『雪とあなたに微笑みを』

  〜聖夜〜






12月も半ばを過ぎた日曜日、高町家に来客を告げるチャイムが鳴る。
現在、恭也と美由希以外全員が出払っており、美由希も自分の部屋にいたため、恭也が来客の元へと向う。
そして、恭也が門を開けた所にいたのは、長い髪を後ろで一本の三つ編みにし、穏やかな笑みを浮かべている一人の女性だった。
その女性は美由希のクラスメイトで、那美と並ぶ美由希の数少ない親友であった。
高町家にも何度も来ており、恭也とも顔なじみとなっている。
恭也はその顔に珍しく笑みを浮かべると、その女性と挨拶を交わす。

「どうもこんにちわ、水瀬さん」


「恭也さん、こんにちわ」

「美由希ですか?」

「はい、美由希ちゃんと約束してたので。美由希ちゃんは?」

「今、呼んでくるから、中で待っているといい」

「はい」

恭也は美由希を呼ぶため、家の中へと入り、水瀬を中へと招く。
その後、恭也に呼ばれた美由希がやってくる。

「ごめん、秋子ちゃん」

「ううん、大丈夫よ。じゃあ、行きましょうか」

「うん。じゃあ、恭ちゃん留守番お願いね」

「ああ、行って来い」

恭也に見送られ、二人は出て行った。
しばらく歩いた後、美由希は秋子へと尋ねる。

「で、恭ちゃんに渡すプレゼントは出来たの?」

「ええ。喜んでくれると嬉しいけど……」

「大丈夫だって、恭ちゃんも秋子ちゃんからのプレゼントなら喜ぶって」

「そうかしら」

「うん、そうそう。後は、イヴの日に私が上手く恭ちゃんを外に連れ出すから」

「ありがとう。お願いね」

「任せてよ」

乙女たちの密かな計画は着々と練られていた。
そんな事とは露知らず、恭也は珍しく一人でのんびりとした休日を過ごしていた。





  ◇ ◇ ◇





12月24日 午後

「ねえ、恭ちゃん。今、ヒマ?」

「うん?どうしたんだ?」

「うん。実は、映画のチケットがあるんだけど……」

「映画?」

「うん。本当は那美さん、秋子ちゃんと三人で行くつもりだったんだけど、那美さんが急に仕事で行けなくなって……。
 だから、恭ちゃんも一緒にどうかなって」

「ふむ。俺がいたら邪魔になるだろうから、二人で行って来たらどうだ」

「そんな事ないよ。だから、行こうよ。それに、たまには外に出ないと」

いつになく強引な美由希の態度に恭也は重い腰を上げる。
恭也は美由希に連れられて、秋子との待ち合わせ場所へと向った。
駅前まで来た恭也たちは秋子らしき人物を見つけ近づいて行く。
その時になって、秋子の前に一人の男がいることに気付く。
それを見た恭也は美由希に小声で尋ねる。

「美由希、あの男性は知り合いか?」

「ううん、私は知らないけど……。秋子ちゃんも何か困っているみたいだし、多分ナンパじゃないかな?」

「そうか」

「ほら、恭ちゃんが行って助けてあげてよ」

「そうだな」

恭也は男性の後ろへと立つと、その肩を軽く叩く。
振り返った男は、恭也を睨みつけながらその口を開く。

「何だ、お前は!」

「その女性の連れだが」

恭也は視線に軽く殺気を乗せ男へと向き合う。
その視線に圧されながらも口を開こうとするが、その口からは言葉が出てこず、ただ口をパクパクとさせる。
動くに動けなくなった男の横を何事もなかったかのようにすり抜け、秋子が恭也の横へと並ぶ。

