『リリカル恭也&なのは』






第7話 「闇夜に舞う少女」






海鳴より離れる事少し。
街さえも眠りについたかのように静けさのみが漂う中、夜の矢後市上空を一つの影が翔ける。
ひたすら真っ直ぐに進むその姿を目撃した者はおらず、
目撃者も居ないまま影は、街外れの廃ビルへと突っ込む。

「……ここからジュエルシードの気配がしたと思ったんだけれど」

閃光、いや、少女はビルの中、剥き出しとなったコンクリートに足を付けて周囲を見渡す。
窓もなく、天井だけではなく壁や床にさえも所々に穴が開いているお陰で、
微かながらも星の明かりが差し込んでくる。
それを頼りに周囲を見渡しながら、ゆっくりと歩く少女、フェイトの背後の床が小さく震える。
あまりにも小さな振動だったため、歩いているフェイトは気付かずに進む。
が、ふと不穏な空気を感じて足を止める。
同時、少女がその手に握った杖――デバイスから警告の声が響く。

【master! It takes care】

意志を持ったデバイス、
インテリジェントデバイスの警告の声にフェイトは考えるよりも先に地面を蹴って前へと飛ぶ。
その直後、フェイトの背後の床が盛り上がり、噴火するかのように下から上へと何かに突き破られる。

「ありがとう、バルディッシュ」

自身の持つ杖へと礼を述べつつフェイトは身体を反転させ、今しがた床を突き破って現れたものと対峙する。
突き破った床の穴からぬらぬらした鱗を見せ、
先端が二つに分かれた舌をシュルシュルと出しては仕舞うことを繰り返しながら、
ソレは紅い目でフェイトを見下ろす。
蛇そっくりの外見を持つソレは、しかしその大きさが異常に大きかった。
床から生えた頭部分だけでもフェイトよりも大きく、フェイトなどはまさに一飲みといったところか。
フェイトが今いる階は六階に当たるのだが、もしこの蛇の尾が一階にあるとすると全長は軽く十メートルを超える。
蛇は鋭い声を発しながら、フェイトへと顎を開けて迫る。
器用に穴から身を這い出させながら、フェイトを飲み込まんとする。
それを宙へと飛んで躱すと、フェイトは蛇の横をすれ違うように飛ぶ。

「バルディッシュ、サイズフォーム」

【YES SIR. Scythe Form Set up】

短いフェイトの言葉が終わると同時、バルディッシュの先端が変化し、そこから鎌のような光の刃が生まれる。
それで蛇の身体を切り裂きながら、フェイトは蛇とすれ違い、そのまま外へと飛び出す。
切り裂かれた痛みからか、蛇は身体を跳ねるようにくねらせる。
巨体が激しく動くものだから、既にあちこちにがたのきていたビルではひとたまりもなく、
蛇が動くたびに天井からはぱらぱらと小さな瓦礫が落ちる。
怒りを瞳に宿し、蛇はフェイトを追うようにビルの壁を突き破って宙に居るフェイトへと向かう。
が、既にフェイトは次の呪文を準備して待ち構えていた。

「フォトンランサー」

【Photon lancer Full autofire】

蛇へと突き出す形で握られたバルディッシュの先端に魔力が集まり、
そこから魔力の槍が撃ち出される。
一本だけでなく、次々と高速で撃ち出される
一直線に蛇へと飛び、身体へと被弾する。
勢いを弱めつつそれでも迫る蛇に、フェイトは表情を変える事無く撃ち続ける。
やがて、ゆっくりと蛇が落ちていく。
ビルを半壊させて地面へと倒れた蛇の身体から、淡く青い宝石が浮かび上がる。

「シーリングフォーム」

フェイトはその傍に降り立つと、片手でバルディッシュを握ってその宝石の方へと向ける。
その言葉に応え、バルディッシュの先端が再び動き、横へと倒れていた先端が真っ直ぐに伸びる。
青い宝石、ジュエルシードは吸い込まれるようにバルディッシュの金色の宝玉へと消える。

