『リリカルIF A's 〜逆転兄妹〜』






番外編3 やりなおすのよ、クリスマス!





十二月二十六日の夜、場所は海鳴市は商店街の一角にある喫茶翠屋。
普段ならまだ開いているはずの店は、既に閉店の札が掛けられており、カーテンも閉められている。
もう人がいないのかとと言えば、そうではなく寧ろ賑やかな装いを見せている。
楽しげな話し声に誰かの歌声。テーブルに並ぶのは数々の料理。
つまりは、今現在翠屋ではパーティーが繰り広げられているのである。
先だって起こった闇の書の事件のせいで出来なかったクリスマスパーティーを今日、やり直しているのである。
言い出したなのはは、父親に頼んで翠屋を貸し切り状態にし、ご機嫌で準備をしていた。
していたのだが、いざ翠屋で開催という段になって、

「む〜」

こうしてむくれているのである。
勿論、それには理由があり……。

「という訳で、恭也。この前は出来なかったから、今日パーティーしようね」

ご機嫌な笑みを見せて恭也へとそう告げる。
当然の如く、恭也もまたその言葉に嬉しそうに頷き、なのははどんな料理にしようかなど、早速考え始める。
だが、それはすぐに中断される。
楽しそうに告げた恭也の言葉によって。

「急いでフェイトちゃんやアリサちゃんたちにも連絡しないと」

恭也と二人でやるつもりのなのはであったのだが、楽しそうに恭也がそう言うのを止める事など出来ず、
気付けば話は広まって、高町家に恭也の友達、ヴォルケンリッターの皆さんにクロノやリンディまでが参加する事に。
二人きりではなく、元々イヴにする予定だった皆で一緒のパーティーとなったのである。
恭也としては、やり直しという事で皆を呼んだのだ。
決して深く考えてやったのではない。そんな事は分かっているし、寧ろ恭也ってば優しいと感動すらしたほどである。
だが、それとこれとは別である。
かくも難しきは乙女心なり。
などと自分で言う辺り、美由希から突っ込みが来るのだが気にも止めず、ただ剥れていた。
通常なら、こんな事を仕出かした者にはそれなりの制裁が落ちるのだが、相手は恭也である。
当然の如く、そんな事が起こるはずもなく、結果としてその怒りの捌け口は……。
現在、なのはの足元に転がっている美由希を見れば、言わずもがなである。
八つ当たりとして、突っ込んだ事を理由にのされた美由希には可哀想ではあるが、
やって来た誰もがソレに付いては触れない辺り、皆もよく分かってらっしゃる。

「はぁぁ、本当にどこかの誰かさんたちの所為で、クリスマスイヴはふいになるわ、
 恭也と二人っきりで過ごす夜もなくなるわ。はぁぁ、ついてないわ」

言ってジト目でとある一点を見詰めるなのは。
その視線に身を硬くするのは、言わずとも知れたヴォルケンリッターの皆さんである。

「……こ、この度は大変迷惑を掛けた」

そんな視線に謝ってくるのはリインフォースである。
その隣には主であるはやてもおり、なのはに謝る。
詳しい事は分からないが、自分の家族の所為でクリスマスイヴ、クリスマスとふいにした事は理解しての行動である。
だが、なのはははやてには責めるような目は向けない。

「実際にやる方が悪いんだから、はやては気にすることないわ」

その辺りは、しっかりと区別するなのはである。
その様子に、主であるはやての所為だと言って何かされやしないかと身構えていたシグナムたちも胸を撫で下ろす。
改めて謝るシグナムたちに、もう良いと手を振って軽く背伸びをする。

「いつまで不貞腐れてても仕方ないしね。やるのなら楽しまないと損だわ。
 それに今夜は……うふふふふ」

突然不気味な笑みを浮かべ出したなのはから離れて行くシグナムたち。

「ちょっ、急にどないしたんや、皆。目と耳を塞がれたら、見えへんし聞こえへんやんか」

「主のためです」

「そうですよ、はやてちゃん。ほらほら、あっちに美味しそうなケーキが」

「おおう、本当に美味そうだな。はやて、一緒に食べようぜ!」

そそくさとはやてをなのはから引き離す騎士たちの一連の行動は、やけに手馴れたものであった。



料理を口にしつつ、なのはは恭也の居場所を探す。
と言っても見通しの良い店内、かつ恭也レーダーをその身に内臓するなのはである。
すぐに恭也を見つける。
見れば、フェイトやアリサ、すずかと一緒に楽しんでいるようである。

「恭也、恭也! ほら、あーん」

「は、恥ずかしいよアリサちゃん」

「良いから、ほら早く口を開けないと落ちるじゃない」

照れる恭也に口を開ける事を強要するアリサ。
その隣では、すずかが次の料理を手にして順番を待っている。
フェイトはそんな様子に戸惑いつつ、これがここでの習慣なのかと、自分もした方が良いのかと悩んでいる。
そこへなのはは満面の笑みを浮かべて近付いていく。
恭也がアリサから食べさせてもらい、次にすずかが構えた所で後ろから恭也を抱き上げる。

