『リリカルIF A's 〜逆転兄妹〜 2』






恭也たちが騎士と名乗る四人と対戦してから時は流れ、何事もなく日々が続いていた。
だが、闇の書を巡る事件が幕を閉じた訳ではなく、当然のようにその日常は破られる。
市街地に結界が張られ、その中では騎士と恭也たちが対峙していた。
前回同様、フェイトとシグナム、恭也とヴィータという一対一の形で。
だが、互いに相手を見詰めるも、ヴィータは恭也を前にシグナムの背に隠れ、周囲を見渡す。

「あ、あの女は今日はいないのか!?」

虚勢を張るも僅かに声に震えが混じっているのは仕方ないのかもしれない。
どうやら、先日の戦いで苦手意識でも生まれたか、もしくはトラウマにでもなったのではと心配する程に、
ヴィータは周囲を執拗なまでに見渡し、ようやく居ないと理解するとシグナムの背中から出てくる。
その様に溜め息を吐きたくなるのを堪えつつ、シグナムはフェイトを前に自身のデバイスを起動させる。
対するフェイトも、カートリッジ式へと自らを強化させた相棒――バルディッシュを構える。
恭也もまたパワーアップしたレイジングハートを構え、ヴィータと対峙する。
互いに無言で向かい合い、ほぼ同時に四人は動き出す。
前へと飛び出したのはシグナムとフェイト、そしてヴィータの三人。
対する恭也は距離を開けるべく後ろへと下がる。
しかし、ヴィータの動きはそれよりも速く、あっという間に距離を詰めるとグラーフアイゼンを振り下ろす。
それをパワーアップしたレイジングハートの防御魔法が受け止める。
前回のようなデバイスの性能による差はもうない。
今度はお返しとばかりに恭也の魔法がヴィータを襲う。
それらを躱しながら、ヴィータは接近戦を主体に恭也へと詰め寄る。
そんな二人から離れた所では、互いに中近距離で戦うフェイトとシグナムの姿が。
四人二組の戦いを離れたビルの屋上でシャマルは一人見守る。
管理局側によって張られた結界に閉じ込められ、ザフィーラもこの場にいないという状況を冷静に分析する。
シグナムやヴィータが一対一で負けるとは思わない。
イレギュラー要素であるあの魔法少年の姉の姿は結果内にない事は、結界が張られてすぐに調査している。
だとすれば、残る問題は結界の破壊である。
だが、シャマルの扱える魔法ではこの何十人掛かりで仕掛けられた結界は破れそうもなかった。
困惑するシャマルが最後の手段を使うかどうか悩む中、戦いは互角に続いている。

「あー、ウザイ! 早く帰らないといけないってのに!
 こうなったら、グラーフアイゼン! カートリッジロード!」

ヴィータの声に答え、薬莢が二つ排出されコッキング音が鳴る。

「これで一気に決めてやる!」

ハンマーの形から片方が凶器のように尖り、残る一方に勢いを増すような増幅部が出来上がる。
推進力を得たハンマーを更に振り回しながら、ヴィータは恭也へと襲い掛かる。
それを目の前にし、恭也はレイジングハートに声を掛ける。

「いけるよね」

恭也の言葉にレイジングハートは頼もしい返答を返す。
こちらにはまだ切り札があるのだ。
マスターである恭也の為に、自身にも負荷が掛かるカートリッジシステムを積み込んだレイジングハート。
その心意気になのはは喜び、また恭也を守るための秘策をも授けていた。
それを授かったレイジングハートは不敵な輝きを宝玉に映し、迫るヴィータを恭也と共に待ち構える。
そんな恭也の元に離れて行動していたクロノとユーノから念話がはいる。
闇の書を所持しているであろう残る一人、シャマルの居場所を探していた二人からの念話だ。
シャマルを押さえたまでは良かったが、仮面を被った男に邪魔をされている事。
そして、シャマルが闇の書を開いて膨大な魔力を放出しようとしている事など。
つまりは、結界を破って逃げようとしているのだと。
その報告が恭也の動きが僅かに隙を生む。
それに付け込むようにヴィータが迫る中、焦る恭也へとレイジングハートは頼もしい返答を返す。

【大丈夫です、マスター。新しい魔法を。
 マスターのための魔法を唱えてください。この魔法ならば、万事上手くいきます】

レイジングハートの言葉に恭也は力強く頷くと、レイジングハートを頼もしそうに握る。
流れてくるのはレイジングハートからの魔法の呪文。
瞬間、恭也の足元に魔法陣が浮かび上がり、レイジングハートが輝く。

