『込められし思い 第21話』
恭也たち登山組みが出掛けるのを見送ると、なのはと久遠はリビングのソファーに横になる。
「にゃははは、お兄ちゃんが居たら行儀が悪いって言うかも」
そう思いながらもごろごろと久遠と二人で寝転がったまま、何をしようかと相談する。
それを微笑ましく見守りながら、那美は別のソファーで横になっているレンへと視線を移す。
こちらもこちらでごろごろとソファーの上を小さく転がり、那美の視線に気付くと照れ臭そうに笑う。
「あはは、何やちょっと気を緩めてリラックスでもと思ったんですけど、なのはちゃんたちを見てたらつい」
「ええ、分かります。確かに気持ち良さそうですものね」
レンの言葉に頷き、視線を再びなのはたちに戻せば、気持ち良さそうにソファーに寝そべる姿が。
同じようにレンもそちらを見ながら、やはりこちらもソファーの上を転がる。
「そうなんですよ〜。まあ、行儀は悪いかもしれませんけど、ちょっと大目に見てください」
「あ〜、何か気持ち良さそうだね。私もやる〜」
レンの言葉に苦笑を見せる那美の後ろから夏海の声がしたかと思うと、空いていたソファーへとダイブする。
正面、左右のソファーでごろごろと寝転がるなのはたちを眺めながら、那美は一人きちんと座っていた。
この辺り、那美自身の性格もあるが、躾に厳しい姉の影響もあるのかもしれない。
ともあれ、思い思いに寛ぐ一同の下にノエルがやって来たのはそれから少し経ってからである。
お盆に乗せられた冷えた麦茶をテーブルの上に置き、那美の隣に腰を下ろす。
「皆様は何をなさっているのですか?」
「うーん、特に何かって訳じゃないですよ。
寛ぎながら何をしようか考えているといった所ですかね」
「そうですか」
なのはたちの様子を見て浮かんだ疑問を口にすれば、那美がそれを説明する。
その間になのはたちもソファーにきちんと座りなおし、コップに手を伸ばしていた。
「そう言えば、お師匠たちが登っている山というのはどんなもんなんですか」
「そうですね……大体二時間ぐらいといった所でしょうか。
ですので、遅くても夕方頃には戻られるかと」
「うーん、それぐらいならおサルの荷物に重りでも入れておくんやった」
ぼそりと呟いた言葉を聞いていたなのはがレンを怒るように見れば、その視線に気付いたレンが慌てて手を振る。
「じょ、冗談やってなのはちゃん。ほら、実際にはやってないやろ」
「当たり前です」
「せやけど、なのはちゃん。
少しぐらいならあの体力バカなら気にせずに頂上まで登ってしまうとは思わへんか」
レンがそう切り返せば、それにはなのはも否定する事は出来ないのかただ小さく笑う。
その会話にノエルも加わり、
「ですが、今回は登山に参加された方々を思い返せば忍お嬢様と水翠様を除けば、
皆さん軽い重りぐらいなら意にも返さないのではないかと思います」
「確かにそうかも。特にうちの兄と姉の場合はちょっとやそっとじゃ良い鍛錬になったぐらいにしか思わないかも。
同じ兄妹なのに、どうしてなのははこんなにも運動が苦手なんだろう」
「あははは、気にしたらあかんてなのはちゃん。
あのお二人と比べても仕方ないよ」
「それもそうなんだけれどね」
「なのは、だいじょうぶ?」
「うん、大丈夫だよくーちゃん」
心配そうに見上げてくる久遠に笑顔で返し、その頭を撫でてやる。
嬉しそうに目を細める久遠にその笑みを深める。
そんな仲睦まじい二人を見ながら、那美は少し心配そうに口を開く。
「ですけれど、美由希さん大丈夫でしょうか」
「山と言ってもそんな危険な山じゃないし、忍さんが言ってたようにピクニックみたいなものよ。
だから、そんなに心配はいらないって」
安心させるように夏海がそう言えば、那美は小さく首を横に振って言い辛そうに続ける。
「そうじゃなくてですね、その、また何かしてないかなって」
「ああ、余計な一言を言ってお師匠に反撃されていないかって事ですか」
レンが那美の言いたい事を理解し、はっきりと口にすれば小さく苦笑して認める。
夏海も二人のやり取りをこれまで見ており、那美同様に知らず苦笑を浮かべていた。
そんな中、レンとなのはは二人とは少し違う笑みを見せる。
「それは心配ないですよ。
お兄ちゃんも必要以上に無茶な事はしないですし、それはお姉ちゃんも同じですから」
「そうそう。言うなら、あれがお二人のコミュニケーションですから。
寧ろ心配なんは美由希ちゃんがドジって転んだりとかの方ですよ」
レンの言葉に誰も否定することが出来ず、夏海以外は剣を握っている時の美由希を知っているだけに、
何故なんだろうと知らず顔を見合わせてしまうのだった。
なのはたちはあのまま他愛もない話を繰り広げ、気付けばお昼前という時間になっていた。
まず最初に久遠がお腹が空いたと口にし、ようやく他の者たちも今の時間に気付く。
