『さくらサク未来』






とある休日の朝。
マンションの一室にあるベッドの毛布がモゾモゾと動く。
やがてそこから一本の手が伸び、頭元に置いてあった目覚し時計を手に取り、身体を起こす。

「うぅーん。今、何時だ」

そう呟いてベッドから上半身を起こした人物は一目で美少女の部類に属するような綺麗な顔立ちをしていた。
しかし、毛布から抜け出した裸の上半身はその人物が男である事を表していた。
彼、真一郎はそっと伸びをして、まだ残る眠気を覚ますと時間を確認する。

「もう、昼前か」

そう呟きながら目覚しを元の位置に戻し、ベッドに再び倒れこむ。

「昨日は寝たのが遅かったからな〜」

昨日の夜を思い出し、にやける顔を何とか繕い、何となしに天井を眺める。
と、真一郎の腕に温かくやわらかい物が触れる。
真一郎が自分の腕を見ると、横から伸びてきた手がそっと真一郎の腕を包み込んでいた。

「んん・・・。すーすー」

真一郎の腕に頬を摺り寄せ抱き付いて来る少女の可愛い寝顔を見ながら真一郎はそっと頬にキスをする。

「んん、んにゃ〜」

少女の目がゆっくりと開かれていく。

「ん〜〜。おひゃひょーごふぁいましゅぅ〜、すぇんふぁい・・・ZZZ」

「おはよう、さくら」

まだ半分以上寝ているさくらに苦笑しながらも挨拶を返す。

「ん〜〜・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

上半身を起こし、未だ寝惚け眼でボーとするさくらに真一郎はそっと顔を近づけていく。
さくらはそれを理解しているのかしていないのか、ただじっとしている。・・・恐らく、まだ寝惚けているというのが正解だろうが。
真一郎はそのままさくらにキスをする。
1分、2分・・・・・・かなりの時間が経つがまだ離れない。
やがて、キスをされていたさくらの方に変化が訪れた。
半分閉じていた目が、一杯に開き驚きの表情を浮かべる。
そして、身体を動かし真一郎から離れようとする。
が、それは動きを察した真一郎に押さえられ、封じられる。
やがて、現状を理解したさくらは、一杯に開いていた目を徐々に潤ませながらゆっくりと閉じていく。
そして、自分の腕を真一郎の首と頭の後ろに回すと更に深いキスを求める。
真一郎はそんなさくらに答え、深くキスをする。

「ん、んん・・・んっ」

「んん・・・ん」

二人の洩らす声と唾液を交換する音だけが部屋に響く。
やがて長いキスを終え、二人は名残惜しそうにゆっくりと離れる。
そんな二人の気持ちを表すかのように、銀糸が二人を未だに繋いでいた。

「はぁ〜。先輩、いきなり何するんですか」

さくらが今更のように怒るが、はっきり言って怒っていないのは明確である。

「ごめんごめん。だってさ、さくらのあんな可愛い格好を見せられたら、我慢できなくて・・・」

さくらが真一郎のシャツ1枚だけを身に着け、ボーと真一郎を見詰めていた事を指して言う。
さくらはその時、半分以上寝ていたので意味が分からず首を傾げ真一郎の事を見る。
その無防備な姿に真一郎は堪らずさくらに抱きつくと、そのまま押し倒し組み付く。

「ち、ちょっと先輩、やめ・・・」

真一郎に首筋を舐められ、言葉が途中で止まる。

「だ〜め。さくらがあんな可愛い事をするからいけないんだからね」

「ど、どういう理屈ですか。あ、あん。ち、ちょっと先輩ぃ」

「俺はさくらの事が好きだから、さくらが嫌がるならしないよ」

そう言うと真一郎は動きを止め、さくらの顔を真正面から覗き込む。
これにさくらは言葉を詰まらせ、口を尖らせそっぽを向くと、

「先輩、そんな言い方はずるいですよ〜」

「で、どうする?」

「先輩、意地悪です・・・。わ、私も嫌じゃないです

「さくら・・・可愛いよ」

そう言うと真一郎はさくらにキスをする。

「んんんっ・・・・・・・・・・・・っはぁ〜。せんぱぁ〜い」

真一郎が口を離すとさくらの口から熱い吐息が零れ出る。真一郎は優しく微笑むと、さくらの頬を優しく撫でる。
さくらは両手を広げ、真一郎の頭の後ろで手を組む。
しばらく無言で見詰め合うとさくらはそのまま真一郎を引き寄せ自分からキスをする。
真一郎もそれに負けじとさくらの口内を激しく責める。
湿った音が部屋に響く中、真一郎はゆっくりとさくらの着ているシャツを脱がそうと手をかける。