「何をするつもりなのかは知らねぇが、もう遅い!」

すぐそこに迫ったヴィータのグラーフアイゼンが恭也へと牙を剥く。
それよりも早く、恭也は呪文を口にする。
疑問を抱く事もなく、自然と流れるように、それが当然のように静かな、けれども力の篭った声で。

「助けてお姉ちゃん……」

【イエッサー、マスター。なのは様、召喚!】

恭也の呪文を受けてレイジンハートからカートリッジが一つ排出される。
同時、恭也の目の前に魔力で作られた襖が現れ、それが一閃されて斜めに斬れ落ちる。
その向こうから姿を見せたのは、光の加減か、栗色の髪をサイドポニーにした小太刀を持つ女性。

「うぎゃぁぁっ! また出やがった!」

その姿を確認して声を上げるヴィータに現れた女性――なのはは眉を少しだけ顰める。

「人をお化けみたいに。それにしても、まだ懲りてないのね」

現れたなのはに驚きつつも、勢いを殺せずヴィータは逆に加速すると狙いをなのはに変える。
が、あっさりと左手に握った小太刀を逆手にしてなのははその攻撃を受け止める。

「ふふふ。覚悟は良い?」

「ぐっ。あぁぁぁぁっ!」

なのはの笑みを見た瞬間、ヴィータは形振り構わずなのはへとグラーフアイゼンを振り回す。
それを軽く躱しながら、大振りの一撃を見逃さずに即座に反撃。
吹き飛ぶヴィータには既に興味もないとばかりに背を向けると恭也に抱き付く。
その足元にはレイジンハートが作り出した魔力の床が。

「大丈夫だった恭也?」

「うん、なのはお姉ちゃん。レイジングハートの言ってたとっておきの魔法ってこれだったんだ」

「そうよ。デバイスの製作者をレイジングハートと二人で脅し……お願いして組み込んでもらったの。
 私の付けているこの小指の指輪がレイジングハートと繋がっていて、正確に召喚できるだけじゃなくて、
 こうしてレイジングハートからの補助も得られるのよ」

言って自分の足元の床を指す。
それに感心する恭也であったが、すぐにクロノたちの状況を思い出す。
説明する恭也になのははしかしこの場を離れるのが嫌そうにする。
が、レイジングハートの恭也の胸を貫いた人と思われる発現により、途端にやる気に代わる。
だが、念のためにとヴィータの方へと視線を転じれば、
ヴィータは既にシグナムと合流するために動いていた。
これなら恭也に危害は加わらないかと判断したなのはは、今最も憎むべき敵目指して走り出す。
一方、フェイトと戦っていたシグナムは自分の元へと来るヴィータを見て、念話での報告に恭也の方を見る。
確かにあの時の剣士だと確認すると、フェイトの相手をヴィータに任せ、自分はなのはの元へと向かう。
その事に安堵するヴィータであったが、バトルとなると我を忘れかねない我らが将に釘を刺すのも忘れない。

≪逃げる準備も忘れるなよ≫

≪むろんだ≫

ヴィータにそう答えつつ、シグナムはなのはの行く手を阻むように立ち塞がる。

「前回は相手してもらえなかったが、今回は相手をしてもらうぞ」

言い終えるなり構えようとするシグナムだが、なのはは既にその後ろを走っている。
既になのはの頭にはシャマルしかなく、シグナムはまたしても無視される形となる。
慌てて反転して後を追うシグナム。
だが、なのはは時に神速を用い、飛行しているシグナムと同じか、それ以上の速度で宙を駆けて行く。

「見つけた。あの金髪女が私の、私の大事な恭也を!」

眼下にシャマルを見つけ、なのはの口が獰猛に歪む。
なのはの接近に気付いたユーノはシャマルから距離を取り、仮面の男と対峙していたクロノも遅れて気付くと、
やはりこちらも距離を開ける。
ふいに距離を開けた二人を訝しげに見つつも、シャマルは好都合と闇の書から魔力を引き出す。
一方、仮面の男は注意深く二人を見ていたが、下がる前に二人が上空を見ていたのに気付き、
援軍かと上空を振り仰ぐ。つられるようにシャマルもそちらを見上げ、思わず動きを止める。

