『二人の休日』






海鳴より電車で大よそ一時間ちょっと。
その場所に位置する遊園地に二人の少年少女の姿があった。
案内板の前に立ち、それを見上げる黒髪を短く整えた少年から少し離れて金髪の少女が同じように案内板を見上げる。
だが、その視線は時折隣の少年へと向かっており、その度に少しだけ少年に近づいてはまた離れると繰り返している。
時折、彼らの後ろを取りすぎる人々が微笑ましい視線を向けるも、二人はそれに気付かない。
やがて、少年は確認が済んだのか案内板から目を外して隣の少女へと顔を向ける。

「なのはから聞いた乗り物はどうやらこの奥らしい」

そう言って指で通りの向こうを指すと行くぞと一声掛けて歩き出す。
その後を追いかけ、隣に並んだ少女は少年を見詰め、先程と変わらぬ距離に小さく溜め息を吐き出す。

「そうかしたのか、フェイト」

「ううん、何でもないよクロノ」

それに気付いたという訳でもないが、やけに静かな少女――フェイトの様子にそう尋ねるクロノ。
小さな笑みを見せ、心配いらない事を伝えるとフェイトは話を変えるように話題を探し、

「でも、二人揃って同じ日に休日なんて久しぶりかも」

「そうだな。ところで、入局してまだ一年と経っていないけれど、もう慣れたか。
 何か困っている事とかはないか」

「うん、大丈夫だよ。周りの人たちも良い人たちだし、アルフも一緒だから」

「そうか」

遊びに来た子供が普通は話す様な内容ではないなと思わず苦笑を浮かべ、クロノは他の話題を探す。
が、元よりあまり喋らない二人に加え、趣味らしきものも持たない二人。
片や休みの日でも大概は仕事の事を考えてしまうクロノ。
片や暇があれば鍛錬に勤しむフェイト。
話題を探す余り互いに沈黙してしまい、またそれに気付いてお互いに笑みを零す。

「とりあえず、今日は楽しむとしよう」

クロノの言葉に肯定の返事を返し、二人は最初の乗り物へと向かう。

「これがなのはの言っていたコークスクリュージェットコースターか」

まだそれ程長くはなっていない列に並び、クロノはそのレールを目で追う。
隣でフェイトも同じようにしながら、やはり時折クロノの方を見ては小さく決意するかのように力む。
が、すぐにふにゃりと力を抜くと顔を俯ける。
何度かそれを繰り返す内に列が動き、クロノたちもそれに合わせて動く。

「あ、すみません」

フェイトの後ろに並んでいた女性がフェイトに軽くぶつかり謝ってくる。
それに大丈夫ですと返しながらも、フェイトは先程よりも近づいたクロノとの距離に、
自然と顔が赤くなりそうなのを誤魔化すように頬を擦りながら、レールへと目を向け、

「……クロノ、あれって大丈夫なのかな?」

「ああ、実は僕もそれが気になっていた」

二人の視線が同じ場所へと向かい、三つのループを連続で描くレールを見詰める。
ただ大きな三つの輪になっているだけでなく、頂点付近ではレールが捩れており、
そこから三つの輪を回る間、ずっとレールは捩れ続けている。

「まあ、フェイトは機動を得意とするんだし、きりもみ飛行しているようなもんじゃないかな。
 ……物理的に本当に大丈夫なのかは兎も角」

「そうだよね。そこそこ速度はあるみたいだけれど、ブリッツアクションよりも断然遅いし。
 ……あの乗り物の速度で何で脱線しないのかという疑問は置いておいて

何となく不安を抱きつつ見詰める先で、丁度、そこをジェットコースターが通る。
機体がぐるぐるとレールを中心として螺旋を描きながら、三つのループを通過していく。
無事に通過していくのを見て、知らず二人は止めていた息を同時に吐き出すのだった。



「……思ったよりもきつかった」

「大丈夫か、フェイト」

「う、うん、大丈夫」

ジェットコースターから降りたフェイトは少しだけふらつくも、すぐにしっかりと立つ。

「しかし、普段君たちの模擬戦はもっと激しい動きをしていると思うんだけれど」

「あれは自分でどう動くのか分かっているから。
 でも、これは……」

「なるほど。さて、でももう大丈夫なのは流石だな。
 どうする? この後、少し休むか?」

「ううん、もう本当に大丈夫だから」

フェイトが心配させないためにすぐにそう言うのを知っているクロノは暫くフェイトの顔を見詰める。
多少頬が赤くなっている気もするが、嘘は言っていないと分かるとクロノは次の乗り物へと向かう。
隣を歩くフェイトとクロノの距離は、ここに来たときよりも少しだけれども縮まっていた。



「断固拒否する!」

「駄目だよ、クロノ。
 はやてやなのはが考えてくれたコースなんだから」

「いや、別にその通りにしなくても良いって言っていたじゃないか」

「そうだけれど、ここだけは絶対にって言われたんだから」

「は、謀ったな! はやてー! 絶対にお前の仕業だろう!」

喚くクロノを無理矢理引っ張るも、予想以上に抵抗するクロノに、
最後の手段としてはやてに託されたメモをポケットからそっと取り出し、中を見る。
見たフェイトは顔中に疑問を浮かべるも、素直に従う事にする。

