『月村邸脱出ゲーム』






周囲を壁に囲まれた、まあそれは当然なのだが、つまりは一つの部屋。
そこに気が付いた時に恭也はいた。
まだ頭に重く感じる鈍痛に顔を顰めつつ、現状を把握するべく部屋を見渡す。
窓はなく、唯一の出口らしき扉が見えた。当然ながら引いても押しても開かず、鍵が掛けられていた。
どうやら外からも内からも鍵を使って締めるタイプらしく、
鍵穴はあれどもサムターン――鍵を内側から開け閉めする際に使用するツマミ――の類も見られない。
自分が眠っていたベッドは丁度、ドアのある壁際とは逆側に置かれており、残る二面には棚と机がそれぞれあった。
恭也はベッドに腰掛け、とりあえずは記憶の整理を行うことにする。
昨夜は妹二人を連れて月村邸へと遊びに行き、そこで夕食をご馳走になったまでの記憶はある。
が、綺麗にそれ以降の記憶がない事から、恭也はすぐに溜め息を吐き出す。

「忍の仕業か」

恐らくは食事に睡眠薬でも盛ったのだろうと考えつつ、とりあえずはどうしようかと考える。
と、ベッドに着いた手に僅かな違和感を覚え、シーツを捲ればそこには木で作られた星型の何かがあった。

「何だこれは」

裏返しても何もなく、恭也はすぐに興味を無くすとベッドに寝転がる。
忍の仕業だとすれば、遅かれ何らかの接触をしてくるだろうと暢気に考えて。
が、そこで本当に忍の仕業なのかという疑問を多少なりとも抱き、再びベッドに腰掛けて考え込む。
と、僅かに空間にノイズが走り、

「やっほ〜、恭也起きた?」

非常に暢気な声が恐らくは天井にでも隠されたスピーカーから聞こえてくる。
心配した自分がバカだったと思いつつ、第三者の仕業ではないと分かって安堵もする。
が、そんな恭也の気持ちに気付かず、忍は上機嫌で語り始める。

「うんうん、ちゃんと目は醒めたみたいね。それじゃあ、ルール説明といきますか。
 恭也、脱出ゲームって知ってる?」

「…………はぁ?」

行き成りの言葉に思わず聞き返せば、それを返答と受け取ったのか忍は納得声で一方的に話し出す。

「うん、知らないか。でも、無知は恥ずべきことじゃないわ。今、教えてあげるからね。
 脱出ゲームって言うのはね、早い話が言葉通りに閉じ込められた場所から脱出するゲームなのよ。
 プレイヤーは閉じ込められた場所、今回ならその部屋ね。
 その部屋に隠されたアイテムやヒントを元に最終的に扉を開けて出れば良いの。
 で、それをリアルでしてみようと思ったのよ。リアル脱出ゲームって訳。
 いやー、これを作るのに一週間ばかり頑張ったわよ。
 という訳で、恭也に美由希ちゃん、なのはちゃん、誰が早く脱出できるのか楽しみにしているからね」

「って、あの二人も巻き込んだのか」

「巻き込んだって人聞きの悪い。参加してもらったのよ」

「薬で眠らせて強制的に放り込んだのは参加とは言わないんではないか?」

「細かい事は気にしない、気にしない。二人は楽しそうに部屋の中を探し回っているわよ」

既にスタートしていると暗に言いつつ、忍は恭也に向かってゲームスタートと告げる。

「それじゃあ、楽しんでね」

最後にそう告げ、放送を終わろうとする忍に恭也が待ったと声を掛け、

「この部屋にある物は何を使っても良いんだな?」

「そうよ。
 まあ、アイテムそのものを弄ったりする場面もあるけれど、間違いなく脱出できるようになっているから。
 それじゃあ、頑張ってね〜」

告げて放送を終える忍。恭也は疲れた表情になりながらもベッドから起き上がり、先程拾った星型の何かを見る。

「つまり、これもそのアイテムとやらの一つという訳か」

呟き、扉を正面にして左手に見える壁に付いているパネルを見れば、同じような星型の穴が開いていた。
そこには他にも様々な形の穴が幾つか開いており、横には数字を入力するような物も付いていた。
恭也はまたしても出そうになる溜め息を飲み込み、そのまま扉へと向かう。

