『リリカル恭也&なのは』






第2話 「長い一日の終わり」






高町家のリビング。
今、ここに桃子がじっと恭也を見詰め、その足元にいる大型犬アルフと交互に見比べる。

「つまり、さっき家の前に居た人が、そのアルフちゃんの飼い主さんで、恭也の知り合いなのね」

「ああ。それで、ちょっと長期で家を留守する事になって、その間の世話を頼まれたんだ」

家の前での騒動から、場所をここへと移して始めた説明を終える。
何か考え込む桃子に、隣で頭を押さえながら恨めしげに見てくる美由希を無視して、恭也はただ黙って待つ。
ようやく、桃子がゆっくりと口を開く。

「それは良いとして、あの女性と恭也はどういった関係なの?
 大事なペットを預かるって事は、それなりに親しいって事よね。
 でも、かーさん、一度も紹介されてないわよ。どうして、なんで? ね、ね?
 そう言えば、あの子の名前も聞いてないし。住まいは? いつ知り合ったの?
 それから、それから……」

「とりあえず、落ち着いてかーさん」

「だって、だって」

うるうると器用に瞳を潤ませて見詰めてくる桃子に、恭也は多少げんなりとしつつ、
どう説明したものかと頭を抱える。
その間も桃子は話し続け、

「もしかして、恭也の彼女とか。だったら、遠慮しないで上がってもらえば良いのに。
 ああー、周りに魅力的な女の子がいるのに、全然見向きもしないと思っていたけれど、既に彼女が居たのね。
 この際、黙っていた事は許すから、今度、ちゃんと紹介してよね。
 でも、一つだけ言っておくわよ。幾らなんでも、その、恭也の趣味だとしても、外であれはちょっと……。
 ほら、コスプレって言うの? あの耳と尻尾は……。二人きりの時にする分には構わないと思うけれど」

暴走する桃子の言葉に対して、恭也が唖然となっていると、美由希が恭也に詰め寄ってくる。

「きょ、恭ちゃん、さっきの人は恭ちゃんの彼女なの!?
 い、一体、いつの間に。ねえ、本当なの!」

ずいずいと顔を近づけてくる美由希の額にデコピンをかまし、
次に未だに夢見るように喋りつづけている桃子の目の前で両手をパンと鳴らす。
驚いて黙った桃子に、ゆっくりと恭也は言う。

「まず、何を勘違いしているのかは分からんが、さっきの女性とはそういった関係ではない」

明らかにがっかりする桃子と、ほっと胸を撫で下ろす美由希に構わずに恭也は続けて言う。

「そもそも、あんな綺麗な人と俺がつりあうはずもないだろう」

続いたその言葉に、今度は桃子と美由希は揃って盛大な溜め息を洩らしつつ肩を下ろす。
それを憮然と眺めていた恭也の脳裏に、アルフの念話が届く。

≪綺麗って、あたしの事だよね? そうなの? あたしって綺麗だった?≫

「アルフ、ちょっと黙っててくれ」

「恭ちゃん、アルフは何も言ってないよ。ね〜」

言ってアルフの頭を撫でる美由希に、恭也はそっと息を吐きつつ桃子へと告げる。

「さっきの女性は昔の知り合いで、まあ詳しい事は聞かないでくれると助かる」

「んー、あんたがそう言うんなら別に良いけれど。
 で、そのアルフちゃんを預かるって事だけれど」

すんなりと恭也の言葉に納得した桃子を、アルフがやや驚いたように見上げるが、
桃子はそんなアルフに気付かずに、やや気難しい顔をしてみせる。

「ほら、うちにはユーノちゃんが居るでしょう。
 まあ、衛生面では私が気を付けるから、今更アルフちゃんが増えるのも構わないんだけれど。
 ただ、喧嘩しないか心配なのよね」

「それなら大丈夫だ。アルフはかなり賢いからな。
 ちゃんと言って聞かせれば、ユーノを襲うなんてしないよ」

「そうなの。だったら、何も問題ないわね。
 じゃあ、今日から暫くの間だけれど、アルフちゃんもうちの子よ。
 宜しくね、アルフちゃん」

言って差し出した桃子の手に、アルフは頬を摺り寄せる。
それを受けた桃子は、嬉しそうに顔を綻ばすと、アルフに抱き付く。

「いや〜ん、可愛い〜。ユーノちゃんも可愛かったけれど、アルフちゃんも可愛いわ〜♪」

「ああ、おかーさんずるい。私も、私も」

それを見た美由希がすぐさま逆側からアルフに抱き付き、アルフは困ったような視線を恭也へと向ける。
しかし、恭也はただ肩を竦めただけで、助けようとはしなかった。
仕方なく、アルフは暫くの間、大人しくされるがままになるのだった。



