『リリカル恭也&なのは』






第3話 「それはある休日の午後、なの」





日曜日の午前。
恭也は忍の家へと来ていた。

「いらっしゃいませ、恭也さま、なのはさま」

玄関前まで出てきたノエルに、恭也は足元へと視線を落とす。

「アルフも中へ入れても良いか? 駄目なら、外で待たせておくが」

「構わないと思いますけれど。少々、お待ちください。忍お嬢様に聞いてみますので」

言って奥へと引っ込むノエルを待つ事暫し、すぐに二人はアルフを連れて中へと招かれる。

「いらっしゃい、恭也、なのはちゃん」

「いらっしゃいませ、恭也さん、なのはちゃん」

忍に続き、挨拶してくるすずかへと恭也となのはも挨拶する。
それが終わると、すずかはなのはの肩に乗るユーノへと視線を移す。

「それが、ユーノちゃんなんだね」

言ってユーノに手を伸ばして頭を撫でる。
その目が次いで恭也の連れている大型の犬へと移り、ちょっとだけ驚いた顔を見せる。

「大丈夫だよ。噛んだりしないから」

「はい。この子がアルフちゃんですね。なのはちゃんから聞きました。
 触っても良いですか?」

尋ねるすずかに頷いてみせると、アルフは頭を少し下げて見せる。
それを見て顔を輝かせると、アルフの頭を撫でる。
一方、忍は少し拗ねたような顔を見せる。

「私、その子の事なんにも聞いてない〜」

「……確かに話した覚えはないな。うん」

「ぶー。犬を飼ったのなら、教えてくれても良いじゃない」

「飼ったんじゃなくて、少しの間、預かっているだけだ」

「それでもよ。すずかには話して、私には話してないなんて」

「いや、誰にも話した記憶はないぞ。
 大体、今、なのはから聞いたと言っていただろうが」

拗ねる忍に呆れ顔の恭也。そんな二人を交互に見遣り、すずかは困ったような顔を見せる。


「ほら、みろ。おまえがそんな事を言うから、すずかちゃんが困っているだろう」

「そ、そんな事は……」

「はいはい。私が悪かったですよ〜」

言ってイーとして見せると、忍は飲みかけのカップに口を付ける。
本気で怒っている訳ではないと分かっているので、恭也は軽く肩を竦めると適当に空いている場所に腰を下ろす。
なのはとすずかはユーノを弄って遊んでいる。
アルフは早々に恭也の足元で丸々と、目を閉じる。
ユーノのように、弄られるのが嫌で早々に逃げてきたといった所だろうか。
そこへノエルが盆を手に戻って来ると、恭也となのはにそれぞれ飲み物を渡し、
アルフの前にはミルクの入った皿を置く。
それを飲みながら、忍は恭也へと話し掛ける。

「で、今日はどうしたの? 何か約束してたっけ?」

「いや。なのはが、すずかちゃんと約束していたみたいでな。
 それで、送ってきた」

「ふんふん。相変わらず、いいお兄ちゃんやってるわね」

忍の言葉に無言でカップに口を付ける恭也に、含み笑いをして見せると隣へと移る。

「じゃあ、恭也は今日は暇? なら、一緒に遊ぼうよ」

言って腕を絡めてくる忍に、恭也は首を振る。

「悪いけれど、今日はちょっと出かける予定があってな」

「出かけるって、誰と!? まさか、女の人とじゃ」

「いや、女の人と言えば、そうなんだが」

「だ、誰よ!」

「ア、アルフとだ。何をそんなに怒っているんだ。とりあえず、落ち着け」

「アルフって、この子よね」

「ああ」

「た、確かに女の子なんだけれど。
 恭也、紛らわしい言い方しないで」

「何か知らんが分かった。次からは気をつけよう」

恭也の言葉に忍はほっと胸を撫で下ろし、思ったよりも近い距離にいる恭也の胸に顔を埋める。
最近は、忍の過剰なスキンシップに慣れてきていた恭也だったが、流石にこれには驚く。

