『幸せのかたち』






チュンチュンチュン。
窓から差し込む太陽の光とどこからか聞こえてくる雀の鳴き声に、俺の意識はゆっくりと眠りの世界から目覚めようとする。
いつもなら、ここまで意識が起きだせば身体も反応するように起きるはずなのに、今日に限っては身体が何故か思うように動かない。
頭も少し痛いな。
それに、右腕が重い。
これは、一体?もしかして、風邪でも引いたか?
しかし、思い当たるような節はないし。
ん?なんかいい匂いがするな。
それに右腕に当たるこの柔らかい感触も触れていて心地がよい。
俺は無意識に左腕を動かし、右腕に乗っかかっているものを抱きしめる。
ほどよい温もりを持つそれを抱きしめながら、心が落ち着くのを感じる。
ずっとこのままでも良いかも。
そこまで考えたとき、その抱いているものから声が聞こえてくる。

「ん……、んんっ……あっ」

妙に艶かしいその声を聞き、徐々に俺の意識がはっきりとしてくる。
これは、もしかして……。いや、もしかしなくても、この感触にこのいい匂いは、かなり俺が慣れ親しんできただものだ。
俺はそれを確認すべくゆっくりと目を開け、抱きしめているそれを見る。

「………あ、恭也〜おはよ〜♪」

丁度、俺が抱きしめていたものも目が覚めたようで、目が合うとそう挨拶をしてくる。

「ん〜♪恭也ってば、昨日あんなに激しかったくせに、また朝からなんて……」

そう言いながら嫌がる所か逆に俺に擦り寄ってくるのは、俺の最も愛しい人、フィアッセだ。

「別にそういうつもりではないんだが」

「分かってるわよ。冗談よ」

そう言いながらもフィアッセは俺に抱きついてくる。

「やっぱり、恭也の腕の中で目覚めるのって最高よね〜」

「……フィアッセ、もうすぐ朝の鍛錬の時間なので離れてくれると嬉しいんだが」

俺とて別に嫌でこういう事を言っているわけではない。
どちらかと言うと、もう少しこのままでいたいんだが、そうすると遅い俺を不思議に思った美由希がいつ来るとも限らないし、
正直、朝起きたばかりの状態で愛しい人に抱きつかれてるのはちょっと恥ずかしい。
詳しくは説明しなくても良いだろう。まあ、生理現象だしな。

「え〜、昨日はあんなに私を激しく求めてきたのに……。しょせん、恭也にとって私は身体だけが目的の女だったのね。
 それで飽きたら、ポイっと捨てられるんだわ。よよよ〜」

冗談だとは分かっているんだが、フィアッセが期待しているであろう言葉を言う。
少し前までの俺では考えられなかっただろうな。

「そんな事はないに決まっているだろう」

「じゃあ、私の事愛してる」

「ああ」

「ちゃんと言って欲しいな」

「…………」

「あんな事までするくせに、まだ言うのは恥ずかしいんだね」

そう言って微笑むフィアッセ。確かに、言うとおりなんだが。
どうしても、言葉にするのは照れくさい。
そこで、俺はフィアッセの顎に軽く手を触れ、そっとキスをする。

「これでは駄目か」

「ん〜、最後にそういう事を聞かなければ良かったかも」

「そうか」

「だから、もう一回」

そう言って、上半身を起こし目を閉じる。
俺も嫌ではないので素直に二度目のキスをする。

「ふふふ。しかし、昨日の恭也は凄かったね」

「そういえば、さっきもそんな事を言っていたな。どういうことだ?」

「覚えてないの?」

「いや、ちょっと待て。微かに記憶に残っているような……」

そう言って俺は昨日の事を思い出す。
確か昨日は……。



明日、いや正確には今日の午後からコンサートに行くフィアッセと椎名さんのために皆で集まって宴会になったんだよな。
で、俺はそこでかあさんや真雪さんに無理やり酒を飲まされたんだよな、確か。
それから、宴会がお開きになって、家に帰って来て……、それから………………。
それから…………、そうだ。フィアッセと俺の部屋に入って、そして…………そのままフィアッセを押し倒した…………………。



確かに昨日は酔っていた所為か、理性がほとんど無かったな。
いかん、その時は殆ど意識が無かったはずなのに、はっきりと思い出せる。
俺の下であられもない姿を見せるフィアッセや、少し照れた顔を見せるフィアッセ。
その口から紡がれる、歌声とはまた違う俺の理性を溶かしていくかのような嬌声。
それらを思い返すうちに顔が赤くなっていくのが分かる。悲しいかな、同時に身体の方も反応してしまう。