それから帰って来た他の面々にもアルフを紹介する。

「はー、師匠の知り合いの方のですか。えっと、食事はどうすれば良いんですかね。
 ドッグフードで良いんですか」

「ちょっと待て。……アルフ、食事はどうするんだ?」

アルフの耳元で小声で尋ねる恭也に、アルフから返事を戻る。

≪恭也、別に他人に聞かれたくない話なら、こうやって念話でやれば良いんだよ。
 今のアンタなら、グラキアフィンを介してあたしとの念話なら問題ないんだから≫

≪…………こんな感じか≫

≪そうそう、そうだよ。にしても、すぐに出来るなんて。やっぱり、恭也は魔法の素質があるんだよ。
 身内の誰かが、魔法使いじゃないのかい?≫

≪いや、そんな話は聞いた事はないがな。と、それよりも、食事はどうする?≫

≪別に普通ので構わないよ。それより、ドッグフードってのは昼に食べたスナックみたいなあれのこと?≫

≪食べたのか。多分、それだろうな≫

≪うん、あれは美味しかったね。食事とは別に、オヤツとして欲しいぐらいだよ≫

≪そうか、分かった≫

恭也はアルフとの念話を終えると、不思議そうに見ていた晶とレンへと話し掛ける。

「二人とも、食事は普通に俺たちと同じので頼む。
 一応、明日にでもドッグフードは買ってくるけれど、食事の方は二人に頼むことになりそうだ」

「そういう事なら任せてください、お師匠」

「俺たちと同じのなら、単に量を多く作るだけですし」

頼もしい言葉に恭也が礼を言う中、晶とレンは小声で会話をする。

「一瞬、師匠が犬と話しているのかと思ったぜ」

「ああ、うちもそんな気がしてもうた。でも、幾らお師匠でも、そこまではな」

「だよな。流石にそこまで人間捨ててないってな」

「そやそや」

言って笑い合う二人を不思議そうに見詰める恭也の後ろ、リビングの入り口からなのはが入ってくる。

「ただいま〜。って、お兄ちゃん、その子どうしたの!?」

なのはは入ってくるなり、恭也の足元に座り込んでいるアルフを見る。
その目はきらきらと輝き、今にも触りたそうにその手が動いている。
そんななのはの様子に苦笑しつつ、恭也は簡単にアルフを預かることになったと告げる。
次いで、アルフにはユーノを指差し、

「アルフ。こっちはユーノと言って、なのはの友達だから、襲ったりするんじゃないぞ」

「ワン」

恭也の言葉に了承するように鳴いたアルフを、美由希たちが感心したように見詰める。

「本当に賢いね、アルフって」

「ねえ、お兄ちゃん、触ってもいい」

「ああ」

恭也が頷いたのを見て、なのははすっとアルフの頭に触れる。
大人しく撫でられるようにアルフが頭を出すと、なのはは満面の笑みを浮かべて頭を何度も撫でる。

「わたしはなのは。よろしくね、アルフ」

「ワン」

なのはに挨拶するアルフを見て、またしても感心した声を上げる。
晶やレンもなのはに続き、アルフを撫でさせてもらう。

「それにしても、本当に賢いわね、アルフちゃんは」

「うん。でも、見たことない種類の犬だね」

桃子の言葉に美由希がそう答えるが、桃子はにっこりと笑い、

「まあ、可愛いからいいじゃない」

「そうだね」

本当にどうでも良さそうに言う。
それを聞きながら、美由希も同じように頷きながら、なのはからユーノを受け取り、その喉を撫でる。

「あれ、なのは、ちょっと汚れてない。ほら、髪にも何か付いてるし」

美由希が上げた言葉に、桃子がなのはの髪に付いた葉っぱを見つけて取る。

「どうしたのよ、なのは」

「うん。ちょっとユーノを追っかけて茂みの中を通ったから」

ユーノに心の中で詫びながら、なのはがそう言う。
実際は、ジュエルシードを探して町中を走り回っていたのだが。
ユーノが感じたというジュエルシードの反応は気のせいだったのか、暫くして消えてしまったのだ。
ともあれ、その際に裏山を走り、その時に付いたのだろう。
なのはの言葉に桃子はなのはの手とか顔を見渡し、何処も怪我がないようだと分かると、何も言わない。
変わりに違う事を口にする。

