『月村家の団欒』
私の名前はノエル・綺堂・エーアリヒカイト。
月村家にお仕えしているメイドです。
今日は、私のお仕えする月村家の方々の紹介をしたいと思います。
その前に、私自身の事を少しお話しておきますね。
そもそも、私は人ではありません。
人とは違う『夜の一族』と呼ばれる者たちに伝わってきた自動人形、形式名は『エーディリヒ式・最後期型』、
シリアルナンバーは1224。
それが私です。
忍お嬢さま……あ、忍お嬢さまと言うのは後でご紹介いたしますけれど、この家の主で私が昔からお仕えさせて頂いている方です。
その忍お嬢さまが、叔母であるさくら様のご実家から壊れかけていた私を見つけてくださったのです。
今では失われた技術を用いて作られていた私を、忍お嬢さまは2年ほどかけて修理してくれたのです。
当然、独学でです。そのため、忍お嬢さまにも、私に用いられている技術の全てが判っているわけではないらしいですけれど。
基本動力源は電気で、1日あたり6〜8時間の充電で、最大20時間ほど動けます。
忍お嬢さまの護衛のため、戦闘も出来るようになっております。
主要武器は腕に装着するブレードと、元々は付いていなかったのですがお嬢様に付けていただいたロケットパンチです。
これは、少しお嬢さまの趣味だったのではないかと今では少し思っていますが……。
忍お嬢さまは色々と研究をされていたみたいで、その他にも色々な武装が増えていたりするのですが、それはまたの機会にでも。
そうそう。されていたらしいと申しましたのは、とある事件があり、私は暫らく休眠状態にあったからです。
目が覚めたら驚きました。恭也さまと忍お嬢様がご結婚されていたばかりか、お二人の子供まで生まれていらしたんですから。
今では雫お嬢さまを筆頭に三人のお子様がいます。
と、私の紹介はこれぐらいにして、忍お嬢さまたちのご紹介をさせて頂きます。
まず始めに、月村恭也さま。
恭也さまは、元々忍お嬢さまの高校時代からのご学友でした。
と申し上げましても、お互いに話をしたのは三年生になってからでしたが。
それから色々とございまして、忍お嬢様が人とは違う夜の一族だと分かってもなお、
恭也さまは忍お嬢さまの傍に、恋人としていて下さいました。
私が眠っている間に、お二人はご結婚をされたようです。
高校を卒業してすぐとお聞きしてますから、付き合い始めて一年ほどでという事ですね。
とてもお優しい方で、忍お嬢さまだけなく私にも優しく接してくださいます。
時々、その夫婦生活に変化と刺激をと言う忍お嬢様のお言葉で、私もお相手をさせて頂く事もあるのですが、
その時にも優しくしてくださいます。ただ、時折意地悪な面をお見せになって、焦らしたりとかされるのは少し……。
す、すみません。話がそれてしまいました。
そ、それでですね。後は、御神流という古流剣術をされておられ、その腕はかなりのものだと思われます。
ただ、恭也さまご自身は、自分は未熟でまだまだと仰っていらっしゃいますけれども。
それでも、私と互角以上に戦われるのですから大したものだと思うのですが。
今は時折、警察の方々に基本的な体術などを教えたり、たまに護衛のお仕事などをされていますが、
大概は翠屋という恭也さまのお母さまである桃子さまが経営なされている喫茶店を手伝っております。
雫お嬢さまにも御神流を教えておられ、
今の夢は雫お嬢様を、恭也さまの妹で弟子であった美由希さまを超えるぐらいに鍛える事だそうです。
次に月村忍さま。
忍お嬢さまは先程も少し出てきましたが、私を見つけ出し修理して頂いた言わば命の恩人にして、産みの親のような方です。