「あ、あの人は……」

「動揺するな。あっちは私が押さえよう。お前は早く闇の書を!」

まだ味方かどうか分からないものの、仮面の男の言葉にシャマルは闇の書へと意識を戻す。
シャマルとなのはの間に身体を滑り込ませ、仮面の男はなのはと向かい合う。

「悪いが、それ以上進ませるつもりは……ぐはっ!」

口上を上げるや否や、なのはは神速二段を発動。
シャマルへと一直線に進む上で邪魔となるものを障害物と定め、問答無用で一閃する。
シールドも何もかも無視して落下していく仮面の男へと、ユーノはただただ合掌する。
クロノもクロノで相変わらずなその力に、その口からはただ溜め息しか出てこない。
一方、逆に慌てたのはシャマルである。
あれだけ格好をつけておいて、一撃で視界から消えてしまった仮面の男のあまりにも役に立たない様に、
思わず愚痴が零れる。

「せめて、何秒かはかせいでくださいよ〜」

その間のなのはは屋上に着地すると、満面の笑みを浮かべる。

「初めまして、かな。前は私の恭也がと〜〜〜〜ってもお世話になったみたいで。
 とりあえず、胸から手が生えるのがどんな気持ちが自分で試してみる?」

「あ、あれは物理的なものではなくてですね」

その威圧感から、思わず丁寧に説明を始めるシャマル。
だが、なのははそれをただ笑顔で受け流し、ゆっくりとシャマルに近付いていく。

「くすくす。そんな細かい事はどうでも良いのよ。
 貴女が恭也の胸から手を生やした。結果、恭也が痛みを感じた。事実はそれだけ。
 ましてや、私の可愛い恭也の中に入るなんて許せるはずないじゃない。
 恭也の中に入るのは私なんだから。あれ、違うか。逆だったわね。
 恭也が私の中に……って、もう何言わせるかな」

一人照れつつもシャマルを逃がさないように視線はしっかりと固定しているなのは。
逃げれないと悟ったシャマルは、闇の書の魔力を急ぎ集める。

「とりあえず、その右腕はいらないよね」

「…………い、いるに決まっているじゃないですか!」

あまりにも物騒な事をあっさりと告げられ、思わず頷きそうになるも庇うように反論する。
が、シャマルは大事な事に気付いていないかった。
御神の剣士にとって戦いに開始の合図はない――いや、そもそも既に敵対しているという事を。
シャマルが反論している間になのははすでに神速を発動し、その台詞が終わる頃には既に背後へと周っていた。
ただ周るだけでなく、擦れ違いざまに右脇腹を打ち据えて。
突然後ろに現れたなのはに驚きつつ振り向こうとするも、不意に右脇腹が痛み顔を顰める。
自然と意識せずとも右手がその場所を押さえようとして、闇の書と一緒に左手で庇うようにしていた陰から伸びる。
瞬間、なのはの手がシャマルの右手首を掴み上へと捻り上げる。
痛みに顔を歪めるシャマルを前に、なのははただただ満面の笑みだけを見せる。

「とりあえず、まずは私の恨みの分ね」

掴んでいた右手を離し、即座に小太刀を握り抜刀。
急に解放されて下へと降りるシャマルの右腕に、左右の連撃が飛ぶ。
右腕に喰らった連撃で右半身を後ろに吹き飛ばすシャマル。
痛みに顔を顰める間もなく、今度は腹部に膝が突き刺さり、一瞬だが呼吸が止まる。
前のめりになる上半身の首筋に肘が落ち、そのまま前のめりに倒れる。
遅れて身体につられるように、後方に流れていた右腕が戻ってきて、それをなのはの腕が再び掴む。
前のめりに倒れるところを、右腕を後ろに回すような形で固定されて地面に倒れる事が出来ないシャマル。
苦悶を浮かべる表情はなのはには見えないものの、僅かに洩れ聞こえる声に満足そうに頷く。
そのまま右腕を肩の方へと上げていく。
当然、後ろへと伸びている右腕はある所以上は動かず、自然と足が爪先立ちになる。
それでもなのはは右腕を上へと引っ張る。
既にシャマルは両足共に爪先だけが地面に触れており、立っていられるのはなのはが右腕を掴んでいるからである。
普通ならこのまま右腕を折られる所だが、シャマルはそのまま飛行の魔法を用いようとした瞬間に、
その顔になのはのビンタが飛ぶ。
拳ではなくビンタなのは、その方が屈辱を与えれるからだろうか。
寧ろ、これを無意識でやっているなのはにユーノとクロノは顔を見合わせ、珍しく同意見らしく揃って後ろに下がる。
飛ぼうとすれば頬にビンタが。
しかし、このままだと右腕が折れる。
そんな状況の中、下から仮面の男がふらふらと戻ってくる。