「どうやら、思い出したみたいだね。もう、恭也ったら普段も凄いけど、酔うと更に凄くなるんだもん」

そう言いながら、俯いていた俺の顔を悪戯っぽい笑みを浮かべながら下から覗き込む。
ぐっ、可愛すぎる。昨日の事を思い出していた今の状態でそんな顔を見せられたら………。
俺はフィアッセの肩を掴み、正面を向かせるとそのまま唇を塞ぐ。
突然の事に驚き、目を見開いていたフィアッセだったが、すぐに目を閉じ、俺に身を任せてくる。
俺は舌でフィアッセの唇と突付く。それを合図にフィアッセが少し開けた口から舌を入れ、フィアッセのそれと絡ませる。
しばらく、部屋の中にお互いの舌を絡み合わせ唾液を交換し合う湿った音が響く。
フィアッセが俺の首に両腕を巻きつけて、もっと深く貪欲に舌を求めてくるのに応えながら、そのままフィアッセを押し倒す。
やがて唇を離すと、そこにさっきまでのキスの名残である糸ができる。

「フィアッセ」

自分でもこれ以上ないと言うぐらい優しく甘くフィアッセの名を呼ぶ。
それに答えるように頬を上気させ、瞳を潤ませながらフィアッセもまたその綺麗な声で俺の名を紡ぐ。

「恭也〜」

そして、お互いに顔を近づけまたキスを交わす。
同時に俺は左手でフィアッセの髪を優しく梳きながら、右手をフィアッセの首から下へと徐々に這わしていく。
そして、右手が胸の膨らみに届くかという時、

「恭ちゃーん、どうしたの。今日はかなり遅いけど。やっぱり昨日のお酒のせいで………………………………」

突然部屋に入ってきた美由希の言葉がその動きと共に止まる。
俺とフィアッセもその体勢のまま、顔だけを部屋の入り口で立ち尽くす美由希へと向け固まる。
あー、美由希。部屋へはノックして確認してから入るべきだと思うんだが。……………………この場合、ちょっと違うな。
これは誤解だ!…………………………って、誤解ではないな。
おはよう。いい天気だな。…………………………………………いくら美由希でも、これは通用しないな。
お前は夢を見てるんだ。…………………………………………その後、美由希を気絶させるか。
幾つか浮かぶ案のどれも決定打に欠けるな。
さて、どうしたもんか。……って、冷静に考えている場合じゃないな。
とりあえず、俺は何事も無かったかのように身体を起こすと美由希に声をかける。

「おはよう美由希。すぐに支度をして行くから玄関で待っててくれ」

「………えっ!あ、うん。分かったよ」

美由希は顔を赤くしながら部屋を出て行く。
俺はフィアッセと顔を合わせると少し引き攣った笑みを交わす。

「は、はははは。美由希に悪い事しちゃったかな」

「まあ、ノックをしなかったあいつにも責任はあるだろうし」

「とりあえず、これ以上、美由希を待たせたら悪いから、早く支度しないとね」

「ああ」

俺はフィアッセに手伝ってもらいながら支度を整える。

「はい、行ってらっしゃい♪」

「……ああ」

頬に軽くキスをして俺を送り出すフィアッセ。
何となく気恥ずかしいものを感じながらも美由希の待つ玄関へと向かう。
始めはどこかぎこちなかった美由希も鍛錬を始めるといつも通りに戻っていく。
そして、鍛錬を終えた俺たちは家へと帰り朝食を取る。

「フィアッセ、今日の何時に出るの」

「うんとね、午後1時半ぐらいにはここから出ないといけないよ」

「そう。だったらお昼はお店の方に来てね。桃子さんが当別メニューを作ってあげるから」

「ありがとう桃子。お昼になったら行くよ♪」

「恭也、あんたも来るんでしょ」

「ああ、空港まで送って行くつもりだ」

「じゃあ、恭也の分も用意しておくからね」

「ああ、分かった」

「フンフ〜ン♪〜♪〜」

それからフィアッセは朝食の間ずっとご機嫌だった。
それを見たなのはが、

「フィアッセさん、何か良い事でもあったんですか?」

「え、どうして?」

「いえ、何か楽しそうですから」

なのはの言葉に全員が頷く。

「うん、昨日ちょっとね」

「昨日ですか?」

「うん。昨日の恭也を思い出したら自然とね」

フィアッセの言葉に俺は飲んでいたお茶を吹き出しそうになり咽る。
何を言い出すんだ。
そんな俺の心の声を無視するかのように美由希たちが興味津々といった感じでフィアッセを見つめる。