「し、忍!?」

「うっふふふ〜。忍ちゃんを驚かせた罰よ〜。
 でも、こんな美少女に抱きつかれているんだから、罰にはならないか?」

言いつつ、恭也の顔を間近から見詰める。
恭也は照れて顔を背けつつ、もごもごと口の中で呟く。

「忍が美少女という所は否定しないが、少し離れてくれると……」

恭也の言葉に忍は照れつつも嬉しそうな笑みを浮かべ、更に抱き付く。
それを引き離そうとする恭也。
そんなやり取りを、なのはとすずかは笑みを浮かべて笑いつつ、小声で話す。

「アリサちゃんが見たら、絶対に怒るね、あれ」

「うん。でも、忍お姉ちゃん、良いな」

思わずポツリと呟いたすずかをまじまじと見詰めるなのはと目が合い、すずかは恥ずかしそうに俯く。
そんなすずかの仕草を可愛らしいと感じつつ、なのははようやく忍を引き離した恭也を困ったような顔で見詰める。

(お兄ちゃん…………)

何処か達観したような溜め息を吐くなのはを、ユーノが不思議そうに見詰めていた。

それから少しして、帰りはノエルに送らせると言う忍とノエルに礼を言うと、
恭也とアルフは月村邸を後にするのだった。



 ∬ ∬ ∬



忍の家を恭也たちが去って暫くして、再び月村邸へと来客を知らせるベルが鳴る。
ノエルに連れられて入ってきたのは、なのはやすずかの友達のアリサだった。
どうやら、三人で遊ぶ約束していたらしい。
アリサもユーノを見たかったらしく、真っ先にユーノを抱く。

「可愛いわね。次は、アルフを見せて欲しいな。
 ねえ、なのは、次はなのはの家に行っても良い?」

「別に良いけど」

さっきまでアルフが居た事を言うべきかどうか悩むなのはの後ろから、忍があっけらかんと口にする。

「アルフって、さっき恭也が連れて来ていた犬の事でしょう。
 アリサはまだ、見てなかったんだ」

ただ思ったことを口にしただけの忍だったが、アリサはもの凄い勢いで振り返ると、忍へと尋ねる。

「さっきまで恭也が居たの?」

「へっ? あ、うん、居たけれど?」

「まさか、忍と約束でもしてたの!?」

「ううん。単になのはちゃんの送り迎えよ」

「そう、そういう事ね。なら、良いわ」

「えっと、アルフの話だったんじゃ……」

遠慮がちに口にしたなのはに、アリサはあっさりと返す。

「それはもう良いのよ。だって、今度なのはの家に行って見せてもらうから。
 今日は、ユーノと遊ぶから」

言って逃げようとしていたユーノの首を掴んで抱き寄せる。
そんなアリサの背中と、それを見ているすずかの横顔を眺めながら、忍は頬杖を付いてぼやく。

「本当に節操なしよね、恭也ってば」

「その言い方では誤解を招くかと思われますが、忍お嬢様」

「似たようなもんじゃない」

「全然、違うかと」

主従がそんな会話をしている所へ、アリサが口を挟んでくる。

「忍、自分が恭也に相手にされないからって、ひがむのはみっともないわよ」

「だ、誰がっ!」

「ふふーん。恭也も忍よりも私の方が可愛い事を知っているのよ」

「アリサ、女性に対する可愛いと子供に対する可愛いは似て非なるものよ」

「勿論、私は前者よね」

「その根拠のない自信は何処からくるのかしらね?
 大体、本当にアリサに手を出すようなら、恭也ってば……」

「別に今すぐじゃないわよ、もう少しだけ待ってもらうもの。
 大体、年齢差だって、私が9歳で恭也はじゅう……。一年留年しているから……。
 たったの10歳差よ!」

「はいはい」

忍はバカにしたように手をヒラヒラとさせて取り合わない。
それに悔しそうに地団太を踏むアリサ。
これもいつもの事なのか、なのはとすずかは顔を見合わせて苦笑を交わすと肩を竦めるのだった。



