『リリカル恭也&なのは』






第5話 「外は危険がいっぱい?」





「なかなか、ジュエルシード見付からないね、ユーノくん」

「うん。ある程度、活性化しないと感知できないから」

休日という事もあり、いつもよりもゆっくりと朝の時間を過ごしたなのはが着替えながら言った言葉に、
背中を向けたままユーノが答える。

「じゃあ、今日はちょっと遠くに行ってみよう」

「ありがとう、なのは」

髪をリボンで纏め上げると、なのははユーノへと手を伸ばす。
横から伸びてきたなのはの手に乗り、肩へとよじ登る。

「それじゃあ、行こうかユーノくん」

「うん」

部屋を出て下へと降りたなのはに、読んでいた新聞から顔を上げて恭也が声を掛ける。

「どこか出掛けるのか、なのは」

「うん」

「アリサたちとの約束か?」

「ううん、違うよ。ユーノくんと散歩しようと思って」

「そうか。なら、今日は大人しく家にいろ」

「えー、なんでー!」

理由もなく恭也がこんな事を言うはずがないと分かっていても、つい不満の声が出る。
そんななのはに、恭也の隣りでテレビを見ていた美由希が笑いながら説明する。

「恭ちゃんはなのはを心配しているんだよ」

「でも、幾らなんでも過保護すぎるんじゃ……」

美由希の簡単な説明に、流石のなのはも苦笑する。
その美由希の頭を軽くはたくと、恭也はなのはへと自分で説明する

「ったく、お前は省き過ぎだ。
 実はな、隣り街でサーカスの虎が逃げたらしい」

「虎が!?」

「ああ。まだ、見付かってもいないそうだ。
 だから、家に居るように言ったんだ。ったく、それをこの馬鹿弟子が」

「うぅ。ちゃんと、後で言うつもりだったのに」

「疑わしい」

「恭ちゃんが信じてくれないよ〜〜、なのは〜〜」

「えっと、今回の事に関しては、お姉ちゃんが悪いような気もしちゃうなのはなのです」

「うぅ、なのはにまで……」

白々しく泣く真似を見せる美由希を無視して、再び新聞に目を落とす恭也。
その横で美由希はわざとらしく声を上げる。

「あーあ。私も予定はないから、那美さんの所でも行こうかな〜」

横目でしっかりと恭也を捉えつつ上げた声に、恭也はチラリと美由希を一瞥すると、

「そうか、気を付けてな。ああ、那美さんを連れて外へは出るなよ」

「うぅ、この扱いの違い。恭ちゃん、他に言う事はないの!?」

「他にか? ああ、大事なことを忘れていたな」

「そうそう、それだよ」

期待するように見詰める美由希に、恭也は真剣な顔で告げる。

「例え、相手が虎とはいえ、刀が通じる以上、負ける事は許さんからな。
 もし負けたら、素振り千だ」

「う、うぅぅぅ。負けた時点で、私の命は無事なのでしょうか。
 その前に、幾らなんでもそれは酷すぎるよ、恭ちゃん」

そんな、ある意味では、いつもと変わらない兄と姉の会話をなのははただ笑って眺める。
その後、部屋へと戻ったなのはは、ユーノと顔を見合わせてお互いに困った顔をする。

「どうしようか、ユーノくん」

「なのはのお兄さん、恭也さんの言う通り、今日は大人しくしていた方が良いかもね。
 まあ、いざとなったら、なのはは魔法が使えるから大丈夫だけれど、
 恭也さんはそれを知らないから、出かけると心配させると思うよ」