「それじゃあ、今日はお母さんと一緒にお風呂に入ろうか。
 久しぶりに頭を洗ってあげる」

「本当? じゃあ、おかーさんの背中を流してあげる」

「ありがとう。ユーノちゃんも一緒に入ろうか」

「駄目だよ、かーさん。ユーノは私と入るんだもん。ねえ」

美由希がそう言った瞬間、ユーノは激しく首を振るが、それが拒否しているとは美由希たちは考えず、
何か面白い仕草をしていると受け止める。
なのはもユーノを入れたいのか、美由希へと提案をする。

「だったら、お姉ちゃんもユーノくんと一緒に入ろう」

「あ、それは良いね。じゃあ、そうしようか。あ、恭ちゃんも一緒に入る?」

「入るか、馬鹿者」

言ってまたしても軽く叩かれる美由希を、なのはたちは楽しそうに見ている。
そんなやり取りの中、何となく優しい空気で満ちているのを感じながら、
アルフは少しだけ羨ましそうな目をなのはへと向けるが、それは誰にも気付かれることはなかった。
風呂上り、何故かのぼせたようにぐったりとしているユーノを団扇で扇ぎながら、
なのははぼんやりとテレビを見ている。
そのなのはの後ろで、桃子がなのはの髪を梳かしている姿を、寝そべったままアルフは見詰める。
そんなアルフの様子に気付いた恭也が、アルフへと話し掛ける。

≪アルフ、どうかしたのか?≫

≪いいや、別に≫

≪そうか。なら、良いんだが≫

恭也はそれ以上は何も聞かず、手元の雑誌へと目を落す。
暫くなのはと桃子を見ていたアルフだったが、おずおずといった感じで恭也へと念話を送ってくる。

≪なあ、恭也≫

雑誌から目を離し、じっとアルフを見詰めて先を促す。
それを受けて、ゆっくりとアルフが話し始める。

≪親っていうのは、普通はあんな感じだよね≫

≪さあ、どうだろうな。色々いるからな。あんな感じなのは、かーさんだからとも言えるし≫

≪そう。じゃあさ、自分の娘に酷く当たる親もやっぱり居るのか?≫

≪居なくはないだろうな。……それがどうかしたのか。
 良かったら、話してみろ。一応、パートーナーだろう俺たちは≫

≪うん……≫

言いよどむような様子のアルフに、恭也も同じように言いよどむが、思い切って尋ねてみる。

≪ひょっとして、助けてといっていたあの子というのと関係があるのか?≫

≪ある≫

≪そうか≫

その前の質問から何かを感じ取ったのか、恭也はそれ以上の詮索は止めて、代わりに違う事を伝える。

≪とりあえず、ジュエルシードを探して集めていけば良いんだろう。
 なら、頑張ろうな≫

≪ありがとう、恭也≫

≪気にするな。それと、さっきも言ったけれど俺たちはパートーナーなんだから、何かあったらちゃんと言えよ。
 出来る限りの事はするから≫

≪……うん≫

恭也の言葉に万感の思いでただ一言だけ返すのだった。
と、不意にアルフが顔を上げて恭也を見詰める。

≪恭也、ジュエルシードの反応!?≫

≪そうか、分かった≫

頷くと恭也は静かに部屋を出て行く。
その後にアルフも続き、二人は気付かれる事なく高町家を後にする。
一方、ユーノの方は完全に目を回しており、意識を失ったまま団扇で扇がれていた。