「そこまでにしてもらおうか。お前の相手は私が……ぬおっ!」

仮面の男を一瞥すると、なのはは飛針を纏めて投げる。
それを躱す仮面の男を空いている手で指差し、

「ゴー、ユーノ!」

「え、ええぇっ!? ぼ、僕が!?」

行き成りの言葉に悲鳴じみた声を上げるユーノを一睨み。
瞬間、ユーノは何を思い出したのか、身体を震えさし、弾かれたように飛び出す。

「うわぁぁぁっ!」

「正気か? 結界師が正面から、それも肉弾戦など」

「うわぁぁぁ! それがどうしたぁぁぁっ!
 正気かどかなんてどうでも良いんじゃぁぁぁ! こっちには、こっちには……。
 うがぁぁぁぁぁっ! 命が掛かってるんじゃぁぁ! しかも、それだけじゃないんだぞ!
 世の中には、世の中には、死ぬよりも辛い事もあるんじゃぁぁぁぁぁぁっ!」

無茶苦茶に腕を振り回して仮面の男に喰らいつくユーノ。
何度仮面の男がユーノを振り払い、殴り、魔法を放とうとも、ユーノはただ前へ前へと突き進む。
そんな人の変わったようなユーノを見詰めつつ、クロノは呆れたような、同情するような声で呟く。

「一体、前に何があったのかは知らないけれど、性格変わってるぞ……」

だが、他人事のように出来たのはそこまでだった。
なのはがクロノを見てただにっこりと微笑み、次いで仮面の男を顎で指す。

「はぁ、まあ言われなくても行きますけれどね」

クロノはユーノに気を取られている仮面の男の背後から強襲するのだった。
邪魔者の居なくなったなのはは、ようやくシャマルの相手が出来るとばかりに視線を戻す。
顔が下に向いているのでそんななのはの顔が見えるはずもないのだが、シャマルは背筋に寒気が走る。
既に右腕は痺れていて感覚も可笑しくなっている。
ぶたれた頬もじんじんと痛む中、シャマルはなのはに気付かれないように、自身の指輪状のデバイスを握る。
異変を察知したのか、なのははシャマルを蹴り飛ばす。
瞬間、なのは目掛けてシャマルの指から伸びていたデバイス――クラールヴィントが何もない空間を薙ぐ。

「もうとんだ悪戯っ子なんだから。あ、子っていう年でもないのか」

「ど、どういう意味ですか」

息も絶え絶えという感じでありながら、シャマルは睨むようになのはを見詰める。
だが、なのはは涼しい顔でただ一言、

「お婆ちゃん♪」

その言葉にシャマルが怒るよりも早く、なのはは神速で再び距離を詰めると胸倉を掴む。
そのままシャマルの身体を持ち上げると、背負い投げのように叩き付ける。

「さーて、ここからが恭也の分のお返しだからね♪」

笑顔でそうのたまうと、そのまま仰向けに倒れたシャマルの身体に乗りかかり、マウントポジションを取る。
シャマルの両腕を両膝で押さえつけ、その拳を容赦なく何度も振り下ろす。
意識が朦朧とし出したシャマルを無理矢理立たせ、今度は小太刀で攻撃を加えていく。

「そうそう、右腕を忘れる所だったわ」

ニ刀による連撃、花菱でシャマルの右腕にひたすら攻撃を加え、下ろす事もままならない状況へと持っていく。
右腕にすっかり力が入らなくなった所で花菱が止み、落ちて来る腕に合わせてニ刀を重ねた雷徹を放つ。
バリアジャケットが弾け飛び顕わになった右腕になのはの蹴りが、拳が飛ぶ。
折れてだらりと下がる右腕。右腕を攻撃している間も、
もう一方の小太刀や蹴りなどから繰り出される攻撃を受け続けたシャマルは、ボロボロの状態でただ立ち尽くす。
いや、倒れる事も許されず、なのはの攻撃によって立たされ続ける。
身を包むバリアジャケットも流石に耐え切れなくなったのか、右腕部分だけでなくあちこちが綻んでいる。

