『込められし思い 第5話』






高町家の夕食時。
美由希は桃子たちに今日あった出来事を話していた。

「で、私のクラスにまで冬桜さんの噂が流れてきたんだよ」

「へぇ〜、それは凄いね」

「まあ、冬桜ちゃんは綺麗だからね」

「確かに桃子ちゃんの言うとおりです。うちらのクラスにも風校の転入生の話は流れてきましたから」

「俺の所にもその噂なら。ただ、風校の転入生だったんで誰も見に行ってはいなかったけど」

「いちいち転入生と言うだけで何故見に来るんだ」

恭也は疲れたような口調でそんな事を言う。
事情を知っている美由希は苦笑いを浮かべ、晶とレンは何となくお互いを見て引き攣ったような笑みを交わす。

「それは冬桜お姉ちゃんが美人だからだよ」

そんな三人に代わりなのはが恭也に説明する。

「まあ、冬桜は確かに綺麗だが、それがどう繋がるんだ?」

恭也の言葉に美由希たちは驚きの表情を浮かべる。
美由希に至っては握っていた箸を落とす始末である。

「どうした?皆」

「き、恭ちゃんがそんな事を言うなんて」

「お師匠でもそないな事を言う事があるんですね」

「師匠の口から女性を誉める言葉が出るなんて」

「ひょっとして恭也、どこか悪いんじゃ」

「あ、ははは恭也も一応、人の子だったって事ね」

口々に好き勝手な事を言う五人に冷ややかな視線を投げつつ口を開く。

「・・・・・・普段、俺の事をどう思っているのかじっくりと聞いてみたいもんだな」

この台詞に全員が素知らぬ顔をして乾いた笑みを貼り付けて誤魔化そうとする。
そんな中、当の冬桜は両手で頬を押さえて少し俯いていた。
よく見ると、その顔は耳まで真っ赤になっていたりする。

「冬桜お姉ちゃん、どうしたの?」

「あ、なのはちゃん。別にどうという訳ではないのですが・・・。
 ただ、兄様にあんな事を言われて、大変嬉しいのですが同時にちょっと恥ずかしくって」

そう言って更に頬を朱に染めながら俯く。
それを見て、言った本人も少し照れのため顔を赤くする。
が、平静を装い食事を続ける。

「ひょっとしてお兄ちゃんも照れてる?」

なのはの言葉に恭也は無言でなのはの頭に手を乗せるとやや乱暴に撫でる。

「にゃっ!にゃぁ〜〜〜」

「いいから、早く食べろ」

そう言うと恭也はなのはの頭を解放する。

「う〜〜〜〜〜」

なのははぐちゃぐやになった髪の毛を整えながら恭也を睨む。

「可哀相にねー、なのは。いくら恥ずかしかったからってねー」

そう言って親子で頷き合う。恭也はそれをどこか憮然としながら眺めていた。





そして時刻は深夜。恭也と美由希は鍛練の準備をして出かけようとしていた。
そこへ後ろから声がかかる。

「兄様、これから鍛練ですか?」

「ああ、気にせず休んでてくれ」

冬桜は少し考え込み、徐に口を開く。

「あの、私もついていってよろしいですしょうか?どんな事をされているのかを見たいんです」

「・・・・・・まあ、別にいいだろう」

「ありがとうございます。では、準備をしてきますね」

そう言うと冬桜は自室、恭也の部屋へと戻る。
本来なら冬桜には空いている部屋を使ってもらうつもりだったのだが、
冬桜が恭也と一緒の部屋が良いと言い張ったため、未だに恭也の部屋を使っている。
これに対し恭也は一度反対したが桃子の、

「本人が良いって言ってるんだから良いじゃない。
 長い間離れていたお兄ちゃんと一緒にいたいっていう冬桜ちゃんの気持ちを考えてあげなさい」

という恭也の意見を全く考慮しない発言によって冬桜本人が言い出すまではこのままという事になった。
冬桜を待っている間に美由希が恭也に訊ねる。

「ねえ、恭ちゃん。冬桜さんに御神の鍛練を見せてもいいの?」

「・・・まあ、大丈夫だろ。冬桜はどうやら少しだが御神流を使えるみたいだしな」

「えっ!そうなの。それは初めて聞いたよ」

「言ってなかったか。俺は冬桜が来た最初の日に聞いたんだが」

そう前置きすると恭也は話し始める。

「どうやら、たまに父さんと会っていたみたいでな。その時に簡単な基礎みたいなものを教えられたそうだ」

「へ〜。恭ちゃんと母さん以外にも御神流の使い手がいたんだ。今度、手合わせお願いしようかな。どれぐらい強いのかな?」

普段少しトロイ所のある美由希だが、やっぱり剣士らしく気になるのかそんな事を聞いてくる。
それに対し、少し笑みを浮かべながら恭也は答える。

「まあ、そんなに強くはないみたいだけどな。本当に基礎的な鍛練を少しした事があるという程度だからな。
 徹も打つ事が出来ないみたいだし」

「なんだ、そうなんだ。でも、その方が冬桜さんらしいかも。なんか戦ってる冬桜さんって想像つかないし」

「そうだな。だが、冬桜は父さんから色々な御神の技を見せてもらっていたそうだ。
 だから知識そのものに関しては冬桜のほうが詳しいかもな」

「そうなんだ」

「ああ。どうも父さんも初めからそのつもりで冬桜に色々と見せていたみたいだしな。
 でも、手合わせは一度してもらってもいいかもな」

「え?でも・・・」

美由希は少し不満そうに恭也を見る。
今しがた、冬桜は徹も打てないと言った恭也が手合わせを勧めた事が自分の力がまだ低いと言われたような気がしたのだろう。
それに気付いたのか恭也は言葉を続ける。