「ロストロギア ジュエルシードシリアル8封印完了」

重い音と共に煙を吐き出すバルディッシュを一撫でするフェイトの前で、
あれほど巨大だった蛇が縮んでいき、普通のサイズへと戻る。
ぐったりとして意識がない蛇を悲しげな瞳で見詰めた後、フェイトは地面を蹴って再び宙へと身を躍らせる。
先程の騒ぎなど我関せずといった風に、変わらぬ顔を見せる夜空へと。



 ∬ ∬ ∬



学校の帰り道、校門で待っていたアルフと合流した恭也は真っ直ぐに帰らずに適当に歩き回る。
その横を並んで歩くアルフの様子がいつもと違う事に気付き、恭也は気遣わしげに見る。

≪どうかしたのか、アルフ≫

≪いや、別に≫

≪別にという顔ではないぞ≫

≪……ちょっとフェイトの事をね≫

恭也の更なる問いかけに、アルフは少し考えた後答える。

≪フェイト……。アルフが助けてくれと言ってた子の名前か≫

≪うん、そうだよ。あの子、今ごろどうしているのかと思ってね≫

≪少し話を聞いた程度だが、正直、その母親は許せないな≫

≪だろう。でも、それでもフェイトの母親なんだよ、あいつは。
 だから、フェイトはあいつのためにって。今も何処かで無茶をしてるんじゃないかって……≫

≪その子もジュエルシードを探しているのなら、その内会えるさ≫

≪ああ、そうだね。はやく会いたいよ≫

懐かしげに、それでいて寂しげに語るアルフに、恭也は何も言わずにただ黙って一緒に歩く。
どれぐらいそうしていたか、不意に恭也は行き先を変える。

≪何処に行くんだい、恭也≫

≪今日はここまでにしておこう≫

≪駄目だよ。少しでも早く見つけないと≫

≪そうだが、あまり焦っても仕方ないだろう。
 それに、平日ではあまり遠くまで行けないんだから仕方ない。
 また休日に遠出をしよう≫

≪でも……≫

≪アルフ、焦る気持ちも分からなくはない。俺も昔、焦っていた事があったから。
 焦って身体を動かしている間は、余計な事は考えずに済むけれど、
 それがいい結果を生みとは限らない≫

恭也は足を止めないまま、仕方なく付いてきているアルフの目をじっと見詰める。

≪たまには休憩も必要だ。余裕を持たないとな。
 アルフから聞いた限りでは、その母親も早く集めたいのだろう。
 だとすれば、フェイトがもうこっちに来ていても可笑しくはないだろう。
 ということは、母親の元から離れている訳だから、少しはましなんじゃないか≫

≪それはそうかもしれないけれど……≫

≪だから、少しは落ち着いてみよう。
 今まで通り、休日には遠出して、平日はこの近辺を探す。
 それでも見付からないようなら、その時は平日も探すようにすれば良い≫

≪でも、学校が……≫

≪その時は休むさ。協力すると言っただろう。
 だけど、今は休むべきだ≫

≪……分かったよ。確かに、焦っても仕方ないし≫

ようやく納得するアルフを連れ、恭也は臨海公園へと向かう。
その後そこで、満足そうな顔でたい焼きを頬張る青年と、
その足元で尻尾を振りながら同様にたい焼きを食べる犬の姿が見られたとか。





つづく、なの




<あとがき>

フェイトとの邂逅はもうちょっと先〜。
美姫 「って、焦らすわね」
あははは。
でも、出会うシーンは大まか出来ている。
問題は……。
美姫 「どうやってそこへ繋げるかね」
なんだな。
美姫 「で、どうするの」
ああ、幾つか考えてて…。って、言ったら意味ねえだろう!
美姫 「あ、それもそうね」
って、気付いてなかったのか!?
美姫 「勿論、単におちょくっただけだけどね」
おい!
美姫 「さて、次回こそ邂逅するのかしら」
わーい。見事な無視っぷりで。
美姫 「それじゃあ、また次回でね♪」
次回で〜。







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