「今日のお昼は朝の内にノエルさんとおサルと作ったお弁当です」
言いながらレンは立ち上がるとキッチンへと歩いて行く。
その後をノエルも続き、自然と全員がキッチンへと向かう。
「レンちゃん、それはお弁当箱に入ってるの?」
「うん。一応、どこかに行く事になっても大丈夫なように重箱に入れたまんまやで。
それがどうかしたん?」
「折角だから、外で食べない。
この別荘の外もちょっとした庭みたいになっているし、木陰もあるからそこで」
なのはの提案に夏海たちも賛成の声を上げ、レンは重箱をなのはたちが小皿などを用意して運んでいく。
ノエルは下に敷けるシートを取りにキッチンを後にする。
数分後にはすっかり準備を終えて、なのはたちの姿は別荘の庭にあった。
「うーん、改めて見てもやっぱり大きいですよね」
しみじみと庭と別荘を眺めて呟く夏海に那美たちも無言で同意を示す。
が、いつまでも別荘を見ていても腹は膨れないとばかりにレンが一つ手を叩く。
「ほらほら、そないな事は後でも構わへんやろう。先にお昼にしよう。
まあ、それでも見ときたいというんやったら別に構わへんけどな。
とりあえず、うちは遠慮なく頂く事にするから」
言って重箱を開け、それらを並べると手を合わせる。
それを見て夏海も慌てて手を合わせるのだが、それを見ていたなのはたちから小さな笑いが起こると、
少し恥ずかしそうに頬を掻く。
「いや、だってレンさんたちの料理って美味しいんだもん」
「そう言ってもらえると作り甲斐もあるってもんです。
ほな、頂きましょう」
レンの言葉を合図として、全員が頂きますと期せずして合唱すると後は思い思いに箸を伸ばしていく。
「ごちそうさま。うーん」
お腹がいっぱいになったなのははそう言うと、両手を伸ばしてそのまま後ろに寝転がる。
「食べてすぐに寝ると牛になるよ、なのはちゃん」
そう笑いながら那美が言うのだが、その膝に久遠が横になって頭を乗せてくる。
「もう久遠まで」
口ではそう言いながら、那美は久遠の頭を優しく撫でてやる。
気持ち良さそうに目を細める久遠を見ていたなのはに気付き、那美はもう一方の腿をポンポンと叩いてみせる。
「良かったら、なのはちゃんも乗せる?」
「えっと…………お願いします」
少しの葛藤の後、あまりにも気持ち良さそうにする久遠の姿に負け、おずおずとなのはは那美に膝枕してもらう。
すぐに那美の手が下りてきて、久遠にするようになのはの髪を撫でる。
「にゃぁぁ〜」
「くぅぅ〜」
二人して珍妙な声を発しながら、気持ち良さそうに目を細める。
優しい眼差しで二人を見下ろす那美の姿に、夏海やレンは思わず言葉を無くして見入ってしまう。
それを羨ましがっていると勘違いしたのか、ノエルが自分の腿を叩いて二人に声を掛ける。
「僭越ながら、宜しければどうぞ」
「あ、いや、別に羨ましいから見てたんやのうて……」
「そうそう。お気遣いだけで……」
「そうですか」
少し残念そうな仕草を見せるノエルを見て、レンと夏海は顔を見合わせると、
「あ、やぱりお願いしようかな〜」
「そうですよね。何事も経験ですし」
「そうですか。では、どうぞ」
「お邪魔します、ってのも変やけど……」
「あはは。あ、思ったよりも気持ちいいかも」
二人はおずおずとノエルの足に頭を乗せ、ゆっくりと体から力を抜く。
そんな二人に那美の見よう見真似で手を伸ばし、そっと髪を撫でると二人も気持ち良さそうに目を細める。
「あ、あかん。これは想像以上に気持ちが……。
はぁぁ、何や落ち着きます〜」
「はぁぁ、本当に」
レンの言葉に同意するように、夏海の口からも気持ち良さそうな吐息が零れ、ゆっくりとその瞼が閉じていく。
それはレンも同じらしく、まどろむように目が細まっていき、やがて閉じられる。
那美の方を見れば、なのはと久遠はとうに眠りに落ちたらしく、規則正しい寝息を立てている。
可愛らしい寝顔を満足げに眺める那美とノエルの視線が合い、那美はノエルの膝枕で眠る二人に気付く。
「そちらも寝ちゃったみたいですね」
「そのようですね。どうしましょう」
「目を覚ますまでこのままでも良いんじゃないですか。
特に予定もない事ですし」
「そうですね。偶にはこういうのも悪くないかもしれません」
こうして、膝枕で寝かせたまま、那美とノエルは小さな声で時折話をしては、
髪を撫でたり、その寝顔を眺めてたりしてゆったりとした時間を過ごすのだった。
つづく
<あとがき>
今回は留守番組みのお話〜。
美姫 「こっちは登山組みと違って、のんびりと過ごしたのね」
おう。
美姫 「にしても、久しぶりの更新ね」
ぐっ。た、確かに。
美姫 「次はいつになるのかしらね」
あ、あははは。えっと……そ、それではまた次回で!
美姫 「まったね〜」
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