『怪しげな一日』






「うふ♪ うふふふ」

土曜の昼下がり、怪しげな笑い声が上がるここは、別に怪しい洞窟の中でも、
薄暗く蝋燭の炎で照らされ、床に魔法陣が描かれた部屋でもなく、極普通の女の子の部屋。
いや、まあ、多少は部屋に飾られているのがぬいぐるみではなく刀といった所で違和感を醸し出しているかもしれないが。
その他には本棚にはぎっしりと本が詰まっている、別段、明りを消して薄暗くしている訳でもなく、本当に普通の部屋だった。
そんな普通の部屋の中から、先程の笑みが聞こえてきていた。
この部屋の主の少──美由希は、机に向かって座っており、一見すると、勉強している風に見えなくも無い。
ただし、両腕で己の身体を抱き、クネクネと身体を揺らしている姿を見れば、勉強などとは微塵も思わないだろうが。
それは兎も角、この怪しげな声を聞き、美由希の部屋をこっそりと覗き込む二つの影があった。
その影、晶とレンは美由希を見た後、お互いに顔を見合わせる。

「な、なあ、晶。美由希ちゃん、どないしたんやろう」

「さ、さあな。俺が来た時にはもう、あんな感じだったぜ」

美由希の珍妙な行動に、晶とレンも口喧嘩をすることなく、ただただ不思議そうに部屋へと視線を移す。
その後ろから、謎の声が聞こえたのか、なのはもやって来て、美由希の部屋の前にいる二人へと声を描ける。

「レンちゃん、晶ちゃん、どうしたの?」

なのはの言葉に、二人は無言でなのはの場所を空けると、中を見るように促がす。
そして、中を覗いたなのはは、漫画であればでっかい汗を掻きながらといった感じで、固まる。

「えっと……。な、何かの鍛練なのかな?」

「にしては、あの笑いがちょっと無気味なんだけれど」

「それに、あないに変な鍛練をお師匠がさせるとは思われへんし……」

「俺がどうかしたのか?」

レンの呟きに頭上から答えが返ってきて、三人は驚きつつも声を押さえて後ろを振り返る。
一方、声を掛けた方の恭也は、何故、三人が揃って美由希の部屋を覗いているのかが分からずに疑問顔。

「師匠、驚かさないでくださいよ」

「ああ、すまん。それよりも、お前たちはここで何をしてるんだ?」

「お師匠、百聞は一見に、です。どうぞ、ご自分の目で見てください」

レンに言われ、恭也は部屋の中を覗き、なのはと似たような反応を見せる。

「…まあ、春だからな」

「師匠、既に梅雨も過ぎて、夏にさしかかろうかという季節ですが…」

「まあ、いつもの美由希もあんな感じだろう」

「お師匠、それは流石に、ちょっと…」

「見なかった事にするというのは?」

「お兄ちゃん、ひょっとしたら、お姉ちゃんは何か変な物を食べたのかも」

「変な物? 自分で作った料理か?」

「「「……………………」」」

恭也の言葉に、三人は思わず納得しそうになるが、すぐに首を振る。

「師匠、幾ら何でもそれはないですって」

「そです。幾ら何でも美由希ちゃんでも…」

「それよりもお兄ちゃん、お姉ちゃんに話を聞いてきてよ」

「俺がか?」

嫌そうに言う恭也だったが、三人が頷くのを見て、渋々といった感じで部屋をノックする。
しかし、それが聞こえていないのか、美由希は未だに怪しげな動きをしていた。
仕方無しに四人は顔を見合わせると、美由希の部屋へと入り、美由希へと近づく。
普通に入れば良いのに、美由希の行動がそうさせるのか、四人は揃って足音を忍ばせながら近づく。
と、美由希へと近づいた四人の目に、机の上に置かれた一枚の紙が目に入って来る。
それが原因かと思い、四人は興味津々とソレを覗き込む。
そこには、『進路調査』という文字があり、第一希望から第三希望まで書く欄があった。
それを見て、恭也は自分も今日、この用紙をもらったなと考えていた。
それで悩んでいるんだろうと考え付くと、恭也は三人にそう伝えて部屋を出て行った。
他の三人も恭也の言葉に納得し、部屋を出ようと振り返るが、晶とレンの足が途中で止まる。
それに気付かず、なのはは部屋を出て行く。
晶とレンが立ち止まったのは、美由希が呟いていた言葉が耳に入ったからだった。

「ふふふ。進路……。恭ちゃんの所へ永久就職♪
 そしたら、朝は目覚めのキスで恭ちゃんを起こして……。あ、駄目だってば、恭ちゃん。
 そんな朝から…」

何が駄目で、朝からなのかは分からないが、美由希は先程よりも激しく身体をクネクネと動かす。

「美由希ちゃん、それって進路じゃないよ」

「って言うよりも、既に妄想が入ってるし……」

二人は顔を見合わせて頷き合うと、妄想に耽る美由希の頭へと制裁を加えるべく、拳を振り上げるのだった。
その後、美由希の部屋で壮絶な争いがあったとか、なかったとか。



また、高町家以外にも、後2ヶ所でも同じような光景が見られたとか……。

「う、うふふふ。恭也さん……」

「……な、那美ちゃん、おやつがあるんだけれど…………」

帰ってきてから少し様子がおかしかった少女の様子を見がてら、おやつを知らせに来た某管理人が恐る恐る声を掛けていたり、

「大丈夫、大丈夫。私に全てを任せて……。
 ちゃんと、勉強したんだから…。ふふふ、恭也ぁ〜〜♪」

「……ノエル、忍はどうしたの?」

「分かりません。帰ってきてから、ずっとああなんです。
 多分、放っておけば、そのうちに正気に戻るかと」

「そ、そうね。放っておくのが一番良さそうね」

遊びに来た叔母と使用人が放置する事に決めていたり、したとか。







「お兄ちゃん、晶ちゃんもレンちゃんもお姉ちゃんも何か、楽しそうだね」

「……ふむ。だったら、暇を弄ばした者同士、少し出掛けるか」

「本当!? じゃあ、すぐに支度してくる」

「ああ」

争う音を聞きながら、兄妹は仲良く出掛ける準備を始めるのだった。






おわり




<あとがき>

久し振りの短編。
美姫 「本当傍から見たら、怪しいわね」
あははは。
まあ、久し振りにさくっとした感じで。
美姫 「さくっとした感じで怪しげな描写?」
まあ、それは置いておいて…。
美姫 「はいはい」
とりあえず、今回はこの辺で〜。
美姫 「それじゃ〜ね〜」






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