「お願いお兄ちゃん」

「ぐっ。わ、分かったから、こんな所でそんな呼び方をしないでくれ」

上目遣いでのおねだりという手段にクロノも抵抗を弱め、それでもやはりまだ何処かで抵抗があるのか、
その足取りは非常に重い。だが、抵抗が弱まった隙を付くようにさっさとフェイトはクロノを引っ張り、
真っ白な身体の馬に乗せる。馬の背中には頭上へと棒が伸びており、まあ早い話がメリーゴーランドなのだが。
クロノが渋々と馬に跨ったのを見て、フェイトはバックからカメラを取り出して外に出ようとする。

「待て、フェイト! 一体、それで何をするつもりなんだ?」

半分以上確信していながらも、クロノは恐る恐るといった感じでフェイトへと疑問を投げる。
やはりと言うべきか、フェイトの口から恐ろしい言葉が出てくる。

「はやてたちに写真を撮るように頼まれてて」

「それはつまり、フェイトはこれには乗らないと」

「そうなるのかな?」

「ふ、ふふふふ」

フェイトの言葉を聞き、クロノは怪しく笑うとフェイトの腕を掴む。

「僕だけ恥ずかしい目にあって堪るか!
 こうなったらフェイトも道連れだ!」

「でも、写真を……」

乗るのは別に嫌ではないのか、単にはやてに頼まれたと思っている撮影が出来ないと困るフェイト。
そこへ係りの人がやって来て、代わりに撮ってあげようと申し出てくる。
申し訳ない思いで断ろうとするフェイトよりも早く、クロノがカメラを取り上げて係りの人へと渡してしまう。
すると丁度ブザーが鳴り、

「フェイト、早くしないと動き出すぞ」

クロノの言葉に慌ててフェイトはクロノの後ろへと乗って腰に手を回す。
流石に同じ物に乗るとまで考えていなかったクロノが慌てる中、無情にもメリーゴーランドは動き出してしまう。
密着している背中にフェイトの体温を感じ、顔を赤らめるクロノ。
抱き付くような形となったフェイトも同じように顔を赤くさせる。
はやての悪戯に抵抗したのがいけなかったのか、それともフェイトを道連れにしようとしたのがいけなかったのか。
クロノは二人で一つの馬に乗っている写真をしっかりと収められる事となる。
だが、密かに嬉しそうにしているフェイトを見て、まあ良いかと考えるのであった。



「どうした、フェイト。疲れたのか」

「うん、ちょっとだけ」

「そうか。なら、向こうで少し休もう。
 ほら」

言って、自然と疲れたフェイトに手を差し出すクロノ。
期せずして今日の目的と定めていた事を達成でき、フェイトは嬉しそうにはにかむ。
その顔を見てクロノは照れくさそうに目を逸らすも、繋いだ手を離す事はせず、フェイトを引っ張るように歩き出す。
休憩を挟んだ後も、二人はめいいっぱい楽しむ。
そんな感じで二人は一日中遊び倒し、空が薄っすらと暗くなり始めた頃に、そろそろ帰ろうかとクロノが切り出す。

「明日はフェイトも学校があるだろうし」

「そうだね。明日、なのはたちにいっぱい今日の話をしてあげよう」

「……出来ればメリーゴーランドの件は触れないで欲しいんだが」

小さくポツリと呟くも、それこそ無理だと理解しているクロノ。
何せ写真まで撮られている上に、それを命じたのははやてなのだ。
絶対に聞いてくる。そして素直なフェイトはあっさりと言うだろう。
口止めすれば言わないでいてくれるだろうけれど、フェイトが困るだろうし。
仕方ないと腹を括り、明日からは当分仕事を入れようかなどと考える。
一人で苦悩するクロノを不思議そうに見ながらも、フェイトはクロノの正面に立つ。
気付いてクロノもフェイトを見詰め返し、

「今日は楽しめたか?」

「うん、とっても楽しかった。クロノは?」

「ああ、僕も楽しかったよ。まあ、何だ。
 また機会があったら何処かに行こうな」

ややぶっきらぼうに言われた言葉にフェイトは嬉しそうにすぐさま頷いて返す。
そんなフェイトの反応に少しだけ口元を緩めるクロノへと、フェイトは満面の笑みを浮かべ、
そっとクロノに近づくと顔を寄せ、

「今日はありがとう、お兄ちゃん」

「なっ! だ、だからそれはよせって言っただろう」

「他の人に聞こえないように言ったに……」

そっと耳元で囁かれた言葉に、クロノは先程よりも更に顔を真っ赤にして固まり、
フェイトはそれに不服そうな顔を見せる。
けれど、二人共にその顔が何処となく嬉しそうにも見えたのは、きっと見間違いではないだろう。





おわり




<あとがき>

一千万ヒット〜。
美姫 「舞野さん、リクエストありがとうございます」
ありがとうございます。
一千万ヒットのリクエストはリリカルなのはで、クロノとフェイトでした。
美姫 「ラブラブな休日だったんだけれど」
ラブラブよりも初々しいかも。
いやいや、それも充分にラブですよ。
ちょっと甘さが足りないかもしれないけれど、こんな感じになりました。
美姫 「それでは、リクエストありがとうございました」
ではでは。







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