「冬桜は水翠剣舞流の使い手なんだよ」

「水翠剣舞流?」

「ああ、どうやら母親である夏織さんがその使い手だったらしい。それで冬桜も小さい頃から少しだけ習っていたらしい」

「それってどんな流派なの?」

「ああ、今やその使い手は冬桜だけになってしまったらしいんだが。古流剣術の一種だ。御神流と同じ様に実戦向けのな。
 俺も詳しくは知らないが刀か小太刀を一刀と鉄扇を用いて戦うらしい。夏織さんは父さんと互角に戦っていたそうだ」

「えっ、士郎とーさんと互角に!じ、じゃあ冬桜さんってかなり強いの」

驚きの声を上げる美由希に恭也は少し意地悪く笑うと話を続ける。

「互角にやりあったのは夏織さんであって、冬桜じゃない」

「で、でも」

美由希にしてみれば士郎と夏織の間に生まれ、二人から修行をつけられていた冬桜は強いという図式が出来上がってしまっていた。

「そもそもこの流派は表と裏があって、それぞれに宗主がいたらしいんだ。
 で、夏織さんは裏では随一の使い手だったけど、表はさっぱりだったらしい。
 逆に冬桜は表では随一の腕でもう教える事がないとまで夏織さんに言われたそうだ。
 だけど、裏はそんなに大した腕ではないらしい」

「で、でも表でそこまで言われたって事はやっぱり強いんじゃ」

「美由希、お前はもう少し相手の普段の動きを読めるようになれ」

意味が分からずに首を傾げる美由希に恭也は言葉を紡いでいく。

「普段の動きや足の運び、そういったものから大体の実力は判断できるはずだぞ。まあ、今それを言っても仕方がないか」

「うぅ〜。すいません、精進します」

恭也の言葉に美由希はただ恐縮するしかできなかった。そんな美由希を一瞥すると、恭也は話を続ける。

「で、裏というのはさっきも言った通り剣と鉄扇での戦闘術だ。そして、表というのは剣は剣、扇は扇と分かれているんだ。
 まあ、一緒に使う時もあるみたいだがな」

「つまり、裏は二刀流、ってこの場合こう言うのが正しいのかは置いておくとして、で、表は一刀で戦うって事?」

「それが違うんだ。表はな・・・」

恭也は勿体つけるようにそこで一旦、言葉を切る。
次に発せられる言葉を聞き逃さないように美由希が少し身構えたのを見て恭也は口を開ける。

「表は、ただの舞だ」

「・・・・・・・・・・・・へっ?」

「だから日舞の一つらしいぞ。後、剣を用いての剣舞もあるらしい」

「えーと、冬桜さんが得意なのは表って事は・・・」

「そうだな。でも、手合わせをするのはお互いにためになるだろうから、やってみるといい」

「う、うん。分かった」

美由希が丁度頷いた所で冬桜がやって来る。

「お待たせいたしました」

「いや、大丈夫だ。それよりもここから少し走るからな」

「はい、分かりました。あら、美由希様いかがなされました?」

「い、いえ。何でもないです。それよりも冬桜さん、今度手合わせをお願いしてもいいですか」

「はい、構いませんよ」

二人は約束を交わすと先に行った恭也を追って走り出した。



つづく




<あとがき>

込められし弟5話をお届けしました〜。
美姫 「いや〜、冬桜の意外な特技が判明したわね」
そうだな。ここらで一度、設定を見直してみるかな。
美姫 「簡単な説明ね。こんな感じでいいかしら」



水翠 冬桜(みすい ゆき)

恭也の双子の妹。中学校卒業後、一年程海外に行っていたため、学年は一年遅れている。
現在は風校の3年G組で恭也と同じクラス。
のんびりとした性格をしており、少し落ち着いた印象を与える。
長く艶やかな黒髪を背中に流しており、美人の部類に入る容姿をしており、物腰はとても柔らかい。
その外見と口調はお嬢様かと見紛うほど。実際に箱入りに近い育ち方をしたため、世間一般常識についていけないことも。
恭也の事を兄様と呼び、慕っている。誰にでも丁寧で、なのは以外は様づけで呼んでいる。



水翠 夏織(みすい かおり)

恭也、冬桜の母親。十数年前に士郎との間に恭也と冬桜を生み、恭也を士郎に預け姿を消した。
その時、ついでとばかりに金目の物を奪っていった。その後、士郎は夏織の消息を掴み、度々会っていたらしい。
水翠剣舞流の使い手で、その実力は士郎と比べても引けを取らなかったらしい。



水翠剣舞流(みすいけんぶりゅう)

表と裏を持つ流派。
裏は古流剣術の一つで、剣術に舞を合わせた武術。
一対多を想定して築かれた武術で、一ヶ所に留まらず、常に舞うように動きつづける。
当然、一対一の戦闘も考慮されている。獲物は刀か小太刀を一刀と鉄扇を使う。
鉄扇は大きい物だと1メートルを越えるものから、小さい物だと20センチ程度の物まであり、使い手によって様々である。
一般に水翠剣舞流と呼ばれる流派は裏の事をさす。
これに対し、表は日舞水翠と呼ばれ純粋な日舞の流派である。
夏織は裏を、冬桜は表を得意としている。



美姫 「こんな所よね」
お疲れ様〜。その通りだよ。
美姫 「じゃあ、今回はこのへんでいいかしら」
そうだね。じゃあ、また次回!




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