「真一郎〜おはよー。ってもう、お昼なんだけどね〜」

真一郎はさくらのシャツのボタンを二つほど外した所で聞こえてきた甘ったるい声に動きを止める。
その声の主、唯子はそのまま部屋に踏み込んでくると、

「な、ななななななな!うにゃ〜、うわわわわわわっ。ご、ごめん。
 え、えーと・・・また後で来るからごゆっくり」

そう言い残すと出て行こうとする。

「ば、馬鹿っ!唯子、誤解・・・でもないか」

「って、先輩何を落ち着いてるんですか。ちょっと待って下さい鷹城先輩」

「えっ!何、唯子が見てた方が良いの?でも、唯子はちょっとそういうのは・・・」

「だぁぁ〜〜。何、馬鹿な事を言ってるんだお前は!んな訳ないだろ!こういうのは二人きりの時にするもんであって・・・」

「先輩こそ何を言ってるんですか。話がややこしくなるから少し黙っててください」

「はい・・・」

「で、鷹城先輩。これはですね・・・」

さくらが何とか言い訳を考え、説明しようとする。
だがタイミング悪く、いつまで経っても出てこない唯子の様子を見に外にいた連中が入ってくる。

「おーい、唯子。相川の奴、まだ寝てるのか?」

「唯子〜、真くんいた?」

「鷹城さん、ちょっと遅いわよ」

全員の視線がベッドの上にいる真一郎とさくらに向く。

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

言葉もなく、ただ立ち尽くす四人に真一郎は声をかける。

「あの〜。とりあえず着替えるから外で待っててもらえるかな?」

コクコク

四人は言葉も無くただ、頷くとそのまま外へ出ていく。

「いや〜、すっかり忘れていたな。そういえば今日は皆で出かける約束をしてたな〜」

そう言って真一郎は軽く笑う。

「笑い事じゃないですよ。ああ、皆に誤解されたら」

「別に誤解ではないと思うけど。それに俺とさくらが付き合ってるのは皆、知ってるんだし」

「そういう問題じゃないんですよ。うぅぅ〜恥ずかしいぃ」

「まあまあ。俺はさくらと付き合ってる事を別に恥ずかしいとは思ってないけど、さくらは違うの?」

「わ、私だって思っていません!」

「だったら、いいじゃない。あいつらだって今更、そんな事で冷かしたりはしないと思うけど」

「うぅ〜。何か上手い事、言いくるめられた気がします」

「気にしない、気にしない」

真一郎は笑いながら着替えを始める。それを見て、さくらも着替えるために風呂場へと行く。
さくらは何故か着替える時は真一郎のいない所で着替える。一度、その事について真一郎はさくらに聞いた事があった。
今更、着替えで照れる事もないだろ?と。返ってきた答えは、着替えを見られるのはやっぱり恥ずかしいかららしい。
数分後、着替え終えた二人は外へと出る。

「おっそいよ〜、真一郎」

「お前はうるさい!って、そういえばどうやって入ってきたんだ?」

「えっ?だって、鍵開いてたよ。だから、てっきり起きてるのかと思って」

「そ、そうか・・・」(し、しまった、昨日鍵かけ忘れてた!)

内心の驚きを顔に出さずに真一郎は頷く。

「そんな事はいいとして、じゃあ行くか」

「「おーう」」

いづみと唯子が声を上げる。

「小鳥ぃ〜。お前も言わなきゃ駄目だろ。うりゃうりゃ」

「わ、わわ。あやや〜。し、真くんやめて〜」

小鳥の頭を力一杯グリグリと撫でる。

「はいはい。馬鹿な事はやめてさっさと行くわよ」

瞳が真一郎を窘める。

「はーい。今日の主役の言葉だし、このぐらいで勘弁してやろう」

真一郎はえらそうに胸をそらし、言い放つ。
今日は瞳の全国大会優勝を昼から皆で祝う事になっていた。
その会場に向かい、歩いて行く。
と、真一郎がふと後ろを向くと、そこには何故か膨れっ面をしたさくらが真一郎を睨んでいた。

