『リリカル もう一つの戦い その3』






それはとある日のこと。
またしても再現かと思わせるほどに道場内で正座して向かい合う二人は無言。
これまた二人の間に置かれたデバイスへと恭也は視線を落とし、嫌な予感を感じつつも話を進めるために口を開く。

「このやけに見覚えのあるデバイスは何だ?」

「俺たちは二刀流だぞ。という訳で、もう一つ作らせ……作ってもらった」

「またユーノくんに無理を言ったのか」

「無理なんて言ってないぞ! ちょっとお願いしたら、泣きながら喜んでやってくれたんだ」

きっぱりと言い切る士郎を怪しげな目で見詰める恭也。
その視線の意味を正しく理解しつつ尚、受け流して士郎は新しいデバイスを手にする。

「前にお前が言ったように、防御できるようにしてくれと頼んだ所、
 ストレートでバインバインではそんなにいっぱい魔法を埋め込めないと言われてな。
 と言うよりも、埋め込んでも俺たちでは咄嗟にどの魔法を使うかとかの選択が難しいとかなんとか。
 それで、もう一つ作らせたという訳だ」

「今、作らせたと言ったな。それと、そのストレートでバインバインってのは何だ」

「気にするな。小さな違いだ。で、ストレートでバインバインというのは、このデバイスの種類らしいぞ」

「多分、いや、間違いなく間違えて覚えていると思うが、まあ良い。
 つまり、こっちのデバイスであれば防御できるんだな」

「そう聞いているがな」

士郎に受けたであろう事を考えれば、
防御できると言ってできなくしているかもという可能性も浮かぶがそれを振り払い、
ものは試しと手に取る。

「……で、どうすれば良いんだ?」

「とりあえず、手にとって分かったと思うが、前に持っていたのとは少し違うだろう。
 これはどっちが防御用か分かるようにするためだ。で、後は飛ぶ時と同じで防御する事を考えれば良いらしい」

言うや否や、士郎は飛針をどこからともなく取り出して恭也に投げる。
それを持っていたデバイスで弾き飛ばすと、

「馬鹿かお前は!」

「少なくとも、父さんには言われたくはない単語ベスト10ではあるな」

「そのベスト10を全て詳しく吐かせたい所だが、今は勘弁してやろう。
 それよりも、なにデバイスを普通の小太刀のように使ってやがる!
 テストしないといけないんだから、ちゃんと魔法の盾みたいなのを出せ!」

「また滅茶苦茶な。行き成り何も言わずに攻撃してこられたら、反射的に動くに決まっているだろうが」

「ふっ、だからまだまだ甘いと言うんだ。俺なら――」

「なら手本を見せてくれ」

言うよりも早く恭也もまた飛針を投げる。
それを悲鳴を上げつつもデバイスを振るって弾く辺りは、現役を退いたとはいえ一流の剣士である。
だが、そんな士郎を恭也は冷ややかに見詰める。

「で、誰が馬鹿だって? 魔法の盾とやらを出すんじゃないのか?」

「……い、今出しただろう。ただ盾なんて使い慣れていなかったから、刀のように使ってしまっただけだ」

「ほう。俺にはそれらしきものは見えなかったが?」

「ば、馬鹿には見えない盾なんだよ」

「ほうほう。流石は魔法だな」

「ああ、流石に魔法だけの事はある」

冷や汗を流しつつも士郎は必死になって恭也へと言う。
それを変わる事無く冷ややかな眼差しで見詰めながら、恭也は肩を竦める。

「今ならまだ撤回しても良いが?」

「すみません、咄嗟に身体が反応してしまいました!」

あっさりと自らの発言を翻す士郎に呆れたように溜め息を吐き、恭也は話を先に進めるべく、

「とりあえずは練習か」

「そういう事だ。という訳で、喰らえ!」

言って斬り掛かってくる士郎の足を払い、そのまま床に押さえつける。

「あ、あのー、恭也?」

「ああ、悪い。行き成り襲い掛かってきたから身体が勝手に反応してしまった」

「い、言いながらも背中に膝を何故乗せる? しかも、そこに何故体重を掛ける?
 って、いたたたたっ! こら、馬鹿! さっさと降りろ! と言うか、わざとだろう!」

「当たり前だ! 行き成り襲い掛かって来やがて!」

「御神流に始めの合図などない!」

「ああ、そうか。魔法の練習じゃなくて御神流なんだな。
 なら、俺の対応も間違っていないな。という訳で……」

「うおっ! ちょっ、ま、待て待て待て!」

関節を極め出した恭也に士郎はすぐさまストップを掛ける。
だが、恭也は聞く耳待たないとばかりに士郎の関節を極めていき……。

「ギ、ギブギブギブ!」

必死にタップをして解放をせがむ士郎に、ようやく恭也も士郎を離す。
痛む関節を抑えつつ、士郎は恭也を睨むも不意に真面目な顔付きになる。

「さて冗談はこれぐらいにして――」

「父さんは本気だっただろう」

「このぐらいにして! なのはの為にさあ、特訓開始だ!」

こうして二人の防御用魔法の特訓が始まったのであった。





  ◇ ◇ ◇





それはいつものように恭也も士郎も過ごしている時に起こった。
不意に頭にユーノの声が響いてきたのだ。
デバイスを利用しての無線のようなものだと教わってはいたが、突然の事に流石の恭也も驚き、
士郎もまたキョロキョロと周囲を見渡してしまう。
翠屋に居た二人はすぐに顔を見合わせ、それがユーノからの連絡だと悟ると桃子に断って店から出て行く。

