『続・神咲対抗恭也争奪大会』






薫たちが高町家で暮らすようになり、まだ一週間も経たないが、既に全員が打ち解けていた。
特になのはは、久遠が常にいる事で始終ご機嫌だった。
そんなある日、恭也はいつもの朝の稽古を終え、美由希と共に家へと戻って来る。
そして、家の扉を開けると、

「おかえりなさいませ」

三つ指をついて恭也を迎える女性の姿があった。

「「た、ただいま」」

恭也と美由希は二人揃って挨拶を返すと、とりあえず家へと上がる。

「お風呂の方は出来ていますので」

「あ、ありがとうございます。美由希、先に入れ」

「え、でも」

「いいから」

「うん。じゃあ、お先に」

美由希は逃げうるようにして、風呂場へと向う。
美由希がいなくなり、二人になった所で恭也は、

「薫さん、何を?」

「やっぱり変じゃったか?」

「いえ、そう言うわけではないんですが」

「たまには、朝の鍛練から戻ってくる恭也くんたちを迎えようかと思ったんじゃが」

「そうですか。それはありがとうございます」

礼を言う恭也に、薫は嬉しそうに笑う。

「薫さんも鍛練で疲れたでしょうから、美由希の後にでもお風呂に入ってください」

「い、いいよ。うちはもう済ませたから」

「そうですか。では、後で頂きます」

「ああ、そうして」

「所で、那美さんたちはまだ?」

「ああ。まだ寝てるよ」

今度は苦笑を浮かべ、恭也に答える薫だった。
薫たちが一緒に住むようになった当初は、全員が鍛練に付いてきていたのだが、
何かと喧嘩を始める薫たちの対応に疲れ果てた恭也の一言によって、鍛練には付いて来ない事を約束させられたのである。
そうなった途端、薫以外の者たちは朝はギリギリまで眠っている事が多かった。
那美と葉弓は寝起きが悪いらしく、朝食の準備が整うまで起きる事は滅多になく、
楓は楓で、夜遅くまで本を読んでいることが多い為、朝早くには、なかなか起きて来る事がなかった。
その為、朝会うのは自然と、同じ様に朝から鍛練に励んでいる薫と、その付き添いの十六夜の二人になる。
しかし、薫がこんな風に迎えたのは始めての事だったらしく、恭也も少し戸惑っていた。

「十六夜さんは一緒じゃなかったんですか?」

「十六夜なら、散歩に出たよ」

「そうですか」

リビングで話をしながら、薫の淹れてくれたお茶を飲む。
そうこうしている内に、美由希が風呂から上がり、恭也が風呂場へと向う。
恭也は風呂に入ると、ゆっくりと湯船につかる。

「ふー」

知らず漏れる声に苦笑しながら、体をリラックスさせていく。

(はー、朝から風呂に入るのも良いもんだな。薫さんには感謝かな)

そんな事を考えていると、脱衣所から人の気配を感じる。

「恭也くん」

「か、薫さんですか、どうかしましたか?」

「いや、湯加減はどうかと思って」

「丁度、良いですよ」

「そ、そう」

それだけ言うと薫は黙り込む。
しかし、その場からは立ち去らず、何かを言いたげな雰囲気が伝わってくる。

「薫さん、どうかしたんですか」

「あ、その、恭也くん。体はもう洗った?」

「いえ、まだですか」

「じゃ、じゃあ、うちに背中を洗わせて」

「い、いえ、自分で洗えま……」

恭也が全てを言い終える前に、扉が開けられ、バスタオル一枚を巻いただけの薫が入ってくる。

「か、薫さん!」

恭也は入って来た薫の姿を見て、視線を逸らせるが、目に飛び込んできた肌の白さや、
片手で押さえられ、余計にその存在を主張する胸の谷間などがはっきりと脳裏に焼き付いており、顔を真っ赤にさせる。