「普段は格好いいんだけど、酔ったらちょっと可愛くなるのよ♪急に甘えだしたりして……。
 その状態で更に飲ませると少し涙ぐむの。それがまたすっごく可愛いの♪」

フィアッセの言葉に少し昨日の記憶を辿る。確かに、そんな事をした記憶があるような無いような。
酔ってから暫く経った時の事は覚えているんだが(特に家に着いてからの事は)、最初の方の記憶は薄っすらとしか覚えていないな。
でも、言われてみれば、そんな気もしないでもない。
俺がそんな事を考えている間にも、フィアッセの話は進んでいた。

「で、それ以上飲ませると、普段言ってくれないような言葉を言ってくれるの。あれはもう最高だったわ」

そう言いながら頬を赤く染めるフィアッセを美由希、晶、レンが羨ましそうに見つめる。
かあさんはかあさんで、

「あぁーん、そんな面白い事になってたなんて。昨日は真雪ちゃんと飲んでたから、そこまで見てなかった〜。
 今度、飲ませようかしら」

こんな事を言い出すし。

「それはいいですね」

かあさんの言葉に全員が賛成する。勘弁してくれ。

「あ、でもその状態になったら、それ以上は飲ませたら駄目だよ桃子。じゃないと危険だからね」

「分かったわ。その状態で止めればいいのね」

「うん」

フィアッセも嬉しそうにかあさんを助長させるような事を言わないでくれ。
無言でそう訴えるのだが、フィアッセは俺と目を合わせようとしない。
ったく。これは下手したら、明日にでも飲まされそうだな。気をつけておこう。

「と、皆時間は良いのか?」

『あっ!』

俺の言葉にフィアッセを除く全員が声を上げ、慌しく出て行く。
俺はさっきも言ったようにフィアッセを送っていくので今日は大学を自主休講だ。
フィアッセと一緒にのんびりとお茶を飲み、片づけをする。
その後、しばらく会えなくなるフィアッセと恋人同士の時間を過ごす。
で、昼近くに家を出て翠屋へと向かう。
店に入り、席へと着く。
注文を取りに来たバイトの子を制して、かあさんがやって来る。

「着たわね、二人とも。じゃあ、頑張って作るから残さずに食べてよ」

嬉しそうに笑いながら厨房へと消えていくかあさんを見ながら、背筋に悪寒が走るのを感じる。
何か嫌な予感がする。
しかし、目の前で嬉しそうにしているフィアッセを置いて、出て行くわけにもいかず仕方がなく大人しく待つことにする。
やがて、かあさんが何やら持って現われる。

「はーい、まずはスープでお腹をならしてね」

そう言ってテーブルの中央にスープの入った少し大きめの皿を一つ置く。

「かあさん、ちょっと量が多いんじゃないか?」

「これでいいのよ。これは二人前だからね」

成る程、確かに二人分ならこんなものだろう。
しかし、スプーンが一つなのは何故だ?忘れたのか。

「かあさん、スプーンが一つしかないんだが……」

「一つでいいのよ。これは翠屋裏メニュー恋人限定ランチなんだから」

「そんなメニューは初耳だが……」

「なにせ、裏メニューだからね。恭也が知らないのも無理はないわよ」

仕方がない。とりあえず、交替で食べるか。
そう思い、フィアッセに先に食べるように言う。
が、それを言った俺をかあさんが睨み、脅すように言ってくる。

「恭也、このメニューは食べ方にも決まりがあるのよ。勿論、残すなんて論外よ」

あまりの迫力に少し身を引きながら、素朴な疑問をぶつけてみる。

「……もし、残したり決まりを守らなかったらどうなる?」

おそらく罰金か何かだろうと思うが。

「翠屋死のメニューフルコースよ」

「死のメニュー?何だそれは」

「忍ちゃんのバイオテクノロジーで造られた食材を使ったフルコースよ。
 前菜は那美ちゃんの手料理、次に愛さん。そして、メインデッシュは美由希の手料理。
 最後にデザートはこの四人による合作。当然、逃げ出さないように手足を固定した上でね。
 勿論、残すなんて選択肢はないわよ。無理矢理に口を開けてでも全部食べさせるから」

