『小さな約束』
クリスマスイヴの日、ここさざなみ寮のリビングに恭也と知佳の二人がいた。
何故、恭也がここにいるのかというと、それは今を遡る事少し前。
──高町家
恭也以外は皆、忙しいという事で翠屋へと借り出されている。
ただ一人、恭也だけが家にいた。
と、いうのもここ最近、ずっと恭也は翠屋の手伝いをしていた為、今日は桃子に言われ休む事となったのだ。
最も本人は最後まで手伝うと言ってきかなかったのだが、最後は折れる形となった。
そして、特にする事もなくぼんやりと過ごしていると、電話が鳴った。
「もしもし、高町ですが」
「あ、恭也くん!」
「その声は知佳さんですか」
「うん」
「いつ戻られたんですか?この前聞いた時は確か明日帰国するはずだったんじゃ」
「そうだったんだけどね。予定が早くなって、昨日の夜に帰って来れたんだ」
「そうだったんですか」
「うん。でね、…………恭也くん今、暇かな?」
「ええ、特にする事もありませんし」
「じゃあ、今からさざなみに来れる?今、皆出かけてて私も暇なの」
「分かりました。すぐに行きます」
恭也はそう言って電話を切ると、すぐにさざなみ寮へと向った。
さざなみ寮についた恭也は知佳と二人で特に何をするでもなく、
ただリビングで他愛のない話をしたりして、のんびりと時を過ごしていく。
ふと二人の肩が触れ合い、二人は顔を見合わせる。
「恭也くん…………」
「知佳さん…………」
二人はどちらともなく目を瞑るとゆっくりと顔を近づけていく。
もう少しで触れ合うというその時、玄関から人の声が響く。
「ただいまー」
複数の声と共に俄に騒がしくなる。
恭也と知佳はこの事に驚き、慌てて離れようとするが、あまりにも慌てていたせいか、お互いに絡み合いそのまま転んでしまう。
しかも、それが丁度、恭也が知佳に覆い被さった格好となり、傍から見ると恭也が知佳を押し倒した様にも見える。
「つつっっ。知佳さん、大丈夫ですか?」
「うん、何とか。恭也くんは?」
「俺は大丈夫ですよ」
二人とも現在の体勢に気付いていないのか、お互いに怪我をしていないかに気を使う。
そこへ住人たちが入って来た。
『あっ!』
住人たちが上げた声に恭也と知佳は自分達の体勢を改めて見る。
「こ、これは違うんです、皆さん」
「そ、そうなんだよ。これは……」
誰かに何かを言われる前に誤解を解かないと、と思い必死で弁明をする二人だったが、
逆にそれがかえって怪しさを感じさせている事に二人は全く気付いていなかった。
リビングに何とも言えない雰囲気が漂い出した頃、耕介が口を開く。
「えーと。あ、ああ、そうだった。あれを買い忘れていたな。皆、ちょっと付き合ってくれ」
そう言って全員を連れて再び出て行こうとする。
その背中に向って二人は声を上げる。
「な、何でそんなに棒読みなのよ、お兄ちゃん」
「耕介さん。本当に誤解なんですって」
その後、二人の更なる必死な説明により何とか誤解が解ける。
「じゃあ、誤解も解けたところだし、今夜の準備を始めるか」
耕介の一声に従い、寮生たちはパーティーの準備に取り掛かる。
そして、手伝おうとした恭也を真雪が呼び止める。
「おい、恭也。お前は知佳を連れてどこかへ行ってろ」
「しかし……」
「いいから、そうしろって。どうせ今夜は夜中まで騒ぐ事になるんだからな。
今のうちじゃないと知佳と二人っきりになるのは難しいかもしれないぞ」
「……分かりました。ありがとうございます」
「ああー、気にするな。 ほれ、さっさと行きな」
「はい。じゃあ、知佳さん行きましょうか」
「うん」
外へと出かける二人に真雪が声をかける。
「7時には戻って来いよ」