「だよね」

などとなのはが悩んでいる頃、リビングでは読み終えた新聞を仕舞って、恭也が立ち上がる。

「あれ、恭ちゃん、どうしたの?」

「ああ。ちょっとアルフの散歩にな」

「散歩って、さっきなのはに言ってた事と違うよ」

「美由希、熊殺しというのを聞いた事はないか?」

「な、何、突然」

突然、恭也が言った言葉に目を白黒させる美由希へ、恭也は良いからと知っているかどうかの返答を促す。

「お酒……じゃないよね、この場合」

「ああ。だが、虎殺しというのは、聞いた事がないだろう」

「うーん、ないかな。……って、恭ちゃん、まさか」

「冗談だ。幾らなんでも、そんな事をするか」

「だ、だよね。幾ら恭ちゃんでもね。あははは。
 って、散歩は本当なんだね」

「まあな。もし、虎に出会っても、逃げるぐらいなら何とかなるだろうしな」

恭也の言葉に納得すると、美由希も立ち上がる。

「じゃあ、私も散歩付いて行くね。
 アルフ、恭ちゃんとばっかり散歩してるんだもん。私もたまには散歩させたいよ」

「……駄目だ。美由希、外は虎が居るかもしれないんだぞ」

「大丈夫だって。私だって、逃げるぐらいなら。
 それに、いざという時は恭ちゃんが居るし」

美由希の言葉に恭也は困ったように少し上を見上げ、言葉を考える。

「やっぱり駄目だ。お前を危険な目に合わすわけにはいかんからな」

「さっきと言っている事が違うんだけれど……」

言いつつも、美由希も満更じゃないような顔を見せる。
それを見て、ここぞとばかりに畳み掛ける。

「兎に角、今日は大人しく家にいるんだぞ」

「……うん、分かったよ。丁度、読みかけの本もあるし」

「ああ、それでも読んでいろ」

そう言って美由希が付いて来るのを阻むと、先にリビングから出ていたアルフを伴って恭也は外へと出て行く。



 ∬ ∬ ∬



家から外へと出た恭也とアルフは、特に目的地も決めずに歩いて行く。
住宅地を普段、学校へと行く方向とは逆へと歩いて行く。
ずっと歩いていくと、徐々に民家だけでなく建物自体が少なくなっていき、喧騒もなくなっていく。
恭也は隣街との間にある山の舗装された道を歩いて行く。
交通量の殆どない道を、横に竹やぶを見ながら歩く恭也の横を一緒に歩いていたアルフが話し掛けてくる。

「ねえ、恭也」

「おいおい、念話じゃなくて普通に話すなよ」

「大丈夫だろう。周りにはあたしたち以外、誰もいないんだし」

「まあ、そうだな」

ここで同意する辺り、美由希やなのはに言わせれば、ちょっと普通ではないという事になるのだが。
ともあれ、恭也はアルフに話し掛けてきた理由を問い掛ける。

「いや、何処に行くのかと思って」

「別に目的地がある訳じゃないんだが、とりあえずまだ調べていない隣街に行こうと思っている」

「隣街? だったら、電車に乗れば早いんじゃ」

「いや、先日の件で、それはもうこりた。
 それに、隣街ならそう遠くないしな」

「そう、まあ別にあたしは良いけど。
 でも、先日の件って、あの耳や尻尾の事?」

「ああ」

「それなら、帽子を被れば良かったんじゃないの?
 尻尾の方は、たまにあんなのを見たから問題ないだろうし」

「…………それを早く言って欲しかった」

「気付いてなかったんだね。
 あ、それじゃあ、耳や尻尾を仕舞う事は出来ないけれど、
 ないように見せる事は魔法で出来るってのは知ってた?」

「……アルフ。頼むから、本当にそういうのは先に教えてくれ。
 次からは、それで頼む」

「分かったよ。でも、気を付けないといけないよ。
 さっきも言ったけれど、ないように見せるだけで、触ればそこに何かあるって分かるんだから」

「ああ、分かった。つまり、耳や尻尾のある所を触れさせないように注意すれば良いんだな」

「そういう事♪」

「……って、それはお前が気を付けることだよな」

「そだよ」

「……はぁ」

何か疲れつつも、恭也は坂道を登って行くのだった。



暫く歩いていると、不意にアルフが足を止めて空を見上げる。
すぐに唸り声を上げつつ、横の竹やぶに向かって身構える。

「どうした、アルフ」

「何か居る」

全身の毛を逆立てて言うアルフに、恭也は竹やぶの向こうを見遣る。

「まさか、本当に虎と遭遇したか」

どうするか考える恭也の横で、アルフが急に弾かれたように恭也の顔を見上げる。

「恭也! ジュエルシードの反応だ!」

「この向こうからか」

恭也の言葉に頷くと同時、アルフは身構えていた先へと走り出す。
その後を恭也も追い、二人は竹やぶの中へと入って行く。
昼前だというのに、日が差し込まずに薄暗い中、二人が辿り着いた場所には、一匹の獣が居た。
大きさは、後ろ足で立てば4、5メートルといったところか。