「……殺す気か」

「あんた、結構酷いこと言うわね」

「最初に死のメニューって言ったのはかあさんだろ」

「はははは。まあ、そんな訳だから、ちゃんと裏メニューを食べてね」

「…………了解した」

正直、今言ったメニューは本気で命の危険に晒される。
俺は大人しく屈服する事にする。

「で、食べ方と言ってたが、要は食べさせれば良いんだろう」

「あら、よく分かったわね」

この状況を見れば流石に俺でも分かる。

「一応、この後の食事は食器も二人分だけど……分かってるわよね」

「ああ」

俺は顔を赤くしながらもスプーンを手に取り、スープを掬うとフィアッセの口元へと運ぶ。
フィアッセも顔を赤くしながらも小さく口を開ける。
店にいる人たちの視線が集中するのが痛いほど分かる。
これは、結構辛いな。しかし、死のメニューよりはましだ。
こっちは死ぬほど恥ずかしいが、実際に死ぬことはない。
しかし、アレはかなりの確立で死ぬ。いや、そこまでいかなくても数日は確実に寝込む。
ならば、こちらの方がましだ。それに、まあ、別に嫌ではないしな。
そんな事を考えながら、フィアッセの口元へとスプーンを持っていく。
が、それがフィアッセの口に入る事はなかった。
俺の手をかあさんが掴んでいたからだ。

「どうしたんだ?かあさん」

「人の話は最後まで聞きなさいよ。いい、このメニューのスープとドリンクは食べさせ方がちょっと違うのよ」

「まず、アンタがそのスープを口に入れる」

かあさんが俺の手に握られていたスプーンを取り、俺の口へと突っ込む。

「まだ、飲んだら駄目よ」

かあさんの言葉に頷く。

「で、フィアッセに食べさせる」

なっ!
俺は驚きの目でかあさんを見る。
この状況で今の言葉の意味する所は………。
まさか、このままスプーンで食べさせる訳じゃないだろう。
現にスプーンはかあさんの手に納まったままだし。
フィアッセも分かったのか顔を真っ赤にして俯いている。
………えーい、ここは覚悟を決めて。
フィアッセの横に座りなおし、まだ俯いているフィアッセの顎を掴みそっと上を向かせる。
そして、そのまま唇を当ててスープを飲ませる。
フィアッセも自分の中に流れ込んできたスープを飲み干していく。
全部飲み終えたのを見て、唇を離す。

「っぷはぁー」

「はぁー……」

お互いに顔を赤くしながらかあさんを見ると、ニッコリ、いやにやりと笑う。

「正解。と、言う訳でスープとドリンクはそれで飲むのよ。
 じゃあ、次の品を持ってこないといけないから。じゃあ、ごゆっくり」

奥へと戻っていくかあさんの後ろ姿を茫然と見つめる。
と、フィアッセがスプーンを手に取って俺を見る。

「じゃ、じゃあ次は私が食べさせてあげるね」

顔をまだ少し赤くしながらもフィアッセは自分の口にスープを含むと、目を閉じてそっと唇を近づけてくる。
……もう、周りの視線なんかしるか!
俺は覚悟を決めるとフィアッセにスープを飲ましてもらう。
その後、運ばれてきた料理もお互いに食べさせ合う。

「はい、恭也、あ〜ん♪」

フィアッセが差し出す料理を食べる。
この頃になるとフィアッセも慣れてきたのか楽しそうに食事を続ける。
そう言う俺も慣れてきたんだが。
まあ、口移しで食べさせるよりは幾分恥ずかしさも和らぐからな。
ひょっとしたらこれもかあさんの計算だったのかもな。
その調子で食事を続け、最後にデザートのアイスクリームをまた口移しで食べさせ合う。
そして食事を終え、時間を見ればいい時間になっていた。
俺はフィアッセの荷物を持ち、店を出る。
今日の会計はいい物が見れたお礼にかあさんが払うそうだ。
もっともこの時、かあさんの顔を良く見ておけば俺が払ったんだが。
後日、この時の一部始終を納めたビデオを見せられ、撮影料はすでに払ったと聞かされるなんて思いもよらなかったからな。





空港まで何事もなく着き、もうすぐフィアッセの乗る飛行機の搭乗時間となる。

「フィアッセ、時間だ」

「うん。じゃあ、しばらくお別れだね」

「ああ」

「じゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃい」

「うん、浮気したら泣くからね」

「しないよ」

俺はフィアッセを抱き寄せ、そっとキスをする。
永い永いキスを交わし、お互いに名残惜しげに離れる。

「じゃあ、行ってくるね」

俺はフィアッセの姿が見えなくなるまで見送ってから、家へと帰った。





その夜、何故か宴会となった高町家。
参加者は高町家と那美さん忍、ノエル、それとフィリス先生だ。
何故、宴会になったのかは分からないが、皆が俺に酒を勧めてくるのには困った。
俺は下戸だと言っているのに………。
結局、断わりきれずに一人の酒を飲むと、他の連中が自分もと勧めてくる。
で、すでにかなりの量を飲まされ、俺の意識もかなり朦朧としてくる。
何となくいい気分だな。
………………………………。