「どう、楽しんでいる?」

全員に問い掛けるように尋ねながら、なのはは恭也をしっかりとその腕に抱き寄せる。
なのはの問い掛けに頷く恭也とフェイトと違い、アリサとすずかは小さく舌打ちをする。
無言で見詰め合う三人。何とも言えない空気が漂う中、最初のなのはが口火を切る。

「ありがとうね、アリサちゃん。でも、恭也の世話は私がするから、後は気にしなくても良いわよ」

「いえいえ、いつもやってらしてお疲れでしょうから、今日ぐらいは私とすずかで」

「全然、疲れたりなんかしないわよ」

「あら、そうなんですか」

顔は笑顔なのに、棘のある言葉を応酬する二人。
見えない火花が散る中、すずかは手にしていた料理を恭也の口元へと運ぶ。

「恭也くん、はい」

「え、えっと……」

「恭也くんにって取った料理だから、食べてくれないと困るんだけれど」

そこまで言われれば断れるはずもなく、恭也はおずおずと口を開く。
と、その頭上からすずかを見下ろす視線が一つ。

「で、ちゃっかりと何をしているのかしら?」

尋ねるも、既に料理は恭也の口の中に。

「いえ、別に何もしてないですよ」

そう言って笑顔を見せるすずか。
流石に子供相手に本気の殺気は飛ばさないが、それでもかなりのプレッシャーが放たれ、
アリサとすずかの二人は膝が完全に笑っている。
恭也が関わる限り、そこに妥協はないのは流石と言えなくもない。
それでもアリサたちは強張りつつも何とか微笑を浮かべ、寧ろ、顔も固まって動かないだけかもしれないが、
微笑み合う三人の少女という構図が出来上がり、周囲からはさっさと人が居なくなる。
だが、フェイトは一人事態が飲み込めていないのか、座ったままストローに口をつけてジュースを飲む。
そんなフェイトに周囲から逃げるように手振り身振りが飛ぶのだが、気付いた様子もなかった。



無意味な睨み合いを打ち切り、なのはは恭也を抱いてテーブルの一つに腰掛ける。
その足の上には当然のように恭也が乗っており、

「はい、恭也」

「あーん」

なのはから差し出された料理を、こちらは照れずに食べる恭也。
物心ついた頃から既にされているため、なのはからされるのには一切の抵抗がない。
今度は恭也が料理を取り、なのはの口元へと。

「はい、なのはお姉ちゃん」

「ありがとう♪」

ぱくりと齧り付き、幸せそうに頬を緩める。
次はコップを手に取り、なのはは自分で飲むと、

「ん〜」

「って、なのは姉、それは流石にやり過ぎだって!」

恭也へと顔を近付けるなのはを美由希が止める。
止めてから気付くのだが、当然ながら後の祭りというものである。
美由希はこのパーティーが始まってから二度目の気絶を体験することになる。

「まあ、こっちは追々教えていきましょう。とりあえず、次はケーキ食べる?」

「うん!」

何事もなかったかのように恭也は頷く。
既に、これが二人のコミュニケーションだと思い込んでいる辺り、
普段の美由希がなのはにどれだけやられているのかが分かるというものである。
ケーキを互いに食べさせ合いながら、なのははケーキの上に乗る苺を見る。

「恭也、いちご好きだったよね」

「うん」

なのはの言葉に答える声に、なのはは少し行儀が悪いけれどと指で苺を摘み上げると、
あーん、と恭也の口元に運ぶのではなく、それを自分の口に放り込む。
食べさせてくれるのではなく、なのはが食べるのかと少し残念そうになる恭也に、
ふふふと笑いかけ、なのはは舌で口の中に入った苺を押し出して口に咥える。

「はい、恭也♪ あーん」

「♪ あ〜ん」

ちゃんと苺をくれると分かって、恭也はご機嫌な顔でその苺を反対側から咥える。
咥えるが、なのははすぐに離さない。

「んふふ。半分っこしよう」

なのはの言葉に恭也は動く範囲で首を縦に振り、苺に齧り付く。

「ちゅっ、うん、恭也にもうちょっとあげるね。
 はい、んんっ」

「ちゅっ、ありがとう。んん……うん、美味しかった」

唇を軽く触れさせ、なのはは恭也の方へと苺を押し出す。
なのはの厚意に恭也も嬉しそうにお礼を言うと、美味しそうに苺を食べるのだった。



そんな様子を呆れたように桃子は見ながらワイングラスを手に取る。

「はぁ、本当にべったりなんだから二人とも。
 将来が少し心配だわ」

あれを目の前にしてそれだけを口にする桃子に、
一同は流石はあの二人の母親だと感心と呆れがない混ぜになった視線を投げるのだった。







おわり




<あとがき>

キョウコンなのは番外編第三弾。
今回はクリスマスパーティー。
美姫 「本編では出来なかったものね」
故に、なのははやり直しをしたと。
美姫 「って事は、夜は約束通りに添い寝?」
だろうな。翌日、とってもご機嫌ななのはが目撃されている。
という事で、またしても番外編をお送りしてしまった。
美姫 「まあ、時期的にも合ったというのもあるわよね」
まあな。という訳で、これにて。
美姫 「それじゃ〜ね〜」







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