ歪める顔に影が一つ落ちる。
その影の主、恭也はそっとなのはの傍らに座り込み、肩に手を置くとなのはを起こす。

「なのは、起きろ」

「う、・・・うーん」

薄っすらを目を開け未だボーっとした頭で現状を把握しようとする。

「・・・・・・おにーちゃん?」

「ああ、そうだぞ。大丈夫か?うなされていたみたいだが・・・」

「うん・・・。何か怖い夢を見た気がするんだけど、よく覚えてないや。えへへへ〜」

そう言って無理矢理笑おうとするなのはの額に張り付いた髪を優しく元に戻し、頭にそっと手を乗せ何度か撫でる。

「まあ、夢とは得てしてそういう物らしいからな。もう、大丈夫か?」

「うん」

「そうか。なら、良かった」

そう言うと恭也はなのはの頭から手をどける。

「あっ」

自分から離れて行く手を少し名残惜しそうに見ながら、なのはは小さな声を漏らす。

「ん?どうかしたか?」

「ううん。何でもない」

「そうか。所で、また寝るんだったら毛布でも持って来てやろうか?」

「うーん。まだ少し眠たいんだけど・・・」

「そうか、ならちょっと待ってろ」

そう言うと恭也は立ち上がり、部屋へと向う。
なのはは恭也がいなくなったため、続く言葉を飲み込む。
しばらくして、毛布を持った恭也が戻ってくる。
恭也はなのはを寝かすと、そっと毛布をその身体にかける。

「お休み、なのは」

「う、うん」

何だか元気の無い返事をするなのはに疑問を浮かべ、恭也は訊ねる。

「どうかしたのか?なのは」

「う、うん。あ、あのね、また怖い夢を見たら嫌だな〜って思って」

「そうか。なら、ほら」

そう言って恭也はなのはの手を握る。

「おにーちゃん?」

「これで大丈夫だ。なのはが怖い夢を見ても、俺が助けに行くから」

「うん!ありがとう、おにーちゃん」

「ああ、ゆっくり寝るといい」

なのはは嬉しそうに笑うと恭也の手を強く握りしめる。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・ねぇ、おにーちゃん」

「どうした?なのは」

「眠れなくなっちゃった」

「・・・・・・ふむ。では兄が良く眠れる呪いとやらをしてやろう」

「そんなのがあるの?」

「ああ。じゃあ、始めるからなのはは目を閉じて」

「うん」

言われるままなのはは目を閉じる。
その後、なのは自分の額に何か柔らかい感触のものが当たっている事に気付き、薄っすらと目を開ける。

「にゃっ!にゃ、にゃにゃ」

恭也が自分の額に口付けをしている事に気付いたなのはは驚きの声を上げる。

「どうした?なのは。変な声をあげて」

「な、だ、だって。おにーちゃんが・・・。な、なのはのおでこに・・・。キ、キ、にゃ〜にゃにゃ!」

なのははさっきの出来事を思い出し顔を真っ赤にする。

「大丈夫か?顔が真っ赤だぞ。熱でもあるのか」

そう言うと恭也は自分の額をなのはの額につけ、熱を測ろうとする。
それをなのはは避け、

「だ、だだだだだだ大丈夫ですっ」

「本当か?」

「は、はははい。なのははこれでもかって言うぐらいに元気です」

「よく分からんが、大丈夫ならいい。それよりも昼寝はもう良いのか?」

「は、はいっ!それも、もう大丈夫」

「そうか。なら、おはようの挨拶だな」

そう言うと恭也はなのはの頬を優しく撫で、そっと顔を近づけていく。

「へ?・・・な、ななななな何を」

突然の事に驚きの声を上げるなのはに対し、恭也は冷静に答える。

「何って。おはようの挨拶だろ?」

「そ、そうじゃなくて」

「何を恥ずかしがってるんだ。ほら」

恭也はまだ硬直しているなのはを抱き寄せ、胸に抱くと顎に手を当て上を向かせそっと顔を近づけていく。

(うにゃ〜〜〜〜〜)