 ∬ ∬ ∬



≪で、何処に行くんだアルフ≫

≪それは分からないよ。まだ、ジュエルシードの反応はないからね。
 だから、何処でも良いから、適当に連れて行ってくれ。出来れば、この街の外が良いかな≫

≪この街はもう良いのか?≫

≪今の所はね。それらしいのも感じないし。だったら、他へと行った方が良いだろう≫

≪とはいえ、移動手段がな≫

≪あの電車とかいう奴は?≫

≪あれはアルフと一緒だとな≫

≪ああ、そういう事ね≫

アルフは何か納得したように頷く。

「なら、これで問題ないだろう」

「って、行き成り人型になるなよ。誰かに見られたら……」

「大丈夫だって。誰も居ないから、こっちの姿に戻ったんだから」

「そうか。まあ、それなら問題ないか」

耳や尻尾に関しては、そういったアクセサリーがあると美由希が言っていたのを思い出し、
そんなに気にしない事にして恭也は駅へと向かう。
尤も、そういったアクセサリーを普段、普通に付けている者がいるかどうかは別なのだが。
尻尾に関しては、服の裾に隠れているから、まあ良いとしても耳はどうなんだろうか。
しかし、ファッションに疎く、ある意味世間知らずな恭也は美由希の言葉をそのまま鵜呑みにして歩く。
道行く人々がアルフを見るのも、その容姿故の事だろうと考え、人の多くなる駅前へと進んで行くのだった。
恭也の横に並びながら、アルフはきょろきょろと周囲を見渡す。

「なあ、恭也。何かさっきからじろじろ見られている気がするんだけれど」

「気にするな。アルフが綺麗だから、皆が見ているだけだ」

口にするのは恥ずかしかったが、言わなければ伝わらないと恭也は諦め半分でそう口にする。
それを聞いた途端、アルフは機嫌よさげに鼻歌などを歌いだす。
人々の視線を集めつつ、恭也とアルフは電車に乗って少しだけ遠出をするのだった。



 ∬ ∬ ∬



昼食をご馳走になり、ゲームをしたりして遊んでいたなのはたちだったが、不意にユーノが庭へと出て走りだす。

「ああ、ユーノくん待って!
 アリサちゃん、すずかちゃん、わたしユーノくんを探してくるから」

「私たちも手伝うわ」

「ううん。アリサちゃんたちはここに居て、ユーノくんが戻ってきたら教えて欲しいの」

「そう。分かったわ。でも、見付からないようだったら、すぐに連絡しなさいよ。
 私たちも一緒に手伝うから」

「うん、ありがとう」

そう言ってなのははユーノが消えた方へと走り出す。月村邸の隣に生い茂る林へと入って進んでいくと、
すぐにユーノは見付かる。
しかし、なのははユーノを抱き上げると、そのまま月村邸へとは戻らずに更に奥へと入っていく。

「ジュエルシードの反応だよね」

「そうだよ。このまま真っ直ぐに」

「うん」

ユーノの言葉に従って林の中を突き進む。
既にレイジングハートを杖へと変形させたなのはは、見晴らしの良い小さな丘の頂きに立つ。

「ユーノくん、どっち」

「あの向こう」

言ってユーノが指差した方、あまり住宅のない、それ故に道のないその先から、なのはも何かを感じ取る。

「って、遠いよ〜」

ユーノが何か言うよりも早く、レイジングハートがなのはへと話し掛ける。

頭へとイメージを送り込まれてくるようなそれに、なのはは抵抗も何もなく目を閉じてレイジングハートを掲げる。

【Flier fin】

なのはの靴に小さな桜色の羽根が生え、なのはの身体がふわりと宙に浮かび上がる。
ユーノは慌ててなのはの肩へと飛び移る。
しっかりと掴まっているのを確認すると、なのははユーノが指差した先へと飛ぶ。
無数の木々を眼下に収めながら辿り着いた先では、一際大きな木の枝がうねうねと蠢いていた。

「ひょっとして、あれ?」

「そうみたいだね」

話している二人へと、木の枝が鞭のようにしなって襲い掛かる。
奇しくも、それは恭也たちが二つ目のジュエルシード時に戦った海藻のような攻撃だった。
なのはの枝を躱すと一旦、上空へと距離を取る。