「今までと違い、随分とはっきりとした形だな」

今まで闘ってきた靄や触手を思い出して言う恭也に、アルフは緊張気味の声で告げる。

「恭也、今度のは手強いよ」

「油断するつもりはない」

言うと同時にグラキアフィンが光り、恭也は変身を終える。
同時、獣が後ろ足で力強く跳躍し、二人の頭上に襲い掛かる。
それを楽に躱し、獣へと斬り掛かる恭也。
しかし、獣はすぐさま地を蹴ると竹を蹴って更に上へと昇る。
竹から竹へと跳んで、その姿が遥か頭上へ。

「何て身軽な」

「恭也、呑気に構えている場合じゃないよ。
 そろそろ、来るよ!」

アルフの警告通り、かなりの上空から獣が一直線に恭也たち目掛けて降りてくる。
重力に引かれて落下する獣は、徐々にその速度を増していく。
受け止めるのは無理だという事は明白で、恭也とアルフは再びそれを躱す。
獣は、あれだけの速度で落下してきながら、楽々と着地をする。
いや、躱されるや否やまたしても跳ぶ。
またしても同じように上へ、上へと昇って行く。

「ひょっとして、このまま避けつづけている限り、これの繰り返しじゃないだろうな」

「そんなの、あいつに聞かなきゃ分からないよ!」

言いつつ、三度目の攻撃を躱す二人。
やはり、獣は同じように跳躍をする。

「気のせいではないんだろうな」

「攻撃の度に速度や威力が上がってるって事なら、気のせいじゃないだろうね」

「やっぱりか。つまり、止まる事無く繰り返すことによって、
 俺たちが避けてきた攻撃のエネルギーも累積しているって事か」

「全部がそのまま累積されていないだけ、ましかもね」

「物理的にありえるのか?」

「恭也の言う物理が何を指すかは分からないけれど、恭也が使う魔法はその物理にそったもの?」

「なるほど。大変、よく分かった」

五度目の攻撃を躱す恭也とアルフだったが、二人の言う通り、その速さは最初の頃とは全く違っていた。

「ともあれ、このままだといずれ掴まるな」

「どうするの?」

六度目の攻撃を躱した直後、獣の後を追うように恭也も地面を蹴る。

「こうする」

【飛翔】

恭也は獣の後を真っ直ぐと追って宙を舞う。
獣が頂点に達して反転し、こちらへと落下を開始する。
上から獣が、下から恭也が、互いにすれ違う。

「くっ」

「GUUU」

互いに相手に致命傷は与えられなかったものの、軽い傷を負わせる。
恭也は反転して地面へと向かい、獣はまたしても上へと昇る。
再度の交差は、獣が竹を蹴って恭也の横から前足の爪を伸ばす。
完全に横を取られた恭也だったが、獣と違って空中での移動が自由に出来るため、それを簡単に躱すと、
逆に獣の爪を切り落とす。
空中は不利と悟ったのか、獣はすぐさま着地すると、まだ空中に居る恭也を無視してアルフへと向かう。
獣の爪とアルフの爪がぶつかる。
力では獣の方が上なのか、アルフは力比べをせずに地面を蹴って獣の後ろへと跳ぶ。
それを追おうとした獣の鼻先に、グラキアフィンの鎖が伸びて当たる。
小さく悲鳴めいたものを上げ、獣は距離を開ける。

「さて、どうする恭也」

「あちらの出方次第だな」

その二人の視線の先で、獣は後ろ足で地面を擦るように蹴る。
一直線に向かって来る獣の突撃を、二人は躱す。
獣は止まる事無く突き進み、その先にあった竹を何本も倒してようやく止まる。

「……で、何か良い案は?」

「普通に受け止めるのは無理だろうね」

これでは上下の動きが水平になっただけじゃないかと思いつつ、再度向かって来る獣の攻撃を躱す。
二人が躱した後ろで、バキボキと竹がなぎ倒される音が響く。

「アルフ、奴の目を晦ます事はできるか」

「それぐらいなら」

言うと同時、アルフの足元にオレンジ色の魔法陣が浮かび上がり、
アルフの周囲に三つ程の弾が生まれる。

「フォトンランサー・マルチショット!」

アルフの言葉と共に、金色に輝く弾は、こちらへと再度向かって来る獣へと向かう。
伸びたように獣へと向かう三つの弾は、一つは獣の顔に、残る二つが手前の地面へとぶつかると同時に、
小さく炸裂して煙を巻き起こす。
それを突き破るように、実際は途中で止まることができないのか、獣が姿を現す。
その時には既に恭也はその獣のすぐ傍、獣の頭上にその身を置いていた。
そのままグラキアフィンを背中に突き立て、後は獣自身の速度で斬り裂く。
悲鳴を上げながらも、やはり止まれずに走り抜けた獣は、フラフラになりながらも体の向きを変える。
そこへ、グラキアフィンの鎖が襲い掛かり、その体を拘束する。
グラキアフィンの切っ先を獣へと向けると、その先端に小さな黒い魔法陣が浮かび上がる。
そこへ魔力が収束し、拳大の弾を形成する。