≪それでまた現れたのか! 今度は何処だ!
 うちの可愛い娘を苛める奴は許さんぞ! さあ、早く場所を言え!≫

捲くし立てる士郎を落ち着かせ、恭也はユーノに出現した場所を尋ねる。
その問い掛けに対し、ユーノは非常に言い難そうに、また気まずそうに伝えてくる。
たった一言……『異世界』だと。

≪ちょっと待てイタチ! そんな所へどうやって行けば良いんだ!
 あれか、太陽に向かってひたすら向かって飛べば、いつの間にかとかか!
 それとも、ひたすら地面を潜っていけば良いのか! それとも伝説のオーブだとかを集めるのか!
 ええい、どうでも良いから早く教えろ!
 そんなに今の時期にご婦人方の暖を取るべく首に巻かれる物になりたいのか!≫

≪落ち着け、父さん。
 ユーノくんが怯えているだろう。それで、俺たちも異世界に行く方法はあるのか?≫

流石に愛するなのはの為とは言え、単独で世界を渡る事などは出来ずに怒り狂う士郎。
そんな士郎を落ち着かせて恭也が聞けば、相手が変わった事でほっとしながらも申し訳なさそうにユーノは告げる。

≪ありません≫

≪よーし、よく言ったイタチ!
 ああ、お前の正面を向いた写真はなかったかもしれないが、まあ良いだろう。
 適当に編集してちゃんと白黒にしといてやるよ。俺からの餞別だ≫

≪落ち着け父さん。何もユーノくんの所為ではないだろう≫

≪馬鹿か! もし、もしなのはに何かあったら……≫

慌てまくる士郎に呆れつつ、恭也はユーノになのはの事を頼む。
今回ばかりはどうしようもないのだから。
だが、そんな理屈などこの男の感情には通じるはずもなく……。

≪俺も連れて行けー! それが駄目なら、その身を盾にしてでもなのはを守れよイタチ!
 少しでも傷ついたりしたら、明日の朝日は拝めないと思え。
 もし、なのはを守ってやられた場合は、手厚く庭の隅に葬ってやるからな≫

≪父さん、全然それは褒美になっていない上に、守る=死なのか≫

疲れた口調で念話を飛ばす恭也を無視し、士郎はユーノへと一言一言区切って言う。

≪と・り・あ・え・ず、無事に戻った少し話をしような、イタチ、いや、ユーノくん≫

急にユーノの名を呼んだ士郎に、恭也とユーノは揃って嫌な予感を覚える。
うんざりしている二人に構わず、士郎はそのまま続け、

≪次は異世界に渡る道具を期待しているよ。それじゃあ、なのはの事を頼んだぞ。
 というか、本当に何かあったら……くっくっく≫

≪ちょっ、ちょっと待ってください。異世界を渡るって!
 そんな簡単に言いますけれど――≫

何か言っているようであったが、士郎は念話を断ち切りそれ以上の会話を止める。
それを横目で見遣りながら、恭也はただユーノへと合掌する。
この男に理屈を説いても無駄だと、先達者として同情の念を込めて。
勿論、それが届く事はないのだが。

「ちっ、全く使えないイタチだな、おい。大体、あいつらもあいつらだ。
 何だ異世界って! ああ、むかつく! おお、なのはよ、無事でいてくれよー!
 帰ってきたら、何でも好きな物を買ってあげるからな。頑張るんだぞ」

「はぁぁ。この調子だと、下手をしたら次は本当に異世界に行かなければならないかもな……」

頭が痛いとばかりに額に手を当てて頭を振りつつも、恭也もまた強くは反対していないのであった。
やはり彼も彼でなのはの身を案じているという事と、もう一つはシグナムと戦いたいと言うものであった。
それ故にユーノに同情しつつも士郎の奇行を止めるつもりはないのであった。
ユーノの苦労の日々はまだまだ続きそうである。
そんな訳で、今日は謎の二人組みがヴォルケンリッターたちの前に姿を見せる事はなかったのであった。







おわり




<あとがき>

バルスさんから850万ヒットのリクエスト〜。
美姫 「今回は謎の剣士は登場しなかったわ」
まあ、場所が場所だけにな。
残念ながら、今回は謎の剣士の出番はありませんでした。
美姫 「とと、挨拶がまだだったわ。きり番おめでとうございます」
おめでとうございます。
ふー、短編の続きは結構厳しいな〜。
美姫 「何とか書けて良かったわね」
まあな。ただ、最初にも言ったように、流れ的にフェイトのリンカーコアを取られる所だから、
謎の剣士の出番はありませんが。こんな形になってしまいましたが、どうでしたでしょうか。
美姫 「それじゃあ、今回はこの辺で」
ではでは。







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