「とりあえず、まずは恭也と同じく胸の痛みを与えてあげる♪」

なのはの身体が深く沈みこみ、既にフラフラ状態のシャマルは攻撃が止んだ事により前のめりに倒れて行く。
と、下からもの凄い衝撃が胸に辺り、そこから内部に伝わる。
苦痛の悲鳴を上げるシャマルの口をなのはが右手で掴む。

「もう煩いな。骨の数本ぐらいで。まあ、臓器もいくつかやったかもしれないけれど。
 でも、仕方ないよね。恭也に手を出したんだもの。あの子はきっとこれの何倍も、何十倍も、
 ううん何百倍も痛かったはずよ」

力を込めるなのはの右手から、シャマルの顎の骨が軋む感覚が伝わる。
それでもなのはの表情に揺らぎは全くない。
その余りにも凄惨な現状に、それまで戦っていたはずの仮面の男とユーノ、クロノも思わず動きを止める。
流石にそこまで酷くはなかったんじゃないかな、と思わなくもないが、当然ながら口には絶対に出さない。
そんな事を思ったなんて事も悟らせないように表情を固定する。
思わずなのはを見詰める三人の視線の先で、

「ああ、そう言えばどっかの小動物の所為でこんな事になったのよね……」

言って顔を上げるなのはと目が合い、ユーノはただただ震える。

「あれ、ユーノくん? 敵を前に仲良くお喋り? もしかして、この人たちと仲間だったり?」

「そ、そそそそそそそんな訳ありません!」

慌てて仮面の男に攻撃を仕掛けるユーノ。
それに満足そうに頷くなのは。

「だよね。思わず疑ってしまう所だったよ。私がこの女にお仕置きする間、そっちは頼むよ」

「勿論であります、なのは様!」

「……だから、君は一体なんなんだ」

「そこまで言うのなら、クロノは逆らえるのか!?」

「誰もそんな事は言ってないだろう」

誤魔化すようにクロノは魔法の詠唱をするのだった。
それを満足そうに見遣ると、なのはは利き手である左手に握った小太刀をシャマルの右腕に当てる。

「それじゃあ、最初の約束通りに右腕もらうね」

そう告げてなのはが左手を振りかぶった瞬間、
頭上からシグナムの連結刃形態となったレヴァンティンが鞭のように落ちて来る。
それを当然のようにシャマルを盾にして防ぐと、嘲笑するような笑みを見せる。

「前といい、今回といい。よっぽど同士討ちが好きなんだね」

「っ! 貴様、またしても!」

激昂するシグナムを冷ややかに見返しつつ、邪魔しないでよと拗ねたように言う。
それがバカにされたと映ったのか、シグナムは無言でレヴァンティンを振りかぶる。
鞭のように伸びるレヴァンティンへとやはりシャマルを翳す。
が、その軌道を途中で変え、背後に周るようにしてレヴァンティンがなのはへと襲い掛かる。
しかし、なのははそれを簡単に躱す。
それだけでなく鋼糸をレヴァンティンの刃と刃の隙間に巻き込み、
シグナムが武器を奪われてたまるかと引っ張ったのに合わせてシャマルを投げ、
鋼糸を引きいてレヴァンティンをシャマルの身体に巻きつける。
か細い悲鳴を上げるシャマルが地面に倒れる中、なのははシグナムを見上げる。

「何て可哀想なのかしら。味方にやられるなんて」

内から湧き上がる怒りを抑え込み、シグナムは冷静になのはと対峙する。

「なるほど、かなり戦い慣れているみたいだな。あの少年とは違うという事か。
 如何せん才能はあるみたいだが、それに頼っているだけでは強くなれまい。
 デバイスは強化したみたいだが、果たしてあの少年はどれだけ強くなったものか。
 その点、お前となら楽しめそうだな」