そして、私が生涯仕える事をお誓いしたとても大事な方です。
忍お嬢さまは一見、無口で冷たいように見えますけれど、本当は明るくとても優しい方なんです。
私を見てもらえば分かりますが、機械いじりがかなり得意で、夜の一族のロストテクノロジーを独自に勉強されています。
そのお陰で、私の体にも目に見えない様々な能力が追加されました。
ただ、面白がって変なものを付けようとするのは少し、いえ、かなり勘弁して欲しいですけれど。
お酒とゲームが大好きで、私もよく相手をさせられています。
現在は、翠屋のチーフウェイトレスを務めていらっしゃいます。
次に月村雫さま。
恭也さま、忍お嬢さまの間にお生まれになった可愛らしい娘さんです。
恭也さま、忍お嬢様に似て、将来はかなり美人になる事でしょう。
御神流という古流剣術を恭也さまから教えられており、目下のところ訓練の毎日です。
それでも、楽しそうに訓練されている姿は見ていて微笑ましいものです。
まあ、やっている内容は別にしてですが。
現在は、聖祥大学付属小学校に通う一年生です。
次に月村優菜(ゆうな)さま。
恭也さま、忍お嬢様の二人目の子供です。
優菜お嬢さまには、双子の弟がいらっしゃいます。
優菜さまも雫お嬢様と同じように御神流を習っておいでですが、その何と申しましょうか……。
恭也さま、忍お嬢様は器用で運動神経も良いのですが、その……。
有体に言えば、要領が悪く、どこか抜けていると申しましょうか、運動神経がその、少し……。
何もない所で転ばれたり、階段を踏み外したりと、まあそういう訳です。
しかし、優菜お嬢さまはまだ小さいですし、これから先どうなるか分かりませんから、そんなに嘆かなくても宜しいかと思います。
最後に月村隼斗(はやと)さま。
優菜お嬢さまの双子の弟で、こちらは御神流はやっていないそうです。
とても大人しい性格をしてらっしゃって、人見知りも少し激しいように思われます。
尤も、こちらの方は周りにいる方たちの影響もあって、時が経てば治るのではないでしょか。
よく私のお手伝いをしてくださります。
以上が私がお仕えしている月村家の方々です。
皆さん、本当に優しい方たちばかりです。
と、あの声は忍お嬢さまですね。
どうやら忍お嬢様が呼んでいらっしゃるようなので、今日はこの辺りで失礼させて頂きます。
では、またご機会があれば。失礼致します。
忍に呼ばれ、ノエルが向った先では既に全員が揃っていた。
ノエルは食堂のテーブルに乗っている料理の数々を見て、不思議そうに首を傾げる。
「忍お嬢さま、これは?」
「うん、ちょっとね。私や恭也が作ったのよ」
ノエルを休ませ、何やらキッチンでゴソゴソやっていたのは、どうやらこれらを作るためだったらしい。
忍はノエルに席へと着くように促がす。
椅子の後ろでは隼斗が椅子に手を掛け、ノエルが来るのを今か今かと待っている。
訳が分からないノエルだったが、とりあえずその席へと向う。
ノエルが来ると、隼斗はその椅子をそっと引き、ノエルを座らせる。
促がされるまま座ったノエルの後に、恭也たちも席へと着くと、目の前のグラスにワインを注ぐ。
勿論、子供たちはジュースだったが。
グラスを全員が持ち上げ、ノエルもそれに習うようにそっと持ち上げる。
しかし、顔にはこれからまだ何が行われるのか分からないといった疑問が浮んでいる。
それを眺めつつ、忍が口を開く。
「ノエルったら、まだ分からないみたいね」
「すみません」
「別に謝る必要はないさ」
笑いながら言う忍に対し、謝るノエル。