恭也は体を左右にゆらゆらとさせ始める。
かなり酔いが回ってきているようである。
それを見た皆はそれ以上、酒を飲ますのをやめる。
じっと全員が見つめる中、恭也はとなりにいた忍に擦り寄ると肩に頭をもたれさせる。

『あっ!』

忍以外が羨ましそうに恭也を見る。
一人、忍は嬉しそうに笑いながら、恭也の頭を撫でる。

「恭也〜、どうしたの」

「ん〜、何でもない」

そう言いながら、忍の首筋に頬を摺り寄せる。

「いや〜ん♪恭也ったら♪」

嬉しそうにそう言いながら忍は恭也の背中を撫でる。
それに気を良くしたのか、恭也は忍の正面に回ると胸元へと抱きつく。

「ん〜、気持ちいいいい匂いがする〜」

「恭也、可愛い♪」

忍は恭也をぎゅっと抱きしめる。
それを羨ましそうに見ながら、

「何か恭ちゃん幼くなった感じ」

「確かに、美由希ちゃんの言う通りです」

「幼児退行って奴ですかね?」

「でも、恭ちゃんの子供の頃はあんなんじゃなかったけどな」

「でも……、」

「ええ」

「そうですね」

『可愛い♪』

全員が恭也に群がる。

「恭也さま、膝枕は如何ですか?」

「は〜い」

恭也はノエルの膝に頭を乗せ甘えるように頬を摺り寄せる。
それを見ながら頬を朱に染めノエルは優しく微笑むと、優しく恭也の頭を撫で上げる。

「気持ち良いですか」

「はい」

恭也は目を細めノエルの手をそっと握り、頬擦りする。

「忍お嬢様、これはかなり危険です。ブレーカーが落ちてしまいそうです」

「うんうん。分かるわよノエル。普段の恭也とのギャップがまた拍車をかけてるからね」

「ノエルさん、次は私と交代してください」

次から次へと恭也に膝枕をしていく。
そして、恭也は誰に対しても甘えている。そう、なのはに対してもである。

「にゃ〜、お兄ちゃんが可愛い!」

それから一時間近く恭也は全員に何度も可愛がられる。
恭也がこれらの出来事を覚えていないと思い、皆は好き勝手にする。
恭也が翌日になっても記憶を失わないと知っていれば、ここまではしないだろう。
……いや、目先の恭也を見た美由希たちならやるか。
ともかく、一通り楽しんだ美由希たちは更に恭也に酒を飲ませる。
やがて、小さく肩を震わせ鼻を啜り始める。

「ぐす………グスグス」

両目の端に徐々に涙を溜める。

「うぅ〜」

「いや〜ん、可愛すぎる。桃子さん、感激よ」

そう叫びながら桃子は恭也を抱きしめる。
桃子の腕の中で未だにぐずる恭也を見て、全員が貴重なものを見たと思う。
桃子は恭也の頭を軽く撫でながら、

「どうしたの恭也」

「グス……うぅ〜……グスン」

『私も撫でたいぃ』

全員が恭也の頭を撫でようとする。
それに怯え、恭也は桃子にしがみ付く。

「うぅ〜」

「よしよし」

桃子は全員の手を叩くと、恭也を庇うように抱きしめる。

「ほら、皆。恭也が怖がってるでしょ。撫ぜるなら順番にしなさい。
 恭也〜、もう大丈夫だからね」

「うん、ぐしゅぐしゅ」

それから順に恭也を堪能した美由希たちは更に酒を飲ませる。
すると、恭也は普段と変わらない様子になる。
これには全員が落胆する。

「何か普段と変わらないよ」

「確かに」

「って事は、これで終わりなの?」

「でも、フィアッセの話だとまだ変わるはずだったんだけどね」

「まあ、これでもかってぐらい堪能しましたし」

「そうですね。ここら辺で終わりにしておきましょうか」

「フィリス先生の言う通りですね」

こそこそと小声で話す美由希たち。
そんな美由希たちに首を傾げながら、恭也はすぐ近くにいた那美に尋ねる。

「那美さん、何を話しているんですか?」

「い、いえ、何でもないです」

「そうですか?なら、良いんですが。あまり考え込んでいると折角の可愛い顔が勿体無いですよ」

「えっ?!そ、そんな、私は可愛くなんて………」

「いえ、充分に可愛いですよ。普段も可愛いですが、今の赤くなった顔もまた格別に可愛いですよ」

「はえ〜」

普段の恭也からは考えられないような台詞を聞き、頬を上気させ茫然とする那美。

「きょ、恭ちゃん、私、私は」

「ん、美由希か?どうしたんだ、そんな怖い顔をして。折角の綺麗な顔が台無しだぞ」

「え、えへへへ〜」

美由希は頬をだらしなく緩めながら笑みを浮かべる。
それを見ていた他の連中も我先にと恭也に近づく。
恭也はそんな彼女たち一人一人に言葉をかけていく。
かけられた者たちはそん場でボーとなり、その言葉を反芻しては頬を染める。
やがて、何とか冷静に戻った忍が桃子に尋ねる。