「どうしたんだ、さくら?」

「別になんでもありません」

ツーンと横を向き、明らかに拗ねているさくら。

「何でもない事ないだろ。俺にとってさくらは一番大切な人なんだから、何でも言ってよ」

「・・・・・・うぅ〜。やっぱり先輩はずるいですよ。そんな事を言われると、一人拗ねている私が馬鹿みたいじゃないですか」

そう言うとさくらは真一郎に話し出す。

「ただ単に焼きもちです。先輩があまりにも野々村先輩と仲がいいから・・・」

「そりゃぁ、小鳥とは幼馴染だしな。でも、あの程度いつもの事だろ?」

「そうなんですけど・・・。ほ、ほら今日はいい雰囲気の時にその、あの、ほら途中で・・・・・・。だから余計に・・・・・・」

「ああ。そういう事か。でも、大丈夫だよ。俺が一番好きなのは、愛してるのはさくらだけだから」

「先輩・・・」

さくらは真一郎の腕を取ると、そっと自分の腕と絡ませ頭を少し預ける。

「ずっと傍に居てくださいね」

「ああ、約束するよ」

二人は寄り添いながら皆の後について行く。

「おーい、二人とも昼間からラブコメしてないで早く来いよ」

「分かってる!って、誰もラブコメなんかしてないわ!」

「あははは〜。充分やってるよ真一郎」

「っくそ、あいつら〜」

真一郎は唯子といづみを睨みつけるが、横にいるさくらに優しく笑いかけると、

「さくら、あいつらが五月蝿いから早く行こう」

「はい、先輩」

少しだけ早足になり、皆の元へと急ぐ二人。そんな二人を唯子たちは微笑ましく見守る。
秋が近くなり少し冷たさの増した風の中、お互いの温もりを感じながら歩く。
ふと横を見ると、そこには真一郎が最も大切に思う最愛の女性がいて、一緒に歩いている。
その名前の花が咲き誇る季節を感じさせるような柔らかく温かい笑みを浮かべながら。





おわり




<あとがき>

50,000Hitを踏まれた神楽雪さんのリクエストでした〜。
美姫 「しかも、このサイト初のとらハ1SS」
うーん、こんな感じになったけど、神楽雪さんどうでしたか?
美姫 「もっと甘々にしないと駄目なんじゃない?」
そ、そうかな。確かにもっと甘々な感じにしたかった。
しかし、そういう展開じゃなく修羅場!みたいな展開になりそうだったんだよな〜。
美姫 「はぁー?どういうことよ」
いや、実は唯子が部屋に入って来たシーンあるだろ。
あれを書くとき、神楽雪さんの『もしくは小鳥か瞳』という言葉を思い出して、唯子ではなく瞳ちゃんに登場してもらおうかと・・・。
で、

 瞳   『真一郎〜。これはどういう事かしら〜。ちゃんと納得のいくように説明してくれる?』
真一郎 『は、はははは。こ、これは・・・』
さくら  『先輩、今の千堂先輩の言葉はどういう意味ですか!』

とかなって、更にそこに小鳥がやって来て、まさに魔のトライアングル。みたいな展開?で、

 瞳   『いいわ。今回だけは許してあげる。これからは私だけを見てくれると、ここで約束してくれるなら』
さくら  『先輩!私は信じていますから』
小 鳥 『真くん・・・・・・(泣)』

となって、選択みたいな。
美姫 「これって甘々になるの?」
いや、だから違う展開になっただろ。
美姫 「成る程ね。でも、ちょー甘々になってない理由にはなってないけど」
そ、そう。この後、後日談があって、瞳の優勝祝いに翠屋でちょっとしたお祝いをすると。
そこで、さくらは始終真一郎にくっついていて、あーん、とかして食べさせあったり、口移しで飲み物を飲ませあったりしたと・・・。
どうだ?
美姫 「いや、どうだとか言われても・・・」
な、なら、これも付けよう。そこで手伝いをしていた恭也を見て、瞳、いづみは恭也の強さを感じる。
で、手合わせをしたくなって半場、無理矢理約束を取り付け、後日試合することに。
負けた瞳といづみはその後もちょくちょくと恭也と手合わせをしていくうちに、成長する恭也に徐々に心惹かれていく。
これぞ、逆光源氏計画!っては?
美姫 「却下します。て、言うかここでどんな事を言っても本編が変わる訳じゃないし」
うぅ〜、すいません。あまり甘々にならなかったのは、単に力不足ですぅ〜〜〜〜〜。
美姫 「初めっから素直にそう言っとけば良いのに」
うぅぅぅぅ。
美姫 「さて、浩がへこんでいるのは放っておいて、この辺で。また次回にね」




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