「こんにちわ、恭也さん」

「こんにちわ、水瀬さん」

そこでやっと男は視線の圧迫から逃れる事ができ、二人に背を向けて駆け出す。
その男に全く興味を示さず、二人は話を続ける。

「どうやら遅れてしまったみたいですね。美由希が時間を言わなかったので、間に合うのかと思ってたんだが……」

「いえ、まだ時間にはなってませんから」

「そうですか」

そんな二人に美由希が近づき、声を掛ける。

「じゃあ、二人ともそろそろ行かないと……」

「そうか、なら行くとするか」

三人揃って映画館へと向う。
そして、映画館が見えてきた所で美由希が大声を上げる。

「あぁー、忘れてた!」

「何だ突然大声を出して」

「ごめん、恭ちゃん。私、大事な用を思い出したから、映画は秋子ちゃんと二人で行って」

「大事な用って何だ」

「那美さんと約束が」

「神咲さんは仕事じゃなかったのか?」

「え、あ、そうだった。そ、そう、なのはと約束が……」

「なのはは友達の家に行ったと思ったが?」

「じゃなくて、晶……」

「ちなみに、晶、レンは今夜の夕食のために買い物に行ったし、かーさんは仕事中だ」

「あうあうあうあうあう」

「美由希、何を言ってるんだ?」

「え、えーっと……。と、兎に角私は用事があるから、恭ちゃん後はお願いね」

言うだけ言うと美由希は来た道を走り去っていく。
その後ろ姿を見ながら、恭也はただ首を傾げるばかりであった。

「あいつは一体どうしたんだ?」

そんな事を呟きながら、恭也は隣にいる秋子へと視線を向ける。

「で、美由希はいなくなったけど、どうする?」

「そうですね。このチケットは今日までなので、とりあえず映画を見ませんか?」

「ああ、構わないが。俺が相手でも良いのか?」

「もちろんです。今日一日、付き合ってくださいね」

「分かった」

そんなやり取りの後、二人は映画館へと入って行った。





  ◇ ◇ ◇





映画館を出た二人はその後、街を色々と見て周る。
そして、日も傾き辺りがすっかり暗くなり始めた頃、二人は恭也の家へと向っていた。
秋子もこの後高町家で行われるパーティーに参加するためである。
その途中、人の全く通らない通りに差し掛かり、会話が何となく途切れた頃、
秋子は思いきったように恭也の前へと回り込み、両手で胸に抱えていた包みを差し出す。

「あ、あの、これクリスマスプレゼントです。貰ってください」

「良いのか?」

「はい。頑張って作ったんですよ」

「開けても?」

「ええ」

恭也は秋子の許可を得、包みを剥がす。
その中から出てきたマフラーを手に取ると、早速首に巻く。

「温かいな。それによく出来ている。凄いな水瀬さんは。料理だけでなく、こんな事もできるなんて」

「そ、そんなに凄くないですよ。そ、それについつい調子に乗って編んでいるうちにかなり長くなってしまって」

秋子は少し恥ずかしそうにはにかみながら、恭也の首元を見る。
秋子の言葉の通り、恭也の首に巻かれたマフラーは結構な長さだった。

「まあ、そんなに問題はないから。でも、俺は何も用意してないんだが……」

「だったら、私欲しい物があるんですけど、良いですか?」

「何を欲しいんだ?あまり高い物は無理だぞ」

「大丈夫です、お金は掛かりませんから」

秋子はニッコリと笑うと、恭也の目をじっと見詰めゆっくりと口を開く。

「恭也さんの心が欲しいです」

「……………」

流石の恭也もこの状況でそう言われて、秋子の言わんとしている事に気付く。
そして、秋子は困った様子の恭也を見て、少し寂しそうに笑い、すぐにいつものような穏やかな笑みを浮かべると、、

「冗談ですよ」

恭也にそう言う。

「冗談………です」

途中で少しだけ言葉に詰まるが、何とか笑顔のまま再度、恭也に告げる。
それを見ながら恭也は、知らず大きな声を上げていた。

「違う!」

秋子はその声にビクリと身体を振るわせる。
それを見た恭也は一度、深呼吸をし、気持ちを落ち着かせる。

「すまない。急に大声を出して。でも、違うんだ。別に水瀬さんが嫌いという事ではなく、いや、むしろ嬉しいぐらいなんだが。
 ただ、急な事だったんで、ちょっと慌ててしまっただけで」

シドロモドロになりながら話す恭也を見て、秋子にも余裕が出てくる。

「そうだったんですか。……恭也さんは嬉しかったんですね」

「ああ。その、なんだ……」

「じゃあ、改めて聞きますけど、恭也さんの……あなたの心をプレゼントしてくれますか?」

「……それはできない」

秋子が何か言うよりも早く、恭也は言葉を紡ぐ。

「俺は水瀬さんの事が好きだから、それじゃあプレゼントにはならないだろ。
 少し前から、俺の心は水瀬さんだけの物だったんだから」

恭也の言葉に秋子は少しだけ涙を流す。
それを手で拭い、そっと抱き寄せる。
やがて、どちらともなく目を閉じ顔を近づけていく。
まるで、それを見ていた小さな天使が二人を祝福するかのように雪が空から舞い降りてくる。
しんしんと静かに舞う雪の中、二人はお互いの体温を感じながら、ゆっくりと唇を離す。

「じゃあ、行こうか秋子」

「はい」

二人は手を繋ぎ、家族達の待つ家へと向った。
これから、クリスマスとは別の騒ぎが起こるであろう事を確認しながら。
お互いに繋いだ手から伝わる体温を心地良く感じながら、二人は雪が降り積もりつつある街中を歩いていった。







<to be continued.>




<あとがき>

出来ました!遊び人さんとの会話中に遊び人さんからリクされた恭也X秋子。
で、お気づきかと思いますが、この話は続きます。
次で最後ですけど。
美姫 「やっほー、と、言う訳で、後編もキリキリ書きなさいよ」
おう!
美姫 「で、ラストは2パターンあるのよね」
そうだぞ。一つは遊び人さんの所へ。もう一つは自分の所へと。
ちょっと変わった試みをしてみようかと。
美姫 「で、遊び人さんには事後承諾という、何ともふざけた奴ですが、そこはほら、浩ですので」
だーいじょうぶ、むぁーかせて。
遊び人さんの事だから、一秒で了承さ。
美姫 「そうかな?まあ、ダメなら浩が困るだけだしね。そうそう、ラストが2パターンという事は、後書きも2パターン。
    出番も2倍、2倍」
さて、では次の最終話で。




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