「うぅ〜、は、はだ……」

うわ言のように何か呟くも、慌ててなのはに口を押さえられて事なきを終えるのだった。



 ∬ ∬ ∬



外へと飛び出した恭也は、アルフへと尋ねる。

「どっちからだ?」

「あっちの方からだよ。ただ、そんなに強い反応じゃないから、まだ発動していないのかも」

「発動すると、この間みたいな靄になるのか?」

「それはちょっと違うよ。ジュエルシードは付いたものの思いに反応するんだ。
 だから、発動する形は色々って事さ。それよりも、恭也。そろそろグラキアフィンを」

走りながら頷くと、恭也は左腕に付けたグラキアフィンに右手を添える。

「翼は天に月は雫に 不滅の刃はこの腕に
 グラキアフィン、起動!」

【了解。起動します、マスター】

恭也の呪文に応えるようにグラキアフィンが白い輝きを放ち、恭也の身体を包み込む。
すぐさま光が消えると、そこには黒衣を纏い剣を手にした恭也の姿があった。

「恭也、もうすぐ反応のあった場所に着くよ」

「分かった。……ここは臨海公園か」

アルフに先導されて着いた先を見て、恭也は小さく呟く。
それでも足は止めずにアルフの後を追うと、そのアルフがようやく止まる。

「恭也、あそこ」

言われてアルフの指し示す先を見れば、海面が薄っすら蒼く輝いている。

「どうやら、海面に浮いているみたいだな」

「浮いているって事は、既に発動している可能性も……。
 恭也、何か来る!」

アルフの言葉と同時に、海面を突き破るようにして一本の触手のようなものが恭也とアルフへと襲い掛かる。
二人はその場を飛び退いてその一撃を躱すと、更に地面を蹴って後ろへと飛ぶ。
二人へと向かってきたソレは、地面へと突き刺さると途端に骨を無くしたかのようにふにゃりとなると、
すぐさま空へと浮き上がる。
その根元を辿れば蒼く光っていた海面へと伸びており、どうやら本体は海面に浮いているらしい。
それよりも、恭也はその襲ってきたものを見て、思わず唖然と呟く。

「ひょっとして、海藻かあれは」

恭也の言葉を肯定するように、うねうねと先端を天へと向けて海藻が踊るように揺れる。
海面から同じようなのがもう3本追加で現れ、恭也とアルフの頭上から二人を狙う。
襲いくる海藻の攻撃を躱し、恭也はグラキアフィンで斬りつける。
アルフも人型へと変化し、その拳に魔力を纏わせて殴る。
4本のうち2本を再起不能にすると、またしても海面から今度は4本現れる。

「これは、きりがないぞ」

「恭也、本体はあの海面に浮いて蒼く光っているヤツだから、あれを!」

「あれと言われても、どうやってあそこまで行けと」

「どうやってって、こうやってだよ」

言って向かって来る海藻を跳んで躱すと、アルフはその上を走る。
それを真似して同じように走り出す恭也の見ている前で、アルフは海藻を蹴って宙に身を投げ出す。
そして、そのまま空を飛んで本体を目指す。
そうはさせまいと海から次々に海藻が湧き出てアルフの行く手を阻もうとする。

「恭也! ちょっと、ぼうっとしてないで、助け……って、何してるの!」

後ろを振り返り、付いて来ていると思っていた恭也へと声を掛けるが、そこに恭也の姿はなく、
はるか後方で海藻の上に立っている恭也を見つける。

「何と言われてもな。俺はお前のように飛べないんだが。
 というか、そうするならすると、初めに言ってくれ。
 思わず真似をしてしまって、海のこんなど真ん中で立ち尽くす事になったじゃないか」

その間も左右から迫る海藻をグラキアフィンで薙ぎ払う。
そんな恭也の様子に頭を抱えそうになり、背後から来た海藻を殴ると怒鳴る。

「魔法で飛べば良いでしょう!」

「そんな無茶な……」

言っている間に、足場にしていた海藻が海へと潜る。
急いで恭也は他の海藻へと飛び移るが、その海藻も海へと潜ろうとする。

「ひょっとして、飛べないと気付かれたか」

再び蹴ってその身を宙にやった恭也だったが、周りの海藻が一斉に海に沈み、移る先を無くす。

「なっ!」

思わず声を洩らす恭也へと、グラキアフィンの声が届く。

【マスター、私からのイメージを受け取ってください】

「くっ」

襲い掛かってきた海藻を払い除けながら、恭也はグラキアフィンと心を繋げる。
グラキアフィンから流れてくるイメージが恭也の脳裏に伝わると、不思議な感覚がすぐさま身体を巡り、
再びグラキアフィンへと戻るのを実感として感じる。
同時に剣の鍔部分に埋め込まれているグラキアフィンの白い球面に幾何学的な文字が浮かび上がる。

【浮遊】

途端、恭也の身体がゆっくりと落下し始める。
しかも、ある程度は自由に動けるらしく、恭也の思った方向へと移動し、海藻の一撃を躱す。
しかし、落下は続いており、その上、非常にゆっくりなので、逆に格好の標的となっている。

「高速移動に変更」

【了解、マスター。飛翔】

恭也の言葉に応えるようにグラキアフィンが応えた所で、四方から海藻が襲いくる。
しかし、魔法が発動しており、恭也はその場所を高速で抜け出ると、そのままアルフの元へと飛ぶ。

「遅いよ、恭也」

「すまん。と言ってもな。どんな魔法が使えるのか未だに分かってないんだぞ」

「確かにそうなんだけれど。
 このジュエルシードを回収したら、魔法の訓練に関して話し合わないといけないね」

「確かにな。だが、今は……」

「……ジュエルシードの回収だよ」

言って二人は蒼く光る個所を目指して飛ぶ。
本体の姿が目に見える位置にようやく辿り着く。

「あれが本体。…………俺には小さな藻に見えるんだが」

「多分、間違いないんじゃないかな。
 あの藻の大きくなりたいって願いがジュエルシードによって……」

「成る程な。ともあれ、封印を。アルフ、危ない!」

恭也が振り返ってアルフを見れば、その背後から海藻が迫ってきていた。
しかし、アルフはそれを腕を振るって弾き飛ばすと、本体を守るように集まってきた何本もの海藻へと突っ込む。

