『桜散りし日の決闘』






初めて治療を受けた日から1ヶ月間、雨の日も二人はこの場所で会って治療を続けた。
そして、1ヶ月が経った頃、少年の右膝は完治していた。
これに対し、家族は大いに喜んだが、医師たちは揃って首を傾げた。



そして今、少年はもう一つの約束を守るべく、いつもの場所へと来ていた。
あの少女と出会った頃に咲いていた桜はすでに散ってしまい、今は花のない木の下に座り込むと少女が来るのを待つ。
やがて、いつもより少し遅い時間にさしかかろうという時、少年の後ろから微かな音がする。
少年はすぐにそちらを振り向く。
そこには、日本刀を入れた袋を持つ少女が立っていた。

「相変わらず、いい反応をするね」

「そんな事はないですよ。では、早速ですが始めましょうか」

「そうだね。やっと完全な力を出す君と仕合ができるね。あ、でもここ一ヶ月間は鍛練をしてないんじゃ」

「ええ。でも、足に負担がかからないように軽くはやっていましたし、今日は朝から少し動いてきましたから、大丈夫ですよ」

「そうか、なら早速始めようか」

そう言うと少年と少女は向かい合う。少年は小太刀を二振り腰に差し、そのうちの一刀を抜き放つ。
これに対し少女は刀を鞘から抜くと上半身を捻り上段に構える。

「小太刀の二刀流とは珍しかね」

「そうでしょうね。所でルールはどうしますか?」

「成る程。小太刀以外にもいろいろとあるみたいやね。なら、今回は蹴りや投げはありで獲物は刀のみでどう?」

「分かりました」

「神咲一灯流、神咲薫」

「永全不動八門一派・御神真刀流、小太刀二刀術、高町恭也」

対峙する二人の間に緊迫した空気が流れる。
二人はそのまま動きを見せず、ただその場にじっと立つ。
傍から見れば動かずただ立っているだけに見えるが、実際には二人は攻めると思わせる個所に向け闘気を放ち、
それに相手が反応した隙をついて本命の一撃を入れるつもりでいた。
が、両者共それを見抜き、膠着した状態が続く。
つまり、水面下では激しく何度もぶつかり合っていたりする。
やがて痺れを切らしたのか薫が恭也に向けて上段から斬りかかって行く。
これを恭也は左の一刀で受け止め、右手による抜刀で反撃しようとするが、思った以上に薫の斬撃が強く動きが止まる。
薫は恭也が動きを止めたと見るや両腕に力を込め、そのまま押し返し体勢を崩しにかかる。
薫が力を更に込めた瞬間に恭也は蹴りを繰り出す。薫がこれを避ける隙に後ろに飛び退き、距離を取る。

(思った以上に斬撃が重い!後手に回るとこちらが不利だ)

恭也は一旦取った距離を自ら詰めると、残る一刀も抜き放ち斬りかかる。
恭也が二刀で繰り出してくる連撃を薫は一刀でことごとく捌いていく。
薫は内心、恭也の速さに舌を巻く。

(っく、何て速い・・・。捌くので精一杯や)

薫は恭也の斬撃を捌きながら、反撃の隙を探る。
何合目かの打ち合いの後、恭也の右の太刀を少し強引に左方向へと押しやる。
これによって恭也は左の小太刀を塞がれるが、すぐさま軌道を修正して斬りかかる。
だが、その一瞬の間に薫は恭也の左、今しがた小太刀を振るい伸びきった腕の外側に移動していた。

「はぁああああっ!」

薫は裂帛の気合もろとも刀を振るう。
恭也はそれを視界の隅で捉えると地を蹴り、体ごと薫にぶつかって行く。
普段の薫ならば、恭也の体重を支える事ができただろうが攻撃に転じた所を狙われ後ろへと倒れる。
恭也は薫と一緒に倒れていく中、右腕を体へと引き寄せると薫の首筋へと突きつけていく。
薫は恭也の狙いを悟ると右足で恭也を蹴りつけ、倒れていく勢いのままに後方へと投げる。
この力に逆らわずに恭也は素直に投げ飛ばされ、空中で回転し態勢を整えると足から着地する。
これに対し、薫は受身こそ取ったものの完全に背中から倒れる。
恭也は着地すると同時に薫へと向けて駆け出す。
薫が上半身を起こし、片膝を立てた所で恭也が斬りかかってくる。
それを何とか受け止めるが体勢が悪く押し返す事ができない。
その状態で力が拮抗し両者ともに動けなくなる。
三本の刃が交差する中、互いに近くに相手の顔を見る。

(確か、恭也くんと言ったかな。この歳でこれほどの腕とは、正直思わんかった。実戦慣れもしとるみたいやし・・・)

何かを考え始めた薫に注意しながら恭也はこの状況を打開する方法がないかと考える。
と、恭也と合わさっていた薫の目が何かに気付いたかのように横を向く。
それにつられるように恭也の目も後を追うようにその方向へと向けられる。
これは別に意識しての事ではなかった。御神の剣は1対1の状況でやる事の方が少ない、というよりもほとんど無い。
その為、対峙している相手以外にも周囲に気を配りつつ戦う必要があり、その一つに相手の視線を探るという物があった。
仲間がいる場合、その仲間に何らかの合図を送り死角から攻撃を仕掛けてくる場合がある。
そういった場合、自ずと視線がそちらに向く場合があり、それを探る事によって奇襲を奇襲でなくさせる。
恭也もまたその訓練を嫌というほどされてきていた。
故にその薫の動きが自然と恭也に薫の視線の先へと向けさせた。
それはほんの一瞬の事だったが、実力の拮抗した者と対峙している時に見せるにはあまりにも大きすぎる隙となった。
当然、薫はその隙を見逃さず力を込め押し返そうとする。
それに呼応するかのように恭也もすぐに力を込めてくる。その瞬間、薫は力を抜く。
いきなり競り合っていた力が無くなり恭也は前方へと踏鞴を踏む。
その時、下方から薫の足が迫ってくるのが見えたが、体勢が完全に浮いているため避ける事ができずにまともにくらう。

