『リリカル もう一つの戦い その4』






これまたとある日の深夜。
場所もいつかの再現を思わせるように同じ高町家の道場。
そして、これまた同じく中央で向かい合う親子二人。
眉間に皺を寄せ、士郎は苦々しげに口を開く。

「さて、日々なのはの身の安全を守るべく奮闘する我々の前に憎き敵が立ち塞がった訳だが」

「母さんのことか? だが、あれは正論だろう。なのはにばかりかまけて喫茶店をさぼりがちの父さんが悪い」

「誰も桃子の事だと言ってないだろう。それにそれに関してはお前がなのはに付きっ切りになる事で解決したしな。
 桃子にも既に許してもらって解決したもんね〜。いやー、あの日の桃子は怖かったが何とか説得できて良かった。
 おまけに思わぬ効果で久しぶりに……次は男の子……いや、また恭也みたいなのだと困るから、やっぱり女の子が良いな。
 って、何を言わせるんだ、お前は」

「いや、勝手にアンタが喋ったんだろう!」

「全く。しかも、桃子を憎き敵よわばりとは。桃子が知ったら泣くぞ〜。
 そう言えば、最近は豆大福を食べていないな。あ、独り言だから気にするな」

意地悪そうな笑みを浮かべ、暗に脅迫するような事を口にする士郎。
だが、対する恭也は平然としたまま、

「そういえばさっき、父さんは母さんが怖かったと言っていたな。
 そうか、母さんは怖いと。父さんがそんな事を言っていたと知ったら、果たして母さんは怒るか泣くか。
 ああ、因みに俺は一言も母さんが憎き敵とは言ってないぞ。ちゃんと正論だったと母さんの発言を認めているしな。
 あくまでも疑問で返しただけだ」

「だ、だが、そこで桃子の名が出たという事は少なくともそう思っていた訳で……」

「はて、何の事やら。まあ、言いたければ言うが良い。ちゃんとこのやり取りを説明するだけだ。
 ふむ、説明する上で詳しくここでの話しの内容を伝える事になるのだが、父さんははっきりと母さんが怖いと言っていたな」

恭也が言葉を続ける内に士郎の方からは余裕が消えて行く。
それを視界に収めながら、恭也はこれで今回の話し合いは終わりかと立ち上がる。
その足に素早くしがみ付き、恭也が関節技を警戒する中、士郎は強く力を込める。

「恭也、お前は口が堅いよな。あの程度の事で喋ったりしないよな、な」

力尽くによる口封じではなく、泣き落としに掛かる士郎を見下ろし、恭也は何とも言えない表情で大きな溜め息を漏らすのだった。

「さて、改めて会議を始めるとするか」

再び中央で向かい合って座りなおし、士郎は先程の事がなかったかのようにそう厳かに口にする。
対面に座る恭也は既に突っ込む気もなく、少しでも早く解放されるためにも大人しく続きを待つ。

「さて、先日は憎き敵、世界を超えるという前に我々は屈した訳だが。
 しかも、その時にフェイトちゃんに被害まで出るというあのイタチの無能さが浮き彫りになった訳だが」

「話を聞く限り、ユーノくんはかなり優秀みたいだけれどな。
 更に言えば、その現場に彼は居なかったと聞いているが?」

「その事でなのはが少し落ち込んでしまったという重罪へと発展した」

「それで重罪なら、怪我した時が怖いな」

「本来なら軍法会議ものなのだが、あのイタチは我々の要請を忙しいと断ると言う始末」

「まあ、聞く限り本当に忙しそうだったが。何でも調べ物があるらしいしな。
 そもそも軍法会議も何も軍ではないし、ユーノくんはあくまでも好意と、少しの父さんによる脅迫で協力してくれているんであって」