「こっちはあたしが引き受けるから、恭也は早く回収を」

「分かった。グラキアフィン、いくぞ」

【了解】

グラキアフィンを肩まで持ち上げ、切っ先を前方に向けると、恭也は本体目掛けて突っ込む。
そうはさせまいと迫る海藻に目も暮れず、ただ真っ直ぐに。
グラキアフィンの切っ先が行く手を阻む海藻を切り裂きながら、やがて本体へと辿り着く。

「封印準備」

【了解。ジュエルシード封印準備】

その間にも襲い掛かってきた海藻から、恭也を守るように左腕に巻かれた鎖が伸び、
恭也の周囲を高速で回る。
鎖による防御壁の中で、恭也はグラキアフィンからの準備完了の声を聞く。

「ジュエルシード、封印!」

【ジュエルシード封印開始】

切っ先から光が溢れ、本体の身体を包む。
すぐさま変化は現れ、本体の藻が海へと戻っていくと、そこには青い宝石だけが残る。
それにグラキアフィンで触れると、宝石は吸い込まれるようにして消える。

【ジュエルシード ナンバー16、封印完了】

「ふー」

ジュエルシードが回収されるや、海面から突き出ていた海藻が元の大きさに戻りながら全て海へと沈んでいく。

「お疲れ〜、恭也〜。一日で二個も回収できるなんて、幸先が良いよ〜」

よっぽど嬉しいのか、恭也の首に抱きついてくるアルフに少し顔を紅くしつつ、恭也は今更のように思い出す。

「誰かに目撃されたかもしれないな」

「それなら大丈夫だよ。戦闘が始まった時、この辺りには結界を張ったからね」

「いつの間に」

「へへーん。あたしは補助系の魔法は結構、得意なんだよ」

「そうか。それにあの動きも中々だしな」

「だろう。前戦での補助が主な役目だからね」

うんうん頷くアルフの顔を間近で眺め、恭也は未だに抱きつかれたままである事を思い出す。

「アルフ、そろそろ離れてくれ」

「うん? まあ、別に良いけれど。ひょっとして、怒ってる?」

「いや、そうじゃない」

「本当に?」

「ああ。その、単に恥ずかしかっただけだ」

「そうなの? 照れるような事かな?」

「まあ、良いじゃないか」

この辺りの認識の違いをどうこう諭すのは無理と思ったのか、恭也はやや強引に話を打ち切ると、
岸目指して飛ぶ。
その横に並びつつ、アルフは改めて礼を言う。

「恭也、本当にありがとうね。
 あたしが思っていた以上だよ、アンタ」

「それはどうも。だが、まだまだ先は長いな」

「だね。でも、絶対に全部集めてみせるよ」

「ああ、頑張ろうな」

こうして、ようやく、恭也の不思議な出会いから始まった長い一日が終わるのだった。





つづく、なの




<あとがき>

今回は恭也のみ〜。
美姫 「恭也は新しい魔法を覚えたのね」
みたいだな。
美姫 「でも、日本語なのね」
それはほら、マスターとなった時の関係だからね。
美姫 「魔法まで、日本語なのね」
いや、その方が面白いだろう。
美姫 「あ、あんたって奴は〜」
あははは〜。
美姫 「それじゃあ、また次回で〜」
ではでは。



美姫 「次のお話は、一話のとあるシーンからです〜」
ちょっとしたお遊びで、本編とは何の関係もありませんので、あしからず。





なのはの前に幕のようなものが現れ、化け物を弾き飛ばす。
吹き飛んだ化け物を見てユーノがなのはへと指示を出す。

「なのは! あの思念体を停止させるには、レイジングハートで封印をするしかない」

「そ、そんな事を言われても…」

「大丈夫。レイジングハートの声を聞いて」

「レイジングハートの声……」

目を閉じ、レイジングハートと心を通わせる。
自然と腕が動き、口が動く。

≪Sealing Mode. Set up≫

杖が変化し、そこへ再三、化け物が突っ込んでくる。
それを静かに見据え、なのははレイジングハートを振りかざす。

「汝のあるべき姿に…。クロ…」

「待つんや、なのは〜! それは、それは違う番組や〜」

「あ、そっか。えへっ。って、ユーノくんも、喋り方が違うよ」

「ご、ごめん、つい…」







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