「ぐっ」

恭也の口から微かに空気の漏れたような声が零れるが、薫は振りかぶった刀を上段から振り下ろす。
完全に決まったと思った時、視界の隅で影のような物が見えた気がする。
薫はそれを確認するや否や、考えるよりも先に体が反応してその場から後ろへと跳び退く。
その直後、先程まで薫の頭のあった位置を小太刀が通過していく。
御神流の基本技の一つ貫である。
まるで最初から動いていなかったかのように、最初に対峙した位置と同じ場所で恭也と薫は距離をおき、向かい合う。
ただ違うのはお互いに息が上がっている事だろう。
恭也と薫は呼吸を整えるとゆっくりと構えを取る。
お互いに次の一撃で決めるつもりのようである。
薫は最初に取ったのと同じように、防御しようと防御ごと叩き切るつもりで構える。
それに対し、恭也は二刀とも腰に吊るした鞘に納める。こちらは抜刀で速さで勝負するつもりなのだろう。
対峙する二人の周りだけ時が止まったかのように全ての音が消える。
そんな中、一陣の風が吹き抜け一枚の葉をまるで計ったかのように二人の間へと運ぶ。
その葉が地面に着いた瞬間、二人は弾かれたかのようにお互い目掛けて走り出す。

薫は上段から袈裟懸けに斬りかかる。
恭也は右で抜刀すると薫の刀に当てに行くが、その程度では薫の一撃は止まらず、恭也の一撃を弾くとそのまま打ち下ろしてくる。
恭也はそれに怯むことなく前に一歩踏み出すと左も抜刀する。
そして、弾かれた右の小太刀が再び左と合わさるように薫の刀へと繰り出される。
この三連撃に薫の刀も勢いを止める。
しかし、恭也の動きはまだ止まらなかった。
左の小太刀が薫へと向って伸びていく。
渾身の一撃を塞がれ無防備になっていた薫はそれを防ぐことが出来ず、ただその小太刀の動きを目で追うことしかできなかった。
小太刀は薫の喉元に突きつけられた形で止まる。
しばらくそのままの形で動きを止めた二人はやがて肩の力を抜くとそっと息を吐き出す。

「はぁー、降参だよ。うちの負けやね。しかし恭也くんは強いね」

「そんな事はないですよ。今回はたまたまですよ。薫さんこそ、とても強いですよ。次にやったらどうなるか」

「そう言ってもらえると嬉しいよ。また、手合わせしてもらえるかな」

「こちらこそお願いします」

「それまでにうちももっと修行をせんとあかんね」

「そうですよ薫。上には上がいるんですから」

恭也と薫以外の声がしたかと思うと、薫の持つ刀から一人の美しい女性が現われる。

「あ、十六夜さん。こんばんわ」

「はい、恭也さま、こんばんわ」

お互いに挨拶を交わす十六夜と恭也。
十六夜は見ての通り人間ではなく薫の持つ霊剣に宿る魂である。
恭也はこの事を薫がする退魔の仕事と合わせて教えられていた。

「どうやら右膝の方はもうなんともないようですね」

「はい。十六夜さんと薫さんのお陰です」

そう言って嬉しそうに笑う恭也。
そんな恭也を見て、薫は照れくさそうに視線を逸らす。
十六夜は薫のそんな様子に気付いているのかいないのか微かに微笑む。

「さて、今日の所はここまでにしておきましょうか。結構、遅くなっていると思いますから」

「そうじゃね。じゃあ、帰ろうか」

「はい」

十六夜は再び刀の中に戻り、恭也と薫は歩き出す。

「恭也くん。今度、うちのいる寮に来ないかい?そこにうちより強い剣の使い手がいるから」

「薫さんよりもですか?」

「ああ。恭也くんとあの人が戦うのを見てみたいから。どうかな?」

何気なく訊ねる薫の顔は暗闇でよく分からなかったが何故か赤くなっていた。

「お邪魔でなければ、ぜひお願いします」

「そうか。なら、今度予定を聞いておくよ。連絡はどうすればいい?」

「そうですね。翠屋という店を知っていますか?そこに来ていただければ」

「翠屋は知っているけど、そこに行けば連絡ができると?」

「ええ。あそこはうちの母が店長をやっているんで。俺がいなくても伝言しておいてくれたら構いませんから。
 あ、念のため家の電話番号も教えておきます」

恭也と薫はお互いの番号を交換する。

「じゃあ、俺はこっちですから」

「ああ。送って・・・いかんでも恭也くんなら大丈夫やね」

「・・・そうですね。じゃあ、連絡待っています」

「ああ。じゃあ、また」

そう言って恭也と薫は分かれ道で別れる。
その数日後、薫から恭也へと連絡が届く事になる・・・・・・。





おわり




<あとがき>

KOUさんのきり番リクエストSS。恭也と薫のバトルものでした。
美姫 「でも、恭也は子供よね。これってリクエストにあってるの?」
・・・・・・ま、まあ、まだ続くし。とりあえず今回は薫とのバトルってことで。
美姫 「じゃあ次は真雪さんとのバトル?」
その予定です。
美姫 「ふーん。じゃあ、続きをきりきりと書きなさいよ」
分かってるよ。さて、続き♪続き♪っと〜。
美姫 「じゃあ、またね♪」




ご意見、ご感想は掲示板こちらまでお願いします。



二次創作の部屋へ戻る

SSのトップへ