「封印するためには、ある程度弱らせないと駄目だよ、なのは」

「でも、近づけないよ」

「諦めないで。レイジングハートを信じて!」

蠢く枝に弱音を吐くなのはに言ったユーノの言葉になのはは強い輝きを瞳に宿して頷く。

「そうだね。折角、レイジングハートがマスターと認めてくれたのに、簡単に諦めたら駄目だよね。
 ありがとう、ユーノくん。それと、ごめんねレイジングハート」

【I see.】

「って、それよりも今気付いたんだけれど、あれって他の人に見られたら……」

大きな木のため、人通りの少ない場所とは言え、目撃者が出る恐れがあった。
なのはに言われてユーノもその事に思いつくと、地面へと降ろしてもらう。
木より離れた地に降り立つと、なのはの肩より飛び降りる。
一瞬、ユーノの身体が光ったかと思うと、そこにはなのはと同じ年頃の男の子が現れる。

「え、えっと〜。どちらさまでしょうか〜」

「何を言ってるんだよ、なのは。僕だよ、僕」

「もしかし、ユーノくん!?」

「そうだけれど。何でそんなに驚いて……。
 あれ? ひょっとして、僕の本当の姿って初めてだった?」

「う、うん。って言うか、そっちが本当の姿なの!?」

「そうだけれど。あ、やっぱり知らなかったんだ」

(え、え。じゃ、じゃあ、わたしはユーノくんと一緒にお風呂に…………)

(そ、それで、僕を風呂に入れたりできたんだ…………)

お互いに無言で顔を真っ赤にして俯く。
何とも言えない沈黙が降りる中、レイジングハートが時間がないと告げる。
それを聞いて顔を上げた二人は、すぐさま行動に移る。
再び宙に浮かび上がるなのはに、ユーノが告げる。

「今から封時結界を張るから」

「封時結界?」

「詳しくは後で。早い話、あの木の周辺を結界で覆って、普通の人には見えなくするんだ」

「分かった。それじゃあ、私は攻撃する方法を考える」

言って飛んでいこうとするなのはに、またしてもレイジングハートからイメージが送られる。
なのははそれを受け取ると地面へと降り立つ。
それを不審に見ながらも、ユーノはまずは結界を張ることに集中する。
合わさった掌からライトグリーンの光が溢れ、ユーノを中心に魔法陣が浮かび上がる。
ユーノの言葉と共に、辺りをドーム状の幕が覆い尽くす。
結界を張り終えてなのはを見ると、目を閉じレイジングハートを胸の前に掲げていた。

「レイジングハート、シューティングモード」

【Yes,master. Shooting Mode. SetUP】

レイジングハートがなのはに答えると、杖が変形していく。
先端がU字型へと変わり、少し長くなった杖を両手で構え、先端を木へと向ける。
なのはの足元に桜色の魔法陣が浮かび上がり、杖を中心にして包むように帯状の魔法陣も形成される。
先端の赤いレイジングハートへとなのはの魔力が収束する。

「す、凄い……。やっぱり、なのはは凄い。
 まだ二回目なのに、長距離の砲撃魔法を使えるなんて……。
 それに、この魔力量……」

驚きに目を見張るユーノの前で、なのはは木へと狙いを定めると、

「いっけー! ディバインバスター!」

【Divine buster】

なのはの叫びと共に、帯びのように真っ直ぐに魔力が放出され、そのまま木へと突き刺さる。
ディバインバスターを喰らった木は、すぐさま活動を停止し、元の木へと戻る。
その周囲をなのはの魔力の残滓だろうか、桜色のまるで花びらみたいなものがヒラヒラと舞う。
その中に、一つだけ色の違う、青い光が目に映る。
そこへとなのはは一気に飛ぶと、そのままジュエルシードを回収する。

【Receipt No.W】

無事にジュエルシードを回収するなのはを後方で見詰めつつ、
ユーノは改めてなのはに協力してもらえて良かったと思うのだった。





つづく、なの




<あとがき>

今回はなのは〜。
美姫 「なのはも新しい魔法を覚えたわね」
そして、なのはの主力の一つとなる長距離魔法も。
美姫 「さてさて、そろそろあの子が出てくるのかしら?」
それはまだだ。
美姫 「って、いつ出るのよ」
冗談だ。
美姫 「じゃあ、次回出るの?」
さて、それじゃあ、また次回で〜。
美姫 「って、まだ何も考えてないのねー!」
あはははは〜。







ご意見、ご感想は掲示板こちらまでお願いします。



二次創作の部屋へ戻る

SSのトップへ