「え、えっと」

「うちも恥ずかしいんじゃから、は、はよう座って欲しい」

いつもの凛とした態度とは打って変わった態度に、恭也の脳も蕩け素直に上がると椅子に座る。

「あ、あまりこっちを見ないでね。は、恥ずかしいから」

「は、はい」

薫は石鹸をタオルに付け、泡立てると恭也の背中を洗っていく。

「改めて見ても、やっぱり凄いね」

「お見苦しいものをお見せしてしまって……」

「そ、そんな事なか!恭也くんのこの傷は、一生懸命鍛練してできたもんや、誰かを守ろうとして出来たものだよ。
 だから、見苦しくなんかない!うちは……、うちは恭也くんの背中、ううん、背中だけじゃなく、全て好きじゃよ。
 それに、うちも少ないけど、幾つか傷はあるし。
 恭也くんと違って、女のうちにこんな物があるんじゃ。それに、子供の頃から剣を握っとったから、腕も柔らかくもないし。
 こんな腕、恭也くんも嫌じゃろ?」

そう言って薫は腕を恭也に見せる。
恭也はその腕の傷をそっと撫で上げると、

「薫さんの傷も、誰かを守るために出来た傷じゃないですか。俺はそんなの気にしませんよ。
 それに、薫さんの肌は白くてすべすべで、とっても柔らかいですよ。
 それに、いい香りがします」

「そ、それは今、恭也くんの体を洗ってるから……」

「そうじゃないですよ。薫さんの匂いですよ。いい匂いです」

恭也の言葉に、薫は触れられている所から徐々に体が熱くなっていくのを感じ、急に恥ずかしさが込み上げてくる。
そんな薫に気付かず、恭也は薫の腕を何度も擦る。

「きょ、恭也くん。その、そろそろ」

流石に恥ずかしくなった薫がそう声を掛けると、恭也も今自分が何をしていたのか思い出し、慌てて手を離す。

「す、すいません」

恭也は振り返り、頭を下げる。

「そ、そんなに謝らんで良か」

恭也の態度に薫も慌てて、手を振るが、その勢いでバスタオルがはだける。
頭を上げた恭也の視界一杯に、薫の全身が飛び込んでくる。
二人は一瞬、動きを止め、お互いの視線がぶつかる。

「み、見た」

「い、いえ」

明らかに嘘と分かることを真っ赤になりながら答えた瞬間、

「きゃ、きゃあああ〜〜〜」

「か、薫さん!」

大声を上げる薫に慌てた恭也が、薫の悲鳴を止めようと口に手を伸ばすが、慌てていた為、泡に足を取られる。
その結果、恭也は薫に伸し掛かる形となり、運の悪い事に薫の足の間に恭也は膝を立て、
そして咄嗟に体を支えようとした手が、薫の胸に当たる。
一方、さっきの悲鳴を聞いた者たちが、揃って悲鳴の出所であると思われる浴室へと向う。

「薫さん、何かあった……」

一足先に辿り着いた桃子が、何かあったのかと扉を開けようとして、中から聞こえてくる声にその手を止める。

「きょ、恭也くん、その早く……」

「す、すいません!」

「い、いいから、その」

「は、はい」

「い、痛っ!」

「だ、大丈夫ですか」

「だ、大丈夫だから、早く動いて」

「あ、はい」

そんな会話を耳にし、桃子は両手を合わせ天井を見上げる。

「あなた、恭也も立派になりました。でも、初めてが風呂場というのも、どうかと……。
 やっぱり、私の育て方が悪かったのでしょうか?でも、恭也にしてみれば、かなりの進歩ですよ。
 もう、私は感動のあまり、前が見えないわ」

「「「な、何を言ってるんですか桃子さん!」」」

桃子の言葉を聞き、いつの間にやら集まってきていた那美、楓、葉弓が声を揃える。
そして、そのまま扉に手を掛けると、開け放つ。

「薫ちゃん!何をやってるの!」

「恭也、無事か!」

「薫ちゃん、抜け駆けはずるいですよ」

突然現われた三人に、薫と恭也は驚愕する。

「な、那美!」

「楓さんに葉弓さんまで」

二人は、自分たちの今の状態も忘れ、ただ三人の闖入者に驚きの声を上げる。

「そ、そんな事より、二人とも何をしてるの!」

「そ、そうやで薫!薫がそない卑怯な事をするなんて」

「薫ちゃん、信じてたのに」

そこまで言われ、恭也たちは自分たちの状態を冷静に見直すと、顔を赤くしつつ急いで離れる。

「ち、違います!誤解です」

「そ、そうや、誤解や」

この後、珍しく慌てた二人の弁解が始まる。
それを冷ややかな目で聞きながらも、ちゃっかりと恭也の裸を眺める三人だった。

(恭也さんの体……)