「ねえ、桃子さん。あの状態からさらに飲ませたらどうなるの?」

「さあ、私も今日が始めてだから。でも、フィアッセが言うには、これ以上はまずいって事だしね」

「でも、ちょっと見てみたいですよね。と、言う訳で……」

忍はどこに隠し持っていたのか、ワインを取り出す。
それを見て桃子も笑みを浮かべ、ワイングラスをこれまたどこからか取り出す。

「物は試しよね」

「そうですよ」

忍はグラスにワインを注ぐと恭也に手渡す。
それを一気に飲み干す恭也。

「うーん、一杯だけじゃ変化なしですね」

「そうね。こうなったら」

桃子は恭也に瓶ごとワインを渡し、そのまま口をつけさせ一気に流し込むように飲ませる。
この行動に忍を除く全員が驚きの声をあげる。

「ちょ、ちょっとかーさん、何をやってるの」

「桃子さん、それはちょっと恭也くんの体に悪いですよ」

「大丈夫よ、大丈夫」

「ちょっと無茶だと思いますが……」

そんな事を言いながらも恭也はとうとう一本空にする。
するとすかさず忍がもう一本、桃子に渡す。
それを受け取り、恭也に握らせる。

「さあ、恭也一気に飲みなさい」

その言葉の意味が分かっているのか、恭也は頷くと一気に中身を呷る。
その後、何本目かの瓶を空にした恭也は、ゆっくりと袖で口元を拭って美由希たちを見る。
その目はどこか虚ろで焦点があっていないようにも見える。

「はははは、流石に飲ませすぎたかしら」

「かーさん、幾ら何でもやりすぎだよ」

美由希の言葉に全員が頷く。

「忍お嬢様はさっきから一緒になって飲ませていたと思うんですが」

「はははは。ま、まあ済んだ事だしいいじゃない。ね」

『…………………』

「な、何よ。それよりも恭也を寝かせた方が良いんじゃない?」

「確かにそうですね」

「じゃあ、今日はここらでお開きにしましょう」

「ああー、いいもんが見れたなー」

「そうですね。まあ、恭也くんにとっては災難でしたけどね」

「お師匠ー、明日は二日酔いになってるでしょうね」

レンの言葉に全員が頷く。

「じゃあ、恭ちゃんを部屋まで運ぶね。あ、ノエルさん手伝ってもらえますか」

「分かりました」

美由希はこの中で一番力がありそうなノエルに頼み、一緒に恭也の元へと行く。
と、それまで虚ろだった恭也の目に力が戻り、近づいてくる美由希を見ると妖艶な笑みを浮かべる。

「あっ、恭ちゃん?」

顔を赤くしながら、恭也に呼びかける。
が、恭也はそれに答えず、美由希の腕を掴み抱き寄せるとその唇を奪う。

「んっ!……んん」

突然の事に抵抗する美由希だったが、恭也の舌が割って口内に侵入してくると、
途端に力が抜け落ちたかのようにぐったりとして、されるがままになる。
その両手はしっかりと恭也の背に回されていたりする。

「んん……ン………フ……ンン」

クチュクチュと湿った音が辺りに響く。
やがて恭也はゆっくりと美由希から顔を離す。
美由希はそのままその場に崩れ落ちる。

「美由希さま、大丈夫ですか」

美由希の近くにいたノエルが崩れ落ちた音で正気を取り戻し駆け寄ろうとする。
が、それよりも早く恭也によって腕を掴まれ引き寄せられる。
そして、美由希と同じ様に唇を塞がれる。

「んん………ぷはぁー、恭也さま、一体何を、んん………んん」

ノエルの体からも徐々に力が抜けていく。

「桃子さん。これがフィアッセさんの言ってた事ですかね」

「多分、そうだと思うわ」

二人が話している間に三人目の犠牲者が出る。
那美が掴まり、同じ様に口内を蹂躙される。その頬は上気しており、両手が恭也の背中を行き来する。

「でも、ちょっといいかも」

忍はそれを羨ましそうに見る。
その後、その場にいた全員が抵抗虚しく(殆どの者が抵抗はしなかったんだが)恭也にキスをされる。
未だ余韻を味わうかのようにぐったりとして横たわる美由希たち。
そんな美由希たちに再び近づくと恭也はゆっくりと衣服を剥がしていく。
すでに恭也は上半身何も着けていない。
そのまま全員の衣服を脱がし終えると、恭也は全員を一ヶ所に集め、手や舌などを使い身体を弄り始める。
その恭也の動きに全員から甘い声が漏れる。しばし、部屋から甲高い嬌声が絶えず聞こえてくる。
やがて、その声が途切れると、ぐったりとした女性たちを前に笑みを浮かべた恭也が立つ。
恭也は最も近くにいた女性に軽く口付けをすると、そのまま覆い被さっていく。
そして、また漏れ出す甘い声……。
恭也は指を………………。