そんなノエルに恭也も微笑みながら言う。
それから、忍が種明かしをする。
「今日はノエルが戻って来て、丁度一年になるのよ」
「だから、俺たちでささやかだけどお祝いをしようと思ってな」
「あ」
忍に言われ、ノエルは初めてその事に気付く。
同時に、胸の奥に温かい物を感じ、ノエルは笑みを浮かべる。
「ありがとうございます。自動人形である私なんかのために、こんな事までして頂いて……」
「ノエル」
ノエルの言葉を忍は少し強い口調で遮る。
それから、柔らかく微笑むと、
「ノエルは私たちにとって、大事な家族よ。だから、そんな事は絶対に口にいない事」
「はい」
「もし、次に同じような事を言ったら、アレを付けるからね」
「アレ……ですか」
「そう、アレ」
楽しそうに笑う忍に対し、ノエルは何処か引き気味に言う。
それを不思議そうに眺めていた恭也が、忍に尋ねる。
「忍、アレって何だ?」
「アレっていうのはね、私が開発したロケットパンチに続く第二の秘密兵器。その名もおっ……」
「恭也さま、この件は聞かなかった事に」
忍の言葉を遮り言うノエルの気迫に、恭也も頷く。
忍は一人、つまらないといった顔をしていたが、嫌がるノエルを押しのけ無理矢理説明する事はしない。
「それじゃあ、気を取り直して。かんぱ〜い!」
忍の掛け声に合わせ、皆も答えると軽くグラスを合わせる。
「さあ、ノエル。どんどん食べてね」
言いつつ、忍は隼斗の分を取り分けて目の前に置いてあげる。
それを眺めつつ、ノエルも自分の分を取っていく。
「……美味しいです」
「本当。良かった」
ノエルの感想に胸を撫で下ろす忍。
そんな忍の横で、隼斗も無心に手と口を動かす。
「隼斗、零してるわよ」
そう言って優菜が少し身を乗り出して隼斗の席へと手を伸ばす。
その手が自分のコップに当たり、優菜は自分のコップの中身をテーブルへと零してしまう。
「あうっ」
「もう、優菜は何をやってるのよ。仕方がないわね」
そう言って雫が布巾でテーブルを拭く。
「うぅ、ごめんなさい雫お姉ちゃん」
「良いから。服は大丈夫?」
雫の言葉に優菜は頷いて答える。
テーブルの上を綺麗に拭き終えた雫は、汚れた布巾を手に席を立つ。
そんな優菜の手から、いつの間にか背後にやって来たノエルが布巾を取り上げる。
「これは私がやっておきますから、雫お嬢さまもお食事を再開してください」
ノエルはそう言ってキッチンへと消えて行く。
それから少しして、新しい布巾を手に戻ってくると席に着く。
「ありがとうノエル」
「はい、雫お嬢さま」
「ありがとう」
雫に続き、優菜も礼を言う。
それを微笑ましく見詰めるノエル。
そんなノエルを忍もまた嬉しそうに眺める。
「ノエルも最近は表情がよく変わるようになってきたわね。私も嬉しいわ」
「そうでしょうか。自分ではよく分からないですが」
「まあ、自分でそんなに気付くもんじゃないしな。でも、悪い事じゃないんだしな」
恭也の言葉に忍も頷く。
その後、忍は少し困ったような笑みを浮かべる。
「それにしても、優菜は誰に似たんだろうね。何か、昔の美由希ちゃんや那美を見ているみたいだわ」
そんな忍を眺めつつ、恭也とノエルは声を揃える。
「「忍(お嬢さま)だろう(だと)」」
「な、何よ、二人して〜」
「しかし、忍は昔から、ハイレベルなことができるわりに、初歩的なミスをする子だとさくらさんも言ってたしな」
「はい。それに、忍お嬢さまはうっかりしている所がありますから」
「でも、優菜のアレは初歩的なミスとか、うっかりじゃない気がするんだけど」