(やっぱり凄い鍛え方をしているだけあって、引き締まった良い体をしてる)

(あ、あの腕で抱きしめられたら……)

押し黙ったまま、顔を赤くし自分を睨んでくる三人に、恭也はやたらと恐縮していた。

(やっぱり、俺が薫さんを押し倒したと思われているんだろうな。
 しかし、あんなに顔を赤くするまで怒るなんて、薫さんは大切にされているんだな)

少し勘違いしている恭也だった。
そのうち、このままでは埒があかないと思ったのか、桃子が手を叩く。

「はいはい。とりあえず、詳しい事は後で聞きましょう。二人とも、はやく服を着て上がってらっしゃい」

桃子の言葉に、まだ自分たちが裸だった事を思い出し、再び顔を赤くする。
そんな二人を見ながら、桃子は後ろで待っている美由希たちに事情を説明し始める。

「はいはい。美由希たちもこっちは大丈夫だから、リビングに行きましょうね」

中の様子が見えないながらも、大体の事情を察したのか、美由希たちは素直に桃子の言葉に従った。
そして、一段落した頃、二人によって真相が明かされる。
二人の話によると、



「きょ、恭也くん、その早く……」

「す、すいません!」

薫は自分の胸に乗せられた恭也の手を退けてもらうように頼む。
恭也の謝罪に、頬を朱に染めながら、

「い、いいから、その」
(べ、別に恭也くんが相手なら、うちは……。で、でも、やっぱり最初はこんな所じゃなく、ちゃんとした所で……)

「は、はい」

早く退けてもらおうと促がすその声に、恭也は薫の内心など知らず、慌てて退けようとする。
しかし、あまりにも慌てていた為、薫の胸に触れている手に力が入ってしまう。

「い、痛っ!」

「だ、大丈夫ですか」

咄嗟の事に、声を上げた薫を心配そうに覗き込む恭也に、しばし見惚れながらも、
まだ胸に感じる手の温もりに恥ずかしさを感じ、早く退いてもらおうとする。

「だ、大丈夫だから、早く動いて」

「あ、はい」

そして、恭也が退こうとした所で、三人が乱入した。と、いう訳である。
これを聞き、納得する一同だったが、若干名は何事かを考え始める。

(せ、背中を流すなんて、そんな美味しいシチュエーションがあったなんて。やっぱり、薫ちゃんは油断できないわ)

(う、うちも明日からは早く起きて、恭也の……)

(恭也さんとお風呂……。そして、その後は……きゃっ)

(おふろ♪きょうやといっしょ♪)

(薫、今回は先を越されましたが、そういう事なら遠慮はいりませんね。
 恭也様、明日から楽しみにしててください。薫では出来ないような事まで……)

そんな五人を見て、薫も決意を新たにする。

(うちだって負けられん!)

そんな六人を少し離れて眺めながら、桃子は恭也に話し掛ける。

「恭也、アンタ明日から、大変な事に……」

「言わないでくれ」

「あら、アンタでも流石に気付いたの?」

真顔で尋ねる桃子を見詰め返し、こちらも真顔になると、

「ああ。何かよく分からないが、とてつもなく嫌な予感だけはする」

そう答える息子を眺めながら、桃子は溜め息を一つ零す。

「アンタの鈍感さもそこまで行けば、呆れるを通り越して、却って感心さえするわ」

「何の事か良く分からんが、褒められていない事だけは分かった」

「まあ、明日から覚悟する事ね」

苦笑と共にそれだけを言うと、桃子はその場から立ち去る。
そんな後ろ姿を見ながら、恭也は一人首を傾げるのだった。
そして、事態は桃子の予想よりも早く、その日の午後から姿を見せ始めるのだった。





おわり




<あとがき>

夜多狗さんの340,000Hitリクエストで、
美姫 「神咲対抗恭也争奪戦大会の続編です」
パフパフドンドンドン♪
美姫 「因みに薫ちゃんメインよね」
イエッサー!
美姫 「まあ、例によって完成するのが遅いけど」
…………さて、次、次。
美姫 「毎回、毎回逃がすと思う?」
いや、逃げれない時のほうが多い気が……。
美姫 「問答無用。お星様になっておいでー!」
ドガッ!
い、、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!地球は丸いから、一周して戻ってくるからな〜〜〜〜〜〜〜〜。
美姫 「ふー。では、またね♪」





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