美姫 「って、はいはいはーいスト〜ップ。何で私がこんな事しなくちゃいけないのよ。
    全く、浩も放っておくと調子に乗って書くんだから。
    だから、調子の良い時の浩にこういったシーンは任せられないのよ。
    と、言う訳で話は翌日に飛びまーす。この後、何があったかは皆さん各自で想像して下さい」



昨日の宴会騒ぎから明けて翌日。
一番最初に目覚めたのは恭也だった。
恭也は目覚めるなり、その惨状に目を見張る。

「これは…………一体どうしたんだ?」

全員があっちこっちで未だに惰眠を貪っており、且つ、着衣が乱れたままであった。
いや、裸の上に申し訳程度に服を毛布代わりに被っているといった所である。

「一体、何があったんだ」

そう呟きながら自分の姿を確認すると、似たような格好であることに気付く。
そして、昨日の記憶をゆっくりと思い返してみる。

(確か、酒を飲まされて………。う、皆に膝枕とかされた記憶が……。
 その後、泣きついていたような気がする。で………………)

思い出すにつれ、顔から血の気が引いていく。

(な、俺は何てことを…………)

完全に昨日の行動を思い出し、自己嫌悪に陥る恭也。
その恭也の背中に柔らかい二つの膨らみが当たる。

「恭ちゃん〜♪おはよ〜」

「み、美由希!」

慌てて後ろを向こうとするが、その前に両腕にそれぞれ柔らかい感触が当たる。

「恭也〜、昨日は凄かったよ〜♪」

「恭也さま、一生ついていきます(はーと)」

「し、忍にノエルさん」

「恭也くん、私も忘れないで下さい」

「師匠、俺も〜」

「お師匠〜、うちもです〜」

「士郎さん、私は新しい恋に生きるわ〜。恭也〜士郎さんよりも良かったわ〜」

「な、ななな」

「お兄ちゃ〜ん」

「きょうや〜」

「な、お前たちまで何を言ってるんだ」

(お、落ち着け俺。流石に、なのはには手は出してなかったはずだ)

そう悩む恭也に全員が声を揃えて言ってくる。

『恭也、これからもよろしくね』









〜〜後日談



コンサートを終え、高町家に戻って来たフィアッセ。
皆には明日の朝着くと言っていたが、恭也に早く会いたくて早めに戻って来た。
そして、今フィアッセの目の前には、裸で抱き合っている恭也と、そして………。
美由希、晶、レン、忍、那美、ノエル、フィリス、桃子、久遠、なのはの姿があった。