忍たちの会話に、雫が入ってくる。
「確かに、お母さんは優菜みたいにドジではないわね」
「でしょう」
「酷いよ〜、雫お姉ちゃんもママも」
頬をぷーと膨らまして抗議の声を上げると、優菜は隼斗にも同意を求める。
「ねえ、優菜そんなにドジじゃないよね」
「え、えっと……」
隼斗は困ったように恭也と忍へ視線を向けるが、それが優菜にも分かったらしく、更に頬を膨らませる。
「む〜。皆、優菜をドジだって言うのね」
「そんな事はないぞ、優菜。優菜は結構、器用な所もあるからな」
恭也の言葉に優菜は嬉しそうに頷く。
「やっぱり、パパだけは優菜の味方だよ」
逆に優菜以外は少し驚いたような顔をする。
と言うのも、優菜と隼斗を比べた場合、どうしても隼斗の方が器用だからだ。
更に、比べるまでもなく、優菜はその、言うならば不器用の部類に入るからである。
驚いている忍たちに、恭也は優菜が器用だと言う事を話し出す。
「優菜は自分で投げた鋼糸を、自分の体に巻きつけることが出来るんだ。
とても器用だろう」
「あ〜! パパ、それは内緒って言ったのに〜!」
恭也の話に笑う一同を余所に、優菜は少し拗ねたような怒ったような顔で恭也に文句を言う。
「ははは。悪かった」
「知らない。パパなんか、もう知らないもん」
完全に臍を曲げた優菜は、恭也にそっぽを向く。
恭也は苦笑すると、優菜の元へと行き、そっと抱き上げる。
一瞬だけ嬉しそうな顔をする優菜だったが、すぐにそれを悟られないように恭也から顔を背ける。
そして、まだ怒っていますといった感じを伝える。
そんな優菜に微笑ましいものを感じつつ、恭也は自分の席へと戻ると足の上に優菜を座らせる。
そして、その頭を優しくそっと撫でる。
「優菜。パパが悪かったから、許してくれ」
「うぅ」
頭を撫でられ、緩みそうになる頬を懸命に堪える。
尤も、半分近く緩んでいては意味がないが。
それでも、何とか怒っていますと言う顔をして見せる。
「もう言わない?」
「ああ、約束だ」
「……うぅ。もっと撫でてくれたら許してあげる」
「そうか、ありがとうな」
そう言って恭也は優菜の頭を撫でる。
それを羨ましそうに見ていた雫と隼斗に気付き、恭也は手招きして二人を呼ぶ。
そして、二人にも同じようにしてあげる。
嬉しそうに微笑み合う三人を見ながら、恭也も知らず笑みを浮かべる。
そんな恭也へ、忍が背中から抱き付く。
「恭也〜。子供たちばっかりずるいわよ〜」
「こら、何を言ってるんだお前は」
「私も、私も〜」
「こら、離れろ」
「いやだ〜。恭也が私にもしてくれるまで離れないもんね〜」
こいつはと、ため息を吐きつつ、恭也は忍の頭も撫でる。
それを見ていたノエルに気付き、優菜が恭也に言う。
「パパ。ノエルだけ仲間外れは駄目だよ」
「ゆ、優菜お嬢さま。わ、私は結構ですから」
「何で? パパに撫でられると気持ち良いよ。それに、ノエルだけ仲間外れはやっぱり駄目だよ」
「し、しかし……」
「そうだな。ノエルだけ仲間外れは良くないな」
そう言うと恭也はノエルの頭にも手を伸ばす。
頬を赤くしつつ、ノエルは恭也の手の温もりに口元を緩める。
一通りそれが済むと、恭也たちは再び食事を再開するのだった。
いつもと同じようなやり取りをしながら、恭也たちは団欒を楽しむのだった。
おわり
<あとがき>
熊さんからの85万Hitきりリクです。
美姫 「恭也、忍の子供たちとの団欒〜」
こんな感じだけど、良いかな?
美姫 「それを私に聞かれてもね」
それもそうか。
熊さん、こんな感じになりました〜。
美姫 「それじゃあ、またね〜」