「結果、我々はあのイタチに対する処遇として高町家の出入り禁止及び、なのはへの接近を禁止しようと思うのだが、どうだ?」

「かなり私情が挟まれた判決のような気がするな」

「では、多数決を取ろうと思う。これに賛成だと思う人は挙手! はいっ!」

言って自分で力いっぱい手を上げる士郎。
それをどこか冷めた眼差しで見詰める恭也。

「多数決も何も二人しかいないだろう」

「うん、全体の三分の二の賛成を持って可決とする!」

「いや、二分の一だろう」

「因みに議長の俺は二票持っている」

「その時点で最早、採決を取る必要ないよな」

「よってイタチは死刑!」

「罰則が変わっているから!」

「実行者は損な役回りだが俺が務めよう」

「嫌と言う割にはかなり嬉しそうだな父さん。
 と言うか、そろそろ俺の話を聞け!」

こうして会議は延々と続き、流石に疲れが見え始めた頃、ようやく終焉が見え始める。

「そういう訳で、仕方なく今回は不問という事で良いな、父さん」

「ああ、もうそれで良いや。何か疲れた。明日も早いというのに、全く話題だけで俺の邪魔をするとは。
 本当に忌々しいイタチめ」

「逆恨みだぞ、それは」

「くそ、それにしても腹が立つな異世界め。
 そうだ、もうすぐクリスマスだし、プレゼントで異世界に渡る手段とかお願いすれば叶うかも」

「誰に頼む気だ」

「分からないだろうが。魔法があるぐらいだぞ、サンタがいてもおかしくはない」

「だとしても、もうサンタに物をねだれるような年でもないだろう」

「なに、サンタと言えども人の子。子を思う親の心にきっと感動して」

「単なる親馬鹿として処理されそうだがな」

「なら、サンタの弱みを握り、それをネタにお願いを」

「それを世間では脅迫と言う。因みに、存在さえ疑わしいのにどうやって弱みなんて探すつもりだ。
 時間も殆どないというのに」

「そうだ! 昔、貰ってなかったプレゼントを今纏めて!」

「とても良い子だったとは思えないのだが」

「何を言う! 俺はとっても純真な子だったんだぞ。
 今だってその頃の気持ちを持ったまま大人になったというのに」

「純真な子は脅迫したり、プレゼントを纏めて寄こせなんて言わない。
 更に言えば、父さんは子供心を持ったままというよりも、子供のまま大きくなった感じだ」

「全くどうしてお前はそう文句の多い子供に育ったんだろうな」

「間違いなく、父さんを反面教師にしたからだろうな」

暫し無言で向かい合う親子二人。
結局、この日の会議はこうして幕を閉じる。



  ◇ ◇ ◇



そんなお馬鹿なやり取りがあってから数日後。
かなり慌てた様子でユーノから二人に念話が入る。
簡単な説明を聞くと、どうやらなのはとフェイトに変身した者たちの仕業により、闇の書の防衛プログラムが起動したらしい。
それを受けて二人はすぐさま現場である臨海公園の沖、海上の真っ只中へと向かう。
本当なら一般人である二人を呼ぶなんてもっての他ではあるが、ユーノだって人の子。ましてやまだ子供だ。
士郎の殺気混じりの笑顔は彼に相当のトラウマを植え付けていた。
死を恐れるのは決しては恥ではない。
ともあれ、二人が現場に到着する頃には、何がどうなったのかは分からないが敵対していたはずの騎士たちと協力体制が整っていた。

「とりあえず、敵はあの海にいる奴って事で良いんだな」

「お前は仮面の剣士一号」

「違う! それは仮の名だと言っただろうお嬢ちゃん。
 私の事はそう、ホワイトと呼べ!」

ヴィータの言葉にマントを翻し、腕を上げて高らかに宣言するホワイト。
どう反応すべきか戸惑う一同へと、二号ことキョウが疲れた口調で告げる。

「あれの事は気にしないでください。とりあえず、あれを敵と見なすという事で良いんですね」

「ああ、その通り。次に会うときは全力で勝負を、と言ったがそれ所ではない状況でな」

キョウの言葉を肯定し、シグナムがそう言う。
あまり長い間話している時間はないが、どうするかとクロノが全員に意見を尋ねる。
途中、この付近が吹き飛ぶという辺りで、秘蔵のコレクション(なのはの写真やビデオ)優先を叫ぶバカを黙らせ、
その上で決定された事項は酷く簡単で、闇の書のプログラムを早い話が痛めつけるというもの。
話し合いの間、とうとう完全にその姿を見せた防衛プログラムを見下ろし、先陣を切る事となった剣士二人は静かに佇む。

「思い出すな、父さん。いや、ホワイト」

「何をだ」

「俺が始めて父さんの仕事場に連れて行ってもらった時のことだよ。
 あの時もこんな感じに緊張をしていたっけな。見たこともない、けれども憧れていた場所に立って……」

「ああ、そう言えば似てるかもな。あの時も言ったが、あまり気負い過ぎるなよ」

「分かっている」

「なら、良い」

「ああ、そう言えば前の会議で言っていたが、本当に弟か妹が出来るのか」

「どうだろうな。こればっかりはまだ分からないな。
 だが、名前は既に考えているんだ。この戦いが終わったら、それをメモでもしようかと思って……。
 って、ちょっと待て恭也! これ以上はまずい!」