身体が硬直して動かないなのははぎゅっと目を瞑る事しかできず、その瞬間が来るのを待つ事しか出来ない。
いよいよ唇が触れるという時、なのはは目を開ける。

「・・・・・・はにゃ?」

そこに映る景色は先程とは少し違っていて、なのはは少し戸惑う。
視界にはちゃんと恭也の顔が見えている。しかし、それはすぐ近くではなく、ごく普通の距離でだが。

「あ、あれ・・・?」

訳が分からず声を上げる。その声に気付いた恭也がなのはに話し掛ける。

「やっと起きたか」

そう言って笑う恭也。この時になってなのはは自分の頭が恭也の手で優しく撫でられている事に気付く。
更に自分の手が恭也のもう一方の手を握っており、頭が膝の上にある事に気付く。

「あ、あれれ?どうなってるの?・・・・・・もしかして、今までの夢・・・だったの?」

「どうした、なのは?」

恭也はなのはを撫でるのをやめ、いまだボケーとしているなのはに問い掛ける。

「な、何でもないよ。それより、なんでわたしおにーちゃんに膝枕されてるの?」

「・・・覚えていないのか?と、いうより寝惚けていたんだな。これはな、」

そう言って恭也が語った所によると、
恭也が帰って来た時にはすでになのはは寝ており、このままでは風を引くと思った恭也は毛布を持って来てかぶせた。
その時、なのはが苦しそうな顔をしていたので起こそうと手を伸ばしたらその手を取られてしまい、
そのうえ、恭也の膝に頭まで乗せてきたのである。恭也は最初は起きたのかと思って声をかけたが、帰ってきたのは寝息だった。
ただ、その時のなのはの顔が先程とは変わりあまりにも幸せそうにだったため、恭也は起こさずにずっとそうしていたらしい。

「はにゃ〜。そうだったんだ〜。ありがとう、おにーちゃん」

「いや、別に礼を言われるほどでもない」

恭也は照れてそっぽを向きながら答える。そんな恭也の様子を見て、なのはは笑みを洩らす。
笑われた恭也は誤魔化すかのようになのはに話し掛ける。

「なのは、起きたのならそろそろどいてくれないか」

「うん〜」

恭也の言葉に少し残念そうに答えるなのは。
やがて、上目遣いで恭也を見ると、

「もうちょっとだけ駄目?」

と、首を傾げながら聞いてくる。

「もう少しだけだからな」

「えへへ〜」

なのはは再び恭也に膝枕をしてもらう。なのはにはとことん甘い男である。
そして、なのはは恭也の手を取ると、それは幸せそうに笑う。
それを見て恭也の表情も自然と笑みになる。
恭也は空いている手で優しくなのはの頭を撫でる。
なのはもそれに目を細め、されるがままになる。
しばらくそうしていると、やがてなのはの口から寝息が零れ出す。
それを見ながら恭也もゆっくりと午後の時間を過ごしていく。
少し肌寒い風が吹く中、柔らかい陽射しとお互いの繋いだ手から伝わる温もりを感じていた。







おわり





おまけ

そうやってのんびりと過ごしていた恭也だったが、その状態を家中の人間に見らる事になる。
まず最初に、美由希に見つかり、その後に帰ってきた晶、レン。そして、翠屋から戻ってきた桃子とフィアッセにも。
その原因はなのはがなかなか起きなかった事にある。
よっぽど寝心地が良いのか、なのはは一度も目を覚まさず、
恭也もまた幸せそうに眠るなのはを起こす事が出来ず結局、家人全員に見られることになった。
当然、夕食の席で、

「いいなー、いいなー。なのはだけずるいー。ねえ恭也、かーさんにもして欲しいなー」

「断わる」

「恭也ー、私もして欲しいよ。だって寝心地良さそうなんだもん」

「フィアッセまで何を言ってるんだ」

美由希、晶、レンは口にこそ出さないが恭也を注視している。

「皆、幾ら見てもやらないからな。それよりも、さっさと食べなさい」

「「「「「はーい」」」」」

いじけながら返事をする五人を横目で見ながら、恭也はそっと溜め息を洩らす。
この日の夕飯の席はなのは一人だけが始終、笑顔であったとか・・・。







本当におわり




<あとがき>

久々に短編を書いた気がするな。
美姫 「それを言うならSSその物を、じゃないの」
な、何て事を言うかな。
美姫 「で、今回のこれは、早い話が夢オチね」
そうだぞ〜。一回やってみたかったんだ夢オチ。
美姫 「私は途中で気付いたけど」
うーん、やっぱり気付かれるかな?どうだろ?
美姫 「さあ、私に聞かれても・・・」
それもそうだな。まあ、いいや。やりたい事が出来たし。さて、今回はこの辺で
美姫 「また、次回にね♪」




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