「ふふふふ♪ それは恭也の悪口と見なすわよ」

「そんなつもりはないんだがな。ただ思った事を口にしただけでな」

「あははは、どうやら貴女にもお仕置きが必要みたいね」

言って横たわるシャマルを邪魔だとばかりに蹴り飛ばす。
それに遂に怒りを抑えきれなくなったシグナムが切れる。

「ふぅ、人を挑発しといてこの程度で先に切れるなんてね。
 まだまだ駄目ね」

シグナムが自分を挑発するために言っていると分かっていたなのはは冷静に、逆にシグナムを挑発したのである。
勿論、シグナムの言葉に怒っていないなどという事もない。
ただ怒りで我を忘れないだけである。
敵意は熱く、けれども頭は冷静になのははシグナムを見据える。
炎と氷、相反する二つの殺意と殺気を同時に身に宿して迫るシグナムに対して小太刀を握る。
両者が激突すると思われた瞬間、倒れていたシャマルが最後の力を振り絞って、
闇の書から魔力を引き出して結界を破壊する事に成功する。
なのはの注意がシグナムに向かった僅かな隙を見逃さず。
参謀の面目躍如と言えるか。
結界が壊れたのを受け、恭也とフェイトの二人掛りで追い詰められていたヴィータは即座に撤退する。
シグナムもなのはへの攻撃を中断し、倒れているシャマルを担ぎ上げると逃走の態勢にはいる。
そんな二人へとなのはの飛針が、小刀が無数に投げられる。
それらをレヴァンティンで打ち払うも、飛針が二本突き刺さる。
幾分か冷静さを取り戻したのか、シグナムは甲冑に突き刺さっただけの飛針を抜いて捨てると、

「ふっ、やはり良い腕をしているな。次こそは相手を願おう」

不敵な笑みを浮かべて空高く上っていく。
そんなシグナムになのはも不敵な笑みを返し、

「大丈夫よ。あのチビとその金髪は既にお仕置きしたからね。
 次は恭也の悪口を言った貴女にお仕置きしてあげるわ。
 ああ、それと早くそれ何とかしてあげた方が良いんじゃない? まあ、私はどっちでも良いんだけれどね」

言ってなのはが指差す先には、なのはの投げた飛針が数本刺さったシャマルが。
全部弾いたつもりでいたシグナムは驚愕するも、まずは逃げるのが先だと一気に速度を上げて離脱する。
それを見送るなのは。気付けば、仮面の男も逃げたらしく、クロノは悔しそうな顔をしていた。
だが、なのはにはそんなのはどうでも良い事で、遠くに見える影に向かって再びその身体を宙へと舞わす。
宙空に出来た床を蹴り、なのはは一直線に恭也の元へと向かう。
その無事な姿を確認するや、恭也を優しく抱き締める。

「大丈夫、恭也?」

「うん、ありがとうなのはお姉ちゃん。また助けてもらっちゃったね。
 僕、もっと強くならないと……」

「そんなの気にしなくても良いのよ。恭也は私を召喚したじゃない。
 つまり、私の力は恭也の力なのよ。だって、召喚されたという事は、恭也がご主人様でしょう。
 ご主人様……いい響きだわ♪ 私の全てが恭也のもの……はぁぁ、良い。それ、とっても良い」

「なのはお姉ちゃん? どうかしたの?」

途中からトリップしていたなのはは恭也の声で我に返ると、敵や他の者に向けるのとは全く違う笑みを浮かべる。

「何でもないのよ。それより本当に怪我はないのね」

「うん、大丈夫。ヴィータちゃんと戦っている時もフェイトちゃんが庇ってくれたし……」

「そう。ありがとうね、フェイトちゃん」

「いえ……」

心からの感謝の言葉を投げられて照れるフェイト。
恭也の味方はなのはにとっても親しい友人となるのだ。
だからこそ、その感謝の言葉に嘘などなく、また恭也絡みでの謝礼ゆえに心の奥底からのものであった。
そんな三人の様子を眺めながら、ユーノはただただ安堵の息を吐く。

「今回はお仕置きされないで済みそうだよ……」

その呟きを聞いたクロノは、前回どんな事をされたのかという興味を少し抱くも、
やはり恐怖心の方が圧倒的に多く、聞く事はできなかった。
もし聞いたとしても、ユーノは蒼白になってただ震えるだけで何も聞けないだろうが。
ともあれ、ヴォルケンリッターとの二度目の戦いも結果だけを見れば引き分けという形で終わったのだった。







おわり




<あとがき>

キョウコンなのは再び。
美姫 「またバトルばっかりね」
むむ、ギャグがないな。
とは言え、この作品自体が壊れギャグみたいなもんだし。
美姫 「まあね。それにしても、前にもましてなのはが非道に……」
何を今更。恭也が絡むととことん残虐になりますよ。まだまだ、これから、これから。
美姫 「つまり、続きがあると」
それはどうかな。ほら、一応短編だしね。
美姫 「言うと思ったわよ」
あはははは。
美姫 「ともあれ、それじゃあ今回はこの辺で」
ではでは。







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