「何がだ。というか、本名を叫ばないでくれ」

「む、確かにこれで正体がばれるなんて浪漫がないからな」

「浪漫って何だ。それがあれば、ばれても良いのか。と言うか、俺は絶対にばれたくないんだが」

「その浪漫が分からないとは、恭也もまだまだ子供だな。と、まあそれはとりあえず置いておこう」

「置いておくのは分かったから、一体どうしたんだ。急に話を止めたりして」

「いや、俺も何かよく分からんが、知らない間に死亡フラグを立てるような気がする」

「また何を訳の分からない事を」

「いいから、この話はこれ以上はするな! と言うか、何気にお前のフラグのようで、俺の死亡フラグっぽいじゃねぇかよ!」

「いや、だから意味が分からない……と、無駄話はお終いのようだぞ」

「みたいだな」

二人して眼下の様子を見て話を中断させると、共にマントを風に翻して敵へと向かって行く。
その両の手に小太刀型のデバイスを握り締め。

「って、二人とも突っ込んじゃいましたよ!」

「えぇっ! ちょっ、攻撃って遠距離からの魔法で良いんだが」

なのはの言葉に現場を見て、クロノが驚きの声を上げる。
クロノだけじゃない。他の面々もまさかあの巨体を前に接近戦を仕掛けるとは予想していなかったようで、一様に驚いている。
それだけではない。既に続けて攻撃しようと準備していたのだが、二人が敵の近くにいてはそれが出来ない。
戸惑う一同の中、ただ一人、ユーノだけは額に手を当てて天を見上げていた。
この中で彼だけはそれが予想できたはずなのだ。
何せ、あの二人を作り出したのは彼だとも言えるのだから。
戸惑う一同が見守る中、流石と言うか、二人は敵の攻撃を掻い潜っては斬り付けてはいた。
が、それ以上に回復の方が早い。

「流石の身のこなしとは言えるが……。
 もしかして、あの二人は遠距離魔法が使えないのではないか。
 自身も剣士と名乗っていたし、よくよく考えれば攻撃魔法を使っている所を見た覚えがないんだが」

感心と呆れを半々にしつつ、シグナムは眼下でちょろちょろと動き回る二人を見下ろす。
そして、その言葉に各々思い至る部分があるのか妙に納得するのだが、今はそれ所ではない。
という訳で、ユーノが皆を代表するように念話を二人に飛ばし、すぐに離脱するように要求する。
幸い、二人が至近で飛び回っているお蔭で、プログラムの目は完全に二人だけに向かっており、
こちらとしては万全の準備を整える事が出来たのは不幸中の幸いとも言えるか。
ともあれ、ユーノの念話と同時に二人が戦線を離れた直後、大きな攻撃魔法が続けて放たれる。
それを観戦する二人は、ただ言葉もなく目の前の光景を見ている。

「父さ……ホワイト。俺たちが手助けする必要はあったんだろうか」

「……いやいや、俺たちは正義の味方じゃないんだ。あくまでもなのはの味方。
 つまりはなのはの傍にいて守るのが本来の役割なんだ」

少々虚しさを含むキョウの言葉に、一瞬だけ詰まるもすぐに自信満々に言い返すホワイト。
やはり、この辺りはホワイトの方が打たれ強いと言える。
無言のまま二人が見詰める先で、なのはとフェイト、そしてはやての同時攻撃が決まる。
そして、転移させられるコア。どうやら事件が無事に済んだらしいと見て取り、二人はこっそりと姿を消す。

「うーん、次は攻撃の魔法も追加させよう」

「……まだ続けるつもりなのか」

「当たり前だ。なのはの安全が掛かっているんだぞ!
 なのはの味方に休まる時などないのだ!」

ありがとうホワイト、よくやったよホワイト。
お前のお蔭でなのはの平和は守られた。だけど、戦いの日々はまだまだ続く。
この世になのはを脅かす存在がいる限り。
けれど、今は一時の休息を。
家に帰れば、愛しい妻と娘が待っているぞ。

「はぁ、いい加減、終わった後に独り言を言うのは止めて欲しいんだが……」

語られた内容に息子が入っていない事には最早突っ込む気力もなく、ただ諦めたようにそう呟く恭也。
勿論、それが聞こえているはずもなく、また聞こえていても改善はしないであろう士郎を横目に見遣り、
ただただ疲れたように溜め息を零す。
こうして、謎の剣士たちは喜び合うなのはたちに気付かれる事なく姿を眩ます。
ただ、彼らは決して居なくなった訳ではない。
本人が言うように、なのはにピンチが迫った時には必ず駆けつけるだろう。ただし、地球限定でだが。
その為の発信器、もとい、協力者が居るのだから。
ともあれ、こうして一連の闇の書事件は幕を閉じた。
そこに介入した変な剣士が居たという事は記録として記されたのかどうか、それは分からない。







おわり




<あとがき>

あははは、とうとう全く活躍できずの剣士二人。
美姫 「まあ、仕方ないわね。と言うよりも、短編だから続編は難しいと言っていたのにまたやるなんてね」
いや、もうここまでやったのならA's編は終わらせておこうかなとか思ってな。
美姫 「なるほどね」
今回は暴れるよりもおバカ中心で。
まあ、そこまで言うほど暴走してない……はず?
美姫 「さあね。ともあれ、これで全部やったわね」
だな。それでは、この辺で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」







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