【ショット】

グラキアフィンの声を合図に、魔力弾が打ち出され、それは獣へと当たり、咆哮を上げさせる。
ゆっくりとその体を倒した獣の体が、小さくなっていき、最後には普通の虎になる。
その頭上には、青く輝く宝石があった。
恭也はジュエルシードへとグラキアフィンを向ける。

【封印準備完了】

「封印」

【了解】

グラキアフィンの鎖がジュエルシードを絡め取り、グラキアフィン本体である白い宝石の中へと取り込む。

【ジュエルシード ナンバー10 封印完了】

「はぁー。終わったな」

「お疲れさん、恭也。しかも、またしても新しい魔法を習得だね」

「いや、俺が使ったというより、グラキアフィンが勝手に使ってくれたといった感じだがな」

「それが、グラキアフィンに選ばれたって事だよ」

「そうなのか?」

【はい】

「そっか。ありがとうな」

【どういたしまして】

グラキアフィンと会話する恭也へ、アルフが虎の方を見ながら尋ねる。

「恭也、あれはどうするの?」

「とりあえず、警察に連絡するか」

何処も怪我しておらず、ただ気を失っているだけだったのに胸を撫で下ろすと、恭也は携帯電話を取り出す。
が、普通に警察に掛けても、どう説明すれば良いのか分からず、かといって、
通報だけしてこの場を去ったとして、その後に虎が目を覚ました事を考えると、
簡単に離れる訳にもいかなかった。
それで結局……。

「うわー、本当に気を失ってるね、見事に。
 しかし、御神流ってのは、修行で虎殺しもやるのかい?」

「まさか」

「分かってるよ、冗談だ。まあ、こいつの件は僕が何とかしておくよ」

そう言って笑うシルバーブロンドの女性、リスティに恭也は礼を述べる。
警察関係者であるリスティは、恭也がやっている剣術の事を知っており、
恭也ならこれぐらいやっても不思議ではないと、あっさりと恭也の言葉を信じる。
「虎が出てきたので、とりあえず気絶させた」という、かなり端折った、それも無茶苦茶な言い分を。
ともあれ、恭也としては深く聞かれずに助かったので、再度礼を言うと家へと戻る。

≪あの説明で納得する方もする方だけどね≫

≪まあ、そういうな。それだけ、信用してもらっているんだと、思っておこう≫

そんな会話をしつつ、二人は高町家へと帰って行く。
しかし、リスティからその話が高町家へと当然のように伝わっており、
家に帰った恭也は、いきなり妹たちに詰め寄られる事となる。

「お兄ちゃん、本当に虎を狩りに行ってたの!?」

「何でそうなる。というか、そんな事を言った覚えもないんだが」

「いや、でも流石、師匠。でも、よく見付かりましたね」

「だから、虎を探しに行ったんではなく、たまたま出くわしたんだ」

「まあまあ、お師匠。ともあれ、これで虎殺し達成ですな」

「殺してない」

「恭ちゃん、まさかとは思うけれど、御神流の試験みたいなのにそんなのないよね。
 それをしないと、皆伝できないとか」

「そんなもんはない」

げんなりとした表情で、美由希たちにもリスティと同じ説明をすると、何とも言えないような表情を見せつつも、
何とか納得した様子を見せる。
疲れたようにソファーに身を委ねる恭也だったが、彼はまだ知らない。
この後、帰宅した姉と母による同じような口撃が起こると言う事を……。





つづく、なの




<あとがき>

さてさて、恭也たちの新魔法。
美姫 「それは良いんだけれどさ。まだなの出番」
ふっふっふ。お待たせしました!
遂に、あの子の登場です。
次回、次回、遂に!
美姫 「本当!?」
多分、二、三行だけ。
美姫 「この馬鹿!」
ぶべらぁぁっ!
美姫 「それを出番と言うの!」
じょ、冗談だったのに……がく。
美姫 「そういうのは、もっと早く言わなきゃ。
    それじゃあ、次回でね〜」







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