「さて、何を使っても良いという事だったんでな。俺はこれを使わせてもらう」

言うが早いか、気付いた忍が止めるよりも早く恭也の手が背中へと伸び、
次の瞬間には恭也の右手に抜き身の小太刀が握られていた。
遅れてゴトリと重たい音がしてギギーと錆びたような音が続く。
恭也は小太刀を仕舞うと、鍵部分を見事に切り抜かれて開いた扉の外へと足を踏み出す。

「ふぅ、無事に脱出できたな」

「無事じゃないわよ! 反則よ、反則!
 反則に決まっているじゃないの!」

「だが、何を使っても良いと言ったのは忍だぞ」

「確かに言ったけれど、それはこちらが予め用意していたアイテムのことで。
 というか、絶対に分かっててやっているでしょう!」

「はっはっは。よく分からんな。さて……」

棒読みでそう告げると恭也は一息吐き、ゆっくりと顔を上げる。

「悪い子はいね〜か〜」

言って忍の気配を探り当ててそちらへと向かう。

「あ、あははは〜、もしかして怒ってる?」

「まさか。これぐらいで怒っていてはお前と付き合えないだろう。
 とは言え、流石になのはに薬を使ったのはどうかと思うがな」

「やっぱり怒ってる!」

「はっはっは、何をバカな」

自業自得とはいえ、怯える忍を見て仕方なさそうに傍に控えていたノエルが口を挟む。

「恭也さま、美由希さまとなのはさまには事前にお話しをしてご自身の意志で参加して頂いております。
 強制参加させたのは恭也さまだけです」

ネタばらしという訳でもないが、ノエルはそう口にする。
薬で恭也を眠らせた後、今回のゲームを説明して二人は自ら参加したと。
それを聞いて恭也は肩を竦めると、

「まあ、そんな事だろうとは思ったがな。
 とは言え、俺になら良いという考えを改めさせる為だ。少しは懲りただろう」

「はい、充分に反省されています」

「そうか、なら良い。まあ、俺も少々大人げなかったかもしれんが。
 とりあえず、そちらに行って二人が奮闘するのを見せてもらうとするか」

恭也の言葉にノエルは念のために今居る場所を告げて放送を切る。
その隣で騙されたと知って忍が拗ねていたが、
それを直すのは恭也に任せようとノエルは恭也の飲み物を用意すると言い残して部屋を後にする。
ノエルが再び部屋に戻った時には、すっかり機嫌を直した忍と苦笑している恭也の姿があった。

「ふふ〜ん、あ、なのはちゃん、それを見つけるか〜」

「中々見つかり難い所に隠しているな」

「でしょう。あ、美由希ちゃんは謎解きに悩んでいるようね」

二人してモニターを眺めながら楽しむ。
なのはは順調にアイテムを探し出し、それを使って次のアイテムを手にいれているのに対し、美由希は行き詰っているみたいである。
が、暫くすると何か思いついたのか、その手が動き出す。

「へ〜、やるわね、美由希ちゃん」

「そうなのか?」

何をやっているのか分からず首を傾げる恭也に対し、忍はうん凄い凄いと素直に感心している。
ちゃっかりとその腕を恭也の腕に絡め観戦する様子に、ノエルは二人の脱出は長引くだろうなと部屋の隅に目を向ける。
やはりと言うべきか、最初はオフにされていたスイッチがオンになっている。
これは万が一にもあっさりと脱出された時の為に用意してあった、第二、第三の部屋に繋がるスイッチである。
これがオンになっていると、扉を抜けた先にメモがあり、次なるステージへと進むようになっているのである。
全部で一人四ステージ。果たして何時間で出てこれるか。
そんな事を思いつつ、二人にお茶を差し出すと、ノエルはそのまま忍とは逆側に静かに腰を下ろすのだった。





おわり




<あとがき>

短編というか、またしても雑記から再掲載です。
美姫 「多少の加筆はあるようね」
まあな。
美姫 「後半部分を追加してあるのね」
そうです。という訳で、あとがきは短くこの辺で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」






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