「恭也……これはどういう事かな?」

「いや……これは……」

歯切れが悪い恭也。
しかし、この状況を見れば一目瞭然である。
仕方なしに今までの経緯を話す恭也。
それを全て聞いたフィアッセは、

「桃子〜、だから飲ませたら駄目って言ったのに〜」

「は、はははは、ごめんね〜。まさかこうなるとは思ってなかったから」

「う〜、皆酷いよ」

目に涙を溜め、俯くフィアッセ。
恭也はそんなフィアッセに近づくとそっとキスをする。

「フィアッセ。虫のいい話かもしれないが、俺が一番愛しているのはフィアッセだから……。
 皆とこんな事になったけど、それでもフィアッセが一番だから」

「ずるいよ、恭也」

「すまない」

「………でも、許してあげる。本当は嫌だけど、でも、皆も恭也の事が好きなのは知ってるから。
 それに、美由希たちなら良いよ」

「フィアッセ……」

恭也はフィアッセを抱きしめキスをする。

「恭也〜」

そんな二人を皆は優しげに見つめる。

「やっぱりフィアッセには敵わないね」

「ええ、そうですね」

「本妻はフィアッセさんに譲っても愛人1号の座は私が貰うわ」

「あら、桃子さんだって負けないわよ」

「俺だって」

「うちもです」

「私も負けません」

「久遠も!」

「なのはだって負けません」

『えっ!』

「ちょっと恭也、まさかなのはにまで手を出したの!」

「そんな訳ないだろうが」

「はい。まだ、キスだけです。でも、いつかは……」

『それは無理!』

「え〜、だってもう大人のキスもやったのに〜」

『…………………』

無言で全員が恭也を睨む。恭也は罰が悪そうにあさっての方を見つめる。

「恭也。念のために確認なんだけどね……。ここにいる人で全員だよね。それ以外は認めないよ」

「ああ、それは間違いない。と、いうか当たり前だろうが」

「そう、ならいいんだけど。いや、本当は良くなんだけど………。さっきも言った通り美由希たちならまだ許せるから。
 でもね、もうこれ以上は絶対に駄目だからね」

「分かっている。そんな事するはずがないだろうが」

「大丈夫です、フィアッセさん」

「そうそう。そんな事したら、ここにいる全員が許さないからね」

「と、言う事だ」

「う〜、でも何か納得いかないよ〜」

「フィアッセ………」

「んっんん…………」

恭也はフィアッセの唇を強引に塞ぐ。

「っはぁ〜、ずるいよ恭也。すぐにそうやって誤魔化す」

「別に誤魔化している訳ではない。俺が本当に一番愛しているのはフィアッセだけだから」

「恭也〜………んん、んん」

「恭也くんずるいですよ、フィアッセばっかり」

「そうだよ、私たちもいるんだからね」

フィアッセは恭也とのキスを終えると、笑いながら美由希たちに言う。

「駄目だよ。私が恭也の本妻なんだからね」

そして、そのまま恭也を押し倒す。

「それを今からたっぷりと教えてあげるよ♪」

『ずるい!私も!』

全員がそのまま恭也へと向って行く。
それから何があったのかは当人達のにが知る。
ただ、翌日、元気に起きてきたのは恭也となのはだけだった。
二人が仲良く朝食を取っている頃、恭也の部屋では…………。

「恭也〜久しぶりなんだから手加減してよ〜」

「恭ちゃん、なんであんなに元気なの?」

「そうですよ、私達全員を相手にしてたのに」

「さすがです、師匠」

「うちは今日はちょっと立てそうもありません」

「桃子さんも今日はちょっと仕事できないかも……」

「恭也、激しすぎるよ。足腰がもう駄目………」

「私も上手く手足を動かせません」

「恭也くん、体力ありすぎです」

「恭也、凄い……」

死屍累々と横たわるフィアッセたちの姿があったとか。





おわり




<あとがき>

不識庵・裏さんの10万ヒットきりリクです。
美姫 「ちゃんとリクエスト通りに出来たの?」
うん、出来た……と思うよ。
フィアッセを中心としたハーレム状態!これぞ、本当の好都合主義。
美姫 「何か恭也も大変そうだね」
しかし、ちょっと羨ましいかも。
美姫 「でも、今回はまた際どい所があるわね。これって大丈夫なのかしら」
大丈夫、大丈夫。と思いたい。流石にやばいと思った所は削ったしな。
美姫 「いつかアウトになるかもね」
まあ、その時はその時に考えれば良いさ
美姫 「いい加減ね〜」
今更何を言うかな。
美姫 「それもそうよね」
おい!あさりと認めるなよ。寂しいだろ、虚しいだろ、可哀相だろ。
美姫 「はいはい。梅干あげるからいい子にしましょうね」
わーい!わーい!梅干だ〜!
って、なんでやねん!
美姫 「何よ、いらないって言うの」
いえ、頂きます。
美姫 「だったら、大人しく受け取りなさいよ」
はい、すいません。では、早速頂きます。
パクッ
う〜ん、酸っぱい………って、あれ?何か中から種じゃなくてドロっとしたものが。
がっ!こ、これはまさか……。
美姫 「ふっふっふ。この間、遊び人さんの所に出張したじゃない。その時にお土産としてシオンさんとゆうひさんに貰ったのよ」
や、やっぱりアレか。
美姫 「そうよ。某奥様印の邪夢よ。いい夢が見れると良いわね」
は、謀ったな美姫………。って、どうやって中に入れたんだよ、種はどこにいったんだ………。バタリ。
美姫 「流石は某奥様が改良に改良を加えた後にシオンさん、ゆうひさんによってパワーアップした代物だけの事はあるわ。
    あ、食した後の症状をちゃんと記録してシオンさんたちに送らないと……。
    後は私なりの改良策も一緒にレポートにして……っと。これで、対浩、遊び人さん用食物兵器の完成にまた一歩近づいたわね」
謎の物体(注:浩です。いや、だったもの)を前に必死でメモを取る美姫。
美姫 「あ、今回の後書きはここまでです。さ〜て、これから頑張らなくちゃいけないから、皆さん、またね♪」




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