それに返事を返して二人はクリスマス一色に染まった街へと向った。
夕方、高台へと来た二人。
知佳は恭也の肩に頭を乗せ、街を見渡す。
恭也はそんな知佳の肩を抱きながら、何かを言い出すタイミングを計っていた。
しばらくそのままで時間だけが過ぎていく。
やがて恭也は意を決したかのように知佳を正面から見つめ、口を開く。
「知佳さん…………」
「何、恭也くん?」
恭也は一度間を空けると、上着のポケットから小さな包みを取り出し知佳の方へと差し出しながら再び、口を開ける。
「これを……」
知佳はその包みを受け取ると開封しても良いか訪ねる。
恭也が頷いたのを確認すると、知佳はその包装を開ける。
中から出てきた小箱の蓋を開け、中に入っていたものを見て、知佳はそれと恭也の顔を交互に見つめる。
「これ本当に貰ってもいいの?」
「はい」
尋ねる知佳に力強く頷くと、恭也は知佳の手からそれ──指輪を取り上げる。
そして、知佳の左手を取ると薬指にそっと嵌める。
「あっ」
知佳の目からつっと一筋の涙が流れ、頬を伝う。
「知佳さん……」
恭也は知佳を優しく抱き寄せると、そっと顔を上向かせ唇を重ねる。
やがてゆっくりと唇を離した二人は、そのまま抱き合う。
「恭也くん……。私、今とっても幸せだよ」
「俺もですよ」
知佳は恭也の背に回した腕に力を込める。
「一つ我が侭を言っても良いかな?」
「幾ら言ってくれても構いませんよ。知佳さんの我が侭なら幾らでも聞きますから」
「うん。じゃあ、私の名前を呼び捨てにして欲しいな」
「そ、それは……」
「駄目?」
「分かりました」
「後、その敬語もなしね」
「……知佳、これで良いのか?」
「うん」
そのまま、抱き合っていると、空からちらほらと白い物が舞い落ちてくる。
二人は空を見上げる。
「あ、雪だ」
「本当だな」
「綺麗……」
「ああ、本当に真っ白で綺麗だな。まるで知佳の羽のようだ」
「へへへ」
知佳は恭也の胸に頬擦りをしながら、抱きしめる手の力を強める。
「な、どうしたんだ突然」
「べっつに〜。何でもないよ。ただこうしたかっただけ〜」
「そうか」
恭也も知佳の背に手を回し、力を込めて抱きしめる。
「恭也の身体温かいね」
「知佳もな。それに……」
「それに、何?」
「何でもない」
「え〜気になるよ。何なの。ちゃんと言いなさい」
「…………ただ、柔らかいと思っただけだ」
「そ、そうかな?自分ではよく分からないや」
「ああ、それにこうやって抱きしめているだけで落ち着くというか、気持ちいいしな。最高の抱き心地だ」
「私も恭也を抱きしめてると同じだよ」
「そうか?」
「うん」
「俺も自分では分からんな」
「あははは、そうだよね。きっと大好きで大切な人だから、そう感じるんだよ」
「…………」
「……ずっと一緒だよね」
「ああ、何があってもずっと一緒だ」
降りしきる雪の中、二人は再度、口付けを交わす。
「そろそろ戻ろう。このままだと風邪を引いてしまう」
「そうだね。それにいい時間だし」
「ああ」
二人は腕を組みながら高台を後にした。
雪の降る夕暮れに交わした小さな、けれど大事な約束は二人の胸にそっと仕舞われ、決して破られる事のない誓いとなる。
おわり
<あとがき>
はい、12万HitきりリクでN.T.さんからのリクエスト。恭也X知佳です。
美姫 「長かったわね〜」
はい、長かったです。ごめんなさいです。
美姫 「だって、もう13万………」
はい、その通りです。でも、時期的には丁度いいかな〜、とか思ったり……。
美姫 「っふ」
っく、こいつだけは……。
美姫 「はいはい。N.T.さんこんな感じで〜す」
ではでは。
美姫 「まったね〜」