『続々・神咲対抗恭也争奪大会』






薫の攻撃から明けた翌日。
楓は珍しく早い時間に目を覚ました。
支度を全て終え、後は恭也が鍛練から帰ってくるのを待つばかり。
はやる胸を押さえつつ、楓は忍び込んだ恭也の部屋で、部屋の主が来るのを今か今かと待ち構える。
やがて、シャワーを終えた恭也が部屋へと戻ってくる気配を感じる。
恭也も部屋の前で中に人がいる気配を感じたのか、少し部屋の前で動きを止める。
しかし、中にいるのが楓と分かると、そのまま戸を開け中へと入ってくる。

「楓さん、どうしたんですか」

「お、おはよー恭也」

「ええ、おはようございます。今日は早いんですね」

「ま、まあね。所で恭也、体の調子はどう?」

「体ですか。そうですね、いつもと変わらないと言った所ですね」

「そ、そう。じゃあ、うちがマッサージをしてあげるよ。こう見えても、結構上手なんよ」

「そ、そんな事をしてもらう訳には」

「薫には背中を流してもらったのに?」

「うっ」

楓の台詞に言葉に詰まる恭也。
それを見て、楓は更に続ける。

「薫は良くてうちはあかんの?」

「うぅ」

「それとも、裸やったら良いん?」

「わ、分かりました!お願いしますから、それ以上は勘弁してください」

恭也のこの言葉を聞き、楓は満面の笑みを浮かべる。

「じゃあ、上着を脱いでそこに横になって」

「はい」

恭也は言われた通りに上着を脱ぐと、うつ伏せになる。
その上に、楓は乗るとゆっくりと揉んでいく。

「どう、恭也?」

「くっ。少し痛みを感じますが、結構気持ち良いです」

「そう。じゃあ、次は」

楓は恭也の上に乗りながら、丹念にマッサージをしていく。
恭也は上に乗る楓の体の感触に、頬を染めながらも、

(楓さんは純粋に俺の体を心配して、マッサージをしてくれてるんだ。変な事を考えるな)

必死で邪念と闘っていた。
それを察し、楓は恭也に見えないように笑みを浮かべると、更に恭也の上で体を動かす。

「んっ!どう、恭也くん」

「あ、はい。気持ち良いですよ」

上に乗る楓の感触を出来る限り感じないように、意識を他へと向けるため恭也は楓に話し掛ける。

「でも、こんなに気を使って頂かなくても……」

「そんなん気にせんで良いよ。うちがやりたいからやってるだけやから」

「そうですか。でも……」

「良いから良いから。でも、もしそんなに気にしてくれてるんやったら、そうやね、今度の休みに何処かに連れてってくれる?」

何気なくを装いながらも、今回の本当の目的を口にする。
そんな楓の思惑に気づく事無く、恭也は返事をする。

「ええ、それぐらいでしたら構いませんよ。でも、俺なんかと一緒で宜しいんですか?」

「勿論や。恭也くんやから良いねん」

「はあ」

恭也は良く分からないながらも、大人しく頷く。

「では、今度の休みに」

「うん、約束やで!」

楓は嬉しそうに笑うと、手に力を込める。
それがたまたまツボに入り、恭也は思わず呻き声を上げる。

「つっ!」

「あ、ゴメン。痛かった?」

「いえ、そんな事はないですよ。それぐらい強い方が気持ちいいです」

「そう?じゃあ、これぐらいで。ん……ん」

「はあー、そこが気持ち良いですね。出来れば、もう少し強くお願いします」

「うん。あ、恭也のここ、結構堅くなってるね。それに、何かピクピク震えてるし」

そう言って楓は恭也の肩より少し下を揉む。
ふと、その付近にある傷が目に付き、指でそっとなぞる。

「楓さん、くすぐったいです」

「あ、ごめんね」

「いえ」

恭也はそこまで言うと、扉の外へと視線を向ける。

「……で、いつまでそこにいるつもりだかーさん。それと他の方たちも」

「あ、あははは」

恭也の言葉に、廊下から桃子の乾いた笑い声が上がる。

「えっと、恭也。入っても良いのかな?」

「ああ、別に構わないぞ」

恭也は、楓にマッサージをされたまま答える。
楓が止めようとするよりも早く、その言葉を受け、桃子が遠慮がちに戸を開ける
そして、中を覗いた桃子は、どこか引き攣ったような笑みを浮かべる。

「あ、あはははは。やっぱりそうよね。そういうオチよね。はははは、桃子さんまた勘違いしちゃった」

そんな桃子の後ろでは、薫たちが凄い形相で立っていた。
そして、中の様子を見て、ほっと胸を撫で下ろすと共に、今の楓の状態を見て羨ましそうな視線を向ける。
それを受け、楓は少し自慢気に笑みを浮かべるのだった。

「楓さん、そろそろ良いですか?」

「うん?そうやね、もう大体終ったし」

そう言って、楓は残念そうに恭也の体から降りる。
恭也は手早く上着を着ると、肩を回したりして簡単に体を動かす。

「ありがとうございます。体がかなり楽になってますよ」

「あははは。気にせんでも良いよ。それよりも、約束の方、お願いやで」

「分かってます」

その言葉を聞き止め、葉弓が首を傾げる。

「約束?」

「ええ。今度の休日に楓さんを何処に連れて行くという約束ですよ」

恭也の言葉に薫たちが異常な反応を見せる。
殺気の篭った視線を楓に向けると、

「楓、そげん約束をしたと!」

「楓ちゃん、自分だけなんてずるいです」

「薫ちゃんだけでなく、楓ちゃんまで……」

「楓さま、それはちょっと卑怯では……」

口々に楓に詰め寄る面々を見渡しながら、楓は余裕の笑みを浮かべる。

「負け犬の遠吠え」

ピシッという音さえ立てそうなほど、楓の周りで空気が凍りつく。

「ふふふ。楓、怪我をしたら行かれへんから、充分に気を付けなあかんよ」

「そうですね。事故には気をつけないと」

「夜道は危ないから、気を付けた方が良いわよ」

「あらあら、昼だって充分に危険ですよ」

「ちょっ、皆落ち着き」

流石の楓も、これには慌てふためく。
それらから少し離れた所で、

「恭也、昨日注意したばかりなのに……」

「俺が悪いのか?」

「当たり前でしょう!あんな事になってるじゃない」

桃子は薫たちの方を指差し告げる。
それを受け、恭也は首を傾げる。

「いや、しかし、薫さんたちは事故に気を付けるように進言しているだけだろ。
 確かに夜道は危険だが、かと言って昼も決して安全とは言えないからな。
 常日頃から注意するのはいい事だ」

「……私、たま〜にアンタが怨めしいわ」

「そうか?」

そんな親子の会話に入り込む者がいた。
恭也はそちらに気づくと、

「どうした久遠」

「くおんも、きょうやとなのはとおでかけしたい♪」

「うん?じゃあ、一緒に来るか?」

「うん♪」

「え、えええ!」

その言葉に大声を上げる楓の方を向き、恭也は尋ねる。

「楓さん、久遠も一緒で良いですよね」

そう言われ、嫌とは言えずに頷く楓だった。
その後、恭也は何かを思いついたのか薫たちにも話し掛ける。

「宜しければ、薫さんたちも一緒にどうです?」

「う、うちらも?」

「ええ。皆さんにも色々とお世話になってますから。あ、用事があるのなら、無理はしなくても良いですけど」

この恭也の言葉に、薫たちは楓を一瞥し、笑みを浮かべながら答える。

「勿論、うちは良かよ」

「私も大丈夫です」

「私もご一緒させて頂きます」

「皆と一緒というのも楽しいですね」

口々に賛成する。
それを聞きながら、楓は肩を落とす。
そんな楓の様子には気づかず、恭也も笑みを浮かべる。

「それは良かったです。では、今度の休日に」

「「「「「はーい」」」」」

楓以外から、元気な声が上がるのだった。
それを見ながら、桃子は一人呟く。

「恭也、あなたは悪魔かしら?」

最も、その呟きは誰の耳にも届かなかったが。
そして、薫たちはその胸中で、どうやって恭也を振り向かせるかに考えを巡らせ始めていた。
恭也を中心とした、この騒動はまだまだ終る気配を見せない。





おわり




<あとがき>

夜多狗さんの370,000Hitリクエストです〜。
美姫 「今回は楓が中心♪」
はい、その通り。
しかし、この騒動はどこまで続き、そして、どこまで回りに被害を出していくのだろうか……。
美姫 「その真相は、謎である」
なんてな。
美姫 「フフフフフフ。さて、今回はこの辺りで」
お開き〜。





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